WORKPLACE GLOBAL REPORT オフィスからワークプレイス、そしてその先へ
この記事は、“はたらく”にまつわる研究データをまとめた冊子「WORK MILL RESEARCH ISSUE01 はたらくを自分で選ぶ」(2019年11月発行)からの転載です。
海外では日本よりもさらにオフィスの概念が広がり、生活に必要なあらゆる設備を兼ね備えていたり、あるいは地域の人々が交流したりする場として進化している。進化の最先端にあるユニークな事例をレポートする。
オフィスとは、人と情報を集め事務作業を効率的に行うことを目的とした建物や空間で、これらが広がったのが18世紀後半の産業革命後だと言われている。20世紀半ばからは、ITの進展もあり人々の働き方が多様化し、特定の建物だけでなくあらゆる場所が仕事の場となる「ワークプレイス」という概念も生まれてきた。そして現代の働く場は、内装や家具、建築など空間の形態や制限を変え、そこでの人々の行動や意識までも変わり、もはや目的すら多様化してきている。そのようなオフィスの進化を海外の事例と共に紹介する。
暮らすように働くタウン型ワークプレイス
ヨーロッパ最大級の放送事業者SKYの本社オフィス「スカイ・セントラル」は広大な敷地の自然あふれる素晴らしいキャンパスにある。この建物には仕事をするワークスペースだけでなくカフェやレストラン、デジタルシアター、キャッシュレスのスーパーなども存在する。さらにキャンパス内には自転車ショップ、スポーツジム、ビューティーサロンまでが兼ね備えられ、1つの街のような環境である。
ワーカーたちは、街のようなこのオフィスの中をまるで生活するように行き来する。そして、職種、仕事内容からその日の気分などに合わせて、使用する場所や施設を選択する。そこでは、働くことはもちろん、休んだり、時には運動したりと、自由に過ごしているのだ。放送事業という業種柄、長い時間をオフィス内で過ごさなければいけない。そんな彼らにとってオフィスという働く場所に、「働く」だけでない生活する機能を同居させることがパフォーマンスの最大化につながる。まさに人間の自然な営みを取り込み暮らすように働く場所なのである。
五感で感じる植物園型ワークプレイス
シアトルの街中に突如現れたガラスの球体。街の新たなシンボルになりつつあるこの建物の名は、「アマゾン・スフィア」。アマゾン社が2018年につくった植物園である。世界300以上の国から4万本以上の植物を集め、徹底された管理のもと育てられている本格的な施設である。この植物園は、最大800名収容できる彼らのワークプレイスでもある。およそ4万人のワーカーに解放されたこの空間で、彼らは主にクリエイティブな発想を生み出すために活用しているという。
緑や花の香りが漂う森林のような環境で集中したり、メンバーとミーティングを行ったり、コーヒーを飲んでリラックスしたり、植物を鑑賞しながら散歩をすることも。鳥の巣のようなユニークなデザインのベンチも用意されている。そして一般にも無料ツアーが行われ、地域住民や観光客もこの施設を訪れている。人々の植物園でもあり、ワークプレイスでもあるこの場所は、アマゾンが街や人々に用意した都会のオアシスなのである。
多義化していく「オフィス」
オフィスという空間が広がり、100年以上経つ。技術の発展、ワークスタイルや価値観の変化も伴い、その空間は「働く」の枠を超え、柔軟に、そして大胆に進化している。あるオフィスは住居や街のようであり、あるオフィスは植物園であったり・・・。そしてこれらは一例にしか過ぎなく、まだまだ想像もつかないようなオフィスが、今も世界で生まれているのだろう。オフィスからワークプレイス、そしてその先は? 多くの人々に生産性や創造性、楽しみや驚きを与えるその場所に、無限の可能性を感じずにはいられない。
2020年1月22日更新
テキスト:山田雄介(オカムラ)
写真:オカムラ、Julia Grassi、Amazon Inc.