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個人の想いと仕事を重ね、地域とつながる。フリーランスのコミュニティマネージャー中野智文さんと考える北海道の共創

北海道各地のプロジェクトで、それぞれのペースや温度に合わせたやり方で関わっているのが、フリーランスのコミュニティマネージャー・中野 智文(なかの・ちふみ)さん。これまで北海道のさまざまな地域の人とプロジェクトをつなげてきました。

札幌を拠点に、地域や立場を横断して関係人口を呼び込む彼女の仕事のあり方は、共創の土壌を耕す“新しい職能”のようにも見えます。

しかし、そんな数字では測れない価値につながる仕事を一体どうやってフリーランスという働き方で継続しているのでしょうか?

前半は中野さん自身が今の働き方を確立するまでの道のり、そして後半は北海道の持つ共創の可能性を、株式会社オカムラの北海道エリアに関わるメンバーと一緒に深掘りします。

中野 智文(なかの・ちふみ)
1997年、埼玉県生まれ、愛知県育ち。札幌在住7年目。豊田高専建築学科に在学中に、18歳でフィンランドに1年間留学し、コミュニティデザインに関心を持つ。2019年に札幌市立大学デザイン学部に編入し、子ども向けコミュニティ通貨の実証実験に取り組む。コロナ禍で大学院を休学し、北海道新聞社の新規事業であったSAPPORO Incubation Hub DRIVEでコミュニティマネージャーを務めたのち、大学院を中退。その後、広報としてNoMapsに関わった後、現在は「北海道移住ドラフト会議」の広報や、学生向け長期インターンシップのコーディネーターなど、北海道を拠点にフリーランスとして活動している。

コミュニティマネージャーとして施設を運営するため積極的に外へ

中野さんのフリーランスのコミュニティマネージャーという肩書はとても珍しいと思いますが、どのような経緯でそのような働き方に至ったのでしょうか?

Evoto

中野

私はコミュニティ通貨の研究を続けるため大学院に進学したのですが、コロナ禍の影響で研究を続けられず休学することになって。

コミュニティ関連の有償インターンシップなどをしていた縁で、2022年から北海道新聞社が運営する「SAPPORO Incubation Hub DRIVE」でコミュニティマネージャーを1年半務めることになったんです。

それがコミュニティマネージャーとしてのスタートですね。

Evoto

中野

はい。DRIVEでは、施設管理から入退会の管理、一緒に働くコミュティスタッフのマネジメント、イベントの企画運営を含め、スペース運営のほとんどの業務を担当しました。

本当に学びが多くて。特に利用者のニーズを知り、イベントを考えるためには閉じこもっていてはいけないと感じました。それで、他の人が運営しているコミュニティやイベントにも積極的に参加するよう心がけていました。

Evoto

中野

他の施設で得た生の声をもとに、DRIVEで求められているイベントを設計していきました。

そのなかで、予期せぬ出会いが数えきれないくらい生まれていきましたね。

利用者との関係をどうつくる? 中野さん流コミュニケーション術

人と人をつなぐためには誰がどんなことをしているかを知らないと成り立ちませんよね。

Evoto

中野

DRIVEはワンフロアだったので、誰が来ているかは自然と見えていました。

受付スタッフと連携して、「今日○○さんはこんな子と来ていたよ」「△△さんが相談があるって言ってたよ」など教えてもらい、タイミングをみては話しかけるなどしていました。

スタッフには「全体の空気を感じ取ることが大事だよね」とよく伝えていました。

常に気配りしていたんですね。

Evoto

中野

最初から利用者の方の困りごとにアプローチできるということはほぼありません。そこで、まずはどなたのことも注意深く気にかけ、私が話をできる人だと認知してもらう。

そのために、「この人最近、夜ギリギリまでいるから、仕事大変なんだな」「あの人、来る頻度が減ったな。どうしたんだろう」など、皆さんの動向を常に気にしていました。

具体的にはどんな工夫を?

Evoto

中野

コーヒーマシンの前で飲み物を待っている15秒くらいの間に、「今日、どうでした?」みたいに声をかけるんです(笑)。

そこからちょっとした雑談が生まれて、気がつけば相談を受ける関係になっていることも多かったですね。

場所がなくてもコミュニティは形成できる

運営元である北海道新聞社の移転に伴い、2024年春にDRIVEはクローズしたと聞きました。

その後、フリーランスのコミュニティマネージャーとして活動されるわけですが、どのようにお仕事を成立させてきたのでしょう?

Evoto

中野

いろいろな選択肢があった中で、フリーランスのコミュニティマネージャーと名乗ろうと思ったのには理由があります。

まず、私の中心領域は広報やイベント企画運営。その中でも、いろいろな方とコラボレーションしながら企画を進めたり、場づくりをしたりするのが好きで得意。さらにコミュニティマネージャーの経験があるのが強みです。そこから、提供できる価値を整理していきました。

なるほど。

Evoto

中野

フリーランスを選んだのは、最終的に私の仕事を選ぶ基準は人だから。どういうチームで働くかを自分で選べるのはフリーランスの大きなメリットなんです。

どのアプローチが自分の価値観と合っているのか、自分が入ることで面白くなるチーム構成なのか、一緒にやっていて自分が幸せを感じられるか……。そういう意味ではフリーランスという働き方は合っているんでしょうね。

今は、特定の場所を運営しているわけではないですよね?

あまりないケースかと思いますが、コミュニティマネージャーとしてどんな仕事に取り組んでいますか?

Evoto

中野

そうですね。

たとえば、一般社団法人さーもんずが主催する「北海道移住ドラフト会議」というイベントでは、イベントの設計はもちろん、開催日前後もデザインさせてもらっています。

「北海道移住ドラフト会議」は、野球のドラフト会議の仕組みをモチーフにしたマッチングイベント。北海道への移住希望者を探す自治体や地域の企業が“球団”、移住や関係人口として地域と関わりたい人が“選手”となり、年に一度開催されています。(提供写真)

前後でコミュニティをつくるということですか?

Evoto

中野

まずは、イベント開催前からエントリーしてくださった選手たちの交流会を開きます。そうすると、その時点である程度コミュニティができてくるんですよ。

イベントが始まる前からの流れをちゃんと設計することで、参加者の体験は大きく変わります。

ただのお客さんのように受動的じゃなく、能動的になっていく?

Evoto

中野

はい。しっかりコミュニティが作れると運営側のような立ち位置になってくれる参加者も出てきます。

「こういう写真撮っておいたら後で使えますよね」と声をかけてくれたり、「次はこういう会やりましょうよ」と提案してくれたり。

心理的安全性が保たれたコミュニティができていると、そこで自分も提案してもいいし何かやりたいことを実践してもいいという空気ができるんですよね。

Evoto

中野

イベント後も、実際に各自治体に行ってお試し移住体験をします。そのときにも、指名する側・される側ではありつつも、お互いがフラットなんです。

そういう関係でいられるのは、北海道をもっと面白く盛り上げたいという思いが根底にあるコミュニティができあがっているからです。

面白いですね。なんというか、具体的な業務というよりも、まさにコミュニティをつくる視点を提供して設計しているというか。

Evoto

中野

そうですね。自分としてはすべてのお仕事の真ん中に「コミュニティマネージャーマインド」があると思っていて。

その視点をもってそれぞれのチームに入るからこそ、誰に対して、どんな支援をするか、自分のできること・やるべきことが決まっていく気がします。

支援の方向性に合わせてきめ細かく、注意深く場を設計し、準備を整えていくのですね。

Evoto

中野

コミュニティマネージャーって、けっこう「気になることが多い人」のほうが向いてる気がします。

私も、イベントやコミュニティに参加して「なんかここ、もう少しこうだったらいいのに」って思った経験があって。そういう視点がすごく生きる仕事だと思います。

人や地域とどう出会うか、どうつながるか

後半では、北海道出身でOpen Innovation Biotope ”Sea” コミュニティマネージャーの宮野玖瑠実と、オカムラ札幌支店の土井航大も議論に参加。これからの北海道を盛り上げるため、人と地域を結びつけるコツを深掘りしていきます。

私が大学時代を過ごした別府は、地域の人と学生の距離が近かったんです。それで、学生の活動も積極的に応援してくれるところがありました。

土井

土井航大(どい・こうだい)。株式会社オカムラ札幌支店オフィス営業課1係。札幌生まれ。立命館アジア太平洋大学在学中に国際交流イベントサークルをつくり、イベントを開催。地域住民と世界50カ国余りの人々との交流を生み出してきた。

就職して札幌に戻ってきてからの1年の間に、プライベートで10回以上の交流イベントをやってきました。中野さんとも、その中で知り合ったんです。

でも、札幌ではまだまだ参加者や一緒にやる人ともしっかりつながりが持てなくて……。難しさを感じています。

土井

Evoto

中野

一緒に何かしたい人やコミュニティに、いきなり「コラボしましょう!」って言うよりも、まずは相手のことを知るほうが大事かなと思っていて。

札幌から車で1時間半くらいの安平町で教育イベントにボランティアとして関わったことがあるんですけど、そのときも日帰りできたけど、あえて泊まってみたんです。

泊まることで、イベントのあとにちょっとゆっくり話せたり、相手の町の空気を感じられたりして。そういう時間を意識的につくっていましたね。

町と町が遠い、北海道ならではですね。

Evoto

中野

北海道全体でみると、忙しい時期があるんです。農業は8〜9月が収穫時期だし、漁業だと函館方面のホタテの耳吊り作業などで忙しい期間がある。

そういう人手がいる時にお手伝いに行って関係性をつくるのも一つの方法です。特に、地域とつながりたい学生には良い方法ですね。

誰かに紹介してもらって漁師さんや農家さんとつながると、また新しい繋がりも生まれます。地域のお祭りに関わるのもいいですよね。

外に出る前に地域との関係を作っておく

宮野

私もまさにそうですが、東京で働いている北海道出身者って、北海道のことが大好きな人がとても多いと思うんです。

宮野玖瑠実(みやのくるみ)。WORK MILL編集員/Sea コミュニティマネージャー。札幌生まれ。設計事務所やゼネコンへの提案営業を経て、2023年からWORK MILL統括センターに所属。Open Innovation Biotope ”Sea”での共創活動やイベント企画運営に携わる。

宮野

仕事柄、今すぐ北海道に帰ることは選べないけど、何かしたい、と思っている。でも、しばらく離れていると地域の活動とは距離が生まれてしまう。それが、もったいないな、と。

Evoto

中野

確かにそうですよね。北海道の中には、人口が5000人を切るような小さな町もあります。高校がなくなると、進学をきっかけにどうしても外に出る子が多くて。一度出るとなかなか戻ってこないこともありますよね。

でも、小・中学生のころに地元の人と一緒に何かをやったり、自分のやりたいことを応援してくれる大人がいたりすると、その体験が残っていて、「いつかまた関わりたいな」って思えることがあるんです。

宮野

地元を出る前に、良い関係性をつくっておくんですね。

Evoto

中野

はい。東京などに住んでいても、地元や地域が力を必要としている場面で関わるチャンスはきっとあると思うんです。

たとえば、ローカルな高校ほど地域と関わる探究学習に力を入れていて、そうした場で講座することもあります。「できることであれば喜んで行きます」という気持ちで関わっていますね。

「なんもなんもマインド」が共創を盛り上げる……!?

宮野

北海道の方言の中で、特に好きな言葉があって。それは相手から「ありがとう」「ごめんね」と言われたときに使う、「なんもなんも」という言葉です。

北海道の言葉で、「全然いいよ」「気にしないで」「どういたしまして」「気をつかわないで」みたいな意味なんですが、これが標準語にはないんです。

宮野

札幌時代の恩師と会ったときに、「なんもなんも文化がある北海道は、とにかく人がいい。でもその分、奇抜なビジネスが生まれにくいかもしれない」とその人が話していて。

でも、現在求められている共創の視点だと、相手を受容して、良い関係性をつくり、良いものを生み出していこうという方向に、舵が切られつつあるのかなと思っています。今こそ、北海道民の「なんもなんも」マインドが花開くときが来てるんじゃないかなと

Evoto

中野

なるほど、考えたことなかった!

札幌の人たちは温かい印象があります。人も多すぎないので、仕事で他の会社に行っても、すごく温かく受け入れてくれます。

土井

Evoto

中野

東京でイベントを運営することもあるんですけど、名刺交換して少し話すと、仕事や実績の話になることが多いんです。

でも札幌では、「どうしてコミュニティに興味を持ったの?」「どこでコミュニティマネージャーって知ったの?」みたいに、想いの部分を聞かれることが多くて。なんか、人の背景やストーリーを大事にしている感じがするんですよね。だから、土井さんが言っていた“温かさ”って、そういう空気のことかもなって思いました。

宮野

両方、大切ですよね。個人の想いのような部分とやっている仕事の境界が溶け合うと、何か生まれるかもしれない。

そういう個人の想いを仕事で活かす機会はまだまだ北海道では少ないのかな、と感じていて……。

やっぱり東京は、WORK MILLでもいろいろな活動をやっていてすごく羨ましく感じることもあります。いろいろ人を巻き込んで、札幌も少しずつ盛り上げていきたいなと思っています。

土井

Evoto

中野

やっぱり、自分が「この人に会ってみたいな」とか「これ気になるな」って思うことからイベントをつくるのが、一番うまくいく気がします。

だから、土井さんが今気になってるテーマや、話してみたい人を中心に集めてみるのもいいかも。「こういう人いませんか?」って言ってもらえたら、私も探してみます!

宮野

わあ、いいですね!

Evoto

中野

私自身も、同世代の人と一緒に、これからのキャリアや働き方について話したり、次のステップを見つけるヒントを得られたりする場があったらいいなと思っているんです。

学生向けのキャリアイベントや、起業・スタートアップ系のイベントは札幌にも多いけど、社会人3〜5年目くらいの20代後半向けのキャリアイベントって、意外と少なくて。

宮野

札幌出身の関係者や札幌支社・支店勤めの人たちと、地元・北海道で頑張っている人とをつなぐような仕組みも面白いかもしれないですよね!

いいですね。ありがとうございます。

ぜひ、いろいろやってみましょう!

土井

2025年9月取材

取材・執筆=わたなべひろみ
撮影=寺島博美
編集=鬼頭佳代/ノオト