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メール署名欄が自己紹介をDXする?「ByName」が考えるビジネスメールの未来(対馬誉仁さん)

チャットワークにSlack、Teamsなど様々なビジネスコミュニケーションツールがあります。でも、インターネットがビジネスで使われるようになってから、今も変わらず使われ続けているメールも、ビジネス上でのコミュニケーションには欠かせません。

しかし、メールだけでやりとりをしていると、コミュニケーションを重ねているはずなのに、いつまでたっても相手の「人となり」がなかなか見えてこないものです。

そのような中、メールの署名をきっかけに“自己紹介をDXする”サービス「ByName」が、2023年9月にリリースされました。

「今の時代に、なぜメール署名?」という素朴な疑問から、ビジネスコミュニケーションにおけるメールの立ち位置、“自己紹介をDX”することでビジネスにどんなメリットが生まれるのかなど、株式会社バイネーム 代表取締役CEOの対馬誉仁さんに聞きました。

対馬誉仁(つしま・たかひと)
株式会社バイネーム 代表取締役CEO。起業家・エンジニアスクールG’s Academy主宰のGGA(Global Geek Audition /プロダクトデモデー)にてByNameを発表し、同日に法人を設立登記。2023年9月に無料版をリリースした。他にも富裕層向け家事代行サービスを提供する株式会社ロビー、香川の家電販売店タケヤ電機株式会社の代表取締役も務める。

お互いの情報が事前にわかれば助けになる

ByNameは、仕事のキャリアや趣味などのプロフィール情報をまとめたページをAIが生成し、メール署名に顔写真と合わせて入れられるサービスですよね。

いわゆるメール署名をリッチにしたサービスに見えますが、具体的にどのようなビジネスシーンで活用できるのか、事例を教えてください。

対馬

大きく分けて、社外と社内があると思います。

社外の場合、わかりやすいのが営業です。新規顧客を開拓したい場合に、メール署名に載っている情報は会話のきっかけや差別化要因になります。

また、人材採用でも活用できます。例えば、面接官の署名に顔写真や人となり、会社に入ってからのキャリアなどの情報があれば、「こういう人が面接官なんだ」「こういう会社なんだ」と応募者に知ってもらえ、面接時の安心感にも繋がるのです。

ByNameで作られた「フライヤー」と呼ばれる署名。相手から受け取ったフライヤーは後からまとめて閲覧できる(提供写真)
フライヤーのリンクをクリックすると、AIが生成したさらに詳細なプロフィールページを閲覧できる。(提供写真)

確かに、応募者側は様々な不安を抱えていると考えると、顔写真ひとつでも印象が変わりそうです。

対馬

一方で、応募者側が使うことにもメリットがあります。最近はオンラインでの面談や商談も増えていますよね。でも、それだと相手のことも覚えられないし、印象も薄くなりがちです。

だからこそ、事前にByNameの署名を通して相手を知ることは、コミュニケーションの助けにもなりますし、後からも相手を思い出すきっかけになります。

社内に対してはどうですか?

対馬

大企業の場合、直接は顔を合わせず、ツールでの連絡やりとりだけで仕事している人も少なくありませんよね。また、本社と支店だったり、配属が変わったりすることもあります。そういう場合も、新たに関わることになる人のことを事前に知っておけば、チームビルディングにも役立ちます。

実際、私が経営する会社でも、やりとりはするけど顔を合わせたことのない社員がいる状態なんですね。でも、ByNameの情報があることで会話のきっかけが生まれたりしています。

ビジネスにおける自己紹介は難しい!

最近のメール署名はシンプルなものが多いと感じているのですが、なぜこのようなプロダクトを開発することにしたのですか?

対馬

私自身も仕事として、営業で来られる人と会ったり、採用面接を行ったりしていて、初対面というシーンがとても多いんです。でも私自身、自己紹介が苦手で。うまく話しきれていない感覚がありました。

同時に、ビジネス上で相手から聞いた話の詳細も覚えきれず、「うまく自己紹介できていないのでは?」と感じたことがきっかけでした。

たとえば、どんなときですか?

対馬

すぐ商談に入ってしまったり、大人数がいる場面でお互いのことを知ることなく終わってしまったり……。

ほかにもプロジェクトが終わったあと、関係者と初めて飲んだときに「実は同郷だった!」などの意外な共通点を知って、そこから打ち解けたり。

事前にその情報を知っていたら、もしかしたらもっとスムーズにコミュニケーションがとれたかもしれないですよね。

対馬

そうなんです。

それに自己紹介をするときって、だいたい毎回同じ話をしているんです。だからこそ、ビジネスの初対面で行われる自己紹介が、もっとスムーズで快適になるプロダクトを考えました。

名刺とはどう違うんでしょうか?

対馬

交流会などで名刺交換したあとに、「あの人は、結局どこの人だっけ……?」となること、ありませんか?

よくあります……。交流会など多くの人と名刺交換すると、かなり混乱します。

対馬

名刺に載せるのは主に連絡先ですよね。ByNameでは、フライヤーにはその人のいろんな情報が載っています。

自己紹介し終わったあとに、忘れたことがあっても失礼になるかもしれない……と思うと聞けないですよね。でも、フライヤーを確認すれば書いてある。あとからでも思い出せる点がメリットだと思っています。

なるほど。

対馬

自己紹介として自分のことを話すのは照れくさいですし、どこまで話せばいいのかわからない。話したところで、相手にどう思われているのか不安になってしまって。

そんな自分の悩みを周りに伝えたところ「自分も」という人がたくさんいました。それで、「もうちょっと自己紹介をしやすくする方法があるのではないか?」と思ったことも開発のきっかけでした。

社内だけで仕事している人ならともかく、社外の方と接することが多いタイプの職種では、同じ悩みを抱えている人が多そうですね。

対馬

私は家事代行の会社を経営しているんですが、この事業ではまず人を集めることが大切なんです。

そのためには、私自身がどのような人か発信する必要がありますし、相手がどのような人か聞き出さなくてはなりません。そうやって初対面のコミュニケーション機会が多い環境だからこそ、この課題を強く感じやすかったのだと思います。

ビジネスにおける新規やりとりの窓口はメール

今、ビジネスコミュニケーションツールは多岐にわたります。その中で、あえてメールの署名に注目した理由についても教えてください。

対馬

様々なツールが出てきても、メールはビジネスコミュニケーションのなかでいまだに8割近いシェアがあると言われています。つまり、メールを使っていないビジネスパーソンは少数派なのです。

いろいろなツールを使っていても、名刺にはメールアドレスしか書いていないことも多く、新たなやりとり窓口としてメールが存在し続けているのです。

プライベートのツールはLINEやSNSに置き換わりましたが、ビジネスの現場ではまだまだメールでのやりとりが残っていますよね……。

対馬

メールって、何十年前からあまり変わっていなくないですか?

確かに……。HTML対応などはありますが、ビジネスメールはテキストが基本です。

対馬

そうなんです。他のSNSだとスタンプや写真、画像でやりとりできるのに、ビジネスメールはテキストのみのまま。なので、メールを改善することに大きな可能性があるんじゃないかと思ったのです。

なるほど。変わらないものだからこそ、チャンスがあると感じたのですね。

対馬

私のもとには多くの営業メールが届きます。どのメールも文字だけで特徴がなく、ほとんど読みません。

でも、中には自作で写真やプロフィールを入れたメールを送ってくる熱心な営業さんもいます。自分で何かを開拓しようという人にとって、メールの書き方は他との差別化ポイントになる。そういった意味でも、「メールを変える」というのは、ニーズがあると感じました。

仕事を開拓したい人にとっても、メールはまだ工夫の余地があるツールなのですね。

生身の人間であることの証明がAIとの共存のヒントになる

これからさらにビジネスコミュニケーションツールは増えていくと思うのですが、今後、メールの立ち位置はどうなると思いますか?

対馬

引き続き、ビジネスにおけるオフィシャルな入口であり続けると思います。むしろ、他のツールが増えることで、入口というメールの役割が際立っていくかもしれません。

だからこそ、今のような文字だけの羅列ではなく、写真やプロフィール情報を載せる意味があると考えています。人を軸とした、他社との差別化が実現できるでしょう。

特に営業や人材獲得といったシーンでは、メールを差別化することで、結果が現れやすくなると考えます。

メールアドレスは個人が持つものだからこそ、「人を軸とする」ということなのでしょうか。

対馬

サービス業は特に顕著なのですが、結局のところ差別化要因となりうるのは「人」なんです。

たとえば、営業に対して「商品を売り込め」といっても、具体的に何をすればいいかわからないこともある。商品に興味を持ってもらうきっかけを作るためには、自分の情報を共有することがスタート地点だと思うんです。

一方で、ビジネスシーンで個人情報を伝えすぎることがトラブルに発展するケースも想定できます。また、組織の中には自分のことをあまり開示したくないというスタンスの方もいますよね。

対馬

もちろん開示することでのメリット・デメリットはあります。

とはいえ、私個人の意見では今後、自分のことを開示して生身の人間であることが証明できないと、AIに仕事をとってかわられやすくなると思います。

それは、どうしてでしょうか?

対馬

これから価値をもつのは、個人の経験に紐づいた技術力が必要な仕事ではないかと考えているからです。そういう意味で、自分がどういう人間であるかを証明する、自己紹介というイベントが必要なのだと思います。

このプロダクトの本質には、「人間とAIがどうやって生きていくのか?」という私が感じている問題意識があるんです。

これから人間は、AIやいろんなツールを使って生きていくでしょう。そのために、自分の情報をオンラインに載せる必要があるんです。ByNameはあくまでも、その入口なんです。

なるほど。オンライン上での自己開示というと、これまでSNSで多くの人は体験してきたのではないかと思います。

それらとByNameとの違いはどのような部分にあるのでしょうか。

対馬

SNSでは、実に様々な情報が出入りします。でも、ByNameはビジネスで使うメールのためのツールです。ビジネスにおける、リアルな自分自身がByNameの上にあると考えています。

昔はFacebookがビジネス的なポジションを取っていた時期もありましたが、だいぶ変わってしまい……。さらにLinkdInも流行らず。

日本ではビジネスについて発信する「ちょうどいい」ところがないと考えると、ビジネスにおける「ちょうどいい」場になる可能性がありそうですね。

対馬

ByNameは従来のSNSのように、「いいね」したりコメントしたりということもなく、あくまでもその人自身を客観的に表現し、オンラインに載せるかという部分だけを考えています。

これまでのSNSとは、見ている方向性そのものが違うのだと思います。

ありがとうございます。最後に今後の展開について教えてください。

対馬

今は最低限の機能だけで、実現したいことの10%も実装できていない状態です。

これからはより人との関係性において便利に使いやすくなるように、機能を盛り込んでいきたいですね。

2023年11月取材

取材・執筆=ミノシマタカコ
アイキャッチ制作=サンノ
編集=鬼頭佳代/ノオト