もっと、ぜんぶで、生きていこう。

WORK MILL

EN JP

「本気の趣味」が宇宙に届く。リーマンサット・プロジェクトが人工衛星と歩んだ12年(伊藤州一さん・細田知江さん)

あなたの趣味はなんですか?
その「好き」に、どこまで本気になれますか?

会社員を中心に、専門も本業も異なる人々が集まり、人工衛星を開発する「リーマンサット・プロジェクト」。設計・製作から資金集め、許可申請、広報までを自分たちで担い、12年にわたって衛星を宇宙へ送り出してきました。

仕事ではないからこそ挑戦できる。けれど、趣味だからといって、期限や責任までなくなるわけではありません。「やりたい」を形にするチームのあり方と、そこで得た経験が仕事や暮らしにもたらす変化を伺いました。

宇宙から音楽を届ける、手のひらサイズの人工衛星

今日は、リーマンサットで実際に開発した衛星の模型をお持ちいただきました。

手のひらサイズなんですね。

Evoto

伊藤

はい。これはリーマンサットでつくった人工衛星の参号機「RSP-03」、愛称「ハモるん」の模型です。

2025年9月に国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」から放出され、星や人工衛星の観測データを基に「星のシンフォニー」という楽曲を作曲して地上へ届けました。

「RSP-03」のプロジェクトページでは、宇宙で作曲された楽曲が公開されている。(提供画像)

宇宙から音楽が届くなんて、夢のある企画ですね!

こちらは開発中の試作機でしょうか?

Evoto

伊藤

はい。次の衛星「RSP-04」の候補として、私たちのチームで開発しているものです。今回は、磁力に反応して形を変える磁性流体を無重力空間で動かし、地上では見られない「宇宙の彫刻」を生み出したいな、と。

「RSP-04」は2030年代の打ち上げを目指していますが、現時点で搭載するミッションは確定していません。他にも、地上にいる人のポーズを宇宙のロボットに再現させる案など、リーマンサットの中で複数のチームが同時にアイデアづくりや試作を進めているんです。

10cm立方の小さな人工衛星に、たくさんのアイデアが詰め込まれているんですね。

諦めた夢の続き。いつからでも宇宙に関われる

お二人がリーマンサットに参加したきっかけを教えてください。

伊藤州一(いとう・しゅういち)さん。2014年ごろから参加。プロジェクト初期から開発に関わり、現在は次期4号機のもととなるモデルを開発するチームの代表を務める。本業はシステム系のエンジニアで、青年海外協力隊として海外で活動した経験を持つ。

Evoto

伊藤

もともと宇宙飛行士になりたかったのですが、数学も物理も駄目で、諦めていたんです。悔しくて、宇宙のニュースすら見ないようにしていた時期もありました。

別の仕事に就いていたとき、たまたま民間宇宙開発のニュースを見て、「普通の人でも関われるんだ!」と衝撃を受けました。それで仕事を辞めて宇宙系の専門学校へ進み、そこで参加した研究会でリーマンサットの代表に出会ったのが始まりです。

リーマンサットの活動は2014年に始まりました。当時から人工衛星をつくる技術はあったのでしょうか?

Evoto

伊藤

全然ありませんでした。

「2年で衛星を宇宙に飛ばす」と表明してはいましたが、「まずは電子工作の勉強のために嘘発見器をつくろう!」なんて言っていたくらいで、今思うと本当にひどかったです(笑)。

それは大変……! そこからどうやって?

Evoto

伊藤

アメリカから学習用の衛星キットを取り寄せ、組み立てるところからのスタートでした。

最初から独自性の高い衛星を目指したものの、あまりにもハードルが高く、まずはデータ通信などベーシックな機能を搭載した「RSP-00」をつくりました。

「RSP-00」は2018年10月6日に国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」から宇宙へ放出された。(提供画像

Evoto

伊藤

通信の方法もわからなかったので、東京大学の超小型衛星で使われていた無線機を調べ、同じものを買いました。使い方を知っている人はいませんでしたが、「物さえあれば、なんとかなるだろう」と。費用はメンバー8人で10万円ずつ出し合いました。

地上局の場所探しも大変でした。廃校や地方の畑などを検討した末、メンバーが経営する工場を借りることができました。

興味を頼りに、ゼロから学んでいったんですね。細田さんはいかがでしょう?

細田知江(ほそだ・ともえ)さん。2017年に参加。現在の肩書きはリーマンサットCBO(C:最高 B:ビール O:責任者)。技術メンバーの傍らで開発を追いかけ、広報として活動を発信してきた。衛星の運用も担当。本業は営業アシスタント。

Evoto

細田

宇宙開発は年配の先生がするものというイメージでしたが、偶然見つけたリーマンサットのSNSには、自信がなさそうな30〜40代のエンジニアが肩を寄せ合っていて(笑)。「素人でもできる」と書かれていて、親近感が湧きました。

私自身、はんだごてさえ使ったことがなかったので、「広報として技術を伝えたい」と相談したんです。それ以来、技術メンバーの横で「今、何をしているんですか?」と聞きながら、活動を記録・発信することを続けています。

技術と手続きを重ね、素人集団が宇宙へたどり着く

「衛星を飛ばしたい」という気持ちが先にあり、技術や体制は後から構築されていったのですね。

Evoto

伊藤

開発した衛星をどう宇宙に届けるかも、最初はわかっていませんでした。

JAXAのロケットに相乗りする公募を見つけ、企画書を出しましたが採択されず……。最終的には、費用を払って打ち上げてもらう仕組みを使いました。

ただ人工衛星をつくるだけでは、宇宙へ飛ばせないんですか?

Evoto

伊藤

必要な書類をそろえ、正しい手順を踏めば、素人がつくった人工衛星でも宇宙へ届けることができます。

ただ、時間のかかる周波数申請や国際調整は、打ち上げから逆算して早く動かなければなりません。宇宙活動法に基づく申請書類や、「ほかの機体を傷つけないこと」を示す試験データも必要です。

いくつもの人工衛星が一緒に運ばれるので、周囲への影響も考える必要があるのですね。

Evoto

細田

一方で、自分たちの衛星で何をするかという「ミッション」は、自由度高く考えられます。「RSP-03」では、「そもそも音楽ってなんだっけ?」というところから議論しました(笑)。

前例がないので戸惑いもありましたが、実際に宇宙から音楽を受信したときには「やってよかった」と実感しましたね。

そうした自由な発想は、ほかの衛星にも表れていますか?

Evoto

伊藤

そうですね。「RSP-01」では内向きのカメラを搭載して、宇宙空間で「自撮り」をさせました。

ロケットの打ち上げ中継は途中からCGに切り替わりますが、その先も映像で見たかったので、衛星自身に撮らせようと考えたんです。

2021年3月14日、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」から放出された「RSP-01」。メインミッションの「宇宙で自撮り」を達成した。(提供画像

Evoto

伊藤

研究機関や調査用の衛星なら、画像以外のデータから状態を把握できるので、あえて自撮りをする必要はありません。

しかし、実際に「RSP-01」が撮影した写真には妙な影が写っていました。調べてみると、本来まっすぐ伸びるはずのアンテナが、巻き癖によって展開しきっていない可能性が見えてきたんです。

自撮りをしたからこそわかった、意外な発見でした。

開発もマネジメントも「やりたい人」が担う

開発から申請、場所探しまで。

さまざまな役割は、その道の専門家が担当するのでしょうか?

Evoto

細田

むしろ逆ですね。本業と同じことを趣味でもする必要はない、と考える人が多いです。

営業の人が技術を担当したり、通信の専門家が広報をしたり、雑誌編集者が通信に手を挙げたり。本業では使わないプログラミング言語を、あえて採用する開発者もいます。

あえて、本業と違うことに挑戦しているんですね。

Evoto

細田

リーマンサットの参加者は「どんなリソースを提供できるか」ではなく、「何をやりたいか」で動きます。

やりたいことが見つからない人とは、その人の経験や興味を一緒に探りますし、「勉強してみたい」と言えば、わかる人が教える文化も根付いています。

技術部では電源系や姿勢制御系、広報部ではイベントや広報・マーケティングなど、役割ごとのチームに分かれて活動している。(提供画像

Evoto

細田

私自身も、開発チームの活動を発信し続けるうちに、衛星の運用にも関わるようになりました。プログラムを書いたのは技術メンバーですが、それを細かく分け、コマンドとして飛行中の衛星へ送る作業を担当して。

衛星のできることが少しずつ増えていく、あのヒリヒリした感覚をもう一度味わいたいですね(笑)。

Evoto

伊藤

ただ、趣味だからといってスケジュール管理が曖昧では宇宙まで到達できません。

そこは仕事と同じで、進め方はそれぞれのチームに委ねています。

Evoto

伊藤

僕のチームでは、管理ツールにタスクを登録し、個々で作業しながら定期的に集まっています。

でも、企画の初期から厳密に管理しすぎると、人が離れてしまう。まずはお祭り感覚で楽しみ、軌道に乗ったらタスクを細かくするなど、段階に応じて進め方や使うツールを変えています。

Evoto

細田

「RSP-03」の開発が遅れそうになったときは、人・お金・物のうち、何が必要なのかを確認しました。趣味であっても、期限やリソースへの意識は欠かせないんです。

私の本業は営業アシスタントで、期限を守り、先回りして準備しておくのは当たり前だと思っていました。それをリーマンサットでも普通にやっていたら、すごく褒められて(笑)。

会社では当たり前すぎて褒められないことが、ここでは評価されたのがうれしく、自信につながりました。

上司はいない。だから対話し、休んで、また戻る

仕事とは違う体制のなかでメンバーが関わり続けられるよう、どんな工夫をしていますか?

Evoto

細田

リーマンサットには「上司」がいないので、活動を強制できません。だから、こまめにコミュニケーションを取るしかない。様子がおかしいなと思ったら、仕事や家庭が忙しいのか、活動へのモチベーションが下がったのか、状況を探ります。

残業続きで疲れている人には、「今のタスクを少し軽くする?」と声をかけます。でも、タスクを全部取り上げるとやる気を失ってしまうので、バランスを見ながら関わり方を探っています。

活動時間も、会社員の生活に合わせているのでしょうか?

Evoto

細田

月に1回、オフラインの定例会を開くほか、平日の夜にもオンラインで集まっています。

オンラインミーティングは22時ごろが多くて。子どもの寝かしつけに行ったまま帰ってこなかったり、眠くてだんだん口数が減っていったりするメンバーも珍しくありません(笑)。

定例ミーティングの様子。(提供画像
オンラインミーティングには、全国各地や海外からも参加者が集まる。(提供画像

数年にわたる衛星開発では、仕事や暮らしの状況も変化しますよね。

Evoto

伊藤

私は「宇宙の平和より、家庭の平和」と言っていますが、活動を続けるには家庭との両立も大切です。

家族がいるメンバーは、それぞれ苦労しながら折り合いをつけていると思います。

Evoto

細田

3〜4年も開発していると、学生なら就職するし、会社員も昇進や転勤があります。

もちろん、1機で力尽き、「しばらく衛星はいいや」と離れる人もいます。でも、一度衛星を完成させると、みんなのなかで「これは自分たちにもつくれるものだ」という認識に変わるんです。

Evoto

細田

そうすると、次からは割と気軽に「つくればいいじゃん」と言えるようになる。最初の一歩があるかないかで、全然違いますね。

またつくりたくなったら、戻ってくればいいんです。だから、「ご無沙汰していて、すみません」なんて言う必要もないんです。

「馴染みの居酒屋に久しぶりに顔を出したら席の配置が変わっていた」くらいの感覚で、気軽に参加したり、戻ってきたりしてほしいですね。

趣味に本気で取り組むと、仕事の景色も変わっていく

リーマンサットは趣味としての活動ですが、本業に影響はありましたか?

Evoto

伊藤

本業のエンジニアとしては、自分で手を動かす仕事が中心ですが、リーマンサットではチームを目標へ進めるプロジェクトマネジメントを経験しています。

毎日集まれるわけではないので、「部品がなくて今日は作業できない」とならないよう、事前に準備しておく。そうした段取りや運営の考え方を、本業にも生かせるようになりました。

Evoto

細田

会社では見えにくかった、自分の仕事の価値にリーマンサットの活動の中で気づけました。

本業では「上司がうまくやってくれるだろう」と、自分の仕事ばかりしていたんです。でも、対話によってチームが動く経験を重ねるうちに、会社でも「まずはやってみよう」と思えるようになりました。

本業とリーマンサットの両方に、よい効果がありましたね。

本気で趣味に取り組んだからこそ、ポジティブな変化が生まれているのですね。

最後に、改めてリーマンサットの魅力を教えてください。

Evoto

伊藤

私は、宇宙に関わることを完全に諦めていた人間です。

でも、素人が集まれば実現できる。それを、自分たちで確かめられたことが面白いですね。まったく違う業種の人と出会い、いろいろな話を聞けるのも、普段の仕事にはない魅力です。

Evoto

細田

ミッションを考え、技術を積み上げていくところから、きちんと完成するまで見届けられるのが楽しいですね。

本来、趣味はやらなくてもいいことです。お金をもらっているわけでもないのに、「なんでこんなに苦労しているんだろう」と思うほど、ギリギリまで頑張ってしまう(笑)。

でも、それが衛星の打ち上げによって報われる瞬間が、たまらなくうれしいんです。

2026年7月取材

取材・執筆=淺野義弘
撮影=篠原豪太
編集=鬼頭佳代