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多様性、違いがあるから、互いのよさに気付ける ― ダンデライオン・チョコレートCEO 堀淵清治さん

東京の下町、蔵前。上野と浅草に挟まれたこのエリアは、古くから数々の手工業が栄え、ものづくりの町として親しまれてきました。その穏やかな町並みのとある一角、緑あふれる公園の目の前に佇むのが、ダンデライオン・チョコレートの日本一号店「ファクトリー&カフェ蔵前」です。 

アメリカ生まれのダンデライオン・チョコレートは、現在クラフトチョコレート業界をけん引する存在として、世界中から注目を集めています。このブランドの日本進出の立役者である、ダンデライオン・チョコレート・ジャパンCEOの堀淵清治さんは、過去にブルーボトルコーヒーの日本出店にも携わった目利きの人。

世界をまたにかけて働く堀淵さんの目には、今の日本の働き方はどう映っているのでしょうか。前編ではダンデライオン・チョコレートの中での実践を中心に、これまでの経験を踏まえて、語っていただきました。

後編では、日本とアメリカの働き方の違いの話から、職場の多様性がもたらすもの、「外に出ること」の重要性など、さまざまなトピックで話が盛り上がりました。

日本とアメリカ、働き方の風土の違い

WORK MILL:堀淵さんはこれまで、日本発の文化をアメリカに、そしてアメリカ発の文化を日本に持ち込むお仕事を手がけられてきました。その中で、ふたつの国の働き方の違いを感じることはありましたか。

ー堀淵清治(ほりぶち・せいじ)
NEW PEOPLE, Inc. 代表取締役社長、Dandelion Chocolate Japan(ダンデライオン・チョコレート・ジャパン)株式会社代表取締役CEO。

堀淵:個人差があるから一概には言えないけど、国民性というか、気質的なところから出てくる差異はあるかなと思います。

WORK MILL:というと?

堀淵:アメリカ人の方は、働いている時のスタンスがカジュアルだね。服装もラフだし、コミュニケーションもオープンで大らか。外から見ると適当に感じることもあったりするけど(笑)、その一方で裏側はとてもシステマチック。カテゴリごとに細かく分業化されていて、一人ひとりの作業範囲や労働時間もきっちり管理されています。

日本人はシャイだけど、とても気が利く人が多い。自分の担当外でも「ここ人が足りなさそうだから、私がやっておきますね」みたいに、お互いが空気を読み合って補完するような動きができますよね。そういう気質が、全体的な労働のクオリティを底上げしているように感じます。

WORK MILL:傾向としては、アメリカは個人主義的で、日本は集団主義的だと。

堀淵:あくまで傾向ですけどね。「日本人はよく働く」と言われるけど、定められた時間と役割の中で言えば、アメリカ人も実に勤勉です。対価分のパフォーマンスはきっちりと見せてくれます。

WORK MILL:集団主義的な気質は、「空気を読みながら助け合える」というメリットを持ちながらも、「本来定められた時間外も働いてしまう」というデメリットにもつながっているかもしれないな、と感じました。

堀淵:その意見は的を射ていますね。統計的に見れば、日本人は世界で最も長く働いている民族のひとつです。ただ、それに見合った生産性を発揮しているかと言うと、ちょっと難しい。周りとの同調に気を遣いすぎて、いやいやサービス残業をしている、なんてケースも多いでしょう。

アメリカ人の働き方から、日本人が学べる部分は大いにあると思いますよ。彼らの仕事に対するプロフェッショナリズム、オーナーシップの持ち方は、とても素晴らしいマインドですから。もちろん、日本人には日本人なりの良さがあるので、ダンデライオン・チョコレートの職場では両方のいいとこ取りができるといいなと考えて、いろいろな取り組みを行なっています。

日米でのエクスチェンジプログラムの意義

WORK MILL:その取り組みというのは、たとえばどんなことを?

堀淵:日米で何名かのスタッフを1カ月間交換する「エクスチェンジプログラム」を定期的に実施しています。僕らは小さいながらもグローバル企業だから、日米間で同じ企業文化をしっかり共有して事業をしていきたいという思いから、この取り組みを始めました。

普段から本国の文化や思想はなるべくトランスレートして伝えているつもりだけど、やっぱり言葉では伝わりにくい部分もあって。そういうロスト・イン・トランスレーションの部分をうまく調整するには、現地に行ってもらうのが一番なんですよね。

WORK MILL:なるほど。

堀淵:面白いことに、本国から日本に来たアメリカ人のスタッフたちが、すごく日本の店の文化を褒めてくれるんですよ。みんな「It’s great!」って言う。どこがグレイトなのか……ごめんなさいね、実は細かいところまでヒアリングができてないんだけど(笑)、彼らも働きやすさを感じているんじゃないかな。言葉がうまく通じない環境下でも、そう言ってくれるわけだから。

アメリカに行った日本人スタッフたちも、負けず劣らず刺激を受けて帰ってきてくれます。本店の空気に触れることで「こういう文化の発展、未来を目指しているんだ」と、より強く実感できる。だからか、帰国後の仕事に対するモチベーションがとても高くなります。

WORK MILL:帰ってきた人たちが、周りの仲間たちに与える影響も大きそうですね。

堀淵:「違いに触れる」ということに、きっと価値があるんです。違いに触れることで、相手の良さ、そして無自覚だった自分たちの良さに気付くことができる。その良さをすり合わせていくことで、より良い環境をつくっていける。多様性が大事だと言われる由縁は、このあたりにあるのだと思いますね。

もちろん、違う人間が一緒に働くことで起きる摩擦もあります。それを乗り越えていく上でも、「同じ軸を共有している、同じ未来を見ていること」が、やはり大事になってくるのでしょう。言葉がうまく通じなくても、チョコレート好き同士なら、それだけで十分にコミュニケーションが取れたりしますから。

恐れを越えろ、外へ出よう

WORK MILL:日本では、現状の働き方に悩んでいる人も少なくないと感じます。より良い働き方を模索するために、私たちはどんなことに目を向けていくべきだと思われますか。

堀淵:僕は気質的に今でもヒッピーだから、あんまり“働く”って文脈で大仰なことは言えないけど(笑)、そうだな……現状に閉塞感があるなら、まず「外に出ること」じゃないかな。

WORK MILL:外に?

堀淵:どんな機会でもいいから、今いる場所の外側に出てみる。できれば、海外に出てみてほしい。外に出ることで、それまでいた場所の問題を客観的に見直すことができるし、何よりも「良さ」を再発見できるのが大きい。当たり前にあった物事の価値に気付けると、そこから大きく動き出すことがあるかもしれません。僕もアメリカに出ることで、日本のマンガの良さに気付けたしね。

WORK MILL:先ほどの「違いに触れる」というお話とつながってきますね。

堀淵:ここで大事なのは、自分の足を動かして、自分の目で見て、自分の身体で感じるということ。今の世の中はバーチャルに情報があふれていて、そこに触れるだけで世の中のことをすべてわかった気になれてしまう。でも、それは錯覚なんですよね。身体性、実体験を伴わなければ、物事は本質的に身につかないんだと思います。

バーチャルの情報は、誰かのフィルターを通したものです。そこばかり参照していると、自分の主体性というか、感性が育たない。まあ、基本的にみんな、誰かの意見に頼りたいって気持ちはあると思うんだけど(笑)。だからこそ、自分の実体験から得たものを、自分の身体に落としこんでいく練習を、もっと意識的にしていけるといいのかもしれない。

WORK MILL:先ほど国民性の話にも出てきましたが、日本人は集団意識が強いためか、外国に比べると海外に出たがる人は少ないように感じます。

堀淵:「島国だから」「村社会的だから」とか言われますけど、あんまり言い訳にしてほしくないな、とも感じますね。外に出るというのは、最初は誰にだって勇気のいることです。そこを頑張って越えていってほしい。頑張って出ていくだけの価値が、外側には必ずあるのだから。

いきなり海外が無理なら、見知らぬ国内の地でもいいし、なんなら隣町でもいい。外に出て、いつもと違う文化に触れることが、明日の変化につながっていくと思います。

めざす世界が同じだから、競合ではなく協調していける

WORK MILL:最後に、堀淵さんの今後の展望についてお伺いさせてください。ダンデライオン・チョコレートを中心に、これからどのようなことを仕掛けていきたいと考えていますか。

堀淵:ダンデライオン・チョコレートでやることは一貫して、サステナビリティ・クラフト文化の種まきですね。チョコレートを媒介にして、僕らがこの先サステナブルに生きていくための在り方を、一緒につくっていきましょうと呼びかけていきます。

その媒介になり得るものが、世の中にはまだまだたくさん眠っているんです。それらを僕は掘り起こしていきたいし、みんなが自主的にそういうものに目を向けられるように注意喚起していく仕事には、今後とも携わっていたい。ダンデライオン・チョコレートの存在が、チョコレートに限らず、大きな範囲でのクラフトムーブメントを盛り上げていくきっかけになっていけるよう、尽力していきたいなと思っています。

WORK MILL:クラフトをトレンドで消費させず、長く続くムーブメントに、そして文化として根付かせる――そのプロセスを整えていくことが、これからのポイントになっていきそうですね。

堀淵:ダンデライオン・チョコレートの創始者は「チョコレートそのものは一生不滅だから、百年間はやりたい」と言っているから、頼もしいなと思いますよ。クラフトフードの流れは、局所的には世界中で盛り上がっているものの、まだまだマジョリティに対する認知度は低いです。だから、サステナブルな範囲で、店舗は広く展開していきたいですね。

今はアジア展開を視野に入れつつ、韓国や上海、タイなどの現地視察もしています。韓国に行って驚いたんですけど、「ダンデライオン・チョコレートの影響を受けてBeen to Bar の店を始めた」という人が、ちらほらといるんですよ。これからやりたい、と言ってくれる人にも大勢出会いました。

創業者のトッド・マソニス(右)と、キャメロン・リング(左)

WORK MILL:世界に広がっているんだという実感が持てますね。

堀淵:そうそう。Bean to Barの取り組みは2008年頃からアメリカで、本当に小さく始まったものなのだけれども、それが10年ほどで確実に広がりを見せている。クラフトは世界的な動きなんです。

クラフトのメーカーはみんな、大きな企業ではありません。僕らはその中では大きい方だけど、シェアを取りにいきたいとか、そんなことはまったく考えていない。みんな、目指してるところは同じなんです。それは、それぞれの土地で関わる人みんなが幸せになれるような、サステナブルな市場を生み出していくこと。だからこそ、競合するのではなく、協調していけるんです。

こういうクラフト文化、それに根ざした市場が広がっていくと、ちょっと理想論的にはなるけど、争う必要のない世の中になっていくんじゃないかなと思う。平和につながる仕事なんです、これは。そこで役に立てることがある限り、僕は死ぬ寸前まで仕事をしていたいなと……働くのは本質的に好きじゃないはずなんだけど(笑)。今やっているのは仕事というより、生きがい、生きることそのものなのかな。うん、そう思いますね。

 2019年11月19更新
取材月:2019年9月

 

テキスト:西山武志
写真  :マスモトサヤカ
画像提供:(c)Dandelion Chocolate Japan
イラスト:野中 聡紀