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エンゲージメント向上の鍵は 「あいさつ」にあり-FOR MYSELF, FOR THE TEAM(中竹竜二さん)

この記事は、ビジネス誌「WORK MILL with ForbesJAPAN ISSUE04 LOVED COMPANY 愛される会社」(2019/4)からの転載です。


「従業員満足度」を高め、企業の成長につなげるためにはどうすればよいのか。企業でコーチング研修などを行う「コーチのコーチ」中竹竜二氏が解説する。

ここ数年で頻繁に聞かれるようになった「社員から愛される会社へ」というスローガン。最近では、従業員満足度を高めることを目的とした研修も増えてきました。しかし、20 年ほど前までは、従業員よりも顧客を満足させる戦略をとる企業が主流でした。潮目が変わった背景として大きいのは、産業構造の変化です。世の中の商品・サービスが、単にモノを買う消費型から、作り手の価値観も含めて消費選択がなされる共有型へと変化。同時に、企業が従業員に求める役割も、仕事を効率よく回す管理能力ではなく、クリエイティブな発想や企画力へとシフトしてきました。

さらに企業経営研究のアプローチに最新の脳科学が反映されるにつれ、「従業員満足度が高くなければ、企業の継続的な成長につながらない」という結果も明らかになっています。よりサステナブルな組織を目指すには、まず内側の人間を満たさなければならない。これは多くの経営者が抱える、新たな経営課題となっています。「well-being」や「幸福学」などのキーワードがよく聞かれるようになったのも、同じ流れでしょう。「社員から愛される会社を目指すにはどうすべきか」の答えを導くためには、「会社が社員に愛された状態」を明確にする必要があります。

その答えは「社員ひとりひとりが、そこで働く自分自身を心から好きと思える状態」ではないでしょうか。その会社で働くことが、自分のアイデンティティーを強固にし、自己肯定感を高める経験と一致するのだと認識できれば、個人は会社に喜んで自分の人生を費やすはず。「社員から愛される会社」とは、「社員が自分を愛せる会社」なのです。ここで主役となるのは、ひとりひとりの社員。「社業である自分がかっこいい姿を見せなければ」と経営者が張り切って、カリスマ性を磨こうとするのは間違いです。むしろ、社長の存在感を後退させるくらいのイメージをもつほうがいいでしょう。

社員に愛される会社とそうでない会社の決定的な違いは何か。私が感じるのは、リーダーがメンバーに投げかける「問いかけ」の多さです。一方的な上からの指示ではなく、メンバー自身に考えさせ、自分の意見を表現するきっかけを多くつくれているリーダーが率いる組織は非常に活性度が高く、満足度も高い実感があります。その問いかけというのも、選択肢を与えて選ばせる程度のものではなく、「どう思うか」「なぜそう思うのか」と、その人の価値観を聞き出す形のほうが望ましい。それだけで、自分の内面を見つめ直すきっかけとなり、「存在の承認」という体験になるのです。

ただし、問いの答えをしっかり聴く「傾聴」のスキルも求められることを忘れてはいけません。私が研修を務めるクライアント企業を見ていても、「コミュニケーション力が高い」と評価されるリーダーのほとんどは傾聴の名手。会話の9割は聞くことに徹する人もいるくらいです。

問いかけ、傾聴する

社員に愛される会社になるためには、社員ひとりひとりとの丁寧なコミュニケーションが重要。古くは、リクルートや楽天、最近では「社員全員で毎日ランチを食べる」というクレイジーなどがあります。一見、コストがかかる施策のようですが、逆に“投資”として導入されているのが共通点です。では、これから始めたい会社は何から始めたらいいのか。ひとつは、コミュニケーションが深まる制度の導入。上司と部下がじっくり面談する「1on1」など、制度による強制力を活用して社内のコミュニケーション習慣を変えていくのは有効でしょう。

併せて個人レベルの行動としてリーダーが始めたいのは、“朝の挨拶”です。毎朝、出社したら、顔を合わせるひとりひとりの名前を呼んで「○○さん、おはよう」と自ら声をかけていくのです。これがなかなか難しい。しかし、言われた側は確実に“存在の承認”を得られます。

承認されている安心感があれば、人は思い切りパフォーマンスを発揮できます。ここで強調したいのは、組織の発展のためには「存在価値を認めながら、高い期待値を示す」というセットの考えをもたなければならないということ。そして、「会社のために」ではなく「あなたの成長のためにやってほしい」と伝えるのが重要です。すると、個人から自然と「for the team」の精神が湧き上がるのです。リーダーが「あなたのために」と言うほどに、メンバーは「組織のために」力を発揮しようとする。まさに「社員に愛される会社」を育む循環です。結果、この会社で働いている自分がとても好きだ、そう思う社員が増えていき、組織はゆるやかに変化していくのです。

ー中竹竜二(なかたけ・りゅうじ)
日本ラグビーフットボール協会 コーチングディレクター、チームボックス 代表取締役、日本ウィルチェアーラグビー連盟 副理事長、スポーツコーチングJapan代表理事。企業研修なども数多く行う。

2019年11月26日更新
取材月:2019年3月

テキスト:宮本恵理子
※『WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE 04 LOVED COMPANY 愛される会社』より転載