人生100年時代、どう舵取りする? 人生を考える旅「キャリアツーリズム」のススメ(せんのみなと)
「人生100年時代」に突入し、もっと自分らしく働くことが大切だ!……なんて言われても、何をしたらいいのかわからなくなりますよね。
これからの人生やキャリアに迷ったら、キャリアツーリズムを取り入れてみるのはいかがでしょうか?
今回は、千葉県香取市で泊まれるキャリア相談所『せんのみなと』を運営する高崎澄香さんと長嶺将也さんに、キャリアツーリズムや今後の人生に迷ったときの考え方についてお話を伺いました。
株式会社せんのみなと
2021年3月創業。個人と企業と地域のキャリアコンサルティングを行うご夫婦の高崎澄香さんと長嶺将也さんが営む会社。千葉県香取市にある古民家で泊まれるキャリア相談所を運営している。2022年10月にはキャリア相談だけで45日間の日本一周を実施。日本全国で「旅」と「キャリア」を組み合わせたキャリアツーリズムを通じて共創社会の実現を目指している。
キャリアツーリズムは、人生を考える旅
都心から高速バスで90分……。
自然豊かなエリアにとっても素敵な古民家が見えてきました。
高崎
ようこそ、せんのみなとへ!
お邪魔します!
遠くまできたな〜という気持ちになります。この古民家でキャリアツーリズムを行っているのでしょうか?
高崎
そうです。1泊2日の古民家ステイで、私たちと一緒に2on1でキャリアについてのワークを行います。
滞在中は、夕飯も一緒に食べて、いろいろな話をしながら、じっくり自分のキャリアと向き合っていただきます。お酒を飲みながら、縁側から夜空を眺めることもありますよ。
楽しそう! 改めてキャリアツーリズムについて教えてください。
高崎
キャリアツーリズムは、キャリアの可能性を拡げるための旅のことです。
移動先で仕事をするワーケーションとは違い、キャリアツーリズムでは仕事をしません。私たちと一緒に自分自身の人生についてじっくり考えます。
長嶺
そのため、パソコンを持ってくる必要もありません。身体だけあればOKです。
最近、旅行のトレンドが変化していて、観光地などメジャーな場所を巡るだけでなく、目的のある旅へのニーズが高まっています。
キャリアツーリズムは、エコツーリズムやグリーンツーリズムのように「目的のある旅」と言えるでしょう。
「旅」と聞くとテンションが上がりますが、「キャリア」と聞くと腰が重くなります……。お二人はどのようにキャリアを定義されますか?
高崎
公的には「仕事を取り巻く人生」と定義できます。しかし、時代とともにキャリアの捉え方が変化しています。以前は「どんなキャリアを築いてきたか?」と、過去の実績が重要視されていました。
でも、現代は終身雇用制度が崩壊し、転職率も上昇。転職、起業、副(複)業、フリーランスなど多様な働き方が広がり、キャリアは個人で築くものに変化していきました。
長嶺
先行きも不明瞭な時代、会社も「我が社なら確実なキャリアを築ける」と旗を掲げられなくなりました。
自分でキャリアの旗を掲げなければ、人生100年時代の荒波を乗り越えられない。「自分らしく働く」ためにも、キャリアとしっかり向き合うことが大切と言えますね。
人生100年時代の荒波!
高崎
『せんのみなと』と名付けたのも、人生100年時代の荒波の中で自分らしく働くために、港でエネルギーを蓄えてほしいから。
『せんのみなと』で元気になったら、再び大海原へ。疲れたらいつでも戻っておいで、そんな人々が寄港できる場所にしていきたいです。
転地効果がキャリアに与える影響
素敵なコンセプトですね。どうして、千葉県香取市の古民家を選んだのでしょうか?
高崎
転地効果を得られる場所で、ゆっくりキャリアについて考えてもらいたいと思ったからです。
転地効果?
高崎
主に旅行で使われる言葉ですが、人間は普段生活している場所から100キロ以上移動すると、「違うところへ来た」と感じるそうです。
なるほど! ここについたとき「遠くまで来たな〜」と感じましたが、まさにそういう感覚なんですね。
高崎
はい。いつも都心で仕事をしている人が、転地効果を得られる距離を考えて、千葉県香取市を選びました。
まさに、日常を離れて自分のキャリアとしっかり向き合うことができますよ。
都心から100キロって、たくさんの選択肢があったのでは……?
長嶺
はい。場所を探すまで多くの時間を要しましたね。でも、この古民家を見て即決でした。「観光地ではない場所」にしたかったんです。
それはなぜですか?
高崎
観光地だと「これが終わったら〇〇へ行こう!」とレジャーな気持ちが出てきます。レジャー感が高まると仕事とリンクしにくくなるため、本当に自分のことを考えられる場所にこだわりました。
確かに他の目的があったら、次のスケジュールが気になっちゃいますね……(笑)。
キャリア相談はポジティブなもの?
開業から4年、いろいろなことがあったのではないかと思います。お二人のキャリアを考えたとき、転機となった出来事を教えてください。
高崎
2022年秋に、一旦事業をストップして45日間かけて「キャリア相談だけで日本一周」を行いました。
その時に「私たちがやりたいキャリアツーリズム」が見えたのは、大きかったと思います。
日本一周ですか?
高崎
1年ほど“泊まれるキャリア相談所”を運営していたのですが、それまではなんとなく閉塞感がありました。
振り返ってみれば、自分たち自身がキャリアツーリズムをしていなかったんですよね。
長嶺
キャリアツーリズムを提供する立場なのに「このままでいいのかな?」と心に引っ掛かりがありましたが、車で走り始めて10日くらいで「これじゃん!」と気づいたことがあって(笑)。
長嶺
仕事として割り切るのではなく、自分たちが行きたいから行く。行った先で喜んでくれる人がいて、新たな何かが生まれれば、それが僕らのキャリアツーリズムなのかもな〜、と。腑に落ちてからは、毎日が楽しくなりました。
お二人にも転地効果が必要だったわけですね!
高崎
頭の中で考えていただけで答えの見つからなかった問いが、移動したことで解決できたのかもしれませんね。
あと、「これまで向き合ってきたのは、東京のキャリアだったんだ」ということにも気づいたんです。日本全国、地域ごとにキャリアがある。それがわかったことは私にとっても大きな発見でした。
「せんのみなと」には、どんな方がやってきますか?
高崎
経営者や個人事業主の方、新たな挑戦を願う主婦、独立や転職を検討している会社員とさまざまな方にご利用いただけています。
長嶺
「ポジティブな人生を歩みたい、でも今の自分に何が足りないのか見えてこない」という人が多いですね。
やりたいことをやるために、どうしたらいいですか? そんな相談をいただくことが多いです。
キャリア相談と聞いていたので、「転職したい」「会社を辞めたい」「働きたくない」とネガティブなイメージでした。
長嶺
そのイメージも変えていきたいですね。
転職におけるキャリア相談の場合、会社に黙ってコソコソと相談する人が多くなります。もっとポジティブな状態で相談できていれば、キャリア構築も変わっていきます。
高崎
私たちの経験上、ポジティブな状態で転職相談に来る方の8〜9割は、「やっぱり今の会社で頑張ってみよう」という結論になるんですよ。
キャリア相談の効果、すごい……!
長嶺
気軽に相談できて、ポジティブに悩みを打ち明けられる文化に変えていきたいと思っています。相談はポジティブなもの、気軽にキャリア相談できるような大衆文化に変われば、日本のキャリアも変化していくはずです。
日常に、非日常を取り入れてみる
キャリア相談がもっとカジュアルだとありがたいです。
日頃からキャリアと向き合いやすくするためにできることを教えてください。
長嶺
日常の中に非日常を取り入れてみましょう。たとえば、いつもより30分早く起きてみる。そうすると、できることが1つか2つ増えるかもしれません。
逆に30分遅く起きると、何かを減らさなければいけない。
ルーティンを変えることで自分の生き方、キャリアが見えてきますよ。
面白そう!
高崎
あと、言語化もおすすめです。本や映画の感想でもいいので、自分の人生と照らし合わせながら言語化してみる。
そもそも言葉が出てこないことは、キャリアにおける障壁。何がわからないのかも把握できます。
頭の中だけでなく、言葉に出すことが大事なんですね。
一人で取り組んだ方がいいんですか?
高崎
私は相手からフィードバックがもらえるのが楽しいので、「対話」も好きですね。
ただ人によって言語化の得意・不得意があると思います。ペンで書きたい人、会話をしたい人、SNSに投稿したい人、どの言語化がいいか試してみるのもおすすめです。
さぁ行動だ! 移動しよう!
お二人のこれからについても教えてください。
長嶺
世界の玄関口である成田空港からも近いので、『せんのみなと』を全国から人が集える場所、キャリアツーリズムの拠点にしていければと考えています。
成田空港まで僕らがお迎えに行きますよ!
確かにLCCを使えば、北海道から沖縄まで集えますね!
高崎
日本一周をして、どの地域も美しいことに気づいたんです。いろんな地域に誇りを持てる仕事や交流の機会、接点を増やしていきたいと考えています。
ただ、世の中にはまだまだ頭の中だけで考えているだけ人が多いので、『せんのみなと』に行くでも、非日常を取り入れるでも、言語化するでもいいから「行動」してほしい。その先に自分らしいキャリアが待っているはずですから。
そのためには“おせっかい”が必要。そのために、私たちも行動していきたいです。
2024年8月取材
取材・執筆=つるたちかこ
写真=星野祐司
編集=鬼頭佳代/ノオト