会社員だからこそ、ギャグ漫画が描ける。ジャンプSQ.連載漫画家が2つの仕事を両立しつづける理由(清水コウセイさん)
集英社の月刊コミック雑誌『ジャンプSQ.(スクエア)』で連載中のギャグコメディ漫画『魔王城サイドウェイ』(漫画:鵜飼 樹)の原作者・清水コウセイさんには、もう一つの顔があります。それは広告業界で正社員として働くサラリーマン。
清水さんはこれまで3度の就職経験すべてを漫画家との両立で乗り切ったツワモノです。転職を重ねて「少しずつ兼業を理解してくれるようになり、時代の変化を感じた」と語ります。
忙しい漫画業と会社員の仕事にどのように折り合いをつけているのか。新しい働き方のかたちについて、お話をうかがいました。

清水コウセイ(しみず・こうせい)
1990年、大阪府生まれ。神奈川県在住。関西学院大学法学部に在学中、集英社主催の第75回赤塚賞にて『肩』という作品で準入選し漫画家デビュー。大学卒業後は求人広告の代理店へ入社。2015年から「ジャンプSQ.」にて『大森サティスファクション』を連載。28歳で上京しWeb制作会社へ。「官公庁のWebサイト制作」「BtoB企業のリブランディング」など堅い仕事をする。会社員としてもおもしろい仕事をしたくて2024年、大阪を拠点とする制作会社「人間」に入社。神奈川に住んだままリモート勤務の正社員となる。
漫画家と会社員の二刀流で生きて15年
漫画家の清水さんが、実は会社員であると知って驚きました。これまでの職歴を教えてください。


清水
大学卒業後、大阪の代理店に就職して求人広告の制作をしたのが最初です。28歳の時に「東京で仕事をしたいな」と思って大阪を離れ、Web制作会社に入社しました。
そして2024年、面白くて変なコンテンツをつくる株式会社「人間」へ転職したという流れです。2026年3月現在、人間に入社して1年9カ月になります。
清水さんは、もともと漫画家を志していたのですか?


清水
いいえ。高校時代は「弁護士になりたい」という夢があったんです。そのため大学の法学部へ進学しました。
けれども法律が難しすぎて諦めてしまって。大学で学んだことは何一つ覚えていないです。
漫画家としてデビューしたのはいつですか。


清水
漫画を描き始めたのは大学に入ってからです。ジャンプSQ.の新人賞で、ファンだった増田こうすけ先生が審査員をしていたので、試しに漫画を描いてみたんです。
絵を描いた経験はなかったんですが、運のいいことにいきなり最終候補まで残りまして。増田先生に褒めてもらえて嬉しかったですね。

絵を描いた経験がなかったのに最終選考まで残ったのですか!
すごすぎます。


清水
なぜか描けてしまって。その直後に集英社の「赤塚賞」というギャグ漫画の賞で準入選をもらいました。それが20歳の頃です。
その後は『大森サティスファクション』をはじめ、紙面やWebで連載をしたり、読み切りを描いたりしました。そして、現在も連載しているといったところです。
会社員経験を反映した「魔王城サイドウェイ」
2026年3月に単行本が発売された『魔王城サイドウェイ』(集英社)。
漫画家の清水さんにとって、初めて原作のみを担当された作品です。なぜ原作だけを書くことになったのですか。


清水
今回は「自分の絵とは異なる世界観でやりたい」という希望があったんです。
編集部からも「作画の方と組んでみたらどうか?」という提案があり、担当者がうまくマッチングしてくれました。
これまでの作品とは違う“異世界もの”らしい絵柄と、清水さんならではの会話のおもしろさとのギャップがたまりません。


清水
作画の鵜飼樹(うかい・いつき)さんは20代前半で、年齢が一回り以上離れているのですが、センスが噛み合ったのでうまくいきました。
僕が描いたネームをもとに作画してもらっているのですが、おもしろいと思うポイントが似通っていて、こちらの意図を汲み取って、さらに発展させてくださいます。おかげで僕が絵を描くよりも圧倒的によいものになりました。

『魔王城サイドウェイ』は側近や部下だけではなく、魔王城に荷物を届ける宅配業者やウォーターサーバーの営業をしに来城する女性など、さまざまな業種で働くキャラクターが登場します。
描写がとてもリアルですが、ご自身の経験ですか。それとも取材をされているのですか。



清水
取材は全然していなくて「営業って、こんな感じかな」と想像で描いています。
ただ、求人原稿を書く仕事をしていたことがあり、その時期にいろんな業種の仕事をめちゃめちゃインプットしました。
だから、どんな業務内容でもある程度はイメージできるんです。会社員経験はずっと僕の漫画に役に立っていますね。

なるほど。『魔王城サイドウェイ』には職務に忠実なリオ、自由奔放なサボり魔のヴィルシュなど個性的なキャラクターが登場しますが、ご自身に近いのは誰ですか?


清水
各キャラクターに自分の持っている要素を散りばめたりしてるので、特定のキャラはないですが、ある意味で一番近いのは激務の部署に配属されたマシューですね。
年齢が僕にもっとも近く、境遇も似ているんです。


清水
僕はこれまで転職を2度しているのですが、就職した1社目は長時間勤務が当然という会社でした。
終電近くまで働くのが日常茶飯事。その経験がキャラクターづくりに反映されています。当時は、『同僚もみんな残業しているし社会ってこんなものなんだろう』って思っていましたね。
そんなに長時間勤務だったのに、すでに漫画家デビューもしていたのですよね。


清水
そうなんです。だから1社目の頃の生活はヤバかったですね。
仕事が終わり24時に帰宅して、そこから体力が持つ限り何時間も漫画を描くような毎日でした。若かったので、やれましたが……。
転職を経て「時代が副業に理解を深めている」と感じた
学生時代に漫画家デビューし、これまで一貫して会社員と漫画家との兼業生活を送ってこられました。
漫画家であることを会社は受容してくれていたのですか?


清水
1社目はそもそも副業禁止でした。とはいえ連載が決まってしまったので、「漫画の仕事も続けさせてほしい」と交渉したんです。
「じゃあ、1カ月だけなら……」と渋々OKをもらいましたが、結局は2年、へらへらとごまかしながら続けました。そもそも連載が1カ月で終わるわけがないんで。
2社目以降はいかがですか。


清水
2社目は特にとがめられることはないという塩梅でした。
そして、3社目の「人間」は特殊な会社で“副業推奨企業”なんです。「副業をやってください」っていう。
実際、社員のほぼ全員が別の仕事をしています。他の会社の社長をしている人もいて。「社外での活動を人間にフィードバックしてください」っていうスタンスなんです。
それに、社長は漫画好きで。今でも少年ジャンプを毎週購入して読んでいるんです。社長が買った少年ジャンプがオフィスに積んであって、福利厚生として好きなだけ読めます。この前は僕の漫画を書店で3冊買って売上に貢献していました。
社風もありますが、時代的にも副業への理解が深まってきているのは肌で感じましたね。
漫画も会社員も「おもしろい」が仕事の原点
現在お勤めの人間では、どのような仕事を担当しているのでしょうか?


清水
広告制作やブランディング、イベントプロデュースなどがメインの事業です。クライアントワークだけではなく、自主イベントを興したり。「おもしろそう」と思った企画は全部やってみる会社です。
僕はディレクター、プロデューサー、プロジェクトマネージャーなど、いろいろやっています。

人間は、大阪が拠点の会社ですよね。関東在住の清水さんは、どのような形態で勤務しているのですか。


清水
社員で僕だけが関東にいて、リモート勤務です。
人間は以前から「おもしろい会社だな」と興味がありました。とはいえ、もう上京してしまっていたので大阪へ戻る発想がなく、実際に自分が働けるとは思っていなかったんです。
ところがその後、コロナ禍になってリモートワークが一気に普及しました。そして「もしかしたら関東にいながらでも入社できるかもしれない」と思い、応募したんです。
もしもリモートワークという概念が生まれていなかったら、入社は厳しかったでしょうね。
人間の中では、漫画家であることを活かすお仕事もあるのでしょうか?


清水
あります。たとえば、「コミックシーモア」の「出だし-1グランプリ」。
オリジナル漫画の冒頭3ページだけをXで公開して、もっとも「いいね!」が多かった漫画は続きを描けるというコンテストです。


清水
僕が5つの作品の原作ネームを書いて、それを5人の漫画家さんに絵を描いてもらって、という企画でした。
このように人間の方でも漫画の仕事はちょくちょくあります。
ネームを書ける社員さんがいることからこその企画ですね。


清水
自主企画では、2026年1〜2月には、閉館するホテルを貸し切って「ホテル企画天国」をやりました。クリエイターが一人1部屋を受け持ち、自由にプロデュースするイベントです。
僕もクリエイターとして「それしか考えられない部屋」を考案し、インスタレーションをやりました。
いろんな言葉が書いてある「ふきだしカチューシャ」というものを頭につけて、5分間「そこに書かれたことについてしか考えちゃいけない」っていう何の意味もない体験イベントです。
会社員と漫画家のどちらかに決める方がストレスになる
そんなにお忙しいのに、それとは別に漫画家をしているのが信じられないです。会社員と漫画家を、どのように両立させているのですか。


清水
うまく時間のコントロールができているわけでもなく、「いっぱい働く」という原始的な手法で成立させています。
人間は土日が休みなので、週末に漫画をできるだけ進めます。あとは平日の朝が多いです。人間の始業前に、やれるだけの作業をやります。
お休みがとれないのでは……?


清水
あんまり休んでないですね。ただ、楽しんでやっているのでさほどストレスはないです。漫画の仕事をやらないほうがしんどいですね。
「どちらかの仕事に絞って土日は休め」と言われる方が僕にはストレスになるかもしれません。
会社員をしながら漫画を描くうえで、体力や精神面でキツいと思う日はないですか。


清水
特に立て込んだ時はちょっと疲れることもありますが、「まぁ気にしないでおこう」と思ったらあまり気にならなくなるぐらいの疲れですね。
そもそも自分が描いている漫画は題材的にも会社員経験がなかったら表現するのは無理だと思います。それくらい、会社の仕事から得られるものが大きくて。
人間だと、クリエイティブディレクションのプロがいるので、企画の立て方や詰め方が漫画の参考になることもあります。逆に人間の仕事をしているとき「漫画ならばこうするな」と思う瞬間がちょこちょこあって。それくらい双方向性があるんです。
勝手に「会社員と漫画家の両立はしんどそう」と思い込んでいました。そうではなく、両立する魅力があるんですね。


清水
そうなんです。よく「両立は大変ですね」と言われるんですが、実は逆で。会社員をやりながら漫画を描くのが自分にとっては“前提”なんです。もしも漫画専業だったら続けていくのは難しいかもしれません。
漫画家って不安定なんですよ。連載を切られたら仕事がなくなっちゃうので。僕の場合は「この作品が打ち切られると生活ができなくなる」というプレッシャーはメンタルの不安定だけでなく、その先にある作品の質の低下にまでつながってしまうタイプだと考えています。
だから、とにかく「生活ができる」「食べていける」っていう状況にしておくことが、漫画家として一番長く続けていける方法なんじゃないかと思っていて。それを実現できるのが、僕にとっては会社員との兼業という選択でした。やっぱり収入面と精神面の安定はデカいです。描き続けるのが一番大切で難しいことだと思っているので、頑張りたいですね。
会社側にも理解があると最高ですね。現在お勤めの人間ではSNSアカウントでも清水さんの新刊を応援していて、「よい関係だな」と感じました。


清水
人間の社員はみんな、「タレント力を養ってください」「影響力を持ってください」と社長から言われています。「それぞれが有名になって会社へフィードバックしてください」と。そこが人間の社員の評価項目でもあるのです。
だから僕が漫画家として有名になるのは、人間にとってもいいことなんです。
社員の副業が会社側にもメリットをもたらす体制づくり
お話をうかがって、クリエイターが社外でよい作品を生み出すことで企業側にもメリットがある体制が整えられれば世の中がもっとおもしろくなるのでは、と思いました。


清水
確かに、アスリートみたいに企業が在籍社員をクリエイターとして応援するシステムがあってもいいのではと思いますね。「所属漫画家」というふうに。
作家の知名度があがることで会社が認知されたり功を奏したりするケースがもっと増えれば、ありですよね。
僕が勤めている人間は主に笑える企画を考える会社なので、「ギャグ漫画を描いている人がいるのなら、きっとおもしろい企画を生み出してくれるんじゃないか」と判断してもらえているのかもしれません。
そうなると、漫画家側も「この会社に勤めている」と公言するメリットも生まれそうですね。


清水
実は、漫画家でも会社員を兼業している人ってけっこういるんです。でも、わりとそれを言わないケースもあると思います。「読者に漫画だけで生活していないと知られたくない」「周りにバレるのが恥ずかしい」ということもあるのかなと思います。
もちろん様々なご事情があり、なにが正解ということもないですが、周りのみんなに知ってもらって、読者からも会社からも応援してもらえる関係をつくるのも一つの選択肢になるといいんじゃないかな、と僕は思っています。
最後にすみません、ここまで長々と偉そうに話していましたが、1カ月後にはすべてをやめているかもしれません。そういうこともあるかもしれませんが、楽しくやっていきたいと思います。
ありがとうございました!

2026年3月取材
取材・執筆=吉村智樹
アイキャッチ制作=サンノ
編集=鬼頭佳代/ノオト



