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「ZeBrand」を生み出した老舗モリサワの若きイントレプレナー ー 10倍の目標を掲げるチームづくり

国内フォント業界最大手のモリサワが、今年2月、米国市場向けに新規事業を立ち上げました。「ZeBrand(ズィブランド)」と名付けられたそのサービスは、スタートアップのブランディングを支援するツールキットを自動生成するというもの。ビジョンや事業領域、ロゴなどをインプットすると、独自のアルゴリズムとAIがその企業に合ったカラーやタイポグラフィーといった要素を含むブランドツールキットを提案してくれます。

そんなサービスを世に出したのは、新規事業部門「MORISAWA BRAND NEW Lab(以下MBNL)」。既存の枠にとらわれない“モリサワの新しい柱”をつくるために設立されました。

チームをまとめる菊池諒さんは、どのように老舗企業内でイントレプレナーとして走り、新しいサービスを生み出したのか。事業やチームが生まれた背景をはじめ、マインドや仕組みづくりなどについても伺いました。

モリサワの課題を解決するために生まれた「ZeBrand」

WORK MILL:まずは、新規事業部門「MBNL」が生まれた背景について伺いたいです。

ー菊池諒(きくち・りょう)
1986年生まれ。2008年モリサワ入社。 営業本部を経て、12年米国の美術大学Rhode Island School of Designにリサーチフェローとして留学。帰国後、アプリ・フォント部門を経験し、17年10月にMORISAWA BRAND NEW Lab設立。

菊池:きっかけは、モリサワが抱えていた課題です。当社は国内でトップシェアを誇っているフォントベンダーですが、海外企業での知名度は高くありませんでした。Google社やAdobe社もフォントを手がけている状況を踏まえると、新しい柱となる事業を、早急につくっていく必要がありました。そこで、経営陣に「業界の枠を越えた視点が必要です」と提案し、留学経験のネットワークを活かせるNYで2カ月ほどリサーチを行ったのち、新規事業チームの立ち上げを打診しました。

WORK MILL:迅速かつ柔軟な対応に、菊池さんだけでなく会社の本気もうかがえます。そうして立ち上がったMBNLは、まず何から着手したのでしょうか?

菊池:アメリカのミレニアルズをリサーチし、ユーザーにフォーカスしたプロトタイピングを進めました。テーマは「プロジェクト制の働き方が増えるなかで、チームの一体感や統一感を高めるサービスが必要なのでは?」「生まれては消えていくスタートアップ企業に、成長し続けていくためのサポートはできないか?」など。数年後には、50%以上の人材が一定の企業にとどまらない働き方をする、といったデータもあります。そうした背景から生まれたのが「ZeBrand」です。

WORK MILL:「ZeBrand」について、簡単に説明していただけますか。

菊池:企業名や事業領域、ビジョン、ミッション、コアバリュー、ロゴなどをインプットすると、独自アルゴリズムとAIがその企業に合うカラーやタイポグラフィーといった要素を組み合わせた、ブランドツールキット提案してくれるツールです。基本的にブランドツールキットを無料で生成することが可能なフリーミアムモデルですので、社内にデザイナーを抱えていなかったり、予算や時間的余裕のない企業でも、手軽にブランディングの第一歩を踏み出せます。初期ターゲットは、2~10名程度のスタートアップ。そうした企業の創業者は、ビジョンやミッション、コアバリューをしっかり持っているにも関わらず、それをメンバーに伝えきれていないケースが多い。でも、なるべく早い段階でビジョンやマインドを共有し、それに添って急激な成長とともにチームビルディングできれば、会社の成長はさらに加速するはずです。企業規模がある程度大きくなるまで放置されがちなブランディングも、初期からはじめるに越したことはありません。

WORK MILL:なるほど。ブランドツールキットをつくることは、ブランディングにどのように貢献するのでしょうか。

菊池:一般的なブランドガイドラインには通常、ビジョンやミッション、コアバリューといった項目は含まれていません。でも「ZeBrand」はあえて入力させることで、デザインのビジュアライズを支援するのみでなく、チーム内に、それらを意識する共通認識を生むのです。今年2月にリリースして、早くもアメリカを中心に20カ国・2万ユーザーに使われはじめました。

WORK MILL:すばらしいスタートダッシュですね……! そもそも日本やアジア圏ではなく、米国市場向けにローンチしたのは、どうしてだったのでしょうか。

菊池:これは個人的なインサイトなのですが……アメリカで流行って、アメリカから世界に出ていかないと、どうしても“そのサービスを使わない層”が生まれてしまう気がしました。たとえば中国発の動画アプリTikTokはアジアを中心に大流行しているけれど、アメリカのネイティブ層に受け入れられているかというと、必ずしもそうではないと感じています。「ZeBrand」を最終的に全世界で使ってもらいたいからこそ、最初はあえて米国市場に絞ってローンチしました。

チームを支える「自由に動ける環境」と「5つのコアバリュー」

WORK MILL:モリサワは、創業95年の老舗企業ですよね。社内でイントレプレナーとして動くなか、やりにくさを感じる場面はありませんでしたか? たとえば、関係部署から方向を強制されたり……。

菊池:おっしゃるとおり、そこがイントレプレナーにとって一番の壁になりうる部分かと思います(笑)。でも、僕らは経営陣のビジョンと整合性を合わせつつビジネスモデルを何度も見直してきました。経営陣へは毎月報告を挙げているけれど、基本的には社長直轄の部門として、社長と経営陣の承認だけを得て意思決定をおこなっています。おかげで、本来は5~6階層もある承認プロセスを飛び越えて、スピード感を持ってやってこれた。このスピード感は、世界と闘うときにかならず必要なんですよね。こちらから社長に提案して、いまの体制を整えてもらいました。

WORK MILL:初動からとてもいい環境を整えられたわけですね。チームづくりでは、他にどんなことを心がけていましたか。

菊池:会社に対して強い想いや課題意識がありつつ、最終的にはモリサワを愛しているメンバーをピックアップさせてもらいました。「会社に新たな柱をつくるには、自分たちが結果を残すしかない」ということを、真の意味で理解しているメンバーです。そのチームアップは、イントレプレナー的にはすごく重要なところかもしれません。

WORK MILL:そうして選んだメンバーは想いや課題意識があるぶん、まとめるのも大変なのではないかと思います。強いチームがきちんと同じ方向を向いて進むためには、何が大切だと考えていますか?

菊池:海外で成長しているイノベーティブだといわれる企業の多くは、コアバリューをとても意識しています。たとえば「Amazonがどうしても欲しかった企業」として有名なラスベガスのネット通販会社「Zappos」は、10あるコアバリューを、採用や評価、意思決定に徹底しています。そして、在籍するメンバーはめちゃくちゃ楽しそうに、自分らしさを発揮しながらいきいきと働いている……。ですので、MBNLでも、日ごろから5つのコアバリュー「We add value」「We are one family」「We have fun」「We learn from failure」「We keep growing」を大切にしています。おかげで同じ方向を向いて行動できるし、チーム愛も深まっていると感じていますね。

WORK MILL:MBNLのコアバリュー5つがどのようにして生まれ、どんな意味を持っているのか教えてください。

菊池:これはチームでかなり時間をかけて、「僕らはなにを大切にして働きたいか?」と話し合いながらつくっていきました。最も重要視しているのは、私たちの存在意義でもある新たな価値を創造する「We add value」。それから、どんなときもこのチームのことを家族のように思える関係性「We are one family」。自分自身が楽しんいる人は、周りにも楽しさを分け与えていくという「We have fun」。大胆にチャレンジし、多くの失敗から学んでいこうとする「We learn from failure」。そして、つねに成長していこうとする「We keep growing」です。私たちにとって、チームという限られたリソースこそが競争優位の源泉だと考えています。自分たちが進化していくことでこそ、世界に通用するサービスを提供し続けていける。そんな気持ちを込めて、この5つのバリューを中心に据えて活動しています。