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働き方研究者がおすすめするビジネス書 ― 組織のカルチャーと異文化理解

はじめに

「働く」に関する社会の関心・課題は時代とともに変化し続けてきました。近年、日本では働き方改革が大きなテーマとなり「生産性の向上」を求め、いまやパンデミックをうけて改めて「安心、安全」が見直されています。社会で起きている変化と、働く人々やライフスタイルの在り方を見つめながら「働き方」を考えていきます。

働く場においてもオフィスだけでなく、私たちが生活する空間すべてにおいて、健康でいきいきとした人間らしい働き方や過ごし方ができることが、今の時代に問われています。この連載では、これからの働き方や働く場を語るうえで考えるべきテーマをもとに、参考になる書籍を「働き方」の研究者が選定し、ご紹介します。 

今回のテーマ : 「組織のカルチャーと異文化理解」に関する書籍

おすすめ図書① 

『NO RULES 世界一「自由」な会社、NETFLIX』

著 リード・ヘイスティングス エリン・メイヤー 
訳 土方奈美  
発行 日本経済新聞出版  2020年10月23日 

 

この本のおすすめポイント 

NETFLIXの「脱ルール」カルチャー

  • ルールが不要な自律した働き方(チーム)の条件を解説する
  • 非効率的な社内規定を捨ててもうまくいく組織の特徴がわかる
  • とるべき「正しい」リスクとは何かを考えさせられる    
  • 上司の承認を全廃したNETFLIXの決定と責任の在り方が参考になる
  • 常に正直に意見を言う直接的意見交換が面白い  

   

アメリカの「ネットフリックス」という会社を若い方ならよくご存じの事と思います。DVDレンタルからスタートしたインターネット・ストリーミングサービスの会社で、世界企業として展開しています。世界190か国以上で動画配信サービスを行い、契約者数は2億370万人以上。

そうしたなかで国や人種の違い、表現方法の違いによる意見の食い違いは、数多くみられます。本書では、アメリカと進出国の働き方を比較し数多くの事例を挙げながら、宗教や企業文化、価値観の違いなどへの対処の仕方を具体的に解説しています。 

「自由と責任」を企業文化として作られた行動指針「ネットフリックス・カルチャー・デック」の率直さは、生産性向上や企業発展の一つの解決策であります。この基本理念の「分散型の意思決定モデル」はコロナ禍でテレワークなど自律的行動を求められる今とても参考になるものです。フレデリックラルーによる「ティール組織」を「ヒエラルキー的な意思決定構造を持たず、個々の判断でプロジェクトを推進していく組織管理システム」と表現したとすれば、NETFLIXはその一形態と言えます。

NO RULES 世界一「自由」な会社、NETFLIX』の読後感は?

本書は「NETFLIX」の企業文化を真正面から分析した内容となっている。CEOの率直な受け答えと直接的な回答が、とかく曖昧な解説となってしまいがちなこのような書籍としては非常に分かりやすかった。企業理念としての「優秀な人材」「最高の報酬」「自由と責任」から述べられている明確さは特別な物です。

さらに文化の違いから相手と意見の食い違いが発生したときに重要な、相手を助けようという気持ちをもつなどのポイントが紹介されていました。それらからは、国や地域、言葉や表現方法が違っていても人の根底に流れる気持ちや反応は同じなのだなと感じられ発見がありました。

おすすめ図書② 

『異文化理解力  相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』

著 エリン・メイヤー   
監訳 田岡恵    訳 樋口武志 
発行 英治出版株式会社 2015年8月25日

この本のおすすめポイント 

コミュニケーション要素の事例が多く載せられています。

  • ある文化⦅水の中⦆にいるとその文化を見る事は出来ないと説明している      
  • 同じ文化圏でも社会背景が違えば行き違いが発生するといった事例を紹介        
  • 欠点の2種類の指摘方法と、文化による伝達手法の違いを国民性として解説     
  • 議論での説得技術と文化との関係をいくつかの要素と一緒に示している       
  • 階層的な縦型組織と平等的なフラット組織それぞれのメリット、デメリットを解説

著者は異文化マネジメントに焦点を当てた「組織行動学」を専門とし、異文化交渉、多文化リーダーシップについて世界中で教鞭をとっています。また、グローバル・バーチャル・チームのマネジメントや、エグゼクティブ向けの異文化マネジメントなどのプログラム・ディレクターも長年務めています。

このような実績の中から集めた、異文化のコミュニケーション事例を、本書の中でも多く紹介しています。「意思の伝達」「価値観の違い」「時間感覚」などから八項目を取り上げ具体的な事例を詳しく説明しつつそれぞれの組み合わせによる文化の特徴を説明していきます。さらに国ごとに異文化の違いによって起きる「コミュニケーション」の食い違いや誤解について説明。

一例として、グローバルな経済環境において日本式の「ハイコンテクスト」と言われる、阿吽の呼吸的な交渉では相手に伝わらないといった話が紹介されています。暗黙の了解が少ないローコンテクスト(例:アメリカ)と、暗黙の了解があることを前提としているハイコンテクスト(例:日本)間では、一つ一つ確実に伝えるローコンテクストな伝達方法が重要になるのです。このような食い違いは、グローバルな世界だけではなく、国内のビジネス環境での個人、世代、業種、性別、などを含んだ課題でもあるのではないでしょうか。

異文化理解力 相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』の読後感は?

本書は世界のビジネス環境で起きている、異文化コミュニケーションの課題を解決する為には、異文化の連携をどのようにしたらスムーズに進められるか、具体的な事例を使って解説した内容となっています。文化とは解っているようで解りづらいものです。要素を八つの項目に整理しその文化の特性を明確化することで、異文化との相性や接し方を分かりやすく解説しています。

エリン・メイヤーはフランスに本拠を構えるビジネススクール・経営大学院『インシアード』(INSEAD)の教授です。生まれも育ちもアメリカですがフランスに生活の拠点をうつして生活している人です。仕事も世界各国を相手に活動しており、まさに異文化コミュニケーションを豊富に経験した打ってつけな人で、具体例も多かったので印象に残りました。

おわりに

「異文化理解力」はタイトル通り異なる文化をいかに理解して連携していくか、その事例を多く載せた内容です。現代の国際企業はいろんな国の人達が連携して仕事をしています。そこでは文化の違いでコミュニケーションや仕事の効率が悪く、本人のパフォーマンスも向上しないなど、課題を抱えているケースは多くなっていると思います。「NO RULES」では米国企業NETFLIXの企業文化と世界の拠点オフィスでの異文化課題を解決するために行った対応策の具体的な事例を解説していました。

企業の働き方も地域によって業務内容、職種、組織構成、性別、性格、個人的事情、社会背景が異なるなど、仕事への取り組み方の違いもあり本国オフィスの考えている企業統治とは上手く噛み合わない例も多くみられます。今回ご紹介した書籍は、国々の文化の違いによる問題解決を詳しく解説した内容で日本にとってもグローバル企業が海外進出した際の活動を助けるものと思います。更に国内の企業組織に置換えてみても同じような考え方が出来ると思う部分が数多くあり組織監理の参考となるのではないでしょうか。

著者プロフィール

ー田尾悦夫(たお・えつお)
株式会社オカムラ ワークデザイン研究所 研究員。企業のオフィスや金融機関店舗のスペースデザインを長年、現場中心に携わりクライアントと一体となる空間づくりを心掛け支援する。その後、オフィス構築のノウハウを生かし、人々の「モチベーションやウェルビーイング」を主軸にこれからの「働き方」の研究に従事。 また、研究活動の傍ら「オフィス学会」、「ニューオフィス推進協会」、「日本オフィス家具協会など多くの関係団体で研究や教育研修、関連資格試験制度の運営にも携わることで、業界全体の啓蒙活動にも積極的に活動している。 

2021年8月5日更新

テキスト:田尾悦夫
イラスト:前田豆コ