異なる組織をつなぎ、新たな価値生む。VCが提唱する「ミツバチ型人材・ポリネーター」の行動原則(中垣徹二郎さん)
花から花へ、蜜を集めて花粉を運び、受粉を促す。そんなミツバチのような人材こそが、企業間や部署間の協働を進めるキーパーソンとして求められている。
ベンチャーキャピタル業界で豊富な経験をもつ中垣徹二郎さんは、共著『企業文化を加速する「ポリネーターの行動原則」』で冒頭のような人物を「ポリネーター(花粉媒介者)」という言葉で表現しています。
カルチャーの異なる企業同士、あるいは部署間の協働や連携を駆動していくためには、なぜ「ミツバチ型人材」が必要とされるのでしょうか。ミツバチ的な役割や思考とは?
伝統企業とスタートアップとの間に立ち続けてきた中垣さんにお聞きしました。

中垣徹二郎(なかがき・てつじろう)
Theta Times Ventures共同代表。日本アジア投資(JAIC)、シリコンバレーと東京に拠点を置くDNX Venturesにおいて、約30年にわたりスタートアップとの協業を通じた事業機会の創出を支援。2025年5月に独立ベンチャーキャピタル「Theta Times Ventures(シータ・タイムズ・ベンチャー)」を共同設立。
異なる組織をつなぐのはミツバチ的存在
中垣さんが提唱している「ポリネーター」とはビジネスの世界でどんな役割を果たす人ですか?


中垣
ポリネーター(pollinator)とは、植物の花粉を運んで受粉させる生き物のことで、花粉媒介者とも呼ばれています。わかりやすい例で言えば、ミツバチですね。
蜜を集めるために花から花を飛び回り、その過程で付着した花粉によって他の花との受粉(他家受粉)を促す役割。それがポリネーターです。
ポリネーターの必要性に気づいたきっかけは?


中垣
私はベンチャーキャピタル(VC)業界に30年近く身を置き、大企業とスタートアップのあいだに立って協業をサポートしてきました。
その過程で何度も目にしたのが、両社の歯車の噛み合わなさによる失敗事例です。どうすればその噛み合わなさを解消できるのかと考え、思い至ったのがポリネーター的な存在の重要性でした。
つまり、ミツバチのように社内外を行き来する人材が、協働や共創には必要不可欠である、というのが私の考えです。
社内外を行き来し、受粉を促すミツバチのような存在……?


中垣
大企業とスタートアップを例に考えてみましょう。まず、大企業には豊富なリソースがあり、既存事業を着実に進める体力があります。その反面、日本の大企業は自社開発や内製主義に偏った体質があるため、イノベーションが起きづらい。
今、大企業が社外との協働やスタートアップとの連携によってオープンイノベーションの推進に積極的に取り組んでいるのはそのためです。


中垣
対して、スタートアップの強みはアイデアや技術力やスピード感に加えて新しいことを生み出す執着心です。そして自分たちのアイデアを形にするためには、資金やリソース面でバックアップし、事業機会をつくってくれるパートナーが必要です。
つまり、大企業とスタートアップ、特性が大きく異なる両者の目的は一致しているんですよね。
それなのに、いざ協働が始まると噛み合わなくなるのはなぜでしょう?


中垣
ポリネーター=ミツバチ型人材が不在だからです。何千人も社員がいて社内ルールの中でコンセンサスを取らないと動けない大企業と、身軽で日々変化に対応するスタートアップ。
このように、あまりにも特性が違いすぎる組織同士が協働するためには、両者の間を行き来し、それぞれの意図やニーズを相手に伝わる言葉で翻訳してくれる媒介役が必要不可欠です。
ミツバチが蜜を吸いながら花粉を運ぶように、社外に出て得た知恵や可能性を自社に持ち帰り、新たな芽を育てる存在が必要なんです。それがポリネーターです。
全く違うからこそ、ポリネーターの存在が重要なんですね。


中垣
企業であれば、内外のリソースを組み合わせて新しい価値をつくる部署や、異業種・外部との接点をつくる部署などが、ポリネーター的役割が機能しやすい部署だと言えます。
新規事業開発部、オープンイノベーション推進部、アライアンス事業部、経営企画部、法人営業部門などがそれに相当するのではないでしょうか。
ミツバチ適性があるのはどんな人?
ミツバチのように社内外を行き来するポリネーターとは、特定の個人ではなく、その組織で求められる役割や行動様式なのですね。では、どんな人が向いていますか?


中垣
大前提としては「自社を理解できている」人材でしょう。
自分たちのチームと外のチームをつなぐ役割を果たすことが求められる以上は、社内である程度のキャリアを積み、組織カルチャーや内部事情を理解していなければ社内外の調整役になれません。
また、本人の性格の向き不向きも大いに関係していることも確かです。私は次のような性質の人は、ポリネーターの適性があると考えています。
●外の情報に自然とアンテナが立つ
●正解がない環境でも行動できる
●仕組みや文化の違いを楽しめる

中垣
ただ、企業の部署異動は、個人の希望よりも会社の配置戦略が重視されます。
組織側が「会社利益のためにポリネーター的人材として、この社員/部署を育てていく」という判断が前提にあるケースのほうが現実には多いでしょう。
違いや正解のなさ、探索を楽しめるタイプの人が向きつつも、最初からポリネーターとして異動してくる人はいないですよね。


中垣
いろんなタイプの方がいらっしゃいますから。
手堅い守りで今あるものを磨き上げていく才能もあれば、手探りでヒントを見つけて0から1を生み出せる才能もいる。
どちらがいいか悪いかではなく、ポリネーターに関しては後者のほうに適性がある、ということです。
なるほど。


中垣
ただ、どれだけ適性があっても、実はそれ以上に重要なのが「社内の信頼残高」です。外に出て得られた新しい情報やアイデアを社内で実践しようとしたときに、メンバーから「あなたがそう言うならやってみよう」と思ってもらえるかどうか。
何でもそうですが、日頃から丁寧にコミュニケーションを取り、地道な関係を築いている人は、いざというときに周囲が協力してくれますよね。


中垣
逆に、普段から偉そうにしている人は、信頼残高が低くサポートしてもらいづらい。
組織内で新しいことを始める人にとっては、このような信頼残高が非常に重要です。
組織で働く人であれば、そのようなことが起きうることを十分理解しているはずです。
どれだけ新規性があって魅力的なアイデアでも、「誰」の発案かによって成り行きが変わることもある、ということですか?


中垣
はい。オープンイノベーションのように、成果が出るまでに時間がかかる外部との共創事業であればなおさらです。
自分たちの会社は今どんな課題を抱えていて、新たな試みを始めることでどんな変化が期待できるのか。パートナー企業にはどのような背景があり、どれくらいのスピード感でこちらの意思決定を求めているのか……。
それらをきちんと言語化し、双方向に伝わる地道で丁寧なコミュニケーションを提供することもポリネーターの仕事です。
共創は時間がかかって当然、「△」を評価できる組織へ
協働や共創は成果が出るまでに時間がかかる。この認識を社内で共有していくことも大切かもしれません。


中垣
以前、あるものづくり企業でポリネーターの役割を担っていた方が、「うちはPoC(Proof of Concept:実証実験)で失敗したことがありません」と話していて衝撃を受けたんです。
PoCとは、新しいアイデアが機能可能かを試作品段階で確認する実験のことを指しますが、その企業ではどんな結果であろうとも「失敗」ではなく、「現時点での課題が見えた」と解釈するんですね。
実現のために足りないものを探すことが目的なのだから、失敗という考え方をそもそもしない。
すべて成功への道の途中、ということでしょうか?


中垣
◯と×の二択ではなく、「今の時点では△」と捉えておく。ビジネスの世界は不確定要素が多いですから、もしかすると1年後には△を◯に変えてくれる何かが見つかることだって十分にありえます。
そのような発想を持てるビジネスパーソンと、途中結果の△を評価制度に反映できる組織がもっと増えていけば、イノベーションの創出にも必ずプラスの効果をもたらしてくれるはずです。
捉え方によって、価値も大きく変わっていくのですね。


中垣
その意味では、企業のトップ層にこそポリネーターの存在意義をもっと認識してほしい、という気持ちが個人的には強くあります。
仲間を増やし、成果を社内に還元する
私たちWORK MILLも社内のポリネーター的役割を担っている部分があるので考えさせられました。
今後、ポリネーターとして社員やチームで動き出そうとしている人たちに、気をつけたほうがいいポイントも教えてもらえますか?


中垣
些細なことですが、2つあります。
「共創」のような流行のキーワードが出てくる事業部は、どうしてもキラキラして見えてしまうもの。
だからこそ、普段から既存事業で会社の中核を支えてくれている方々をリスペクトする気持ちを忘れないようにしてください。


中垣
同様に、パートナー企業への敬意も必須です。
協働における対等なパートナーであるはずのスタートアップを「出入りの業者」のように下に見て扱う大企業も残念ながら時折ありますから。
そこは大企業側が意識を改めるべきでしょう。
キラキラ感に陶酔しすぎず、社内外の仲間への敬意を忘れない。人と人をつなぐ媒介役だからこそ、味方は一人でも増やす努力が大切なのですね。
ではもうひとつの注意点は?


中垣
もうひとつのポイントは、社外に目を向けつつ、必ず社内に還元するスタンスを貫くことです。
外に出て得られた情報や出会いは、社内の現場課題と組み合わせて初めて価値に変わります。外で得た学びは、「社内の言語」に翻訳して積極的にシェアしていきましょう。
具体的にはどうすればいいでしょうか?


中垣
現場に向けての提案であれば、「日々の仕事がどう楽になるか」を具体的に、経営層には「自社の経営の方向性と照らし合わせた上での未来の可能性」という文脈で、相手の立場に応じて言葉を使い分けることも必要です。
ギャップがあるもの同士を結びつけ、そこに新たな価値を生み出すことは、どんな業界であろうとも相当に大変なことです。
両者間のギャップが大きければ大きいほど、その融合には価値があるはずです。
確かに、ミツバチも同じ畑内にある花同士を受粉させるよりも、畑から遠く離れた丘の向こうまで飛んで行き、そこに咲くまったく異なる花と受粉させたほうが、それまでにない新たな価値が生まれる可能性は高まりそうですよね。


中垣
ただ、異なるもの同士をつないで終わるのではなく、新しい価値を生み出すところまで踏み込むこと。これが「共創」の本質的な価値だと私は思います。
だからこそ、あらゆる業界でポリネーターが増えることが、日本の次の10年を担う競争力にも貢献するはずです。

【編集後記】
日本語話者と英語話者が会話をする際に通訳が介在するように、大企業とスタートアップという、文化も体質も大きく異なる二者がすれ違うことなく協働していくためには、両者の言語や価値観を理解した仲介者の存在が不可欠なのだと、中垣さんのお話を通じて強く腹落ちしました。
これまでビジネスの現場で「ポリネーター」的役割を担ってきた人たちは、仕込み役や調整役として、なかなか日の目を浴びづらい存在であったように思います。だからこそ「ポリネーター」という肩書きを持つことができれば、その価値が可視化され、正当に評価されていく時代になっていくはずです。「ポリネーター」という言葉、我々ももっと世に広めていきたいです!(株式会社オカムラ WORK MILL 編集員 / Sea コミュニティマネージャー 宮野 玖瑠実)
2025年11月取材
取材・執筆:阿部花恵
撮影:栃久保誠
編集:鬼頭佳代(ノオト)


