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Weltz-selfが目指した新たなユニバーサルデザイン ― 誰もが自分らしく働くことへ

少子高齢化やグローバル化が進む昨今、働き手の多様性はますます広がっています。そんな背景から、これからのオフィスでは、年齢や障がいの有無・体格・性別・国籍などにかかわらず、あらゆる人が働きやすい「ユニバーサルデザイン」志向の環境整備が、一層求められていくことでしょう。

こうした時代のニーズを受け、オカムラの研究開発チーム は、高齢者や下肢に障がいのある方もオフィスで動き回りやすくなるような椅子の開発に、早くから着手していました。その成果として生まれたのが、従来に例を見ない移動することを目的としたオフィスチェア「Weltz-self」です。

本記事ではWeltz-selfの開発の経緯と、その開発に込められている思いを、ご紹介いたします。

「Weltz-self」開発の背景

誰もが働きやすいワークプレイスの創出――これは、オフィスづくり を手がけるオカムラが掲げているミッションです。多様な人がともに働く環境において、「誰もが働きやすいオフィス空間」を実現するには、そこにある家具は誰もが使いやすいものであるべき。そんな思想から、 あらゆる製品に対して「ユニバーサルデザイン」を追求しています。

さて、時はさかのぼって2009年。とある会社から、これまでにない依頼を受けます。それは「車いすユーザーのために、座り心地のいい特注チェアをつくってほしい」という旨。ちょうどその頃は、少子高齢化とそれに伴う労働力人口の減少の影響もあって、これまでは働き手として参加することが難しかった足の不自由な高齢者や障がいを持つ方も、オフィスワークに進出し始めていた時期でもありました。

「この機運は、きっと今後も高まっていくだろう。ならば、車椅子の知見を活かして“移動が困難なワーカーが働きやすくなるようなオフィスチェア”をつくろう!」

そう意気込んだ研究開発チームは、佐賀大学、神奈川県総合リハビリテーションセンターと日進医療器株式会社に協力を求め、共同で開発に乗り出しました。

車椅子ワーカーのニーズから得た「Weltz-self」の着想

まずは実態の把握からと、聞き取り調査を始めた研究開発チーム。そこで初めて車いすワーカーの中には、ある程度は自力で足を使って移動することができたり、通勤時は杖を使って歩くことができたりする人たちもいるという事実が見えてきます。中には移動する度にオフィスチェアから車いすに乗り換える人もいました。彼らにとって、車いすは移動するためのツールであって、決して生活や仕事をするために快適なツールではなかったのです。さらに高齢者に目を向けると、歩くことはできるがバランスをとることが難しく、安心・安全に移動することができない人も少なくないことがわかりました。

調査から得た知見を踏まえ、研究開発チームは佐賀大学のスタッフと議論をしながら、 「車いすユーザーに限らず“歩けるけど移動するのが困難な人たち”を対象に、座り心地が良く、なおかつそのまま移動もできるオフィスチェア”をつくろう」という考えに至りました。

このアイデアをもとに「Weltz-self」のプロトタイプの開発がスタートしました。研究開発チームがとくに留意したのは、「座ったまま、歩くように動ける走行性を持たせつつ、いかにも車いすというデザインにならないこと」です。

走行性を優先すると、どうしても車輪が大きくなり、見た目が車いすに近づいてしまう。車いす感が強く出てしまうと、オフィスの中で目立ってしまって、きっと利用者も落ち着かない。オフィスチェアだからこそ、オフィスに馴染むものであること、それを実現させるためのデザインにこだわりました。

開発プロジェクトが立ち上がってからおよそ7年後の、2016年11月。数々の試行錯誤を経て、いよいよ実用性の高い試作モデルが完成します。新製品発表会に出展すると、各所から高い評価を得られ、それが製品化に向けた追い風となりました。

そして、2018年1月。ついに「Weltz‐self」が正式に製品化され、リリースされました。

Weltz‐selfのコンセプトやデザイン性は、国内外で高く評価され、ドイツでは「UNIVERSAL DESIGN compettion2018」「2020 GERMAN DESIGN AWARD」を受賞しています。日本では「2018年度グッドデザイン賞」を受賞し、審査員からは「下肢機能が低下した高齢者や障がい者のはたらく場の環境整備手助けとなるチェア」「ユーザーの働く意欲を向上させ、ともに働く人との一体感を生み出すことを目指している。」として、高い評価を受けました。2018年、2019年に出展した超福祉展(会場の様子:スライドショー1枚目)でも、来場された多くの方から「高齢社会のオフィス環境に必要な家具」と将来性について期待の声が飛び交いました。

また、実際にWeltz-selfを使用したユーザーからは、使用感について次のような満足の声も。

「誰かに押してもらわなくても自分で動けるのがすばらしい。小さいし、小回りもきくし、生活が軽やかになりました。」 (秋山さん兄弟:スライドショー2枚目)

思わぬ可能性の広がり

Weltz-selfは「障がい者や高齢者など、限られた人を対象とした製品」として開発をスタートしていました。しかし、調査や試作を繰り返す過程で、研究開発チームの考えは、少しずつ変化していきます。実際に、神奈川県および佐賀県にある病院二か所の医師5名に協力をお願いしたモニター評価では、医師など座ったまま身体を回転させる・振り向いて作業をするなどの動作が多い健常者においてもWeltz-selfの有効性が認められたからです。研究開発チームは「限られた対象ではなく、あらゆるワーカーにとっての“働きやすさ”に貢献できるのではないか」と、思うようになっていったのです。

近年は働く場所を仕事内容や目的に合わせて選択する「ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)*1」 が注目されています。ひとりきりで集中したいとき、数人でディスカッションしたいとき、オンラインミーティングをしたいとき……それぞれの業務に適した環境で仕事ができると、生産性が上がると言われています。

これからは働き方や業務の多様化に合わせて、オフィス環境にも相応の変化が求められていくでしょう。そんな中、Weltz-selfはさまざまな特性を持った人たちや、その働き方を支えるオフィスチェアとして、今後とも幅広いシーンでの活用が期待できそうです。

*1 仕事の内容や目的に合わせて働く場所を選択する働き方

誰もが自分らしく働けるオフィス環境を目指して

オカムラは、自分らしくいきいきと働く人たちを増やしたい、誰もがいきいきと働ける職場づくりに貢献したい、という思いを大切にしています。Weltz-selfも、働く皆さんの体だけでなく、心に寄り添えるようなものになってくれればと、願っています。

私たちは今後とも、さまざまな人々の生き方、その中にあるさまざまな働き方を支えられるようなプロダクト開発やプロジェクト創出に、注力していきます。

2020年4月2日更新

リサーチ:浅田 晴之 (株式会社オカムラ)
編集:西山 武志
イラスト:野中 聡紀
データ参照元:Development of chair with improved mobility performance (2017, Kanagawa Rehabilitation Center, NISSIN MEDICAL INDUSTRIES CO., Ltd., Saga University and OKAMURA CORPRATION)