「面白そう」からはじまる「ゆるいつながり」― 働く人をつなぐ100人カイギ
「100人カイギ」という名前を聞いたことはありますか。2016年1月に「港区100人カイギ」としてはじまったイベントは、渋谷区、相模原と少しずつ他地域に広がり、2019年には通算20の地域での開催となります。その内容は、「毎回5人が登壇して、自分の仕事や活動について語る」というもの。著名人もいなければ、テーマも特に決まっていません。そんな「ゆるいイベント」がなぜ今、多くの地域に広がっているのでしょうか。
前編では、「100人カイギ」の発起人で一般社団法人INTO THE FABRIC代表理事の高嶋大介さんに、100人カイギをはじめたきっかけやその運営術をうかがいます。
テーマも目的意識もなくていいから、いろんな人が集まる
WORK MILL:「100人カイギ」とはどういった活動なのですか?
高嶋:コンセプトは、「会社、組織、地域に“身近な人”同士のゆるいつながりをつくるコミュニティ活動」としています。普段働いていると、自分の会社以外との接点ってほとんどないじゃないですか。意外とみんな自分の働いている会社の人も知らないし、ましてや働いている地域、暮らしている地域のことを知らないのではないかと感じたのです。
僕はもともと富士通でHAB-YUという共創の場を運営していて、仕事がら人の話を聞く機会や、ワークショップやイベントの開催をする中で多様な人との接点が多く、どの方も話がとても面白かったんです。僕が人の話を聞くのが好きっていうのもありますけど、「あれ、この話をもっと他の人にも聞いてもらえたら面白いんじゃないかな」と思うこともあって。それで、もっと純粋に「人の話を聞ける場」を作ろうと思い、2016年の1月に「港区100人カイギ」としてスタートしたんです。
―高嶋大介(たかしま・だいすけ)一般社団法人INTO THE FABRIC 代表理事 100人カイギfounder / 見届人
富士通株式会社 ブランド・デザイン戦略統括部 デザインシンカー
大学卒業後、大手ゼネコンにて現場管理や設計に従事。2005年富士通入社。ワークプレイスやショールームデザインを経て、現在では企業のワークスタイル変革や自治体の将来ビジョン、地方創生のデザインコンサルティング、デザイン思考をベースとした人材育成などに従事。「社会課題をデザインとビジネスの力で解決する」をモットーに活動中。共創の場であるHAB-YUを軸に人と地域とビジネスをつなげる活動を実践する。
WORK MILL:「100人カイギ」の意義って、何なのでしょう。
高嶋:一応、「地域で働く100人の話を起点にクロスジャンルで人のつながりを生むプロジェクト」とは掲げています。どういうことかというと、どうしてもこういう活動を始めるときって、目的意識が明確にあることが多いじゃないですか。でも別に、そういうのがないところからはじめてもいいんじゃないか、と思ったんです。「面白そうだから来てみる」みたいな。
職業柄、僕は結構いろんなコミュニティイベントに顔出すんですけど、目的意識持って人が集まっている場って、なんとなく居心地が悪くて。たとえば、イベント後に名刺交換にズラッと並んでいるのとか苦手で、1枚も交換しないで帰ることもよくあります。だから、コミュニケーションが苦手な人でもイベントに来てもらえるようにハードルを下げたら、もっと楽しくなるんじゃないかと思ったんです。
WORK MILL:何かトークイベントがあるときには、普通はテーマが設定されていますよね。
高嶋:そうですよね。でも、100人カイギで決まっていることは「毎回5人を呼んで話を聞くこと」と「登壇者が100人になったら終わること」だけです。これは結果論なのですが、毎回5人を呼ぼうと思ったら、テーマなんて決められないんです。開催日程を決めて、そこに来られる登壇者を5人探すだけで手一杯で。それに、テーマを決めてしまうとそのテーマに興味のある人しか集まらないし、それが面白くなかったら途中で帰ってしまうこともあるじゃないですか。
意外と偶発性が面白くて、まったく関係なかったはずの5人なのに、話しているうちに筋が通っていくこともある。それに、参加者も登壇者のうち1、2人を目当てに話を聞きに来てみたら、意外と他の人も面白かった、みたいなことも起こりうるのです。結果的に多様性が生まれて、さまざまな領域やジャンルが混じり合う場になりました。NPO、企業やベンチャーに勤める人、大学生も学生団体運営している人もいるし、地元の商店街のお店さんも議員さんもいる。本当にジャンルはバラバラです。
WORK MILL:登壇者はどうやって決めているのですか?
高嶋:過去の100人カイギに参加されていて話をしてみたら面白かった人にお願いしたり、人に紹介してもらうことが多いです。何回か自薦を受けたこともあったのですが…「自分で話したい」という人の話は、正直あまり面白くなくて。
WORK MILL:なるほど…わかる気もします。
高嶋:そういう人は、「自分がこれを話したい」というところで終わってしまって、他人に与えられるものが少なくて、共感されにくいものになってしまうんです。やっぱり誰かが話を聞いて、「あ、面白い」と共感した人であれば、他の人にとっても面白い確率は上がります。今は情報が溢れていて、SNSでは誰かと誰かが繋がっていたりするけど、100人カイギは対面のコミュニティを大切にしています。純粋に「この人がいいよね」という気持ちで紹介してもらった人にお願いしています。
どうしてもこういうイベントって、有名な人に登壇をお願いしたりするじゃないですか。でもそうじゃなくて、そこらへんにいる人、同じ会社であまり話をしたことのない人でも、話を聞いてみると面白いのではないか、というところからはじまっていて。あ、でもPepperくんは有名人かな。ソフトバンクに知人がいて、「Pepperくんが出たら面白いのでは」なんて話していたら、本当に実現しました。しかも登壇用にプログラムも組んで、めちゃくちゃ真剣に取り組んでもらいましたからね。でも、一銭も払っていません(笑)。
WORK MILL:100人カイギは今、他の地域にも広がっていますよね。
高嶋:「面白そうだな」という気持ちで100人カイギをはじめてみたけど、やっていると、場が勝手に盛り上がるようになってきたんです。参加者が集まったらアイスブレイクして、登壇者の5人に話してもらって、一通り終わったらなんだかみんな良い気分になっている。終わった後もなかなか解散しないくらい、みんな盛り上がるんです。これは僕がやっているから盛り上がるのか、それともフレームワーク化すれば他でも再現可能なのか試してみたくなって、渋谷区をターゲットに絞って、運営してくれそうな方に声をかけていきました。
渋谷区ではじめてみると、僕が介在しなくても本当に盛り上がったんです。しかも、すごく「渋谷っぽい」人が集まるようになった。じゃあ、「23区全部制覇だ」なんて考えていたところ、相模原の方が「うちの地域でもやりたいです」と声をかけてくれました。それがかえって良かったんですよね。相模原はすごく暖かいんです。登壇者の高校時代の同級生が来たり、息子のFacebookの投稿を見てお父さんが来てくれたり…。はじめは都市から、と思ってはじめたけど、そこでローカルの可能性も大いに感じたんです。そこから「うちでもやりたい」ってどんどん連絡をもらうようになって、横浜、千代田区、つくば……今年は原宿、高知市、埼玉県寄居町、静岡県三島市、島根県雲南市、神奈川県川崎市、目黒区など、今後次々と各地ではじまる予定になっています。
主催者・登壇者・参加者のハードルはなるべく低く
WORK MILL:「自然と場が盛り上がる」って、イベントとしていちばん求められていますが、なかなか難しいような気がします。なぜそれが可能なのでしょうか。
高嶋:もちろん、はじめからフレームワーク化しようと思っていたわけではないですし、形になってきたのは本当に少しずつです。はじめは参加者もだいたい25人前後でした。当時、僕のFacebookでの友達は200人くらいしかいなかったし、発信力も全然ないから、参加者は20人切ることもありました。でもそれだと登壇者にも申し訳ないし、会場の雰囲気も寂しい。「これはヤバいぞ」と思ったのは、イベントの途中で帰ってしまった人がいたときですね。
参加者を増やすために人の力も借りられないかと思い、会社の同僚にデザイン系の雑誌の編集さんを紹介してもらい「コラボレーション」の回もありました。この時は60名以上の方が参加してくれました。 地元の美容師さんが登壇した回があるのですが、その場で髪を切るパフォーマンスをしてくれたんです。そこで、「あ、働き方をプレゼンするのにそういう方法もあるんだ」って、登壇者からも表現が1つではないと教えてもらいました。本当に、周りに助けてもらうことばかりです。
明確にやり方を変えたのは、1年経ってからです。最初は友人と2人と運営していたのですが、実は友人が地元に帰ることになってしまい、スタッフから外れることになりました。それまではかなり友人に頼っていた部分が大きかったのですが、僕が一人で運営しなければならない状況になったんです。 そして、「1人で運営するにはどうしたらいいか?」「もっとこうしたほうが盛り上がるのでは」「ボランティアスタッフを募ってみよう」と、思ったことをどんどんやってみることにしました。
それまではFacebookのイベントページのみで公開していたのを、イベント情報を発信する媒体を増やしたり、進行に使用するスライド見直したり。参加者同士をつなげるために、冒頭にアイスブレイクの時間も取ることにしました。そうすると、休憩時間中にも自然と会話が生まれるようになった。それからはイベントページをFacebookとイベントサイトにアップするだけで、だいたい50名前後は参加者に来てもらえるようになりました。そして、最後の20回目の100人カイギは、それまで登壇した95名を招待して、残りを一般開放して、全部で100名集まる会にしたんです。
WORK MILL:すごい。大団円ですね。
高嶋:そう。この時の最後に「COMING SOON」と、渋谷っぽい写真を貼って、次の街をほのめかすスライドも用意して、運営者を募る動きをしてみました。そこに集まっている人はみんな既に100人カイギの楽しさを共有できているから、「あ、次もどこかでやるんだ!」と盛り上がって。その期待感を引き継いで渋谷がスタートしました。
WORK MILL:他にも場が盛り上がる秘訣はありますか?
高嶋:僕自身、1人だけでやったときに痛感したのは、やっぱり仲間がいたほうがいいな、ということ。ですから、基本的にはじめるときには必ず協力者を見つけて3名とかでスタートしてもらうようにお願いしています。そうすると、登壇者を探すのも3分割すればいいわけです。「自分の担当月以外は他の人に丸投げ」じゃなくて、担当者が3人、残りの2人が1人ずつ連れてくるという形にすると、常に何かしら運営にコミットするようになりますよね。
あとは、イベントの最初にアイスブレイクの時間を取って、参加者同士で話せる環境を作っておくこと。場が温まっていると、同じ登壇者の話を聞いても盛り上がり方が違ってくる。また、ファシリテーションに不慣れな人が司会しても大丈夫なように、質疑応答の時間は作らないこと。でも、やっぱり参加者からも質問したいことはあると思うので、最後の30分で登壇者を交えたコミュニケーションの時間を取ること。このとき、名刺交換の列にズラッと並ぶ、みたいなことはしないで、必ず小さな円がいくつもできるような形でコミュニケーションしてもらうようにしています。
WORK MILL:確かに、名刺交換で並んでいるときに手持ち無沙汰になってしまうのは、無駄な時間かもしれませんね…。
高嶋:そうなんです。一人ずつ並んで、1分間たいして記憶に残らない話をしても、もったいないじゃないですか。それと、コミュニケーションの時間は最大でも30分でスパッと終わること。それ以上時間を取っても、結局惰性で話すだけになってしまうんです。話が盛り上がって終わらないようであれば、場所を変えて近くで飲みに行ってもらったほうが、もっと熱い話ができるだろうし、地域の飲食店の売上にも貢献できる。 こうして、最低限のフレームワークを作っておけば、主催者も登壇者もそこまで準備しなくてもいいし、自然と人も集まってくる。どうしてもイベントって、意識高い人ばかりになってしまう傾向があるけど、はじめる人も登壇する人も参加する人もなるべくハードルを下げて、普通に誰もが人とつながることができる世界を作りたいのです。
「100人で終わる」から次のアクションにつながる
WORK MILL:イベントとして盛り上がってくると、「100人以降も続けて」という意見が出てくるのではないですか?
高嶋:よく言われますよ。「またやってくれませんか」って。でも、ずっとやり続けていると、たぶん自分が飽きるだろうな、と思ったんです。終わりを決めないと、「イベントをやること」が目的化してしまって、純粋に「人を呼んで面白がる」ということを忘れていってしまう気がして。主催者が楽しめなくなると、絶対その気持ちは参加者にも伝播してしまうと思うんです。
それに、100人に会った段階で何も生まれなければ、おそらく200人に会っても何もはじまりません。100人という区切りを設けて、2年弱続けた中で生まれた関係性から、また何か次のことをはじめればいい。一旦終わらせないと、いつまで経ってもそのリソースが空きませんから。 実際、港区が終わってから、参加者同士で会うようになったり、登壇者同士でプロジェクトがスタートしたりしているんです。そういうきっかけの場が作れたのがすごく嬉しくて。だから、「惜しまれて終わる」くらいがちょうどいいのだと思います。
WORK MILL:でも、なんだか一般的なトークイベントに慣れてしまっているからか、どうしても「本当にそれだけで面白いイベントになるの?」と思ってしまいます…。人の前で話す経験があまりなかった人も登壇するんですよね?
高嶋:たくさんいますよ(笑)。でも、少なくとも皆さん、何らかの形で働いているじゃないですか。登壇者にお願いしているのは、「自分がどんな仕事をしているか、どんなところにこだわっているかを話してください」ということだけなんです。すると、自分にとっては当たり前のことでも、周りからすると「へー、そんなことあるんだ!」と、新鮮な驚きがある。普段働いているなかでは、失敗やミスを怒られたりするけど、「ここが良かった」なんてフィードバックはそうそうないじゃないですか。登壇することで自分がどんな仕事をしているのか、どんなことにプライドを持っているのか、客観的に考える機会になるわけです。
WORK MILL:確かに、仕事の中でそうやって内省する機会はあまりないかもしれません。
高嶋:それに、僕自身もそうだったんですけど、ある程度大きな企業になると、会社の中だけで仕事が完結するじゃないですか。ある部署が企画して、それを専門部署が設計して、開発部署が開発して…。そうやって、20年30年、外の人と接点を持たないまま、定年を迎えてしまう。でもこれからは、「この企業にいるこの人と一緒に仕事をしたい」というところからビジネスが生まれる時代だと思うんです。そうすれば、社内の指示系統とはまた違うルートで物事が進んで、スピードも少し早まるかもしれない。
今、多くの企業でオープンイノベーションの取り組みが始まっているけれど、企業対企業だと、どうしてもどこか「発注先対受注先」という関係性になってしまいがちです。でも、100人カイギでは、どんな肩書きの人もあくまで一個人としていられて、「なんか面白そう」でつながることができる。そういう関係性からはじまるビジネスは、全く別物になると思うんです。
WORK MILL:これから100人カイギはどうなっていくのでしょうか。
高嶋:本当に、僕も想像していなかったくらいどんどん「新しくはじめたい」という地域が出てきているんです。100人カイギ自体、100人カイギのおかげで広がってきたんですよ。渋谷区の登壇者だった人からクラウドファンディングを勧めてもらって、その資金で公式サイトを制作することができて、2018年11月には各地の登壇者が集まる「100人カイギsummit」を開催することになった。全部で200人近くの方も集まりました。今年は今の時点で通算20の地域ではじまることがわかっていて…、今年のsummitの頃には何地域になっているのか。それだけの地域から「それぞれの地域自慢の登壇者が集まる」と考えるだけで、ワクワクしますよね。
だから僕らは、100人カイギというプラットフォームをもっと使いやすいものにしていって、「100人カイギって面白そうだな」と思ってもらえるブランディングをしていくつもりです。そうすれば、いろんな地域でこれから100人カイギをはじめるときに、集客に貢献できることもあるだろうから。ただ、僕らは僕らでその仕組みを維持する方法を考えていかなくてはならないだろうけど。
WORK MILL:でも、不思議ですね。「100人で終わる」仕組みをはじめた高嶋さん自身は、プラットフォームを維持することを考えなければならない立場になった、という。
高嶋:そうですよね(笑)。でも、今でも単純に「5人の面白い話を聞くだけ」という目的は変わらないんですよ。だから、「社会課題解決をしよう」なんて一切構えていない。別に、そういうビジョンがなくたっていいじゃないですか。「面白い」からはじめて、結果として人との関係性が変わったり、地域が活性化することにつながったりするのなら。
前編はここまで。後編では、実際に各地域で100人カイギを運営するメンバーに、その魅力を語ってもらいます。
2019年3月5日更新
取材月:2018年12月
撮影協力:Nagatacho GRiD
テキスト: 大矢 幸世
写真:大坪 侑史
イラスト:野中 聡紀