働き方研究者がおすすめするビジネス書 ―『PRINCIPLES 人生と仕事の原則』
はじめに
「働く」に関する社会の関心・課題は時代とともに変化し続けてきました。近年、日本では働き方改革が大きなテーマとなり「生産性の向上」を求め、いまやパンデミックをうけて改めて「安心、安全」が見直されています。社会で起きている変化と、働く人々やライフスタイルの在り方を見つめながら「働き方」を考えていきます。
働く場においてもオフィスだけでなく、私たちが生活する空間すべてにおいて、健康でいきいきとした人間らしい働き方や過ごし方ができることが、今の時代に問われています。この連載では、これからの働き方や働く場を語るうえで参考になる書籍を「働き方」の研究者が選定し、ご紹介します。
『 PRINCIPLES 人生と仕事の原則 』
著 レイ・ダリオ
発行 日本経済新聞出版社 2019年3月
この本のおすすめポイント
企業文化・組織形成・結果と評価・信頼・教育
- 企業文化の醸成はどのようにしたら良いかを、豊富な事例から教えてくれる
- フラットな組織文化と縦型組織文化のメリット、デメリットは何かを解説している
- 失敗から立ち直るための方法は何かを説明してくれる
- 人は大事な資産ですがそれぞれ個性が違い、その活かし方と育て方を解説してくれる
- 「仕事との接し方」を具体的、かつ確実に実行できるような方法を教えてくれる
本書の内容は“Part.1 私の生い立ち”“Part.2 人生の原則”“Part.3 仕事の原則”と構成されています。Part.1は、ダリオ氏が若い時からいかに投資の世界にのめり込んでいったか、Part.2では人生のものごとに取り組む基本姿勢を解説、約全600頁の内それぞれ150頁前後を使いその思いを伝え、Part.3では残り300頁ほどを使って具体的に「仕事の原則」を紹介しています。
この本を読んで思い浮かべたのは、このコラムでも過去の回でご紹介した『NO RULES』のNETFLIXや『LEAN IN』のFacebookといった世界的企業のトップ経営者です。著者が会長を務めるブリッジウォーター・アソシエイツは世界最大のヘッジファンド会社であり、ダリオ氏は非上場企業のオーナー会長です。そうした世界経済のトップ経営者は共通して、明確な意思表示と仕事に対する厳しさを持って「経営だけでなくトップ自らに対しても厳しく」仕事にあたっているようです。
本書で紹介されている「仕事の原則」とはどのようなものなのでしょうか?世界企業が取り組んでいる基本的ルールの共通点を三つ挙げてみました。
① 自社にあった独自の企業カルチャーを築く。
② 適切な人財を得て組織に配置する。
③ 組織の問題点を分析し、根本原因を見つけ組織改善を行う。
本書でもとくに上記3項目に注目して企業文化、人財起用、組織運営などについて詳しく豊富な事例を挙げて解説しています。具体的ルールや詳細は本書を読んで頂きたいのですが、これらのことを経営に生かし根付かせている、あるいはカルチャーとして根付かせようとしていることが大事で、それらを制度化し明確化することが、経営者、マネージャーの重要な仕事と言っても良いのではないでしょうか。そして本書はこれらの原則にそって日々改善していく努力が、最も重要だと気づかせてくれる一冊です。
最後の言葉として著者のレイ・ダリオ氏は、”私の目的は私にとってうまく機能した原則である、事実確認・意見交換・責任と評価などに基づき「徹底的に事実に基づく」、「徹底的に隠し立てしない」ことを伝えることだ。それをどうするかは、あなた次第だ。”と結んでいます。
『 PRINCIPLES 人生と仕事の原則 』の読後感は?
本書の解説の中には「阿吽の呼吸」と言う場面は出てきません。ローコンテクストな海外企業や社会でのコミュニケーションは意思を伝えるために言葉や身振り、メールや文章による明確な意思表示が必要なのです。
ビジネスの世界でもLGBTやグローバル社会といった言葉が普通に交わされ、多様なコミュニケーション社会となってきました。海外から働きに来ている人や海外拠点との仕事が日常的に存在し、コミュニケーションはコロナ禍のなか国内に限定しても今まで以上に、異なる多様性をみせています。
テレワークやZoom会議などの浸透で遠方の人とも簡単にコミュニケーションできるようになりましたが、密度の濃い思いや考えをくみ取ることはより難しくなってしまいました。本書は「人生の原則」「仕事の原則」というタイトルから見て「人」と注意深く、丁寧に接することが大事な事だと気づかせてくれる一冊です。帯タイトルも「私を大成功に導いた『人生と仕事の原則』を全てお教えしよう」とあり、多様な場面における事例や具体的な対応について、役に立つ成功のヒントが豊富に見つかると思います。
ー田尾悦夫(たお・えつお)
株式会社オカムラ ワークデザイン研究所 研究員。企業のオフィスや金融機関店舗のスペースデザインを長年、現場中心に携わり、クライアントと一体となる空間づくりを心掛け、支援する。その後、オフィス構築のノウハウを生かし、人々の「モチベーションやウェルビーイング」を主軸にこれからの「働き方」の研究に従事。 また、研究活動の傍ら「オフィス学会」、「ニューオフィス推進協会」、「日本オフィス家具協会」など多くの関係団体で研究や教育研修、関連資格の試験制度の運営にも携わることで、業界全体の啓蒙活動にも積極的に活動している。
2021年12月9日更新
テキスト:田尾悦夫(オカムラ)
イラスト:前田豆コ