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日常の中には「誰かのいい仕事」がたくさんある。「#これ誰にお礼言ったらいいですか展」の舞台裏(パーソルホールディングス・中山友希さん)

日頃生活の中で「あれ?これ便利になってる!」「誰が実現してくれたんだろう?」「お礼が言いたい!」という経験があるのではないでしょうか?

パーソルホールディングス株式会社がインターネット上で誰かの名仕事に対する行き場のない感謝を集めた展示会「#これ誰にお礼言ったらいいですか展」を、勤労感謝の日に合わせ2024年11月22日(金)~11月24日(日)に原宿のMIL GALLERY JINGUMAEにて開催。

お礼を言いたくなる仕事のエピソードを一同に集めた空間は、来場者の共感を集めていたようです。展示の様子をレポートしつつ、本企画責任者の中山友希さんに開催に至るまでのお話を伺いました。

中山 友希(なかやま・ゆき)
パーソルホールディングス株式会社 グループコミュニケーション本部 コミュニケーション部 はたらくWell-being推進室 室長。
インテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社し、営業、経営企画、事業企画を経験。ミッション策定プロジェクトに携わり、ビジョン・ミッションパートナーシップ担当を務めた後、2020年パーソルホールディングスへ異動。2023年はたらくWell-being推進室 室長に着任し、グローバル調査の実施を中心に“はたらくWell-being”の推進に注力している。

お礼を言いたかった相手の顔が見えるイベント

「#これ誰にお礼を言ったらいいですか」というSNSのハッシュタグや東京・御岳山のカフェで行われたイベントなどで約600人から集められた「誰かの名仕事へのお礼」。

今回、実際にその仕事をした人にインタビューを実施し、その仕事に込められた想いと実際の製品が見られる展示会「#これ誰にお礼を言ったらいいですか展」が開催されました。

仕事の担当者へのインタビューは文章と合わせて、写真パネルを展示。パネルには、はにかみながらも自分の仕事が人々の役に立っていると実感している様子が写し出しされていました。

プロダクトの展示も大きなものから小さなものまでさまざま。

たとえば、「押し歩きモード」が追加された電動自転車。「日々の子どもの送迎がラクになった!」「押し歩き時に電動のアシストが効いてくれると格段にラクになると思っていたら実現してくれた!」など小さな子どもを乗せる機会が多い保護者さんの声とともに実車を展示。

病児・未熟児用となる極小サイズのオムツ。実はこれはオムツメーカーにとっては、採算度外視で開発・販売しているのだそう。小児科医からの感謝の言葉と一緒に、開発者の顔写真入りのメッセージも読むことができます。

誰もが一度は目にしたことがある、高速道路などのトイレ内で忘れ物をしないように、物を載せたトレーを動かさないとドアが開けられない仕組みのドアノブ。

日常で多くの人が助かっている感謝の声とともに数々の展示がありました。

ほかにも、SNSなどで集まった「お礼のつぶやき」をパネル化して天井から吊り下げるなど、趣向をこらした会場では、多くの人がじっくりと時間をかけて見て回っていました。

想定以上の人が訪れた3日間

まずは「#これ誰にお礼言ったらいいですか展」の開催、お疲れ様でした! 

週末を含む3日間の開催でしたが、感触としてはどのようなものでしたか?

中山

ありがとうございます! 通りがかりに「なんだろう?」と興味を持って足を踏み入れてくださった人が多かったと感じています。

飛び込みで入ってこられた方もじっくり見て回っていただいていたのが印象的で。滞在時間も比較的長めだったように思います。

それは嬉しいですね。来場者はどんな方が多かったのでしょうか?

中山

週末の原宿という場所柄もあって、本当に老若男女問わず幅広い層の方々に来場いただけて。10〜20代の若い方も多かったですね。

私たちのチームは30〜40代が中心ですが、自分たちよりも若い世代の方にも興味を持っていただけた光景は、私たちにとっても新鮮でした。

来場者数も最終的には想定の倍くらいになり……。これは嬉しい誤算でした。

「#これ誰にお礼言ったらいいですか展」を開催するキッカケ

そもそも今回の展示会を開催するに至ったキッカケは何だったのですか?

中山

はい、私たちパーソルは「はたらいて、笑おう。」をグループビジョンとして掲げています。今回の展示は、はたらくことを通して、その人自身が感じる幸せや満足感である”はたらくWell-being”を実感してもらう一環として企画しました。

これまでも“はたらくWell-being”の実感を数値化すべく、アンケート調査などは行っていたんです。けれど、データのスコアだけでなく、具体的な事例を知ることで共感が深まり、価値がより伝わるのではないかと考えて。

その中で、「#これ誰にお礼言ったらいいですか(これ誰)」という質問を投げかけることを思いつきました。

展示会の会場でも、お礼の声を投稿できる

ハッシュタグ「#これ誰」は、Xでも盛り上がっていましたよね。

中山

そうですね。生活の中で「これ考えた人、天才!」と感じるような仕事に気づいている人はアチコチにいるんですよね。

そして、「そうそう、わかる!」という共感の声が呼応し合い、ポジティブな空気の中で盛り上がったのだと思います。

それらの声を収集して、イベントの展示のためにセレクトするのは大変だったと想像します。

中山 

中山

はい。総計で約600件のお礼が集まって、どれもこれも素敵なものばかりでしたから。

けれど、展示スペースには限りがある。選び抜く作業が本当に大変でした……。

あれだけの数の『お礼』が集まると、会場全体が温かい雰囲気になりますよね。展示内容を準備する際、何か意識したことはありますか?

中山

「展示を見る人が当事者じゃなくても共感ができるお礼」を選んでいましたね。

たとえば、子育て世代が感じている感謝のメッセージ。でも、それ以外の世代が見ても、「なるほど、そういうところがありがたいんだ」と発見がある展示にしたかったんです。

本人にとっては「当たり前」。けれど、心から感謝をしている人がいる

展示を見ると、お礼を言いたい人の声をただ並べたのではなく、実際にその仕事に取り組んだ人へ取材もされたんですよね?

中山 

中山

はい。担当者を探して、「こういう企画なんですが」と説明して、アポをとっていきました。

もちろんご快諾いただくケースが多かったのですが、最初は「それが仕事ですから……」と遠慮されてしまうケースもあって。

当事者からすると、「仕事として、当然のことをしたまで」ということなんですね。

中山

はい。でも、そこには確実に受け取り手からの感謝の気持ちがあるんですよね。

奥ゆかしい……! たくさんのエピソードを聞いてきた中山さんが、特にお気に入りの展示ってありますか?

中山

うーん、難しいのですが……。

京王線の車掌さんのアナウンスでしょうか。時間帯やシチュエーションによって話し方を穏やかに変えているところに気付かれた方がいるんです。

実際のアナウンスの音声は会場で聴くことができた

安心感のある話し方ってありますよね。

中山

そうなんですよ! 

車掌さんご本人としては当たり前に行っていることかもしれませんが、乗客としてはその配慮に感謝を感じているんですよね。そういった部分をしっかりと照らし出したいですよね。

とても素敵ですね……!

中山

多くのアワード企画などでは、発明やアイディア、または商品そのものにスポットライトが当たることが多いと思うんです。

でも、今回はあくまでその人の「ナイスなお仕事」に共感してもらいたいんですよね。そういう意味では、長野県松本市の道路を補修のエピソードもまさにそういう話でした。

道に空いた穴の修復ですね。

中山

そうです。ボコッと道に穴が空いてしまっていて、そのままだと子どもが通りかかったときに、ケガをする可能性があって危ない。それを、松本市の担当者が迅速に修復したと。

いつも通る道がすばやく修復されると、暮らしている人にとっては嬉しいですよね。

中山

そうですね。これもまた担当者さんとしては「当然のことをしたまで」という感覚なんですよね。

でも、市民は確実に安心を得られているわけで……。

普段はなかなか直接聞く機会はありませんが、自分の仕事の先に感謝が確かにあるって、温かい気持ちになりますよね。

中山

そうなんです。

来場者さんとはなかなか直接お話はできなかったのですが、友人同士で「これ、わかるー!」と共感し合っているのをよく見かけました。

ポジティブな感想が聞こえてきて、私たちもモチベーションがあがりましたね。

どうしたらWell-beingを感じられるようになる?

最後に、私たち一人ひとりがどうしたら働く中でのWell-beingを実感できるようになると思いますか?

中山

今回の展示会を通じて、仕事の先には確実に誰かがいるってことが実感できるキッカケにはなったかなと思います。

でも日頃、お仕事をしているとなかなか褒められるケースって少ないですよね。私たちの業務もプロジェクトの期間が長いことがほとんどで、手応えを感じる場面が少ないというか。

確かにそうですよね……。

中山

でも、実際に「#これ誰にお礼言ったらいいですか」と思えるお仕事があれば教えてください、とアンケートを取っていたときも、すごく協力的な方が多かったんです。

最終的には、その仕事の担当者さんを探さないといけないため、スタッフがさらに詳細を口頭で伺ったりもしたのですが、みなさんすごく熱く語ってくださって……。

「誰かのいい仕事」に気づいた時って、嬉しいですよね。

中山

そうなんです! そこに気付けた私、ナイス。そこにスポットライトを当てられた自分たちもナイス。あらためてそれを実現してくれた当事者さん、ありがとう!みたいな……。

手前味噌ではありますが、そういう感謝の循環を感じられるって素晴らしいことだと実感しています。

まずは誰かにお礼を言うところから始めてもいいのかもしれませんね。

中山

はい。「はたらく」を考えた時に「毎日の仕事が最高!めちゃくちゃ楽しい!」みたいな人って、すごく少数派だと思っているんです。

実際は、ちょっと嫌なことがあるけれど、たまにちょっといいこと、嬉しいことがある。そんなふうにごちゃ混ぜな状態……というほうがリアルで。

確かにそうですね。

中山

さらに、普通に過ごしているとついついネガティブな感情のほうにフォーカスをしてしまう傾向があると思っていて。

実際に、“はたらくWell-being”のグローバル調査でも、日本のランキングの低さに注目されがちなんです。

引用:パーソル、第4回「はたらいて、笑おう。」グローバル調査結果発表(https://www.persol-group.co.jp/news/20241122_01/)より

中山

もちろん国民性の影響もあると思いますが、こういった結果になる以上、伸びしろや改善点はあります。

だから、仕事のポジティブな面にもっとフォーカスをしてもいいと思うんです。

遠慮や謙遜をしたりする方も多い日本だからこそ、「誰か知らない人がやってくれている、ナイスな仕事を教えてください」という問いかけはちょうどいい温度感なのかもしれませんね。

自分が気づいた、「とっておきの素敵な仕事」をシェアするような感覚というか……。

中山

そうですよね、実は自分だけが気づいていたと思っていたけれど、他にも感謝している人がわかると嬉しくなったり。

「#これ誰にお礼言ったらいいですか」を通して、仕事の良い面を見て感謝しあえる文化が根付くところまでいけたらいいな、と妄想しています。

素敵ですね。いつか、自分も感謝されるかもと思ったら、ワクワクしてしまいます。

中山

わかります。

まだ決まっていませんが、できれば毎年、勤労感謝の日の前後の1週間だけでも、皆さんがお互いの仕事への感謝の循環を感じられる機会を作っていけたらと思っています。

このプロジェクトが末永く続いていくことを願っております。今回はありがとうございました!

2024年11月・12月取材

執筆・撮影=赤坂太一
編集=鬼頭佳代/ノオト