ビジネスパーソンも一種のマニア? 東京別視点ガイド・松澤茂信さんに聞く、自分の視点の育て方
お仕事をする上で大事にしたい「視点」。
「独自の視点で、良いものを生み出したい」
「自分の意見を言えるようになりたい。でも、独自の視点を持つって難しい……」
そんなふうに悩む方も多いのでは。
そこで話を聞きたいのが、「マニア目線」で地域おこしやPRを手掛ける合同会社別視点の松澤茂信さん。片手袋や地図、道端のたぬきなど、ニッチなものを愛する「マニア」の視点を活かした事業を行っています。
マニアの持つ「別視点」って、どんなものなのか。身につけると、仕事に役に立つ? 松澤さんにお話をうかがいました。
松澤茂信(まつざわ・しげのぶ)
合同会社別視点代表取締役社長。2011年から国内の「珍スポット」を紹介する「東京別視点ガイド」を運営し、1000カ所を超える店や人を訪ねている。イベント「マニアフェスタ」、マニアならではの別視点を活かした町のツアーなどを開催。
ニッチなものに興味を持つ「マニア」
合同会社別視点って、いったいどんな会社なんですか?
松澤
私たちは「世の中に別視点を増やす」をミッションに、いろんな活動をしてきました。
メインの事業は体験型イベント「マニアフェスタ」です。100名以上の「マニア」の方々が、それぞれが好きなものの本やグッズを販売するイベントです。
「マニア」って、みなさんどんなものが好きなんでしょうか?
松澤
たとえば、道に落ちている片方の手袋だけを十数年間写真に収めてらっしゃる方もいれば、存在しない街の地図を描き続けている方とか。いろんなマニアがいますよ。
うちではマニアの方がガイドをするツアーも企画しています。
ツアーってどんなことをするんでしょうか?
松澤
それこそ道に落ちている片手袋を見つけるツアーをやったり、路上園芸マニアの方と、路上園芸の賑やかな場所とかを巡ったり……。
地元の方が「別に何もないですよ」というような町でも、マニア目線で見ると面白いものがたくさんあったりするんですよ。
ツアーの内容が濃い……!
そもそも、松澤さんご自身も何かのマニアだったのでしょうか?
松澤
私はもともと、「珍スポット」のマニアでした。変わった観光地や変なサービスがある飲食店などを巡って記事を書く、ブロガー兼ライターみたいな期間が結構長くありましたね。
もう閉店しましたが「ヤッホー」しか喋らない老夫婦がやっているお茶漬け屋さんとか。「いらっしゃいませ」とか絶対言わない。
めちゃめちゃ濃いですね……!
松澤
そういう謎ルールがあるお店がすごく好きで。そういうところを取材して歩いて、「東京別視点ガイド」というブログを運営していました。
でも、書くだけだと本当の魅力の何十分の1しか伝えられない。
実際にその場に身を投じてみて感じる緊張感こそが珍スポットの醍醐味。実際に読者をぜひお連れしたいなと思い、現場に行くためのツアーを開催したりもしました。
お仕事になったんですね!
松澤
珍スポットって、場所やサービスの面白さももちろんですが、紐解いていくと、最終的に「人間の面白さ」なのではないかと。
「なぜこれをやっているんですか?」「どうしてこれをするに至ったんですか?」と聞いていくうちに、「何かに取り憑かれたように狂気の熱意を燃やしている人たちって面白いな」と思い始めて……。
興味の対象が拡大していったんですね。
松澤
はい。そこから珍スポット以外にも、マニアの方々にお話を聞くようになっていって。それでマニアとの繋がりが増えていったんです。
どうして珍スポットやマニアの方に惹かれたのでしょうか。
松澤
珍スポットには、中高年の人生経験の豊富な人も多く、そういう人ほど面白くて。彼らも最初は面白半分で「こんなことやったらおもろいやろ」と始めるんですよ。
で、気付けば何十年とやり続けている。すると、もう「おもろいやろ」だけではないというか……。引くに引けない状態になっているわけです。人生を賭けているんだから、今さら辞められない。
壮絶ですね……。
松澤
とっくに飽きていても、やる。やり続ける。それがなんか、すっげぇ……しびれたんですよね。生きざまじゃん、と思って。
当時20代後半の自分が、「浅い経験で珍スポットを1個作るより、今も無数にある珍スポットを紹介した方がいいよな」と思って。
珍スポットを紹介し続けていたら、マニアばかり集まる珍スポットの住人になっていたと。
松澤
そうですね。珍スポットって、映えるスポットに比べるとニッチなマーケットなんですよ。
でも、それをずっと続けている方々と話すと、すごく元気と勇気をもらえますよね。「俺なんてまだまだ甘いぜ!」って思います。
マニアならではの「別視点」、実は誰にでもある?
松澤さんの考える「マニア」とは何ですか?
松澤
マニアにはいろんな解釈があると思いますが、やっぱり何か「たぎっている人」ですね。知識量じゃなく、熱量の方がすごいです。
知識はなくてもいいんですか!?
松澤
知識がなくても、めちゃくちゃたぎっている人っていて。そういう人を「マニア」だと思っていますね。
始めたばかりでもいいですし、コレクションだったら1個2個でもいい。そこに対してどれだけ熱があるか。
好きなものをどう語れるか、みたいな……?
松澤
そうですね。人によっては熱だけあって語れない場合もあると思うんです。でも、それもありです。
弊社としては「なるべく語ったり、アウトプットしたりするといいですよ」とおすすめはしているんです。ブログや同人誌、SNS、マニアフェスタへの出展など、見つけたものはアウトプットしよう、と。
アウトプットする人ばかりだと思っていました。
松澤
本当にたぎっている人って、逆に死ぬまで何も発表しない人とかもいるんです。
死んだ後に荷物を整理したらいろいろ出てくるパターンの人もいるんですよ(笑)。
いろんなマニアの方がいるんですね。
では、マニアのみなさんが持っている「別視点」はどんなものなのでしょうか。
松澤
まず別視点ってマニアだけのものじゃないんですよ。マニアなのか否は関係なく、全員に別視点がある。
イベントに出ていたり、自ら発信したり、その独自の視点をうまくアウトプットしているから、その別視点がわかりやすいだけだと思います。
そういうわかりやすいものじゃなくても、誰にも別視点はあると。
松澤
はい。日本各地でマニアのツアーをすると、どんな参加者でも自分の気になるものや面白いものをそれぞれの目線でピックアップしてくるんです。それが「別視点」だと思っていて。
ツアーではマニアがそばにいるから、「別視点」を持つコツがわかるんでしょうか?
松澤
そうですね。普通に生活していると、一般的に「美しい」「面白い」とされていないものを面白がっている人ってあまり見かけませんよね。
そもそも自分自身も取るに足らない情報だと思っているから、何かを見つけても誰にも話さなかったりする。
でも、仮に「純粋に面白いと思うものを他人に話してもいいですよ」と言われると、何も出てこない人なんてほぼいないんじゃないでしょうか。
無意識のうちに、心のなかでちょっと気になるな、と思っているものがあるんですね。
松澤
そう。だから、別視点は誰にでもあるんです。一般的な視点の方が生きやすいから、そのモードにしているだけで。
単純な興味をそのまま放置しないことが「別視点」につながる
では、改めて「別視点」を養うためのポイントを教えてください。
松澤
大きく分けると、3つのパターンに分けられると思います。「対象物を深掘りする」「自分の感覚で楽しむ」「自分を関与させる」の3つです。
なるほど。たとえば、「対象物を深掘りする」とは具体的にどんな行為なのでしょうか?
松澤
「ミステリーを推理する」でしょうか。
ミステリーを推理する?
松澤
興味を持った対象についての疑問を、そのままにしない。「何だろう?」って思ったときに、ちょっとスマホで調べてみるとか。
多くの人は、それをやらないんですよね。普通に生きていたら「何だろう」と思うことが多すぎて、いちいち立ち止まっていられないから。
でも、それを調べると自分なりの視点が、さらに深掘りされるんですよね。「自分ってこんなことが気になってるんだ」と思うようになると思います。いろいろ掘っていくことで、知識欲が満たされるし、別視点も増えていきます。
自分が何に興味を持つのかがわかってくるんですね。
松澤
私の場合、珍スポットのお店の名前の由来を聞くことが多いです。店名って超重要だから、何かしらの意図が込められているから、さらに面白いことが判明したりするんです。
聞かなきゃわかんなかったこと、つまりこれってミステリーです。そういう小さな疑問を聞いたり、Googleで調べたりするだけでも、独自の視点が増えていくんじゃないかと思います。
まずは「何かを面白がる」「興味を持つ」ことこそが別視点の磨き方なんですね。
では、そもそも何かを面白がるためのコツはありますか?
松澤
「自分が何を面白いと思っているかよくわかんない」という方も結構多いと思うんですよ。
ゴムホースマニアの方は、「なんかいいな」と思う景色を撮り続けて、何年後かに振り返ってみると、ゴムホースばかりが映っていることに気づいたそうです。
そういうパターンもあるんですね!?
松澤
はい。だから、まずはスマホでいいので写真を撮ってSNSやブログなど、どこかに投稿してみるのはどうでしょう。
言語化できていなくても、反響や反応がなくても、「何かいいな」と思うものをとりあえず撮ってみたらいいと思います。
それを繰り返していると、世界って意外と広いんで、反応してくれる人が出てくるんですよね。すると、どんなニッチな趣味でもだんだん楽しくなってくると思いますよ。
ビジネスパーソンも「一種のマニア」
「別視点」、ビジネスにも応用できそうです。
松澤
単純にコミュニケーションのきっかけになるし、上司や後輩といった立場を気にせずに済むサードプレイスができると思います。
そもそも私自身、コミュニケーションがすごく苦手で、どうやって人と仲良くしたらいいのかがわからなかったんです。でも、いまは趣味を通してマニアの皆さんと繋がれています。
マニア活動によって得た知識や気づきも、仕事に良い影響を及ぼすかもしれないですね。
松澤
そうですね。私の場合、いろんな面白い人や、時には“やばい”人とも出会うわけじゃないですか。
そんなことを繰り返していると、コミュニケーションに対するハードルが下がって、最終的にビジネスの現場で役に立ったりしますね。ヒアリングとか。
あと、片手袋マニアの人は、町ごとにどんな手袋が落ちているのかを分析しては、その地域の特徴やカルチャーを把握しているみたいです。
分析力、ビジネスの現場では必須ですよね。
松澤
それもあるかもしれませんね。自分はよくわからなくても、「あなたはそれを面白いと思うんだ~!」みたいな。
松澤
よくよく考えてみると、ビジネスパーソンも言ってみれば一種のマニアですよね。「この領域では他の誰よりも詳しいよ」と現場で戦うわけですから。マーケターの人も、ものづくりの人も、みんなその分野のマニアです。
確かに。
さまざまなマニアや別視点を持っている人たちが一緒に仕事をすると、さらに「共創」が加速しそうです。
松澤
いろんな人が集まるミーティングの場でも、独自の視点を持ち寄ると強いかもしれませんね。
こういう場って、あえて何も口にしないような人が多いですよね。「思いつかない」というよりも、「言わないようにしてる」というパターンが大半だと思っていて。
わかります。「発言に対して、何を言われるかがわからない」という状態だと、自分の視点に自信がなくなり、何も言えなくなってしまったり……。
松澤
でも、別視点の発言が皮切りになって、一気に活路が開けることもあるかもしれない。
だから、チームの中にいる人は、それぞれの別視点を生かすためにも「何を言ってもいい空気」にすることか大事になるでしょうね。
いろんな人の別視点を持ち寄れる環境にするんですね。
松澤
そうです。うちで「地域の面白いところを見つけましょう」というワークショップやるときも、そこに気をつけています。
マニア側が「私はこういうものを面白がってる」というサンプリングを披露すれば、参加者はみんな「こんなんでいいんだ」と思ってくれるんですよ(笑)。
片手袋をおもしろがってもいいんだと。
松澤
そうです。じゃあ自分は何がおもしろいかな、とたくさんアイデアが出てくるんですよ。
今まで出せずに隠していたものも、出していいんだと思えるようになる。だから、一見「無意味」に見えるようなものでも、ちゃんと意味はあると思うんですよね。私はそう信じています。
なるほど。怖がらずに独自の別視点を表に出していくことが、お仕事を良い方向に持っていくヒントになりそうですね。
今日はありがとうございました!
2023年9月取材
取材・執筆:少年B
写真:栃久保誠
編集:桒田萌(ノオト)