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働き方研究者がおすすめするビジネス書 ―『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション』

はじめに

「働く」に関する社会の関心・課題は時代とともに変化し続けてきました。近年、日本では働き方改革が大きなテーマとなり「生産性の向上」を求め、いまやパンデミックをうけて改めて「安心、安全」が見直されています。社会で起きている変化と、働く人々やライフスタイルの在り方を見つめながら「働き方」を考えていきます。

働く場においてもオフィスだけでなく、私たちが生活する空間すべてにおいて、健康でいきいきとした人間らしい働き方や過ごし方ができることが、今の時代に問われています。この連載では、これからの働き方や働く場を語るうえで参考になる書籍を「働き方」の研究者が選定し、ご紹介します。 

『 問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション 』

著 安斎勇樹・塩瀬隆之
発行 株式会社学芸出版社 2020年 6月10日

この本のおすすめポイント

事例中心でシステム的にわかり易く解説した実務書

  • 解説がすべて論理的思考で、事例を挙げて説明しているので理解しやすい
  • 課題の現状把握から始まり目標を設定、短期・中期・長期目標の設定が展開でき将来のビジョンも展望しやすい
  • システム工学的な考えを取り入れ個人的思い入れだけでなくマトリックス思考(相関係)が理解できるようになる
  • ワークショップのメリットを構造的に解説、組織の矛盾も解明し実践的な解説となっている
  • 言葉の因数分解で「制約」設定を行い情報の収集手法を詳しく解説

本書は、ワークショップのファシリテーションで課題として行う「問い」のさまざまな手法・考え方・運営方法などについて具体的に解説している実務書です。

私は最初にワークショップという言葉でイメージしたのは、研修で異部門の人たちとワイガヤして楽しく意見交換をするといったものでした。しかし、本書で紹介している社外の専門ファシリテーターが行うものには参加したことがなく、そうした先入観から本書を読み進めてみると全く違う世界だったことに驚き、その内容に強く興味をひかれました。

著者のお二人ですが、安斎氏の経歴を見ると東京大学工学部卒業・学際情報学とあり、塩瀬氏は京都大学工学部卒業で専門はシステム工学。お二人は、教育部門と株式会社ミミクリデザイン(経営理念は「創造性の土壌を耕す」)で活躍されている、経験豊富なスペシャリストです。

この本の主な内容はワークショップのファシリテーターに向けた実務解説書です。ファシリテーターとして、依頼された目標に向かって対話を進めるにはどのような準備が必要か具体例を挙げて解説。全体の方向性や対話・討論における、論理/感情・触発/共感といった相反する場面で、どのようにコントロールするか詳細に解説しています。

表紙の帯には、「商品開発・組織変革・学校教育・地域活性の現場を変える戦略&スキル」とあり、読み進めるにしたがいビジネスのいろんな場面で生かせる重要なものだということがわかります。ファシリテーターに限らず、ビジネスの世界で常にプロジェクトを回しているチームリーダーや中間管理職の人々にも必須の要素が満載です。その内容は、ビジネスの人材育成の現場・組織の課題解決・製品開発のイノベーションなどにとっての疎外要因として人の「認識」と「関係性」について取り上げ、さらに問題の「本質」と「創造的対話」について詳細を解説しています。今までにも属人的な経験や認知心理学をもとにして独自の対話手法を解説した書籍は多くありましたが、システム的・理論的に具体的解説をしている書籍は少ないのではないでしょうか。ぜひ一読してみてください。

『 問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション 』の読後感は?

本書の副題に「創造的対話のファシリテーション」とあるように、「ファシリテーター」はただの議事進行係ではないと説明されています。日本では「ワークショップ」に対する認識が社会的に低いのではないかと思えます。私自身も何回かワークショップに参加して思ったのはモヤモヤとした不満と納得いかない結末でした。日本的に言えば参加者の意見に対する遠慮と忖度とでもいう感覚です。

ファシリテーターの仕事は、①[事前準備]導入・②[現状把握]知る活動・③[検討]創る活動・④[提案]まとめでとくに事前準備が重要と解説。つまり課題の設定「問いのデザイン」です。確かにワークショップを開催するときに「何について」が明確になっていないときが多いようです。なんとなく漠然とした観念的な議題で集まって行う会議やミーティングが多く参加者としては概念的要素が多く具体的には何を議論したら良いのかわからないままに会議が進行し終了します。

ワークショップで創造的対話を目指すにはどうすればよいのか、本書を読んでみて書かれている事の一つ一つに、納得し考えさせられる思いでした。

著者プロフィール

ー田尾悦夫(たお・えつお)
株式会社オカムラ ワークデザイン研究所 研究員。企業のオフィスや金融機関店舗のスペースデザインを長年、現場中心に携わり、クライアントと一体となる空間づくりを心掛け、支援する。その後、オフィス構築のノウハウを生かし、人々の「モチベーションやウェルビーイング」を主軸にこれからの「働き方」の研究に従事。 また、研究活動の傍ら「オフィス学会」、「ニューオフィス推進協会」、「日本オフィス家具協会」など多くの関係団体で研究や教育研修、関連資格の試験制度の運営にも携わることで、業界全体の啓蒙活動にも積極的に活動している。 

2022年2月17日更新

テキスト:田尾悦夫(オカムラ)
イラスト:前田豆コ