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令和のいま、職人は組織をどうマネジメントしているのか。飴細工師・手塚新理さんに聞く

職人の世界。それはとにかく厳しくて、一人前になるまで無給も当たり前――。そんなイメージを持っている方もいるかもしれません。しかし、令和のいま、職人の働き方はそのイメージだけにはとらわれないようです。

飴細工師として7名の弟子を抱える職人でありながら、会社の経営者でもある手塚新理さん。令和の職人は、どんなふうに働き、どうやって弟子をマネジメントしているのでしょうか?

今回は飴細工の購入や体験教室ができる「浅草 飴細工アメシン 花川戸店」にて、お話を伺いました。

常に自分の仕事に改善点を探し、日々よりよいものを作ろうとするのが職人

動き出しそうなほどにリアルに作られたアメシンの飴細工。

最初、飴細工のお仕事は手塚さんお一人で始められたそうですが、弟子を取ったのはどんなきっかけがあったのですか?

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手塚

単純に、一人では仕事が回らなくなってきたからです。需要があれば人手が必要になるし、そこに雇用が生まれるのも自然なことですよね。

店を始めた時点で、少しずつ事業を広げていこうと考えており、次のステップに行くにあたって人を育てていかなければいけないのは明らかでした。

手塚新理さん。手塚工藝株式会社代表・飴細工師。1989年生まれ。2010年からあめ細工アメシンとして全国各地にて製作実演や体験教室、オーダーメイドなどを手がける。2013年に東京浅草に飴細工の工房店舗「浅草 飴細工アメシン」を設立。現在は、浅草の花川戸店、スカイツリーソラマチ店の2店舗を構える。

事業を大きくしていくうえで必然の選択だったのですね。職人と経営者の2つの立場の中で、互いにポジティブな作用をもたらしていると感じることはありますか?

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手塚

私の場合、職人と経営者を切り離して考えていないんです。

職人の仕事は「作った物を買ってもらうこと」。だったら、ものを作るのはもちろん、経営も当たり前にできていないといけないじゃないですか。

仕入れの材料費や自分自身の人件費、それらが見合っていかないと一人ですらやっていけません。どれだけ技術力があっても、やっぱり利益を生み続けることが必要なんです。

自分で物を作って、「いいな」と思ってくれた誰かから対価をもらって、生活をする。それだけの話であって、難しく考えることではないのかな、と。

ほんの数分で形が作られる飴細工。ハサミだけで繊細な金魚を表現する。
飴が冷えて固まるまでの約5分間に成形しなければならない。

手塚

そもそも、私は職人を「職業」だとは考えていません。弟子たちには、「物を作って売っている人が職人なのではない。日々よくしていこうと考えながら物を作っているのが職人」とよく言っています。

なるほど……。

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手塚

常に自分の仕事に改善点を見つけて、作り直しては「やっぱりまだよくないな」と思って、さらによくしていこうと試行錯誤する……。

そういう日々の過ごし方をするのが職人であって、ただ仕事として物を作っている人は「作業員」です。私が勝手に決めた定義ですが。

それで、弟子たちには「作業員じゃなくて職人になってほしい」といつも話していますね。

どんな職業にも当てはまりそうな考え方ですね。

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手塚

個人的にはそう思います。そういう意味で、「職人」は心構えを指す言葉なのかな、と。

成形後に熱を加えることで、透明に。最終的には塗装して金魚が完成する。

自分の得意分野を活かして働く、職人であっても組織の恩恵は受けられる

「浅草 飴細工アメシン 花川戸店」には動物などを模した飴細工がずらりと並ぶ。商品の購入はもちろん、飴細工の体験もできる。

現在、手塚さんには7名お弟子さんがいらっしゃるとのことですが、どんな方々なのでしょうか?

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手塚

製菓業界で働いていた人が多いですが、年齢や動機は多様です。20代から始める人が多いですが、私より年上で50代の人もいれば、将来的に独立を考えている人もいます。

なにか共通点があるのでしょうか?

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手塚

人と関わっていくのが得意なタイプも、あまり得意ではないタイプの人もいる。ものづくりを突き詰めるのが得意で、うちのような会社だからこそ輝けるタイプもいます。

いろんなタイプがいて、それぞれが自分の得意分野を活かして働けるのが組織の強みだと考えているんです。

これが一人だと全部やることになるので、全ての工程で70点以上取らないといけません。けれど、組織にいるならば何か一つのことで120点取れる人のほうが強いんですよね。そういう意味では、職人が組織で働く面白味もあると思います。

金魚のほかにも、さまざまな飴細工が並ぶ。

職人の世界であっても、互いに強みが違うんですね。それぞれがご自身で得意分野を見つけているのですか?

WORK MILL

手塚

それはやっていくうちに、自然と。はっきりと言語化できることばかりではないですね。得意なことをそれぞれがやって、「自ら研究していこうよ」という感じでやっています。

実際、私自身も片付けとか苦手なことがいっぱいあるんですが、それは得意な弟子に任せています。

そのおかげで、今は経営に集中できている。まさに、私自身がそういう組織の恩恵にあやかっているんじゃないかな、と。

腕一本で勝負していく世界だからこそ、自身で技術を物にしてほしい

手塚さんが弟子に求めることは何ですか?

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手塚

基本的に職人は自分で作ったものに対して、気にくわない状態が理想なんですよ。それこそが一番の心構えであり、全ての原動力。だから、弟子には「いいものできた」と思わないでほしい。

そのときの自分のベストを尽くすけれど、次の瞬間には別の課題を見つけないといけない。とにかく現状に満足しないでほしいです。

「これでいいや」と思って作ったら、必ず前回より悪いものになってしまうんですよ。

ダイレクトに反映されてしまうんですね。

WORK MILL

手塚

我々の仕事は、自分の腕がものをいう世界。自分で自分を見つめられないといけません。だから、他人から言われて、直すだけではどうにもならないんですよ。

自分でやってみて失敗して、改善していく中で、手と目と思考と……そういった回路が繋がって、ようやく自分の技術になる。

私が手取り足取り教えたところで意味はない。だから弟子にもうるさく言わず、よくないところを冷静に指摘します

逆に、よくなっていたときはどうするのですか?

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手塚

変に持ち上げたりはせず、「ここ、よくなったんじゃない?」と言います。

でも、それはあくまで事実であって、本人が気づけていない部分を気づいていた人が言うだけのことです。

大げさな感情表現は入れないんですね。

WORK MILL

手塚

はい。ものづくりは安定していることが大事なので、余計な感情は挟んではいけないものだと思っています。

職人の世界でもステップアップの速度は人それぞれ

実際にお弟子さんのレベルに応じて、仕事を振り分けるマニュアルとかは存在するのでしょうか?

WORK MILL

手塚

存在しません。ですが、まずは商品の袋詰め作業や仕込みなど、そこまで技術が必要ない部分から任せています。そして、徐々にその先のステップに進んでいく感じです。

でも、そういう育て方ができるのは飴細工に需要があって、仕事として成り立っているから。仕事の中で技術を身に付ける環境ができてくれば、どんどんいいサイクルが回っていくと思いますね。

夏らしいお土産としても人気のうちわ飴。弟子入りして最初にやるのは、こういったさまざまな飴を袋に詰める仕事だそう。

具体的にどのようにステップアップしていくのですか?

WORK MILL

手塚

商品作りもそうですし、お客さんの予約が入ったら体験教室もやらなければいけない。

日々の仕事の中でレベルに応じた作業を任せつつ、少し余白を作っておきます。その余白で、ちょっと難しい仕事にも挑戦してもらう。

例えば、オーダーメイドの飴細工の仕事が入ったら、「まだこいつには早いかもしれないけど、やらせてみよう」とか、今まで先輩が塗装していた商品を「ちょっとこれやってみろ」と言ってみたり。

技術を身につける速さも、習う内容も人それぞれです。絵付けから入る人間もいれば、造形から入る人間もいるし、いろいろです。

無休や無給では文化は残らない

浅草名物の「ボンボン飴」もアメシンの職人が手掛けている。

いわゆるミーティングのような、定期的な話し合いの場はあるのですか?

WORK MILL

手塚

コミュニケーションは自然と取っているので、いちいち場を設けて話すことはありません。

普段は、現代的にLINEを使っていますね。確認したいことや改善事項点があれば都度伝えて、判断して。

お弟子さんから落ち込んでいる、伸び悩んでいるといった相談を直接受けることはありますか?

WORK MILL

手塚

あることにはありますが、結局は本人がやるかやらないかの世界なので。そのへんは、一般企業とは少し感覚が違うのかもしれません。

弱音を吐いている場合ではない、と。

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手塚

そうですね。伸び悩んでいるといっても、結局は本人がやるしかありません。

「浅草 飴細工アメシン 花川戸店」は、外国人観光客も注目するスポットだ。

飴細工の仕事は、厳しさがありつつも、丁寧に紡がれてきた伝統文化であることを感じます。

WORK MILL

手塚

そうですね。ただ伝統文化と言っても、「無給で休みなく働け!」という昔のようなやり方はとっていません

それだとやっぱり文化として成長していかないと思うんです。そういって滅んでいったものはたくさんあるので。

理想はトップがいなくても続くこと、それこそが文化継承

手塚さんにとって、どんな組織が理想的ですか?

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手塚

私がいない状態でも成り立つ組織です。以前は私がガツガツ商品を作っていたので、みんなが成長できない時期もあったんです。でも、3年前から店の商品づくりは全て弟子たちに任せることにしました。

思い切って任せるという判断、意外と難しいですよね。

WORK MILL

手塚

特に任せ始めは手間がかかるので、最初は躊躇するんですよね……。でも、そうしていかないと、文化として続いていかない。私が死んだら終わり、だと意味がないので。

そんな手塚さんにとって、お弟子さんとはどんな存在なんですか?

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手塚

どっちが上とか下という関係ではないと思っています。

弟子は私に対して「偉い人」という意識がないんですよ。口調もフランクで、「これはこうなんじゃない?」と聞いてくるくらいですし(笑)。

でも、技術的な面で妥協をしなければ、そういう関係でいいと思っています。

手塚さん自身、どこかで組織づくりを学んだ経験があったのですか?

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手塚

特にそういう経験はありません。

リーダーは組織全体の中でたまたま波頭に立っただけの存在なのかなと思っています。外からだと、トップによって組織が作られているように見えますが、実はそうじゃない。

下に海があって波が立つから、波頭ができるだけで、その波頭も下がってまた別の場所でウワッと上がったりして、どんどん変わるんですよね。

人間社会でも同じことだと思っています。今の社会は派手なものに目が行きがちですが、物事は目立たない場所から生まれているのかな、と。

だから私自身、マネジメントを学んだというよりは、組織と共に自分自身も成長してきた。組織が今の私を作ってきた、という感覚に近いです。

自身も組織の一部である、と。

WORK MILL

手塚

そうですね。いい物を作っていれば、きちんと相応に評価してくれる人も現れますし、それで回っていきます。

余計なことは言わずに、技術を磨いてよりよいものを作る。それに尽きますね。

2022年6月取材

取材・執筆=矢内あや
撮影=栃久保誠
編集=鬼頭佳代(ノオト)