アイデアを考えるなら、インプットよりまず発信。発明家・出村光世さんに聞く発想の習慣と鍛え方
新規事業や企画会議で「新しいアイデアを出さなければ」と悩んでいる人はいませんか? アイデアを考えようとすればするほど、その答えからは遠のいていくような気が……。
自らを発明家と名乗る、株式会社コネル(konel)の代表・出村光世さんは、「アイデアがとにかく思いつきすぎる体質なんですよね」と話します。
今回は、出村さんがこれまで関わってきたプロジェクトのお話を伺いながら、どうしたら「やりたい」を形にできるのか? 出村さんの発想力を支える日々の習慣についても教えてもらいました。

出村光世(でむら・みつよ)
発明家 / Konel 代表。2011年アクセンチュアに所属時にクリエイティブ集団Konelを創業。東京、金沢、京都、ベトナムを拠点とし、30職種を超える異能のクリエイターと、デザイン・研究開発・アートの領域を横断するプロジェクトを推進。2020年、イノベーションメディア「知財図鑑」を立ち上げ、新規事業とテクノロジーのマッチングを開始。クリエイティブディレクター/プロジェクトデザイナー/知財ハンターとして分野を超えた未来実装を続けている。
「発明家」の原点は、小学校の発明クラブ
出村さんの名刺には、「発明家」という肩書きが書かれていますよね。
なかなか出会うことのない職業です。


出村
私は「肩書き」には、職業と生き方の2種類があると思っています。私にとって、発明家というのは「生き方」に近いかもしれませんね。
ちょっと勇気がいる肩書きでしたが、人生最期のときに「むちゃくちゃ発明した人生だったな」と思いたくて。発明家の敷居を下げることも願って付けてみました。
かっこいいですね……!
ちなみに、「発明家」と名乗り始めたのはいつ頃からですか?


出村
この1年くらいでしょうか。ただ、発明家としての原点は小学4年生の頃に通っていた「発明クラブ」にあります。
我が家はクリスチャン家系だったこともあり、幼少期はバイオリンを習ったり、教会に通ったり、わりと規律の中で過ごしていたのですが、そこに窮屈さを感じていたんです。
そんな折、母親が隣の隣の小学校にある発明クラブを見つけてくれて。それで、「行ってみる?」と誘ってくれたのがきっかけです。
クラブではどんな発明をしたんですか?


出村
最初に発明したのは「カサメット」でした。
これは学校の先生に「雨の日に傘をさして、片手運転をしてはダメだ!」と怒られた経験から生まれたものなのですが、雨の日でも両手運転できるように、ヘルメットの上に傘を差した発明品です。
母親と一緒に作っていくのですが「できた!」と思った最初の「カサメット」は、風力に負けてすぐ折れてしまいました。


出村
でも、この失敗に私はすごくワクワクしてしまったんです。
どう改良すれば、折れない「カサメット」になるのか? この時に感じたワクワクは変わっていないですし、考えぬいた体験は今の仕事にも生きている部分だと思います。
小学生で、すでに失敗の楽しさを見つけていたんですね!


出村
アイデアを思いついて、他人を巻き込んで、うまくいかないけど、どうしたら一番いいものにできるか……?
カサメットは、その楽しさを教えてくれた「原点」みたいな出来事かもしれませんね。
知財辞典しかないこの国に、知財図鑑をつくろう
ここからは、お仕事の方の肩書きについても少し伺わせてください。


出村
僕自身、仕事が大好きな人間なので、生き方そのものが職業とも大きくリンクしている部分もあるんです。
生き方の肩書きは「発明家」ですが、職業の肩書きは、株式会社コネル(konel)の代表というのがわかりやすいでしょう。


出村
konelでは、30名ほどのメンバーと大きくわけて3つの事業を展開しています。
1つはブランドデザイン。2つ目が他の企業さんと一緒に新規事業や研究開発を行う事業です。「新しく何を作るか?」を一緒に考えたり、企画したりしています。
そして、最後がアート制作です。これは、誰かに頼まれるではなくて、「自分たちが作りたいもの」を新しい技術を活用して制作しているんです。

出村さんは『知財図鑑』の運営も行われていますよね?
こちらについても教えてください。


出村
僕はアイデアがとにかく思いつきすぎてしまう体質で。しかも、すべて実現してみたいアイデアなんですよ。
さらに僕の場合は、そのアイデアを作って試さないとなんか罪悪感を感じてしまう変な正義感がありまして……。ただ、不器用だから自分だけでは形にできないんです。
いいアイデアが尽きないのは羨ましいですが、そう聞くと悩ましいですね……。


出村
とはいえ、いきなり誰かに「このアイデアを一緒にやりませんか?」って電話しても、なかなか受け入れてもらいにくい。それで2019年頃から、まずは会社の仲間とアイデアを作って、試して、発表していくことにしたんです。
僕たちが「こんなことができる」「こんなアイデアはどうだろう」と世の中に発信していくと、なぜか「〇〇もあるよ」「△△って知ってる?」などの情報や新しい技術がどんどん集まるようになりました。


出村
集まってきた情報がどれも本当に面白いので、「もっとこうしよう、ああしたらできるかもしれない!」って盛り上がるんです。
ところが「詳細な資料をください」とご連絡しても、「特許の資料を送ります」とか「論文しかありません」って言われちゃうんです。それで、なかなか実現には至らない。
技術とアイデアがあってもマッチングに至らないこの状況は良くないな、と生まれたのが「知財図鑑」です。


出村
すでに特許公報を検索できる「J-PlatPat」というプラットフォームがありますが、こちらはテキスト中心の「知財辞典」と言えるようなものです。
私たちの「知財図鑑」は、図鑑のように眺めていてワクワクできるプラットフォームにしようと考えました。
確かに図鑑って見ているだけで、ワクワクしますよね……!


出村
特許分野でこういうデザインがされた発信をするメディアはこれまでなかったので、多くの人の関心を寄せていただけたのでしょう。
おかげさまで、「知財」とつくメディアの中では一番見てもらえるくらいには成長したのかな、と思っています。
素晴らしい技術や特許も「探せない」「読めない」「思いつかない」
ちなみに、私たちの日常生活の中にもさまざまな特許が活かされているはずなのに、なぜ気づけないのでしょうか?


出村
僕たちは“三重苦”という言葉で説明することが多いのですが、特許を「探せない」「読めない」「思いつかない」という三段階があるからなんです。
「探せない」については、特許についてSEO対策など検索しやすくされている知財ってまずありません。何かビジネスに活かしたいと思っても、特許が見つからない。そんな状況がひとつあります。
確かに、ちょっとハードルが高いですよね。


出村
次に、ビジネスに活かせそうな特許を発見したとしても論文しかないから「読めない」。論文から事業計画に落とし込める人の方が稀ですよね。
最後は、目の前にある特許をどう活用すればいいか「思いつかない」。
確かに、アイデアがある人ばかりじゃないですよね。
でも、知財図鑑を眺めていると「相性のいい産業分野」で活用方法を提案してくれるので、妄想が広がりますね!


出村
実は知財図鑑に辿り着く人たちは、特許技術の情報よりも妄想からくることが多いんですよ。
たとえば、「さわれる動物園」は、感性素材αGELから生まれた妄想プロジェクトのひとつです。

確かに動物園で遠くから動物を見るだけではなくて、何かさわって楽しめたら新鮮です。


出村
この「さわれる動物園」アイデアは、実際に『さわれるオガサワラ』という商品化にもつながっています。
とっても野暮な質問なのですが、どうしたら妄想のアイデアは湧いてくるのでしょうか?
特別な人だからできるのでは……なんて思ってしまって……。



出村
妄想は、誰にでもできると思いますよ!
妄想する時間を作ればいいだけですから。うちの会社では、金曜日の朝に15分の「妄想大喜利」をやっています。ひとつの知財をピックアップして5分くらい説明をした後に、10分くらいひたすらアイデアを出す。
アイデアって組み合わせることで面白くなるケースもあるので、とにかく数を出すことをポリシーにやっています。
それは楽しそう!


出村
とはいえ、生成AIが登場した今、発想するスキルの高い・低いは結構陳腐化しているかもしれません。僕がひねりにひねって1日に100個のアイデアを出せたとしても、AIは数万単位で出せますから……。
これからは、たくさんの中から現代に合うタネを見つけたり、組み合わせたり、編集したりするスキルが求められるようになると思いますよ。
なるほど。


出村
どれだけ便利な時代になったとしても、自分の中に「やりたい」が増えないと何も始まらないんです。AIを使うにしても、何かを「やりたい」が起点にないと得られる効果は薄くなってしまう。
でも、技術によって人が進化することは昔からあることなので、AIによって「やりたい」が増える世界になるといいですよね。

「発信する」と決めてやる
また、野暮な質問になってしまいますが……。出村さんのように考えを広げていくために、まず私たちは何をしたらいいのでしょうか?


出村
これは、やることが決まっています。「発信する」と決めてやるのが一番ですよ。
「何か新しいアイデアを出そう、スキルアップしよう」という時に多くの人はインプットから始めてしまいます。本を読んだり、講座に通ったりするじゃないですか? それよりも、発信専用のSNSのアカウントをひとつ作って、発信する側になるんです。
なんでもいいので、とにかく発信する側になることが大切です。
例)
・毎月全社会で1分だけ時間をもらって発表してみる
・会社のトイレに毎日1個アイデアふせんを貼り付ける
発信することで情報が集まってくるというのは知財図鑑でも起こっていたことですもんね!


出村
そうです。
あとは「つっこまれビリティ」を意識することかな。
つっこまれビリティ?


出村
自分が面白いことを思いついたら、それに対して反応してくれる人つまりツッコミをされる能力をさす造語です(笑)。
多くの人はアイデアを温めて、温めて渾身の作品に仕上げた状態じゃないと世の中に出せない。それは、大事に育ててきたアイデアが否定されるのが怖いからです。
でも、もう半分滑る覚悟でいいので、10も20もアイデアの弾を心に詰め込んでおけば、つっこまれ待ちも楽しくなりますよ。たとえば、名刺の裏に新たな肩書きを入れてみる、Zoomの背景にアイデアを入れておくだけでもいいですよ。
なるほど!
ちなみに、出村さんは今、どんなアイデアをつっこまれ待ちしているのでしょうか?


出村
これですね。

え、スマホのライト?


出村
そうです。スマホのライトに指を当てると赤くなる……。この色めっちゃよくないですか?
なんかサイバー感があってかっこいい。これを使った何かを作りたいな、と思っています。

な、なるほど……。
つっこみたいけれど、思いつかなくて悔しい!


出村
そこは無理に同調したり、乗っかったりしなくていいですよ(笑)。
誰にどのアイデアが刺さるかは出してみないとわからないので、共感した時だけ「いいね!」と言って、アイデアを広げていければいいと思います。
自分のアイデアが出せるようになってくると、相乗効果でつっこまれビリティも高まっていくのかもしれませんね。
出村さんは、妄想を具現化していくために日頃から取り組んでいることはありますか?


出村
僕は自分のことを「クリエイティブアスリート」だと思っているんです。
アイデアって何もしなくて湧いて出てくるものではない。だからアスリートと一緒で、大会に向けてどう備えていくか? が大切です。
それこそちゃんと眠るとか食べるとか、企画のために必要な資料を読み込むとか……。アイデアが出せる状態に自分を持っていくことは大切にしていますね。


出村
最近のおすすめだと、裸足で山の中を歩くのは良かったですね。これは、ものすごいアイデアが出てきました(笑)。
今度は、お散歩取材なんかもいいかもしれませんね。
面白そう!


最後になりますが、出村さんがこれからやっていきたいことを教えてください。


出村
新しく出てくるアイデアや妄想を可能な限り具現化していきたいので、どんどん自分のもとに新しい技術が集まるようにしていきたいですね。
いっぱい試したいし、いいものをどんどん世の中に届けていくことは、これからも変わらずに続けていくと思います。

2026年7月取材
取材・執筆=つるたちかこ
写真=森カズシゲ
編集=鬼頭佳代/ノオト


