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すごい地域なのに伝わらない。燕三条のものづくりを「伝わる」形に変えるMGNET・武田修美さんの仕事

いいものなのに、その本当の価値が世にうまく伝わらない。そんなもどかしさは、どんな地域にもあるのではないでしょうか。

新潟県の燕三条エリアは、金属加工製品の多くを生み出す、ものづくりの一大産地。しかし、この地に根ざして活動する株式会社MGNET(マグネット)代表の武田修美さんは、「地域のすごさが全然伝わっていない」と長年感じていたそう。

そんな武田さんは現在、燕三条の価値あるものを「伝わる」形に変え、企業や自治体、学校と手を組み、地域を巻き込みながら、その「すごさ」を届け続けています。これまでに手がけてきた仕事と、原動力になっている想いを伺いました。

武田修美(たけだ・おさみ)
株式会社MGNET代表取締役社長。新潟県・燕三条を拠点に活動。父親が営む武田金型製作所の一部門として、金型加工技術を生かした名刺入れのEC事業を立ち上げ、2011年にMGNETとして分社化。「モノにエンターテインメントを」を掲げ、ものづくり・ことづくり・まちづくりの領域を横断しながら、企業ブランディングや地域プロジェクトのディレクションを手がける。大学講師や写真家としても活動する。

「もの・こと・まち」を横断する、ソーシャルデザインの会社

まずMGNETがどんな会社なのか、教えてください。

Evoto

武田

一言で表現するなら、燕三条を拠点にしたソーシャルデザインの会社で、大きく3つの仕事をしています。

まず、製品を作る「ものづくり」。次に、それを届けて売る「ことづくり」。そして、それを見た人が影響を受けて、この地域に入ってきたり、地元の人たちが自分のまちのおもしろさに気づいたりする「まちづくり」です。

「ものづくり」では寝台列車の部品やラーメン店の看板、食器、アクセサリー、「ことづくり」では商品ブランディングや漫画の地域監修、「まちづくり」では、自治体や学校などと地域プロジェクトを動かすことも。(提供画像)

Evoto

武田

地域でものを作って、外に届けて、それを見た新しい人が地域に入ってくる……という循環を作っています。

一見バラバラですが、実は全てつながっているんです。

武田さんが手がけるショップ「FACTORY FRONT」。MGNETと同敷地内にあった廃工場を改築した。

「FACTORY FRONT」には、燕三条にゆかりのある製品(カトラリー・キッチン用品・金属製タンブラーなど)を中心に、全国の作り手による暮らしに寄り添ういいものが並ぶ。

ネットショップから始まった挑戦。MGNET誕生の経緯

武田さんは、この仕事をする前はどんな仕事をしていたんですか?

Evoto

武田

トヨタの営業マンとして、当時から地元で働いていました。2000年の入社から、ひたすら新車を売っていましたね。

ただ、入社5年目に大病を患って……。通勤すら難しくなって、会社を辞めて、リハビリしながら在宅で父の会社・武田金型製作所を手伝い始めました。

その頃、父が金属製の名刺入れを自社製品として作っていたので、まずはそれを売るのが僕の仕事でした。

武田金型製作所時代に考案した金属製名刺入れ(左)。2018年にMGNETのブランドとして再開発した名刺入れ(右)。

Evoto

武田

当時はろくに動けなかったので、寝ながらでも作業できるネットショップやホームページ制作を独学で覚えて、ひたすら作っていました。

その後、体調が良くなってからはいろいろなところへ名刺入れを持って売りに行きました。それこそ、営業は長くやっていて、得意だったんです。

ミクロンレベルで仕上げられた高精度プレス金型技術で作る『FOR』の名刺入れ。素材はステンレス・アルミ・真鍮など多彩。

武田金型製作所からMGNETを分社化したのが2011年。

なぜ会社を分けたんでしょうか?

Evoto

武田

これには2つ理由がありまして。

1つは、「家業に目を向けているだけでは、地域全体が良くならない」と感じたからです。

……というと?

Evoto

武田

燕三条のものづくりは分業で成り立っています。私たち金型の会社の前には材料や焼き入れの会社、後にはプレスの会社がいます。みんなでつないで、ひとつの製品になるんです。

つまり、うちの会社だけを見ていてもダメなんです。前後の会社も潤わないと、産業として続いていかない。だから、地域に目を向けて可能性を広げたかったんです。

武田金型製作所の工場。ミクロン単位の精密加工機からテスト用の大型プレス機まで、多彩な機器が並ぶ。

Evoto

武田

もう1つは、会計区分の問題です。

もともと武田金型製作所は金型という資産をつくる製造業ですが、息子である僕が担当する名刺入れを販売する小売業、売上も1000万円を超えていました。

それで会計事務所さんから、「事業を分けた方が良いかもしれません」と指摘をされたんです。さらに、「息子には苦労させたほうがいい」って独立を勧めてくれて……(笑)。僕に創業者の大変さを味わわせたかったんだと思います。

知られざる技術を、興味を持たれる形に。中野科学との共創

名刺入れの販売から、どうMGNETの事業が広がっていったんですか?

Evoto

武田

一つのプロダクトを、自社で作って、売って、1000万円規模の事業にできた。さらに、名刺入れを通じて会社が知られるようになり、結果的に武田金型製作所の売上が上がっていたんです。

その経験を生かして、今度は他の会社さんと一緒にものづくりをするようになったんです。

最初のクライアントは?

Evoto

武田

同じ燕三条にある、金属の表面処理を手がける中野科学さんです。技術がすごくて。

たとえば、酸化発色はステンレスに塗装や染色をせず、光の干渉現象を利用して鮮やかな色彩を創り出す表面処理技術で、さまざまな産業を支えています。

当時は専務だった現社長に「貴社の技術が世界に伝わるような製品開発を提案したい」と話を持ちかけました。

それで、どういう製品を作ったんですか?

Evoto

武田

「不要な光の反射を抑える」という中野科学の技術を応用すると、ステンレスの表面に薄い膜を作って、特定の色だけを反射させることができます。

すると、塗装はしていないのに、見る角度で色が変わるんですよ。それを活かして最初に作ったのがカトラリーで、ライフスタイルブランド「AS IT IS(アズ・イット・イズ)」の誕生です。

「AS IT IS(アズ・イット・イズ)」のカトラリーは、カラフルで深みのある色味が見る角度で変化するのが特徴。

わぁ、きれいですね! 

これ、本当に塗装していないんですか?

Evoto

武田

そうなんです! 

金属の表面処理をしているだけなので、口に入れても無害ですし、色が剥がれ落ちる心配もありません。

へー! 

だから、カトラリーでもこんな色が出せるんですね。使いたくなっちゃいます。

Evoto

武田

ですよね! 

でも、この製品を「酸化皮膜の厚さをコントロールして、特定の色だけを反射させています」と説明しても、誰の心も動かないんですよ。

この技術のすごさを伝えるためには、まず「わー!これ素敵!」と直感的に思ってもらう体験が大切だと思っていて。これが、まさに MGNETが大事にしている「伝えるより伝わる」という考え方です。

「AS IT IS(アズ・イット・イズ)は光の角度で色が変わるので、商品撮影がなかなか大変でした」と裏話を語ってくれた武田さん。

見せてもらって、理屈抜きでいいなと感じました。この共創が、どんな成果につながったんでしょうか?

Evoto

武田

中野科学さんとのお付き合いはもう10年になりますが、さまざまな成果がありました。

展示会で製品を並べると「かっこいいですね」と言われるようになりました。このブランドができたことで、BtoB の表面処理を請け負う会社として信頼にもつながった。

今は新工場もご竣工され、同技術への問い合わせも順調のご様子です。そして、このブランドを見て「中野科学で仕事をしたい!」と入社される方も実現しました。

「伝える」より「伝わる」を。価値を届けるために大切にしていること

MGNETがいいものの価値をちゃんと届けるために、大切にしていることはなんですか?

Evoto

武田

3つあります。まずは、「伝える」より「伝わる」こと。

こちらがどれだけ言葉を尽くしても、聞く側が耳を傾けていなければ、絶対に届かない。それくらい、「伝える」って一方的なものなんですよ。

だから、「伝わる環境」を整えることが大事なんです。届けたい人にとって最適な形にして、一番いいタイミングや場所で届ける。それがどういうものなのかを考えるのが僕らの仕事です。

武田金型製作所の高い技術を示す「マジックメタル」。文字と枠を別に制作し、3ミクロン(3/1000mm)の隙間で結合させており、継ぎ目が見えない。これも、金型製造技術の高さの見せ方の一つ。
Evoto

武田

そのために、若者中心設計であること。これが2つ目のポイントです。うちの会社では、若い社員の意見を最優先にして、「伝え方」を考えています。おっさんのやりたいことなんて絶対に反映しないほうがいいんですよ(笑)。

たとえば、ありがたいことにMGNETは採用で困ったことがないんですよ。自分たちのやっていることが、若い人たちにとって「憧れ」になっていれば、「働きたい」という若者が集まってきてくれる。これが、若者中心設計になっているかどうかを確認する方法だと思っています。

Evoto

武田

そして、最後がビジュアルコミュニケーション。先ほどの話ともつながりますが、若い人ほど文字より先に写真や映像で情報を受け取る傾向にあります。

実はここ数年、僕のSNS投稿を写真メインにしているのも意図的なんです。

武田さんご自身も、写真を撮られるんですね。

Evoto

武田

写真を始めて驚いたんですが、同じ被写体を撮っても、撮る人によって写真は全然違うものになるんですよね。

まさに、その人が見ている世界観が表れるというか。そういうビジュアルでの伝え方を大切にしています。

誰と組むか。お互いが「両想い」であることが絶対条件

では、全く違う会社やほかの自治体などと共創をしていく時に大切にしていることは何でしょう?

Evoto

武田

誰と組むか、ですね。うちはお互いに「両想い」でないと仕事をしないと決めているんです。

つまり、クライアントさんがうちと組みたい、うちも組みたい。その気持ちが完全にイコールじゃないと始めないんです。

恋愛と一緒で、どちらかが「好きです」と言い続けるだけでは形になりません。両想いの状態でしか、いい仕事は生まれないと思っています。

Evoto

武田

最近、まさに両想いで生まれたのが、カメラアクセサリーブランド「CSP(CAPTAIN STAG PHOTO)」です。

第一弾は、『CSPカメラマルチツール』です。コインドライバーと六角レンチをひとつにまとめて、キーホルダー感覚で持ち歩けるものです。

実は多くのフォトグラファーが、三脚のネジを回す時に10円玉で使っているんですよ。でも、必要な時に限って持っていなくて困る(笑)。そこを解決する道具でもあります。

CSPカメラマルチツール。コインドライバーと、3mm・4mmの六角レンチをひとつにまとめている。

Evoto

武田

この製品は、フォトグラファーでYouTuberのゆ〜とびさんと私の出会いがきっかけで。そこに、アウトドアメーカーのキャプテンスタッグさんが加わり、3者で作りました。

キャプテンスタッグさんは燕三条の会社ですが、両想いになるまでに 3 年、開発には 2 年。合計 5 年かかっています。それくらい関係づくりにも時間をかけています。

地域に染まりすぎると、井の中の蛙状態に。常に外にアンテナを立てる

この地域で伝え方や共創を実践してきた武田さんが今考える、燕三条の“すごさ”について教えてください。

Evoto

武田

実は僕は、燕三条について「技術がすごい」とはあまり言いません。精密加工も表面処理も他の地域には「すごい会社」は山ほどあって、上には上がいくらでもいます。

でも、燕三条には「トータル力」では最強だと思っています。金属だけでなく木工も樹脂も、お隣の見附市へ行けば織物まである。

しかも燕三条のものづくりは分業制なんですが、完全な分業ではないんです。「うちは研磨しかやらない会社」と言っていても、頼めばちょっとした溶接もしてくれる。この幅の広さと、グラデーションがすごいんですよ。

Evoto

武田

しかも、一番知っておくべき地元の人ほど、そのすごさに興味を持っていない。それに加えて、この地域にいる人たちは自分たちのいいところを伝える機会が少ないと思っています。

となると、なおさら相手が自然と受け取ってくれる環境をつくることが大事なのではないでしょうか。だから、僕たちは「伝える」ことより「伝わる」ことを大切にしています。

なるほど。

とはいえ、地域の中にいながら、自分たちを正しく評価するのは難しいですよね……。

Evoto

武田

そうですよね。井の中の蛙にならないために、僕自身も軸足は燕三条に置きつつ、情報のアンテナは外に置くようにしています。

そのために、あえて東京にもMGNETの拠点を作っていて。客観的に地域を見る目を保っておきたいんです。

燕三条の勇敢な若者たちを、支える存在でありたい

今後、武田さんがやってみたいことを教えてください。

Evoto

武田

実は、特別にやりたいことってあまりないんですよ。

でも、燕三条を世界に届けることが自分にできる一番大きなことだなと思っているんです。

世界へ、ですか!

Evoto

武田

この地域の価値を、外の世界にちゃんと伝わる形にしていく。その先に世界がある、という感覚ですかね。目指しているのは世界ですが、僕自身は燕三条からは出るつもりはありません。

ここ最近、この街には「勇敢な奴ら」がどんどん出てきています。うちの会社から独立して市長になった人もいれば、燕三条を世界に連れていこうとしている若い経営者もいる。

彼らを支えることも、自分の役割だなと思っています。これから僕が何をするかは、彼ら次第なのかもしれませんね。

2026年7月取材

取材・執筆=渡辺まりこ
撮影=斎藤恵
編集=鬼頭佳代/ノオト