ビジョナリーな経営者とどう話す? 戦略デザイナー流の打ち合わせ3つのポイント
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戦略デザインファームBIOTOPEを経営し、戦略とデザインを掛け合わせて価値を作り出す「戦略デザイナー」として、企業のビジョン策定やイノベーション支援の仕事をしている佐宗邦威さん。戦略デザイナーの目には、世界がどのように映っているのでしょうか。佐宗さんが仕事や普段の暮らしの中で見えたこと・考えていることを、手帖を見せてもらうようにカジュアルに公開していくビジネスエッセー連載です。
戦略デザイナーの本領が発揮される経営者との会話
最近、クライアントの企業の社長さんからこんな光栄な言葉をもらった。
「佐宗さんの質問に答えて話していると、自分のまだふわふわしていたビジョンがどんどん具体化して、アクションのアイデアがいっぱい思いつくんですよね。戦略デザイナーって初めて聞きましたけど、素晴らしい仕事ですね」
この方は職人出身の工務店の社長さんなのだが、僕から見ても相当にビジョナリーな経営者さんだ。ビジョナリーな経営者は、いい人と話せば話すほどどんどんやりたいことが生まれてくるものだ。
一方、その良い面の裏返しとして、常にやりたいことがアップデートされていくので、その思考プロセスを共有していない部下や組織のメンバーとギャップが生まれることもある。
BIOTOPEは、戦略デザインファームと名乗っている。戦略コンサルでもなく、デザインファームでもなく、戦略とデザインを掛け合わせた価値を作り出すファームだ。そして、当然のように僕自身も、戦略デザイナーと名乗っている。
独自の戦略は、市場分析からではなく、自分自身のビジョンによるユニークな世界観やイメージから生まれる。しかし、それは放っておくと経営者の頭の中にとどまり続ける。時に部下が個別に質問をしても、その全体像の一部の部分だけで答えていくので、全体像を完全に掴むのが難しいということが起こりうるのだ。
自分の中にはイメージがあるけど、うまく表現できないでモヤモヤする。戦略とデザインを掛け合わせる、戦略デザイナーの本領がもっとも発揮されるのは、このようなビジョナリーな経営者がお客さんの時だ。こういう時に、戦略デザイナーとしてどうやってイメージを引き出していくのか、について書いてみようと思う。
気を付けるポイント1:この人は自分のことを見ていると伝える
ビジョンを持っている人は、自分が考えていることが伝わらず傷ついた経験が必ずある。自分の大事に思っていることが伝わらないのはとても悲しいものなのだ。
僕が具体的に信頼を築くためにやっているのは、ベタな言葉で言うとラポール(=信頼)を築くことだ。通常、ラポールを築くというと、相手の言っていることを受け入れる、承認するということが重要だと言われる。しかし、僕は、ただ聞き出すだけではなく、話を聞きながら最初に「その人がどんな人で、どんなことをやりたい人に見えるのか」という僕の見立てを話してしまう。
通常、相手から引き出すコーチング的会話だと、「こちらから喋りすぎずに、オープンな質問を投げるべし」というのが常識のように思う。もちろんそれでも悪くはない。
けれど、特にビジョンを持っている人に対しては、こちらが相手をどのように見ているのかを語り直してあげることで、「この人は自分のことを理解してくれている。であれば、バリアを解いて話してみよう」と思ってもらえるのではないかと思う。
「目の前の人がどんな人で、どんな人をしたい人に見えているか」という点を、短い時間でどれだけ観察できるか。これはある種、自分自身の力量だと思っている。
気を付けるポイント2:面白いポイントに乗っかる
相手に気持ちよく話す会話術では、「しっかり相槌を打って聞くと」いうノウハウもあるだろう。もちろん僕も前提として、相手が話しているときには、できるだけ感情を出しながら相槌を打って聞くようにしている。
ただ、やはり単なるインタビュアーではなく、相手と一緒にビジョンを共創するパートナーと思ってほしい。そういう時は、相手の言っていることで「ビジョンとして面白い、広がりがあるな」と思った時には、そのイメージを自分なりのイメージで言い直したり、思いついたアイデアを話したりして、積極的に乗っかるようにしている。
「この人は自分の考えていることを膨らましてくれる」と察すると、その人にとってまだ自信がなかったり、アイデアベースのことも話してみたいと思ったりしてくれるようになるのだ。
気を付けるポイント3:具体化するためのアイデアを付け加える
ビジョナリーな人は、
・構想という抽象レベルの思考
・それを誰がいつ、どうやってやるかという具体レベルの思考
を、高速スピードで往復している人が多い。
そういう人にとって、思いつきに近い構想やビジョンが、誰とどうやって具体化されるかのアクションのイメージが湧くことは、ものすごく価値がある会話だ。
僕は、話を聞いていて具体化するためのアクションアイデアはなんだろう、と思いながら聞いている。そして、思いついたアクションアイデアについては、一通り話を聞いたあと最後にまとめて、「例えば、こんなアクションがあるかもしれませんね」、という形で最後いくつか共有することにしている。
具体的に取れるネクストステップとしてのアクションが明確になっていることで、一歩前に進んだ気持ちになれるし、一歩進むことでより構想が具体化するエネルギーレベルが上がる。こういう状態は、ビジョナリーな人にとっての大好物だ。
経営者と会話できる時間は限られることが多い。そのため、30分なら30分、1時間なら1時間の中で、一通り上記のようなポイントを押さえた上で、最後に話した構想を3カ月、半年、1年、3年という時間軸にあわせて、「どんな順番でどんなアクションを起こすとどういう変化が起こる可能性があるのか」のナラティブ(物語)として語る。
これは、アクション同様に仮案でも良い。具体的に時間軸でのアクションが、ナラティブとして語られると、その人にとっては、構想は具体化したも同然なのだ。
戦略デザイナーの仕事の起点は、会話からあらすじを作ること
戦略デザイナーの仕事の重要な要素は、会話をしながらこのゼロイチに近い構想を引き出し、イメージを膨らませ、アクションに落とし込み、そして時間軸のある物語にしていくということだと思う。
ラフな構想のイメージとナラティブができれば、これをあらすじとして、いろんなメンバーを巻き込みながら、解像度を上げていく。連続ワークショップを企画したり、構想をビジュアルやダイアグラム化したり、物語やコンセプト、ネーミングをコピーライティングして仕上げていくためにプロジェクトを組んで実際の組織に落とし込んでいく。これは、僕らBIOTOPEがメインでやっている仕事である。
ただ、これらの起点は、最初のあらすじ作りにあるんじゃないかと思っている。特に最近は経営者と直接仕事をする機会が増えた。限られた経営者との会話の時間から、いかに筋の良いあらすじを作り出せるか。そんなことを考えながら打ち合わせをするのが、戦略デザイナーの打ち合わせだ。
アイキャッチ制作=サンノ
編集=ノオト