知識があればチーム全員が働きやすくなる 「みんなの生理研修」から考える男性社員が月経について学ぶ意味
生理やPMS(月経前症候群)で体調が悪い……。無理してがんばってみるものの、いつも通りのパフォーマンスが発揮できない。でも、生理で仕事を休むなんて言いづらい――そう悩む女性が多くいます。
一方で男性側も、生理での不調を抱える女性に対してどう接したらいいのかわからず、相互に温度差が生じてしまいがちです。
体調不良などは、仕事のパフォーマンスにも直結するものです。経済産業省が実施した調査によると、女性特有の健康課題などによって職場で困った経験のある人は5割以上。性別問わず、生理中の体調や症状などの知識を持ち、助け合える環境を整えることによって、組織・個々人のパフォーマンスとチームワークの向上が期待できるかもしれません。
性別や属性にかかわらず、互いに配慮できる環境をつくるには? そのための心がけやコミュニケーション方法はあるの?
企業や団体向けに生理の知識向上や職場における相互理解を促す「みんなの生理研修」を実施しているユニ・チャーム広報室の渡邊仁志さんと藤巻尚子さんにインタビュー。WORK MILL編集長の山田雄介が、日々女性社員と業務を進めている当事者として話を伺いました。
―渡邊仁志(わたなべ・ひとし)
ユニ・チャーム株式会社ESG本部広報室室長代理。誰もが自分らしく生きることができる社会の実現を目指し、国や地域・性別や年齢を超えて生理にまつわる知識向上と、相互理解の促進を目指している。
―藤巻尚子(ふじまき・なおこ)
ユニ・チャーム株式会社ESG本部広報室に所属。2019年から推進している「#NoBagforMe」プロジェクトに携わり、現在は「ソフィみんなの生理研修」の広報活動をしている。生理は女性だけのものではなく、周囲の方の知識や理解も必要であることから、相互理解の促進を図り、誰もが自分らしく過ごせる社会を目指している。
生理に対する正しい配慮とは、知識で相手を思いやる想像力を広げること
生理やPMSで体調がすぐれない女性社員はいるはずですが、これまで「生理がつらいので仕事を休みます」という言葉をあまり聞いたことがないんです。
女性が生理による体調不良を訴えるのが難しいのには、どんな背景があるのでしょうか?
山田
藤巻
まず前提として、今の社会には生理をタブー視する風潮があります。
例えば、学校の性教育の授業。近年は風潮が変化しつつありますが、いま管理職の方が小・中学生だった頃は、男女分かれて実施されることが多くありました。そのため、「あまり他の人と生理について話しちゃいけないのかな」と間違った価値観が刷り込まれていました。
この問題は教育現場だけではなく、日常生活にも現れています。スーパーやドラッグストアで生理用品を買う際に、紙袋や色のついた袋に入れられ、外から見えないように隠すお店もあります。
このようなことが積み重なり、「生理は隠すもの」という考え方が多くの方の中にあるのではないか、と考えます。
こうした風潮は日本だけなのでしょうか? 他の海外の事例も教えてください。
山田
藤巻
国によって異なりますが、一例としてアメリカは日本よりオープンな文化があると思います。
1962年に、当社の創業者・高原慶一朗がサンフランシスコへ視察を行った際、現地のスーパーでは生理用品が山積みになっている様子を見て驚いたそうです。
一方、当時の日本では、生理用品は薬局の奥に置かれており、購入するには、店員の方に声を掛けなければいけない状況でした。
そのような日本とアメリカのギャップに衝撃を受けたことがきっかけで、高原は「女性のために何かできることはないか」と考え、生理用品の事業を始めたという背景があります。
日本では生理用品の袋に入れる習慣は、相手を思いやるという配慮の意味があるのかもしれませんね。
配慮の仕方に戸惑う場面は、職場でもありえます。生理についてオープンに話せるようになったとしても、いざ女性社員から「生理なので休みたい」と言われたら、戸惑ってしまいそうで……。理想的な返答はあるのでしょうか?
山田
渡邊
私が推奨する返答は、「無理しないでいいよ」と相手の体調を察して寄り添う姿勢を見せることです。「風邪で体調が悪い」と言われたときと同じように、特段驚くこともなく、相手を気遣ってあげる気持ちが大切なのではないでしょうか。
ただし、そのためには正しい生理の基礎知識を身につけておくことが必要です。生理期間中の女性が辛いのか、どのような症状で苦しんでいるのか。また、辛さには個人差があることも理解することが大切です。
そうすることで、「もしかすると相手はこんな状態なのかもしれない」と配慮できるようになり、うわべだけの気遣いではなく、相手のことを心の底から思いやることができるのではないでしょうか。
生理に関する正しい知識があることが、良いコミュニケーションをとるための前提条件なのですね。
山田
渡邊
はい、そうです。ただし、注意していただきたいことが一つあります。それは、生理について触れずに「今日は調子が悪いので休みます」とだけ言われたときに、「生理だから?」など聞かないことです。
女性の中には、生理だと言うことをためらう方もいらっしゃるかもしれません。また、生理以外で体調がすぐれないのかもしれません。しかし、その解き分けをするのは上司の役目ではないと考えています。
生理の正しい知識を得るのは、あくまでも「もしかするとこういう辛さがあるのかもしれないな」と推察し、相手を思いやるためです。女性側が「今日生理でつらくて」と気軽に伝えることができるのは、確かな信頼関係があるからだと思います。
正しい知識が、本当の「理解」を促進する
ユニ・チャームでは、2020年より生理の知識向上や職場での相互理解を目指す「ソフィみんなの生理研修」を行われていますね。
実際にさまざまな企業で行われる中で、男性参加者の反応はいかがでしょうか?
山田
藤巻
驚かれる一つに、生理用品の種類の多さがあります。
生理用品は、ナプキンだけではなく、タンポンや、「シンクロフィット(※)」、「月経カップ」など、さまざまな商品があります。
※シンクロフィット……約2時間分の経血を吸収する、体に付けるタイプの生理用品
渡邊
ほとんどの男性は、生理用品を見たこともなければ、触った経験がない方が多いのではないでしょうか。家族に女性がいる方でも、「触ったことがある」という方は少ないと思います。
しかし、研修では生理用品に触る機会があります。すると、「こういう形なんだ」と驚きや発見があります。生理用品について性別関係なくディスカッションすることで、「他者」を知ることにつながっています。研修は、そんなコミュニケーションの場になっています。
私自身、開発に7年ほど携わってきましたが、研修を受けると生理にまつわる知識をアップデートできます。
僕自身も家族の生理用品を買いに行った経験がありますが、ナプキンの種類が多くてわからないことが多くて。かといってそこに長時間滞在するのも後ろめたい。
まじまじと触ることもできず、当然、種類などを深掘りできないので、そうやってフォーマルに正しい知識を得られる場があるのはいいなと思います。
山田
藤巻
その他にも、「生理痛やPMSなど、生理によって起こる心身の変化の種類がこんなにあるなんて知らなかった」という声もあります。中には、生理痛に個人差があることを初めて知ったという方もいます。
生理前に憂鬱になる方もいれば、生理2日目に精神的なバランスが崩れてしまう方もいる。他の身体的な症状も然りです。そして、それが毎月同じリズムでやってくるとも限りません。
そのため、研修を受講された男性で「女性が生理で体調がすぐれないときも、きちんと助け合えるチームにしたい」とチームビルディングに意欲を高める方も多いです。
渡邊
生理にかかわらず、普段から体調がすぐれない人がいれば「手伝おうか」「仕事をシェアしよう」「今日は少し休んでいいよ」と声をかけ合える環境を作っておくことを心がけたいです。
踏み込みづらい領域とどう向き合うのか
女性特有の課題に気遣いたくても「セクハラだと思われないか」とどこまで踏み込んでいいのかわからず、戸惑う男性も少なくないと思います。
男性目線の素朴な質問になるのですが、そもそも女性は職場の男性に対して、「生理について理解してほしい」と思っているのでしょうか?
山田
藤巻
研修を受講された女性から、「自分の生理について必要以上に踏み込まれるのは不安だけど、男性が生理について知っているという事実こそが、日々の働きやすさにつながった」という声がありました。
生理が他の体調不良と違うのは、「周りに言えない」こと。風邪ならストレートに「風邪でしんどい」と言えても、生理だと言いづらい。それがストレスになってしまって、憂鬱になったり、仕事のパフォーマンスが落ちたりする方もいらっしゃいます。
男性側が生理の知識を得ることで、隠さないといけないというストレスがなくなる。そこに、「男性が生理を理解する」ことの価値があるのではないでしょうか。
組織やチームの円滑なコミュニケーションや心理的安全性を生み出すために、生理のように一見踏み込みづらい課題に向き合うための姿勢や心構えを教えてください。
山田
藤巻
やはり相手のことを第一に考え、思いやりのあるコミュニケーションを取ることが大事だと思います。
そのためにも、自ら情報を得ることで、一緒に働いているメンバーを想う姿勢を示すこと。そして、考えるだけでなく、行動に移していくと環境も変わっていくと思います。
渡邊
私もチームメンバーとほどよい距離感を保ちつつ、思いやりを持って接することが見せていくことが一番大切だと考えています。
今はリモートワークも広がっています。「生理だから今日は在宅勤務で」というように、体調がすぐれない中、無理にパフォーマンスを発揮しようとせず、さまざまなスタイルで生理と向き合える環境をサポートできるといいなと思います。
男性も女性も生理に関する知識を得ることは大切なことあり、それにより生理について気軽に話せる環境が整うのはすばらしいことだと思います。
大切なのは「生理について話すべき」という強要ではなく、「生理について話すこともできる」という選択肢を増やすこと。
その上で各々の企業風土や文化に合わせてコミュニケーションの方法をアップデートさせ、一人ひとりがよりよくパフォーマンスを発揮できる職場環境を実現するために「みんなの生理研修」を継続していきます。
2022年9月取材
取材:山田雄介(オカムラ)
執筆:桒田萌(ノオト)
編集:鬼頭佳代(ノオト)