職人とアーティストで「ヒューマン・ビジット」を生み出す! 拡張万博を目指す大阪府八尾市「EXPO酒場」レポート
2025年に開催を予定している大阪・関西万博。各国の叡智やアイデアが集結する世界的イベントの幕開きまであと800日を切りました。
「万博って、結局何をするの?」「自分には関係なさそう」「興味はあるけど、どうやって関わればいいのかわからない……」と、どこか「他人事」に捉えてしまう人が多いのでは?
その万博に向けて「勝手に」盛り上がり、続々とたくさんの人を巻き込み、共創の渦を生み出しているのが、有志団体「demo!expo」。本連載では、彼・彼女らが生み出すムーブメントを取材していきます。
「demo!expo」が全国各地で開催している、万博やまちづくりへの想いがある方が交わり語り合うイベント「EXPO酒場」。今回の舞台は大阪府八尾市です。
2023年2月28日(火)、会場である「みせるばやお」に、万博に関心のある市民や経営者など120人以上が集まり、まだ夕方であるにもかかわらず熱気に包まれていました。
八尾市は、自然の豊かさと立地の良さを兼ね備え、中小メーカーが多い町。ものづくりに強いという地域の特徴を生かし、万博を盛り上げたいと考えているそう。
この町で、万博に向けて何が起ころうとしているのか。大盛り上がりだった当日の模様をレポートします。
万博効果は会場の外へ広がっている
「EXPO酒場」に先立ち、同会場では八尾市による講演「八尾ものづくりカレッジ『拡張万博の効果を八尾へ』」を開催。大阪・関西万博に参画していきたい経営者などが集まりました。
まずは大阪・関西万博に関する専門家が登場。最初に登壇した一般社団法人アジア太平洋研究所の稲田義久さんは、「大阪・関西万博は夢洲という会場に留まらず、関西地域全体を会場と見立てることができる」と語ります。
これを「拡張万博」とし、関西全体で万博を盛り上げることによって予想される経済効果を示しました。
次に登場した近畿経済産業局の石原康行さんは、「前回のドバイ万博に比べて、大阪・関西万博の会場は物理的に狭い。だからこそ、会場だけにとらわれない人々の感覚が大切」と力説します。
稲田さんと同じく「拡張万博」という考え方に期待を寄せ、その中心に八尾市が立つ可能性を示唆。さらに海外へのビジネス展開につながるヒントも紹介しました。
その後のトークセッションのテーマは「八尾市の可能性」。
八尾市はものづくりが盛んで、ヒトとモノの流通の十字路とも呼べる存在。その利点を生かして他地域としっかり連携し、来場者のワクワクと感動を誘いながら、会場に訪れる世界中の人と濃密な交流を持つべき――。
いまだ開催への実感を持ちづらい大阪・関西万博に、八尾の特徴やリアルな状況を絡ませることで、八尾の人々が「じゃあ、自分なら何ができるだろうか」と想像が膨らむ。多くのヒントが飛び交う時間でした。
参加者120人超! EXPO酒場八尾店が開店
大阪・関西万博へのイメージが膨らんだところで、いよいよ「EXPO酒場」が開幕!
乾杯の第一声は、今回の「店長」を務める松尾泰貴さん。以前は八尾市役所に勤め、市内の町工場をさまざまな取り組みで繋いだ立役者です。
現在は八尾市にある友安製作所に勤務しながら、ものづくりの町・八尾を盛り上げるべく奮闘しています。
「皆さんでどんどんアイデアを出していきましょう。この場が共創の場になりますように」というかけ声のもと、乾杯!
ビールやハイボールなどのドリンクや、八尾店の女将である髙島さんお手製の何十種類ものおつまみが振る舞われ、まさに「酒場」となった会場は、スタート直後からさらに熱気を帯び始めました。
参加者は、地元の町工場の経営者や、関西在住のアーティスト、そして八尾市やその周辺の自治体関係者たち。めいめいが飲み物を片手に交流し始め、そこかしこで「初めまして」の輪が広がりました。
交流が深まる中、会場前方ではプレゼンテーションもスタート。まずは店長の松尾さんと、副店長を務める株式会社ロフトワークの小島和人ハモニズムさんにより、「ものづくりの街×万博だからできること」をテーマにプレゼンテーションが行われました。
松尾さんは、「町工場がさらに発展していくには、今までにない新しい発想が必要です。そこで求められるのが、既存の枠を破壊して新しい発想を現実世界に生み出すアーティストたちの発想ではないか」と語りました。
ヒューマン・ビジットで、万博は人を通じて拡張する
今、松尾泰貴さんと小島和人ハモニズムさんは、大阪・関西万博2025に向けて、とあることを目論んでいます。それは、町工場とアートをつなぎ、新たな価値を生み出すこと。一見違う分野の2つをどうしてつなぐのか。そこからどんな未来が生まれるのか。コラボレーションの必要性と、万博との関係について伺いました。
どうして八尾の町工場とアートを結びつけるのでしょうか?
WORK
MILL
松尾
最近のものづくりの現場は、仕事が減少したり、人手不足だったり、苦しい企業が少なくありません。
この状況を乗り越えるには、自分たちの意志で何かを発信したり、自己表現したり力が必要です。でも、多くのものづくり企業はそれが得意ではありません。
どうしてでしょうか?
WORK
MILL
松尾
大手企業の下請けが収益の大半である場合、クライアントの要望や規格に沿ったものづくりをし続けてきているため、自分たちがやりたいことを実現したり、何かを表現する機会が多くありません。
だから、今さら急に「自分たちが心から面白いと思えるものづくりを」と言われても、難しいんです。
でも、僕からみれば町工場ってとても面白いんですよ。たとえば、同じ金属加工でも企業によって扱う材料や加工方法、技術はまるで違います。町中の工場を巡るのは、まるでUSJのアトラクションを巡るみたいに面白いんですよ。
そこにアートの視点を加えるわけですね。
WORK
MILL
松尾
はい、そうです。アーティストさんは毎日発想力を磨く訓練をしています。そんな人とコラボレーションしたら、町工場に新しい発想が生まれるかもしれません。
そこでアーティスト側の視点に立てるハモニズムさんが、力を発揮するんですね。
WORK
MILL
ハモニズム
私はアーティストとして活動したり、プロデューサーとしてアートに携わることも多いのですが、「アートならではの感性や感覚を通して、伝えた相手や物事が変化していく」という経験を何度もしてきました。
アートと町工場の組み合わせで、同じような変化が起きたらいいなと思っています。
松尾
期待しているのは、町工場が自由な発想を持てるようになること。大阪はもともと試行錯誤が得意な町です。回転寿司や自動改札機も関西発祥ですから。効率化や顧客のニーズを元に「とにかくやってみよう!」と開発に取り組んだのだと思います。
僕はゆくゆく、八尾の町を万博のサテライト会場にしていきたいと思っているんです。
町工場も中小企業経営者も、みんな万博に関わりたいと思っています。でも方法がわからないし、資金もない。それなら自分たちの方法で、万博会場に来るお客さんを八尾に呼び込みたいです。
ハモニズム
万博って、一種の大きな実験場だと思います。アートもものづくりも、100回やって100回うまくいくわけではなく、100回のうち10回うまくいけばいい方です。
その中で1回くらい「ヤバい!」と鳥肌が立つようなすごいことが起こるかもしれませんね。
具体的にどんな取り組みを考えていますか?
WORK
MILL
松尾
八尾市は、大阪・関西万博で大阪府内の自治体で唯一「大阪パビリオン」への出展が決まっています。そこに、「大阪」を表現したアート作品を展示したいと思っています。
「町工場とアーティストがコラボレーションして、こんなに面白いことをやっているんですよ」とアピールして、八尾や周辺地域に興味を持ってもらうんです。
ハモニズム
「人が来る」というのが大事ですね。
松尾
技術に出会う場所を「テクニカル・ビジット」といいますが、それなら万博は「ヒューマン・ビジット」だと思います。
人に出会う機会を創出し、その地域のことや歴史を知る。それをもっとやりたいですね。八尾という町は、知れば知るほど面白いし、何なら関西全域が面白いですから。
まさに拡張万博ですね!
WORK
MILL
ハモニズム
アーティストの立場を理解できる私と、町工場の立場を理解できる松尾さん。私たちが双方の通訳士となり、まったく違う考えをもつアーティストと町工場の職人たちをつなげられたら、何らかの化学反応が起きるんじゃないかと思います。
万博だって、いろんな言葉や文化を持つ人が訪れ、普段は縁のない人々が出会う場所なんです。爆発くらいのことがおきたって不思議ではないですよ。
松尾
まさに、芸術は爆発ですね!
一見すると対極的な存在の町工場とアート。この2つがタッグを組むことで可能性と表現のタネを生み出そうとしています。
面で広がる拡張万博をきっかけに、全国へ、そして世界へ広がる
「EXPO酒場」は、18時30分から21時まで続きました。すでに八尾やその周辺の人たち一人ひとりが、「万博」をキーワードにつながる。「ヒューマン・ビジット」でさらに大きなムーブメントが起きそうな予感をさせる濃密な時間でした。
まさに点と点、人と人とがつながって大きな面となり、大阪・関西万博の会場である舞洲が拡張していく絵が見えるようでした。
関西人のもつチャレンジ精神で、万博開催中は世界とダイレクトにつながり、万博が終わってからもつながり続け、未来を築いていくのではないでしょうか。躍動する一人ひとりが見える、希望に満ちた1日でした。
2023年2月取材
取材・執筆:國松珠実
写真:古木絢也
編集:桒田萌(ノオト)