parkERsのオフィスが示唆する、屋内緑化の価値とこれからのオフラインの場の行方
WORK MILL編集長の山田が、気になるテーマについて有識者らと議論を交わす企画『CROSS TALK』。今回は、屋内緑化に特化した空間デザインとプロデュースを展開する「parkERs(パーカーズ)」のブランドマネジャー・梅澤伸也さんをお迎えしました。
parkERsのオフィスは、私たちの持っている「働く場所」の固定観念を揺るがします。オフィスに緑を取り入れたというよりも、自然環境の中にオフィス要素を取り込んだような空間です。木漏れ日が差し込む室内には、水の音が心地よく響き、ブランコ状の椅子も設置されていて……。
「このオフィスでは、“未来の公園”を形にしたいなと思ったんです」
梅澤さんの言葉通り、まるで公園のようなオフィス。どうしてparkERsは、このような従来に類を見ない空間をつくったのでしょうか。前後編でお送りする対談の前編では、山田がparkERsのオフィス誕生前後の話を梅澤さんに聞きつつ、リモートワークが普及する中での「これからのリアルなオフィスの在り方」について、語り合いました。
ノイズや不便が想像力を刺激する「オフィスの公園化」
山田:梅澤さん、よろしくお願いします。今日はparkERsのオフィスにおじゃまさせていただいているのですが……想像以上に室内が緑にあふれていてビックリしました!
梅澤:皆さんによく言われます、「想像以上だ」って(笑)。そうやってビックリしていただけるのは、とても嬉しいですね。
―梅澤伸也(うめざわ・しんや) parkERs(パーカーズ) Brand Manager / Co-founder
1980年群馬県生まれ。(株)ソニーミュージック、楽天(株)を経て、ケニアのサバンナに触発され2013年に青山フラワーマーケットから派生した空間デザインブランド「parkERs(パーカーズ)」の設立メンバーに。人と植物や自然要素の共存した空間プロデュースを展開。「デザイン性」と「専門性」を融合させ、産業の垣根を超えたビジネスモデルに、科学的根拠やテクノロジーを取り入れた活動で海外からも注目を集めている。「緑化の潮流」や「組織づくり」等TEDxでの登壇、中央大学他で講師なども担当。
山田:こちらのオフィスは「未来の公園」をテーマにつくられたと伺っていますが、どのような特徴があるのか、教えていただけますか。
ー山田雄介(やまだ・ゆうすけ) 株式会社オカムラ WORK MILL編集長
学生時代を米国で過ごし、大学で建築学を学び、人が生活において強く関わる空間に興味を持つ。住宅メーカーを経て、働く環境への関心からオカムラに入社。国内、海外の働き方・働く環境の研究やクライアント企業のオフィスコンセプト開発に携わる。現在はWORK MILLプロジェクトのメディアにおいて編集長を務めながらリサーチを行う。一級建築士。
梅澤:私たちparkERsは、空間設計のプロと植物のプロが集まっているチームです。両者がそれぞれの専門性と創造性を持ち寄って、人々の日常に「公園のようなやすらぎやここちよさ」を提供する空間デザインを、事業として展開しています。
2019年11月に移転したこのオフィスでは「自分たちが過ごしたいと思える“室内の公園”の体現」を目指しました。大きく3つのゾーンより構成されています。
1つ目は「Indoor Park(インドアパーク)」。コミュニケーションの活発化を視野に入れた空間です。心地よくオープンマインドで話せるような場にするために、4枚のトチノキを自然の形状を活かして組み合わせた大テーブルをつくりました。
梅澤:2つ目は「Outdoor Park(アウトドアパーク)」。こちらは、アイデアや発想を生み出すための空間です。足元にチップを敷いたり、ブランコを設置してみたりと、普段は刺激されないような感覚をくすぐる仕掛けがいくつも施されています。
梅澤:3つ目は「Forest Park(フォレストパーク)」。生み出したアイデアを収束させ、没頭して仕事をするための空間です。集中しやすい環境になるよう、自然の緑をふんだんに取り入れ色や照明なども少し落ち着いた雰囲気にしました。行動目的に合わせてエリア分けをしているのが、大きな特徴だと思っています。従業員は固定のデスクを持たず、これらのエリアを日々使い分けながら、仕事をしています。
山田:絶えず聞こえてくる水の音、視界を豊かに彩る植物の色合い、チップを踏みしめたときの感触……このオフィスには一般的な働く場では味わえない、やさしい刺激にあふれていますね。こうした「五感を刺激するデザイン」は、「未来の公園」の実現にあたって、かなり重要な要素として見られていたのでしょうか?
梅澤:はい、見ていましたね。環境にあえて意図的な不便やノイズを置き、普段あまり使われていない感覚を刺激する。それによって「普段とは違う工夫をして乗り越えよう」というスイッチが入り、創造性が高まるのではないか……こうした仮説の下に、五感を刺激する装置を所々に散りばめました。
もちろん、ユニバーサルデザインの観点から見れば、「どんなに人にとっても不便のないオフィス空間」を目指すことも、とても大切なことです。ただ、それもひとつの選択肢であり、違った視点でデザインされるオフィスがあっても、僕はいいと思っています。
山田:それもまた、多様性ですね。いろいろな空間があっていいと。
梅澤:自然の中は、案外ノイズに満ちているものです。実はそれが、安心感にも繋がってくる。オフィス内でずっと聞こえている水の音も、最初はちょっと耳障りだったりするのですが、慣れてくると「聞こえないと落ち着かない」といった心境になってくるから、不思議なものですよ。
山田:一般的なオフィス環境は、作業効率に最適化されていて「ノイズは排除するべきもの」と捉えられがちです。そこにあらためて「本当にそれでいいのか?」と疑問を投げかけてくる空間だな、と感じました。
梅澤:デスクを固定化しないのも「本当にそれでいいのか?」という疑問があったからなんですよ。1日の中でも、「集中して作業をしたい時間」と「アイデアを生み出したい時間」って、モードが全然違うじゃないですか。それなのに、同じデスクに同じ姿勢で座り続けていて、望ましい成果が出せるのかって。
山田:おっしゃる通りですね。発散的な思考と収束的な思考、それぞれの作業特性に合った空間があると。その考えが具体的に体現されているのが、このオフィスの素敵な点だなと感じました。
そのよさを再確認するために、実際に公園で働いてみた?
山田:このオフィスを生み出す過程では、従業員の皆さんの意見を取り入れることに、重きを置かれていたそうですね。その中で、エスノグラフィー*の手法を用いたともお聞きしています。ぜひ、そのあたり詳しく聞かせてもらますか?
エスノグラフィー(ethnography):集団や社会の行動様式をフィールドワークによって調査・記録する手法、及びその記録文書のこと。主に文化人類学・社会学・心理学などの学術領域で用いられる。
梅澤:新しいオフィスに移転が決まってから、どんなオフィスにしようかといろいろ考えました。そこで中心に置こうと決めたのは「自分たちが過ごしたいと思えるオフィスにすること」、そして「自分たちのめざす価値観を体現して、ショールームのような機能も発揮できること」でした。
私たちが空間づくりにおいて大切にしている価値観は「公園のようなやすらぎやここちよさ」です。まずは、そういった要素を自分たちで再確認しながら言語化しようと思い、実際に公園で働いてみたんですよ。
山田:実際に外で?
梅澤:はい。やっぱり「雨だと働けない」などといった物理的なネガティブ要素は目立ちましたが(笑)、相対的にはかなりポジティブなマインドで仕事をすることができました。そこで得た感覚を含めみんなで書き出して、それを「環境に起因していること」と「行動に起因していること」の2つに分類していきました。
こうして公園空間を形づくっている要素や、それが人に与える影響を言語化して整理していくうちに、自分たちのブランドコンセプト、自分たちにとっての「公園のようなやすらぎやここちよさ」とは一体何なのかが、より明確になっていったんですね。
山田:エスノグラフィー的な手法で言語化したparkERsにとっての「公園」を、この室内で再現していったと。
梅澤:そうですね。そこは本当に「オフィスをつくろう」ではなくて、「公園をつくろう」という意識を、皆で持っていました。ゼロから新しいものを生み出そうとするのではなくて、公園で「気持ちがいいな」と感じた要素を、室内にリデザインしていくイメージで。
だから、「オフィスの当たり前」からは考えられないようなアイデアも、実現できたんだと思います。「公園に池があるのは自然だし、水の揺らぎって見てて気持ちいいよね。だからつくろう」と、ごく自然な流れでオフィスの真ん中に大きな水盤もできましたしね。
山田:普通なら「施工主さんがイヤな顔しそうだな」「お客さんがコケてハマったらまずいよな」と考えて、絶対に躊躇すると思います(笑)。けれども、今までのオフィスでは当たり前ではなかった要素も、この空間で体感すると「もしかしたら、こちらのほうが当たり前の風景なのかもしれない」と感じさせられる。それがすごいなあと。
梅澤:無機質でグレーなオフィスに、自然のグリーンを取ってつけたように盛り込もうとすると、やっぱり無理が出てくるんですよね。自然にある当たり前の風景を、いかに室内で再現できるか。都合よく切り取ろうとせず、「公園」のありのままの在り方を尊重したからこそ、違和感なく馴染みやすい空間になったのかなと思っています。
「来たいオフィス、紹介したくなるオフィス」の価値
山田:この新しいオフィスで働き始めてからの、従業員の皆さんの反応はいかがでしょうか。
梅澤:移転してから3カ月後に従業員にアンケートを取った結果、前のオフィスと比較して、オフィスに対する好感度が15.8%増加し、不満は15.2%減少しました。「全員が100%満足する空間などあり得ない」という前提がある中で、約15%不満が減り、ポジティブな方向に変化したという数字には、かなり手ごたえを感じています。
また、このオフィスに足を運ばれたお客様の反応・印象についても従業員にアンケートを実施しているのですが、前オフィス比で好感度は20.6%増加、非好感度は5.5%減少しました。あと、データとして面白いと感じたのは、「良くも悪くもない」という薄い反応が13.3%減少した点ですね。来た相手の何かしらの感情を動かし、リアクションをもらえる機会が増えたということですから。
山田:確かに、このオフィスに足を踏み入れた時から、ずっとテンションが上がっている気がします(笑)。それも、興奮というよりは、落ち着きの中にずっとワクワク感があるようなイメージで。いろんな人に「すごく素敵なオフィスがあったよ」と紹介したくなります。
梅澤:従業員の皆も「来たいオフィス、人に紹介したいオフィスになった」と、よく言ってくれるんですよ。僕もこうやって、いろんな人を連れてきて、「いいでしょ?」って自慢してますしね(笑)。前よりも誇りを持てるオフィスになったことで、組織としてのアイデンティティがより確固たるものになった感覚があります。
山田:「来たくなるオフィス、紹介したくなるオフィス」という要素は、これからのオフィスの在り方として、重要なキーワードだと感じます。
梅澤:オフィスがね、日々変化しているんですよ。花が咲いたり、新芽が出たり。自然を取り入れているので、当たり前と言えば当たり前なんですけど。変化があるということが、オフィスへの愛着に繋がっている気がするんですよね。家にいる時でも、ふと「あの子は大丈夫かな?」とか、オフィスにあるお気に入りの木のことを考えたりして。
山田:変化があるから気になって、その「気になる」が愛着に繋がり、「来たい」という気持ちが生まれているのでしょうか。緑のない無機質なオフィスでは、なかなか生まれない感情なのかもしれません。
梅澤:前職では大きな会社にいて、とてもスッキリとした働きやすいオフィスではあったのですが、やっぱり無機質でしたね。たまに休日出勤をしてオフィスに一人きりになることもあったのですが、ちょっと怖くなるくらい、本当に無音で生気のない空間だったなと。
今のparkERsのオフィスは、誰もいないときに来ても、ほんのり温かみがあるんですよね。ホッとする、というか。自然の緑って、ほぼほぼ万人受けなのがすごいんですよ。
山田:ホッとするという感覚、とてもわかります。人間誰しも、本能的に自然を求めている部分はあるんでしょうね。それは、コロナ禍で多くの人が公園に散歩に出かけたり、花を買い求めたりする様子を見て、私もひしと感じました。
無機質なオフィス環境は、それこそ機械的な単純作業をするには向いているのかもしれません。一方で、新しいアイデアを生み出したり、育てたりするような創造的な思考や作業をする場合には、生気のある環境が適していそうですね。変化のイマジネーションや安らぎを取り入れる手段として、オフィスの緑化はこれからも増えていきそうだなと思います。
「どこで、どう働くか」を考え続けることが、成果の最大化に繋がる
山田:ゾーンが分かれていたりと、ユニークな点の目立つオフィスですが、使い方に関するルールなどはあったりするのでしょうか。
梅澤:現状はフリーアドレスにして、ルールも意図的に曖昧にしています。というのも、こちらが場所の用途を限定するのではなく、自分に合った使い方をそれぞれが見出してほしくて。自分の成果の出し方に対する自己認知が深まっていくと、「これをやる際はあの席がいい」というのが身体でわかってきて、この空間を存分に生かせるようになっていくと思うんです。
山田:オフィスの使い方を自分で考えることが、自分自身との向き合いに繋がっていくと。
梅澤:移転した当初は「自由って言われても……」と戸惑う従業員も少なくありませんでした。最近は皆自由を使いこなせるようになってきて、「午前中は日が差し込む席で集中して、午後はブランコに揺られつつアイデアを出そう」といった風に、オフィス内で転々としながら働くのが定着してきました。
山田:場面ごとに「どこでどう働くか」と考えることは、思考的に負荷のかかる行為ですよね。決められた用途で決められたことをするほうが、楽ではある。けれども、そこで考える行為をしっかり挟むことで、より望ましい成果を出せる働き方になっていきそうです。
梅澤:あと、フリーアドレスに添える形で「2日連続で同じ席に座らない」というルールだけ設けています。そうすると、普段は話さないような違う部署の人と隣になる機会がある。必ずしも仲良くなる必要はないですが(笑)、たぶん「こんにちは」って挨拶して、多少のコミュニケーションは取るようになります。
弊社には背景の異なるさまざま専門性を持った従業員がいて、固定でチームを編成するのではなく、プロジェクトごとに柔軟にメンバーの組み合わせを変えながら、業務に当たっています。いつ誰とでも組む可能性があるから、普段から部署の違う従業員と緩いつながりを持つことは、後々の業務の効率化にも繋がってくる。コミュニケーションが円滑になれば、それだけ化学反応も起こりやすくなる。流動的な組織を目指す上で、フリーアドレスは理に適ったシステムだなと実感しています。
山田:場の一つひとつに意味が込められていて、それが目指す働き方に確実に寄与しているのは、オフィスの在り方としてとても理想的だなと感じます。コロナの影響もあって、これからの社会では、さらにテレワークが常態化してくるはず。ただ、一概に「リアルのオフィスはもう要らない」「すべてはオンラインに移行できる」というわけでは、決してないと思っていて。
そんな環境下では「オフライン/オンラインのワークスペースの意味づけ」が、とても重要になってきます。それぞれの場のよさを理解して、どうやって最大化していくか。梅澤さんは、そこに丁寧に向き合っている印象を受けました。
梅澤:そうですね。こんなにオフィスをつくり込んでいる割には、parkERsの働き方は基本「成果を出していれば、どこでどんな働き方をしていてもいい」という方針でやっているので。お客様の期待を裏切らない、最低限の成果を出すこと。それをクリアできる土壌を整えて、あとはなるべく干渉しないように心がけているんです。
たとえば、オフィス工事の担当者は、何度も現場に足を運ぶし、工期の都合によっては夜通し作業をすることもあります。植物のメンテナンスの担当者も、生き物相手ですから、急な対応に追われることもある。さまざまな属性の人たちが社内にいる環境下で、固定化したワークスタイルを設定することは、ナンセンスだよなあと感じていて。
山田:なるほど。
梅澤:「お前は甘すぎる」なんて言われることもあるんですけど(笑)。ただ、性悪説的にルールをつくって管理を厳しくしても、パフォーマンスが上がるわけじゃない。疑問を持たずに「マネージャーは管理するべきだ」と思ってしまうのは、立場的なバイアスがかかった思考なんじゃないかなと。
それこそ、オフラインとオンラインの使い分けなんかは、デジタルネイティブである若い世代のほうが、僕らよりもずっと身体的に理解している気がします。彼らの実践を見ながら、僕らのほうが教わるべきことだって、きっとたくさんあるんだと思いますね。
前編はここまで。後編はparkERsのさまざまな取り組み、その根底にある「バイオフィリックデザイン」の思想に触れながら、今後のオフィスや働き方の行方について、さらに議論を深めていきます。
2020年8月18日更新
取材月:2020年6月
テキスト:西山武志
写真:土田凌