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【クジラの眼-未来探索】 第1回「デジタルネイティブが変える働く「場」~2025年、働き方の転換点~」

働く環境、働き方の調査・研究を30年以上続ける業界のレジェンド、鯨井による”SEA ACADEMY”潜入レポートシリーズ「クジラの眼 – 未来探索」。働く場や働き方に関する多彩なテーマについて、ゲストとWORK MILLプロジェクトメンバーによるダイアログスタイルで開催される“SEA ACADEMY” ワークデザイン・アドバンスを題材に、鯨井のまなざしを通してこれからの「はたらく」を考えます。

 

―鯨井康志(くじらい・やすし)
オフィスにかかわるすべての人を幸せにするために、はたらく環境のあり方はいかにあるべきかを研究し、それを構築するための方法論やツールを開発する業務に従事。オフィスというきわめて学際的な対象を扱うために、常に広範囲な知見を積極的に獲得するよう30年以上努めている。主な著書は『オフィス事典』、『オフィス環境プランニング総覧』、『経営革新とオフィス環境』、『オフィス進化論』、『「はたらく」の未来予想図』など。

 

日本では1992年頃からインターネットが普及し、それ以降に生まれたデジタルネイティブと呼ばれる世代は25歳になり、人生の途中でITが生活に取り入れられた世代(デジタルイミグラント)との共生が始まっています。子供のうちからパソコンやスマートフォンが身近にあり高いITリテラシーでインターネットを使い様々な物事を調べる能力はもちろん、SNSなどを使ったコミュニケーションも活発に行っています。プライベートの時間を重視し、社会問題や社会奉仕などに意識が高くボランティアなどに強い関心を持ち、逆に物に対する興味が少なく、カーシェアリングだけでなく、自分の自宅を貸したり・借りたりと言ったこれまでの世代が躊躇するようなことにも柔軟に対応しやすい傾向にあります。(鯨井)

 

イントロダクション(株式会社オカムラ 垣屋譲治)

垣屋:日本では少子高齢化が進むにつれて就業者に占める若い世代の割合は年々減っていきます。しかし、今回取り上げるデジタルネイティブと呼ばれる1981年以降の人間が占める割合を考えてみると当然のことながら年々増加していき、2025年になるとこの世代が全体の半分弱を占めると言われています。それまでの世代と価値観が異なると言われる彼ら彼女らが働き方や働く場のあり方にも影響を及ぼすようになるのではないか、と考え今回の企画を考えるに至りました。

 

-垣屋譲治(かきや・じょうじ)株式会社オカムラ フューチャーワークスタイル戦略部 WORKMILLリサーチャー
オフィス環境の営業、プロモーション業務を経て、「はたらく」を変えていく活動「WORK MILL」に立ち上げから参画。2018年の1年間はロサンゼルスに赴任し、米国西海岸を中心とした働き方や働く環境のリサーチを行った。現在はSea を中心としたオカムラの共創空間の企画運営リーダーを務める。

 

プレゼンテーション(実践女子大学 松下慶太)

 

-松下慶太(まつした・けいた)実践女子大学 人間社会学部 准教授
1977年神戸市生まれ。博士(文学)。京都大学文学研究科、フィンランド・タンペレ大学ハイパーメディア研究所研究員などを経て現職。2018-19年ベルリン工科大学社会学部テクノロジー&イノベーション部門客員研究員。専門はメディア論、若者論、学習論、コミュニケーション・デザイン。近年はソーシャルメディア時代におけるワークプレイス・ワークスタイル、渋谷における都市文化に関する調査・研究を進めている。著作に『デジタル・ネイティブとソーシャルメディア』(教育評論社)など。

 

 

松下:デジタルネイティブが働く「場」をどのように変えていくのかを考えるための材料をいくつか提供させていただきます。

 

Digital Natives & Immigrants

松下:デジタルネイティブと呼ばれる人たちは、生まれた時からデジタル環境に囲まれて育った世代のことで、1980年代以降に生まれた人たちを指します。一方のデジタルイミグラントは、デジタル環境に後から入ってきた人たちです。これらの言葉はもともと教育現場で言われ始めたものになります。米国のM・プレンスキーは学生と教職員でデジタル機器を使いこなすか否かという違い以前にそもそも両者の間では価値観が異なると主張しました。

 

作業のスピード感(トゥイッチスピード⇔従来のスピード)、ものごとの処理の仕方(並列処理⇔単線処理)、思考方法(ランダムアクセス⇔順序に合った思考)など両者の間には様々な違いがありますので、そこから形作られる価値観に違いがあって当たり前だということです。ちなみに教育施設は、これまでのイミグラントの価値観に合わせて造られてきました。デジタルネイティブに今後どのように適合させていくべきなのか、オフィスと同じように議論していかなければならない状況があります。

 

もちろんそれぞれの世代の全員が同じ価値観を抱いているわけではありません。年齢が上の世代にもデジタルネイティブ的な価値観を持っている人がいます。若い世代の中にもイミグラントの価値観に近い人は存在します。あくまで大きな傾向、マジョリティがそうだと考えておかなければなりません。

 

私はもちろんデジタルイミグラント。新しいデバイスやシステムが導入されるたびにネイティブな若者に手取り足取り教えてもらわないとやっていけないイミグラントです。だけど結構並列処理しているし(いろいろと食い散らしているし)、順序だてて考えるばかりでなく思い付きを大事にしています(と自分は思っています)。ですから意外と「イミグラント」の皮をかぶった「ネイティブ」なのかもしれません。そして世の中にはそんな人が多くいるように思います。あなたはいかがですか?どちらですか?(鯨井)

 

スマホ・ソーシャルメディア時代の変貌

松下: スマホ・ソーシャル時代の世界観・時代観を見ていきたいと思います。

 

図の一番上の段は人間とメディアの関係性の推移を示しています。パーソナルメディアである電話は「1:1」をつなぐメディアです。その後登場したテレビは「1:n」で情報を流すマスメディア。そしてスマホの普及した現在では「n:n」のつながるソーシャアルメディアが全盛を誇っています。このようにメディアは進展してきましたが、前のメディアは無くなることは無く、三つすべてが入り混じっているのが今の状況です。また、一台のスマホの中に三つの要素が入っていることも興味深いところです。職場の中のコミュニケーションを考える上で一つのポイントになるのではないでしょうか。

 

図の中段はメディアの役割の変遷です。もともと人と人を「つなげる」ために生まれたメディアでしたが、テレビのように同時に経験するメディアは「並存する」という役割を担うようになっていきました。サッカー中継を大勢でいっしょに観るパブリックビューイングがこの代表例と言えます。さらにモバイルメディアやソーシャルメディアの普及に伴い出てきたのが「重ねる」というコンセプトです。ゲームやグーグルマップなどではAR/VR技術を駆使してリアルとバーチャルの世界を重ねて体験させるメディアが登場しています。私たちの「経験する」という行為はメディアによって異なったものになるのです。こうしたこともこれからの働き方を考える際に考慮しなければならないでしょう。

 

下段はメディアが人間に及ぼす影響について考えたものです。カナダ出身の英文学者M.マクルーハンは、メディアは人間の身体や神経を「拡張する」ものだと提唱しました。例えばテレビジョンはテレ(遠く離れた)とビジョン(視覚)という言葉による造語で、視覚という感覚を拡張したメディアということになります。そしてテレビやラジオ、映画といったマスメディアが一般的になるにつれ、私たち人間がこれらのメディアに「適応する」状況が生まれてきました。メディアリテラシーという言葉があります。私たちはメディアに対応して読み解いていかなければならず、その力を身に付けなければならなくなったのです。そしてそれが進んでいった末に近年ではメディアが人間に「フィットする」という世界観が生まれてきました。レジ無しAIコンビニAmazon GOのように、人間の手間を省くため人間のやりたいことを環境が読み取り実現してくれる時代が訪れようとしているのです。

 

1台のスマホで「1:1」「1:n」「n:n」三つのつながりを持つことができ、「重ねる」体験をし、「フィットする」世界観を持つ。これからのデジタルネイティブはこのような人たちなのです。彼ら彼女らの価値観はこうした状況から創られていくのです。

 

私はラジオとテレビで育った人間です。マスメディアが流す情報を拾い集めて生きてきたんだと、この図を見てつくづくそう思います。「観たいテレビの時間に合わせて勉強するんじゃない!」とよく親に怒られたものでした。まさに図中の「適応」ですね。我が家のことを考えると、図の真ん中縦三つが私で、両親は左三つの世代、1991年生まれの息子は右のデジタルネイティブときれいに三世代に分かれます。確かに息子を見ていると、リアルな人付き合いが少なく(バーチャルの方はたくさんやっていそうですが見えないのでわかりません)、コンピュータとスマホ無しでは1秒たりとも生きられない人種です。何を考え、何を楽しみに生きているのか親ながらとんとわかりません。松下先生、彼ら彼女ら世代の価値観ってどんなものなのでしょう。(鯨井)

 

 

 

変容する価値観

松下:若者の価値観がどのように変わってきたのかを考えてみましょう。

 

よく言われる話ですが、「所有から共有へ」と変わったというものがあります。モノを持つことで満足感を得てきたそれまでの世代に対して、最近の若者の〇〇離れ、という言い方でよく話題になるように若者の所有欲は希薄になっています。けれども彼ら彼女らがモノをまったく持っていないのかと言えばそんなことはありません。若者が所有するのは、対象物に彼らなりの正当性や真正性がある場合で、自身のこだわりのようなものに合致する場合は若者にも所有欲が生じるのです。

 

所有せず共有しようとする動きは確実にあるわけですが、共有する世界にも変化があるようです。これまでのモノ(場所)の共有からコト(時間)の共有へシフトする動きが見られます。こうした価値観の変化に伴いモノが売れなくなったこの時代、これからのビジネスをどのように展開していくべきなのかを企業は真剣に考えざるを得ない状況になってきています。

大人世代には確かに物欲が存在します。例えば私は学生だった頃、音楽のレコードを収集していました。レコード盤という「ブツ」をクラスメイトと貸し借りして、そこにコミュニティが生まれたりしたものです。ラジオで流れる音楽も一度カセットテープに録音して、そのやり取りが新たなコミュニケーションのきっかけになっていましたっけ。私たちの間には「ブツ」がかかせなかったし、「ブツ」を所有することが仲間とうまくやっていくのに必要でした。そこに喜びを感じていたようにも思います。(鯨井)

 

 

 

 

クロストーク(松下×垣屋×株式会社オカムラ 鈴木勇二)

世代間のコミュニケーションを円滑にするためにできることは?

垣屋:世代間、あるいは価値観の違う人とのコミュニケーションをうまくやっていくためにどうすればいいのかを考えていきたいと思います。昨年アメリカでAdobeという会社のオフィスを見てきました。価値観の多様性を大切にしている会社なのですが、顔を見ながら会議すると生産性が31%UPするため、対面もしくはWebミーティングを推奨しています。電話やネットに依存しすぎることなく、対面で会話をすることがコミュニケーションを円滑にするための一つの方策なのかもしれません。

 

松下:マナーやルールをいったん外してみるというのが大事ではないかと思います。「この場合にはこうする」というやり方が決まっていると確かに効率的に物事を進めることができます。ただ、海外の方やLGBTの方を含め多様な価値観を持つ人たちが働く今のオフィスでは、一様に取り決めたやり方が逆に足かせになってしまう恐れがあります。場合に応じた対応の仕方をその都度考え直す場を設けておくといいのではないでしょうか。

-鈴木勇二(すずき・ゆうじ)株式会社オカムラ フューチャーワークスタイル戦略部 エグゼクティブリサーチャー
オフィスデザインで多数のプロジェクトに参加。様々なワークスタイルに適応するワークプレイスのデザインを通じ、オフィスワーカーの生産性や創造性の向上を目指し、調査・研究活動に従事。

 

 

鈴木:私はこれまでお客様の働く環境をつくってきました。「環境を変えるとコミュニケーションが良くなります」と言いたいところですが、実際には環境を変えただけでは何も変わりません。ただ、働く人たちが場を共有して、「ここは何をすべきところなのか」ということが一致している場合には活発なコミュニケーションが起こります。働く環境をつくる前に「我々はどこに向かっていて、何がゴールで、何がしたいのか」を各世代の人たち、価値観の違う人たちが集まってじっくりと話し合っておく必要があると考えています。

-bp vol.27より

 

 

デジタルネイティブの増加は働く「場」にどのような変化をもたらすか?

垣屋:シリコンバレーにある自動運転のセンサーを製造して急成長を遂げているQuanergy社で働く方と昨年お会いしました。その方は自席で仕事に必要なコミュニケーションを取ることができ、集中して作業するときのブレイクルーム、合間に通うジムも含め、働く空間をシームレスに移動して働いていました。先ほど、価値観の違う人とのギャップを埋めるために対話することが有効なのではないかという話をしました。日本ではフリーアドレスのオフィスが増えていて、同じ部署の人とのコミュミケーションも減ってきています。価値観が多様になってきた今こそ、対話する機会を増やすため、あえて自席を設置してコミュニケーションをすぐ取ることができる環境が求められているようにも思います。

 

鈴木:画一的で自由度の無いオフィス環境は働く人の精神や行動を抑制してしまいます。活発にコミュニケーションをするとき人間は心を開き相手を受け入れようとする気持ちにならなければなりません。働く環境は、働く人たちにそこで自由にいきいきと過ごせることを感じさせるものにする必要があるのではないでしょうか。

 

松下:世代間のギャップもありますし人それぞれの考え方も違う。職場の中ではいずれにしてもコンフリクトは生じます。しかし、そのコンフリクトは無くさなければならないと考えるのではなく、逆にチャンスと捉えるべきだと考えているのです。それは「Why」改めてテーブルの上に出して話し合い、それまでの慣行を見直すきっかけをつくってくれるからです。

 

そんな中で、デジタルネイティブの増加は働く「場」にどのような変化をもたらすかとの問いに直接お答えすると、先ほどメディアの変遷のところで「重ねる」や「フィットする」といったコンセプトが「場」づくりにも参考になるのではないかと思っています。

 

最後になりますが、私たちは「〇〇が大事です」「〇〇を意識しましょう」というだけで終わらせず、それを形にするための議論をしなければならなりません。自分たちがやりたいことを実行するための働く「場」を具体的に考える。それを世代や価値観の違う人たちが集まって行うことが大切だと思います。

 

 

 

「だいたい今の若いやつらは….」vs「あのオヤジ、なに考えてんだか…」 今日も職場で繰り返される世代間抗争。一世代の隔たりがあれば、社会の体制やインフラ、通信技術、学校教育だって変わります。だから世代間で思考や価値観は違って当たり前。デジタルネイティブの登場は私のような年寄り世代にはおおきなインパクトがありましたが、世代間ギャップによる諍いは今に始まったことではなく、人間が文明を手にして以来ずっと続いてきた人類の歴史(大げさですが)だと言えるでしょう。

 

今はダイバーシティを積極的に奨励する時代。世代間のギャップによる軋轢を恐れる以上に、価値観を異にする人との共創が生み出す成果を期待する組織が増えています。その中で私たちは、目の前の相手の考え方を理解しようとする前に、相手は自分とは違いがあるのだという事実を認識しておくことが大切なのではないでしょうか。相手と人間関係を築くときや仕事をいっしょにし始めるとき、自分たちの組織の目的や仕事の目的を確認し合い、なぜ今これをしなければならないのかを互いに理解し合うというひと手間をかけることが必要になります。なにごとも「急がば回れ」なのです。

 

相手のことを思いやる気持ちが欠かせないのはいうまでもありません。せわしなく働く(働かされている?)ゆとりのない現代人にとって意外と難しいことなのかもしれません。でも考えてみると、相手を思いやることって、コミュニティ内の和を重んじて生きてきた日本人が本来得意としてきたことです。ですから諸外国に比べ私たちは、デジタルネイティブとのギャップなど簡単にクリアできるに違いありません。若い世代とのコラボレーションで画期的なビジネスを生み出すことだって大いに期待できるのです。

 

〈デジタルネイティブな若者へのお願い〉

この原稿を書くに当たり、まず紙に下書きをしないと考えがまとまらない私。書き終えて校正するためにすぐにプリントアウトする私。デジタルネイティブから見れば「なにやってんすかw」的な私。そんな私ですが、どうか思いやりをもって接していただければ幸いです。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。次回までごきげんよう。さようなら。(鯨井)

2019年9月5日更新
取材月:2019年5月

テキスト:鯨井 康志
共同編集:齊藤達

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