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ウェルビーイング向上に ー 世界のバイオフィリック・デザインオフィスの工夫

働く環境におけるウェルビーイング向上の施策として、バイオフィリック ・デザインは今、最も注目を集めるインテリアデザインのひとつになっている。背景にはパンデミックによる恐怖や制限、またワークライフバランスの崩れなど、疲労しているワーカーたちの存在がある。

実際に、植物などの自然に触れることは、メンタルヘルス面、そして身体的な健康にもポジティブな影響を及ぼすようだ。ハーバードビジネススクールによる研究ではバイオフィリック・デザインによって、全体的な健康状態や主要な認知機能の改善が示されると示されている。さらに、バイオフィリックを取り入れた空間で一定時間過ごすことで、ストレス指標の低下とクリエイティビティの向上も見られている。

その効果はメンタルヘルス面だけではなく、身体面でも発揮される。ミネソタ大学によって行われた統計では、自然に触れる、または自然の多い室内で過ごすことで、心拍数、筋肉の緊張、ストレスホルモンの生成が抑えられ、身体的な健康にも大いに貢献することが分かっている。

現在、世界中で多くの企業がオフィスにバイオフィリック ・デザインを取り入れている。そのアプローチの仕方は非常に多種多様だ。観葉植物を配置することから始め、植物だけでなく、他の自然的な要素として匂いや風、水、土、生き物などが挙げられる。この記事では個性豊かなバイオフィリック・デザインを取り入れたオフィスでの工夫を紹介したい。

流れる水で作業効率アップ

ーAge of Learning (アメリカ)

オープンプランオフィスに会議室のパーテーションを兼ねて設置されたウォーターウォールは、通常のオフィスとは異なる雰囲気を醸し出している。常に上から下へ流れ続けるウォーターウォールは、空間に動きや心地よいホワイトサウンドを与えてくれる。さらに便利なことに、流れる水は、視覚的、聴覚的にプライバシーを確保しながらも、全体の一体感は保ったまま、フロアから部屋を完全に分断することはない。

水の流れる音がちょうど良いホワイトノイズを生み出し、ストレスフルな場所でも心を落ち着かせ、業務に集中させてくれる。水の存在は、視覚的に認識するだけでも精神的な負担を下げる働きがあるから、オフィス内のウェルビーイングの向上に非常に効果的だろう。

水槽(生き物)によるリラックス効果

ーFreshwater Software (アメリカ)

残念ながらこのオフィスは現在存在していないが、写真で見るだけでも眺めは壮観だ。生き物も大切な自然の構成要素の一つ。熱帯魚は比較的、手軽にオフィスに取り入れられる生き物だろう。バイオフィリック ・デザインを演出するための要素として水槽を選ぶオフィスは少なくない。イギリスのエクセター大学の研究によると、オフィスの周りに水槽があることにより、血圧の低下、集中力アップ、モチベーションやクリエイティビティが増すという結果も出ている。結果として業務効率の大幅な向上も期待できる。水の循環口から出る音も良いホワイトノイズとして機能することで、余計なことを考えず、仕事に集中できそうだ。

森と一体化できるオフィス

ーSelgas Cano architects(スペイン)

こちらは自然光、景色がテーマとなったバイオフィリック・デザインだ。スペイン、マドリードの郊外の森の中に位置するこのオフィスは、屋根の半分が透明のアクリル板になっており、昼間は自然光がオフィスに燦々と差し込む。また、建物の下半分は埋まっており、目線が地面と同じ高さにくるので、自然との繋がりが感じられる。まさに建築全体でバイオフィリック ・デザインを体現しており、代表的な事例だろう。

冬場に日差しが足らないことから起こるウィンターブルーなど、日光は人間のムード、気分に大きく作用することは研究で分かっている。鬱や不安などを軽減する効果の他に、ふんだんに差し込む太陽光のもとでの業務は、ワーカーの満足度、生産性のアップにも繋がる。このオフィスでは座りながら、森と空が同時に視界に入ることから、毎日リラックスして仕事ができることだろう

サステイナブルな和でCO2も削減

ーIndeed  (日本)

最新のテクノロジーと共に、日本の伝統的な美しさを取り入れた魅力的なオフィス。杉やヒノキの仕上げ材、畳をイメージした床や椅子は、落ち着いた茶室のような雰囲気をオフィスにもたらす。そして日本庭園のような箱庭は、苔と石が合間って枯山水を思い起こさせる。これらの象徴的な緑や風景全体がワーカーのウェルビーイングに良い影響を及ぼすことだろう。ミュンヘン大学の研究によれば、植物は心理的、物理的な成長を象徴し、私たちが緑に触れることによって向上心や課題達成のためのモチベーションが促進されるそうだ。

そして、屋内の緑は目に見えない部分にも効果をもたらす。それは空気のろ過や循環だ。室内の空気中の有害物質を取り除き、新鮮な空気を吐き出すことで 、オフィス内の空気を綺麗に保ってくれる。また、吐き出される水分が室内の温度調整もしてくれる。バーモント大学の研究によると、暖かい部屋の中であれば、湿度を高めることで温度を最大で5度下げること。比較的温度が低い部屋でも、適度な湿度があれば湿った空気が熱をよく保持するため、より暖かく感じることができる 。植物は自然の空気清浄機、保湿器としての役割も果たしてくれることから、空調の使用を少なくすることでCO2削減につながりサステナブルなオフィス環境にもなる。

天窓でポジティブに

―High Tech Factory Offices (イスラエル)

木材を使用した椅子とコーヒーテーブル、木の床と敷き詰められた白石、そして背の高い植物。リゾートのようなゆったりとした雰囲気の空間と、天井から見える青空はまるで屋外にいるかのような感覚を空間にもたらす。実はこの天窓から見える景色は、デジタルモニターに表示されている日光を模したものだ。

本物でなくとも、木々の揺れや雲の移り変わりは、見た者に開放感を与え、気分をリフレッシュさせることが少しでも良い影響をワーカーのメンタル面に与えることができるだろう。空を眺めることで精神的な不安感や、ストレスなどを軽くし、ポジティブな気分になることから、このバイオフィリック・デザインは医療機関などでも使われている(ミシガン州立大学の研究)。

ワーカーの健康にも、地球環境にも貢献するバイオフィリック・デザイン

以上、世界のオフィスでバイオフィリック・デザインを取り入れているユニークな工夫を取り上げた。同じデザインでもアプローチの方法はさまざまで、自然の捉え方によって大きく変わるものだ。共通するのはどれをとっても、自然とのつながりを大切にすることでワーカーのウェルビーイングに通じていることだ。そして、そのつながりこそが私たちが改めて自然を大切に感じることとなり、サステナブルな環境に寄り添った社会づくりへの意識向上になるだろう。人間と自然を上手く共存させるバイオフィリック・デザイン、今後オフィスに導入することを検討してみてはどうだろうか。

2021年10月29日更新

テキスト:松尾舞姫