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クリエイティブワークに必要な「居心地のよさ」とは?

企業に新しい価値創出が求められる現代のオフィスには仕事を効率的に行うだけではなく、クリエイティブなパフォーマンスを高める場としての役割が期待されています。従業員に気づきを与え、さらに思考を深めること。社内外でのコミュニケーションやコラボレーションを通じて組織全体で創造的なアイデアを生み出し、共有できることなどが挙げられます。そのためには、従業員がオフィスに集い、クリエイティブワークを行いやすくするために「居心地のよさ」も必要とされます。
最近では「リビングオフィス」という言葉も出てきており、居心地のよさに注目した空間がオフィスにも数多くみられようになりました。例えば、自宅のようにゆったりとリラックスできるリビングや仲間と楽しく飲食できるダイニングのような空間、そよ風が気持ちよさそうなテラスなど、働く場に住まいのような居心地や機能的な工夫がされたものがあります。

「bp vol.17」より

リビングやテラスのような場はなぜ居心地よく感じるのか。また、居心地のよい場を利用することで従業員や組織にはどのような効果があるのか。そして、ひとりで考え事をする時とまわりの人と会話をする時など、人の行為によって居心地のよい場の条件は異なるのか。これらのポイントを働く場における「居心地」をテーマに考えてみます。
居心地のよい場を「気持ちがいいと感じ、長居でき、また行きたくなる場」と仮説を立て、【集中】と【交流】における居心地のよい場に求められる要素とその効果についてオフィスワーカーを対象に検証した調査データを中心にご紹介します。
 

居心地のよい場を構成する要素とは

居心地のよい場の必要条件はどんな条件なのでしょうか?それらを明らかにするために場の構成要素の優先度を、オフィスにおける代表的な行為である、ひとりで考え事をする【集中】とまわりの人(知り合い)と会話をする【交流】について検証しました。
【集中】と【交流】に共通して必要性が高く評価された要素は、「快適な温度・湿度」、「適度な明るさ」、「人との適度な距離感」、「座り心地のいいイス」でした。
快適な空気環境や光環境は、居心地のよさを左右する基本的な要素であり、加えて共存する他者との適度な距離感や主要な家具であるイスの座り心地も、居心地のよさに与える影響が大きいことがわかります。
一方、これらの共通要素に加えて、【集中】と【交流】で異なる必要条件があることもわかりました。
【集中】では、「人の目が気にならない」ことに加え、「静か」な音環境で「楽な姿勢がとれる」 ことが求められます。また、「自然光が入る」、「緑や自然が見える」といった自然のゆらぎを感じられる視覚的な要素も居心地のよさに影響しています。その次に「適度な囲われ感」、「緊張しない安心感」と続くことから、リラックスして適度にひとりになれる環境が求められるようです。
【交流】では、「適度なにぎわい」の優先度が高く、まわりの人と会話をする際に求められる音環境は静かすぎない方がいいことがわかります。また、「気の合う人がいる」が高ポイントとなっており、まわりの環境だけではなく、その空間に誰といるかによって、居心地のよさが左右されるようです。

居心地のよい場がもたらす効果とは

次に、居心地のよい場を利用することによって、オフィスワーカーが実感する効果について、【集中】と【交流】の行為別にご紹介します。
【集中】における居心地のよい場の効果として、「心が落ち着く・リラックスできる」が最も多くなりました。集中作業に必要とされる「じっくり考えることができる」も上位であることから、居心地のよさは集中環境の効果を高める上で必要不可欠だといえます。さらに「長居できる」、「また行きたくなる」と続き、集中を持続させたり、集中作業をするきっかけになる場として居心地のよい場が機能することが期待できます。「気持ちが開放的になる」、「警戒心がゆるむ」といった効果もポイントが高く、ストレスなく安心して過ごせるようです。
【交流】は、「話題が広がる」、「会話が弾む」が上位であり、会話量や会話の質が向上する効果があるといえます。 次いで、「まわりの人に話しかけやすい」、「出会いが増える」、「人が集まってくる」となっています。居心地のよい場を利用することで、知り合いとの会話がしやすいだけではなく、そこに様々な人が集まることで新たな人間関係が形成でき、より幅広い会話が生まれることが期待できます。

効果と構成要素の関係性を探る

居心地のよい場を利用することによって実感される各効果は、場の構成要素のどれによるものなのか、相関関係をみていきます。
【集中】において、「じっくり考えることができる」には、「座り心地のいいイス」が強く関係しています。「自然光が入る」環境は「気持ちが開放的になる」ことに寄与します。「警戒心がゆるむ」ことも居心地のよさに関係し、「緊張しない安心感」が得られる環境設定が必要となります。
【交流】は、「気の合う人がいる」ことは「話題が広がる」、「まわりの人に話しかけやすい」、「人が集まってくる」ことに相関がみられます。マスターとの会話目当てに通うバーのように自然と人が集まってくるキーパーソンがいたり、同じ興味を持った仲間が集まる場などが実例として挙げられます。
また、「座り心地のいいイス」があることで「気持ちが開放的になる」、 「また行きたくなる」 といった効果が期待できます。

効果と構成要素の相関図

個人が居心地よく、いきいきと働くために

居心地のよい場について、【集中】【交流】と行為別の調査結果をご紹介しましたが、共通して実感される効果は、「心が落ち着く・リラックスできる」、「長居できる」、「また行きたくなる」が上位となっており、これらが必要条件であるといえます。しかし、それぞれの効果を得るための要素は、【集中】【交流】の行為によって異なります。

■「心が落ち着く・リラックスできる」
【集中】自然光が入る環境 
【交流】快適な空気環境

■「長居できる」
【集中】座り心地のいいイスがあり、人の目が気にならない環境
【交流】快適な空気環境

■「また行きたくなる」
【集中】座り心地のいいイスがあること、人の目が気にならず、緑や自然が見える環境

オフィスの中に居心地のよい場をつくる際には、それぞれの行為に適した要素を正しく設定することが大切です。従業員が居心地のよさを感じながら働くことで個々の創造性が最大限に発揮され、クリエイティブワークを促進する場が生まれるのではないでしょうか。

テキスト:山田 雄介
写真:岡村製作所
イラスト:野中 聡紀