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異能とのコラボレーションのカギは「さらけ出す力」にあり ー 米ハーバード大学 ロバート・キーガン教授

この記事は、ビジネス誌「WORK MILL with ForbesJAPAN ISSUE01 WHY COWORKING? コワーキングと働き方の未来」(2017/9)からの転載です。 



発達指向型組織が知性を発達させる

では、「知性」の発達を促すためには、どのような環境、条件が必要なのでしょうか。我々は、そのような風土のある組織をDDO(発達指向型組織Deliberately Developmental Organization)と呼んでいます。これらの企業には、共通するいくつかの特徴があります。一番重要な特徴は、「個人の成長と会社全体の成長は、別々のゴールではなく、一つの同じゴールなのである」という深い信念をもっていることです。つまり、個人の知性の発達を、組織の発達に結びつけているのです。 

また、従業員の幸福感に対する考えも独特です。DDOでは、「幸せは一定の状態ではなく、成長していることを実感し、幸せを感じるプロセスにある」という立場をとり、よりよい自分になっていると実感するところに幸せがあると考えます。しかも、他の人の成長を助けることにも幸せを感じるのです。それは、個人のポテンシャルと組織のポテンシャルが表裏一体だという信念をもっていることの表れです。

DDOのもう一つ重要な特徴は、従業員の行動に「裏の目標」がないということです。「裏の目標」とは見栄を張ったり、上司に好印象を与えようと弱みを隠したりすることです。これらは目標の実現を妨げるばかりで、誰も得をしません。社員が就業時間の30~40%を、「裏の目標」に費やしていたとすれば、個人にとっても会社にとっても大きな損失です。これを防ぐため、DDOでは、CEOから中間管理職、新入社員に至るまで、誰もが欠点を抱えていると認識し、それぞれの課題にオープンに取り組み、自分の弱みをさらけ出せるような企業文化を醸成しています。

そして、お互いにポジティブにもネガティブにも驚くほど多量のフィードバックを交わすことで、恥ずかしさやエゴ、「こんなことをしたら嫌われる」などの思い込みや「変化をはばむ免疫機能」を乗り越え、「環境順応型知性」から「自己主導型知性」への発達を促しているのです。強調しておきたいのは、DDOは従業員の「知性」の発達という面だけでなく、経営面でも非常に成功しているということです。

日本も「脱・集団思考」が可能

日本には、会社が第二の家族となり何十年も一緒に過ごすような組織文化があります。30 年、40 年と長期にわたって、同じ組織、同じ同僚、同じ職場で働く人が多く、まだまだ多様性の低い職場が多いように思われます。

こうした環境下では、反対意見を述べることはリスクとなります。帰属意識を抱く対象に忠実に従うほうが関係を保つことに役立つため、環境順応型知性にとどまることを選択するようになりがちです。そして、権力のある人の意向や集団の空気を忖そん度たくし、それに沿ったかたちでできるだけ早く同意する「集団思考(group think)」マインドに陥る可能性も高くなります。こうした「集団思考」の環境下では、間違っていると思っても反対意見は出せず、クリエイティブなアイデアは生まれませんし、有意義なコラボレーションも難しい。グローバル化が進み、技術の進歩が加速し、競争が激化するいまのビジネス環境に対応することが難しくなっていきます。

では、長期雇用が中心となっている日本の組織の中では、人は環境順応型知性にとどまったままで、それ以上の発達は見込めないのでしょうか。そんなことはありません。もしもいま、硬直化した組織に限界を感じているのであれば、会社が働く人々の成長により深くコミットし、そこに最善を尽くせているかどうかを問うてみてください。それができていないのであれば、組織風土改革に着手するべきです。

私は日本の組織文化を残しつつも、DDOで行われているような方法論を取り入れることは可能だと考えます。例えば、会社側から「新しいアイデアは歓迎する。どんな意見を言っても大丈夫。失敗しても安全だから、もっとイノベーティブな試みをしてほしい」というメッセージを発信してみる。新たな挑戦をしたり失敗をしたりしながら、日々、互いにフィードバックしあう中で成長の限界を乗り越える経験ができるようなオープンな組織風土に変えていくのです。それは洋の東西を問わず、できないことではありません。

今、日本でも多くの企業が硬直的な組織のあり方に限界が来ていることに気づき、オープンイノベーションやコワーキングなど、より多様で開かれた環境を提供することに積極的な企業も少しずつ増えていると聞いています。企業は、どうすればより深く個人の成長にコミットできるか。経営者や組織のリーダーが、個人の成長を組織の成長につなげる視点をもつことが求められているように思います。

―ロバート・キーガン 米ハーバード大学教育学大学院教授
発達心理学者。30年に及ぶ研究を通じて、人は成人以降も心理面で成長し続けることは可能であるということを突き止めた。近著に『なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか』(英治出版)。

取材月:2017年8月
2020年9月3日更新

テキスト:井上 佐保子