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部員は100名以上! 三井不動産のアート部が生み出す熱量の源は?

ビジネスの世界では、効率性や生産性が重視される一方で、創造性や革新性の重要性も高まっています。そんな中、三井不動産のアート部では、アートを通じて社内に新たな風を吹き込んでいます。

発足からわずか2年足らずで、現在の所属メンバーは100名超。部署や年次を超え、社内に新たなつながりが生まれているようです。今回は、アート部の立ち上げに携わり、2代目部長として活動する出樋(だすぜ)幸裕さんに、立ち上げの経緯や部活動が仕事に与えた影響を聞きました。

出樋幸裕(だすぜゆきひろ)
三井不動産株式会社。現在、三井不動産レジデンシャル株式会社出向。三井不動産 尚和クラブ アート部2代目部長として活動中。

「なんか面白いことをしよう!」集まった3人から始まったアート部

まず、不動産の会社の中にアート部があるということが珍しいと思いました。

具体的には、一体どんな活動をしているのでしょうか?

出樋

普段は社内で使っているMicrosoft Teamsにスレッドを立てて社内外のアート関連の情報共有を行っています。

また、3カ月に1回ほどはギャラリーや美術館、芸術祭などへみんなで出かけたり、作品の制作をしてみたり、型を決めずにさまざまな活動しています。

香川県・直島へ合宿へ行ったときの様子(提供写真)

アート部には、100名以上が参加されていると伺いました。すごい規模ですね……!

出樋

ありがとうございます。Microsoft Teamsのアート部スレッドに入ってきてくださった人はみんな部員としていて。

練習とかもないですし、入部したら名簿に名前と興味のあることを書く程度と参加ハードルは低めにしていて、非常に緩い繋がりの中で運営しています。「アート」というだけでハードルが高くなってしまうのが嫌で。

どんな方が入ってくるのでしょうか?

出樋

本社が東京なので都内在住社員がメインですが、部署も年齢も性別もバラバラです。ほぼ全部署に近いくらいの広がりがあり、アートが好きな人や興味ある人が評判を聞いて入部してくれています。

社内報には取り上げてもらったこともありますが、それ以外は特に積極的な宣伝は行っていません。ありがたいことに口コミで広がりました。

アート部を設立したきっかけについて教えてください。

出樋

2022年8月に、私を含む3人のメンバーで設立しました。

きっかけは私が入社後に配属された関西支社で、当時の先輩たちと一緒に「何か面白いことをやりたい」と話していたことです。そのときは、今のような部活とは全く違う形を目指していました。

部活ではないとなると、どんなことを構想していたのですか?

出樋

実は、先輩たちと一緒にアートをテーマに社内の新規事業提案制度を使って社内起業しようとしていたんです。

でも、2〜3年やってもなかなか審査を通過できず……。かといって、このまま辞めてしまうのはもったいない。

それで、社内のアート好きたちを集めてできることをしようと、アート部を立ち上げました。

事業にしろ、部活にしろ、アートに目を付けた理由は何でしょうか。やはり、アートがお好きだったのですか?

出樋

いえ、最初はアートについてはまったく知識がありませんでした(笑)。

三井不動産は、大規模なまちづくりや再開発などを行っている会社です。当時はちょうどコロナが大流行していた時期で、社会が一時的にオンラインにシフトしてリアルの価値が改めて問い直されたなか、私なりに街に出る理由を考え直したんです。

それで、街に出る一番の魅力は、何か面白いものに偶然出会えるセレンディピティではないかと考えたのです。

それを生み出すために、街に必要なものとしてアートにたどり着きました。

アートがあることで、まちづくりにセレンディピティ的要素を加えられると思ったのはなぜですか?

出樋

私は、アート自体が既成概念を壊していく動きであり、「普通」とは違うさまざまな視点で世界を見ている方々が作り上げているものだと感じています。

街にアーティストの方がいると、想像しない何か起きる。そこにアートがあるだけで、自分が普段考えていないことが起きる。

我々の中に、「アートによって驚きや発見があるわくわくする街が生み出せる」という感覚があったのです。

自分の原動力。アート部が仕事に与える影響

アート部の活動が仕事に良い影響を与えていると感じることはありますか?

出樋

今、私は分譲マンションの開発担当なのですが、アート部がきっかけで担当しているマンションのエントランスにアート作品を導入することに繋がりました。

提供写真

出樋

マンションが建っている地域にあった植物や風景のストーリーを反映した作品で、アート部で知り合った会社さんを通して作ってもらったものです。

あと、人間関係の面においても、メリットを感じています。

それは社内の人間関係ですか? それとも社外?

出樋

社内です。本業では、どうしても部署や肩書き、社歴などの立場があります。

しかし、部活の中では上下関係なくフラット。職位が上の方とでも、フランクに話すことができるし、仲良くなれる。人間関係が広がったことで、仕事もしやすくなりました。

提供写真

出樋

実は、私はまだ本社配属になったことがなくて。

でも、アート部で開催しているイベントに足を運ぶと、他の部署の人と現地で直接会って話すことができる。

部活を通じて本社の知り合いができたことで、気軽に質問できるなどいい関係を築くことができました。

「部活」という形式だからこそのメリットを感じたことはありますか?

出樋

出入り自由なところがいいと思っていて。その分、熱量が高い人が自らイベントを企画してくれたり、興味がある人がそれに参加したり色々な人が肩肘はらずにいられる場所になっていると感じています。

リアルイベントを実施すると20〜30人ほどが集まって、その場にいる人の熱量でかなり盛り上がるんですよ。

ちなみに、部活を始めたことで、出樋さんご自身のアートへの向き合い方に変化はあったのでしょうか?

出樋

最初、アートへ興味を持ったのは事業化したいという目線でした。でも今は、新しいインプットとして純粋にアートを楽しむことができていると感じています。

一方、いま関わっている住宅開発事業では、アートが取り入れやすいので、どこまでうまく連携できるかということも考えてしまいますね。

このアーティストが街に来てくれたら、もっとおもしろくなるだろうな、などアートの視点で街を見るようにもなりました。

社内起業という形ではないものの、仕事とのいい関わり方を見つけられたんですね。

出樋さんの中で、アート部ってどういう存在なのでしょうか?

出樋

立ち止まらない原動力になっています。本業はもちろん忙しいですし、部活だから肩の力を抜いてもいいかな、とも思うのですが……(笑)。

やっぱりアート部をもっと動かしたい、いい形で存続させたいと思うと、もう一踏ん張りできるんです。

ご自身を動かすものになっているとは、すごいですね。

出樋

言い過ぎかもしれませんが、もしアート部がなかったら最低限だけのことを考えて仕事をしていたかもしれません。

でも、今は「新しい価値を生み出すにはどうすればいいか?」を自然と考えるようになりました。

アート部という新しいことを生み出すことができる場所があるから、やりがいにもつながるし、精神衛生上も前向きになれていいんです。

もしアート部がなければ、もっと型にはまった考え方をしていたかもしれません。アートに触れたことで考え方にも幅が生まれたし、自由度が増したと感じています。

アート部は社内の横串機能。これからは作るワークショップも

社内におけるアート部の存在意義についてどのように感じていますか?

出樋

社内に「横串を刺す機能」になるのではないか、と思っています。

社内には魅力的な人がたくさんいて、面白い事業を行っています。そういう人たちがアート部を通して、知り合って別々だった活動がつながって一つの形になっていくという広がりが生まれていくと思っています。

今後、アート部として挑戦したいことや目標はありますか?

出樋

まずは、アート部の存在感を高めていきたいです。

当社はグループ会社だけでも200社以上あります。まだまだ広げられるかなと考えています。ぜひグループ会社からもアート部に参加してほしいですね。

あと、自分たちで何か作品をつくるワークショップや、それらを展示する個展も開催したいです。

夢が広がりますね!

出樋

今は部活動という形式ですが、長期的には事業部などの形式になっていけば嬉しいですね。

そうしたら、何か大きなイベントやアーティストの活躍の場もつくりたいですね。

お話を聞かせてくださり、ありがとうございました!

2024年7月取材

取材・執筆=ミノシマタカコ
アイキャッチ制作=サンノ
編集=鬼頭佳代/ノオト