• HOME
  • 欧米のワークスタイルから考える、これからのコミュニケーションと組織のあり方

欧米のワークスタイルから考える、これからのコミュニケーションと組織のあり方

テクノロジーの発達は、私たちのコミュニケーションのあり方や働き方を大きく変えつつあります。リモートワークやノマドワークが可能となり、オンラインを介した非同期型コミュニケーションだけで仕事を完結することもできます。一方、コワーキングスペースやシェアオフィスなどがオープンイノベーションの拠点となり、あえてリモートワークを推進しないベンチャーが現れるなど、「オフラインの場」の存在感も高まっています。果たして、これから企業が社員をマネジメントしていくうえで、いかにオンラインとオフラインを使い分けていくべきなのか。そしてその中でふさわしい組織のあり方はどのようなものなのでしょうか。

 

モバイルメディア時代におけるワークプレイス・ワークスタイルなどを研究している実践女子大学の松下慶太准教授は、現在1年間のサバティカルでベルリンを拠点に研究を続けています。前編では、ベルリンのワークプレイス・ワークスタイルの現状を導入として、松下さんに、企業におけるこれからのコミュニケーションや組織のあり方について伺います。

 

優秀な人材が求めるのは、「時間と空間を自ら選べる環境」

WORK MILL:松下さんはもともと、メディア研究からワークプレイス・ワークスタイルについて研究されるようになったんですね。

 

松下:そうですね。近年、ワークプレイスやワークスタイルにもっとも影響を及ぼしているのは、やはりデジタルツールの発達……特にモバイルメディアだと考えているからです。

 

―松下慶太(まつした・けいた)実践女子大学准教授
1977年神戸市生まれ。博士(文学)。京都大学文学研究科、フィンランド・タンペレ大学ハイパーメディア研究所研究員などを経て現職。2018-19年ベルリン工科大学社会学部テクノロジー&イノベーション部門客員研究員。専門はメディア論、若者論、学習論、コミュニケーション・デザイン。近年はソーシャルメディア時代におけるワークプレイス・ワークスタイル、渋谷における都市文化に関する調査・研究を進めている。著作に『デジタル・ネイティブとソーシャルメディア』(教育評論社)など。

 

モバイルメディアが広く僕らの暮らしに浸透してきたことによって、時間と空間における感覚が変わってきました。「時間」と「空間」というものを企業側に預けるのか、それとも僕らワーカーが自ら受け持つのかー。そのせめぎ合いのもと、価値観がまさに変わりつつあるのです。

 

これまでは、新卒一括採用で入社して、終身雇用で転勤もありの総合職、もしくは転勤のない一般職。いずれも比較的時間と空間が固定化されている環境です。それがモバイルメディアによって、「ここではない場所で同じように仕事する」ことが可能になり、僕ら自身の価値観が変わってきた。「ずっと同じところで働くこと」が、果たして自分たちの幸せにつながるのか。二拠点生活やデジタルノマド的な働き方を選んで、「動ける自由さ」を重視していく。特に、若い世代を中心にそういった価値観が広がってきたと思います。一方、日本企業の働き方やオフィスのあり方はなかなかアップデートされていない。その歪みが顕在化してきているのだと思います。

 

WORK MILL:松下さんは現在、ドイツ・ベルリンで研究を進めていらっしゃいますが、ベルリンのワークプレイスやワークスタイルに関する現状はどのようなものですか。

 

松下:ベルリンは、かつて東西に分断されていたこともあって、ミュンヘンやハンブルク、フランクフルトなどよりも比較的新しい産業構造になっています。最近ではオープンイノベーションを背景に、ドイツ銀行やドイツ国鉄などがコワーキングスペースに入居して、スタートアップを含めた他企業とのコラボレーションを推進しようとしています。ベルリン市自体、「ITやデザインの力で産業を盛り上げていこう」という政策意図はありますが、行政主導というより、個人や中小企業ベースで高まってきた機運が、行政によって後押しされている印象です。

旧東ベルリンは比較的家賃も安価で、小規模な企業が多く、「Factory」などに代表されるようなコワーキングスペースもあり、物価も安いので、ヨーロッパを始め世界各国から多くの若者がやってきて働いています。若者たちと話していると、まさに先ほどの「価値観の変化」を感じるというか、「自分にとっての幸せとは」「自由とは」とか、そういう言葉をよく聞きますし、ある種の自由を求めて海外から集まる人も多いようです。

 

WORK MILL:松下さんがいま、もっとも注目している働き方はどのようなものでしょうか。

 

松下:やはり、「ワーケーション(仕事+休暇)」ですね。はっきりとしたサーベイがないため実態を掴むのは難しいのですが、ヨーロッパではかなり増えてきているように思います。ここ10年に渡ってコワーキングスペースの実数と利用者は増加傾向にあって、いわゆるバケーション先の観光地にもコワーキングスペースが増えてきていることからも推測されます。

 

スペインで出会ったオランダの方は「広告の仕事をしていて、2週間ワーケーションを取ってこっちにきた。午前中はメール返したりしてるけど、あとはカイトサーフィンしてるよ」って。ワーケーションをしている人たちが、旅先でさまざまな刺激を受けてインプットして、いわば「生活の経験値が高い」状態になることで、より良いサービスを生み出せるようになる。逆に、ワーケーションをしている人やデジタルノマド向けに保険商品やパッケージツアーなど新たなサービスが生まれて……そんなエコシステムが循環しはじめているんです。

 

WORK MILL:ワーケーションを取る人が増えているということは、企業もそれを受け入れているということですよね。企業側はなぜワーケーションを推進しているのでしょうか。

 

松下:ふたつの側面があると考えています。ひとつは社会保障的な面で、行政主導でワーカーのダイバーシティが推進され、結婚や出産、介護などライフステージの変化や個人の事情があっても、無理なく働きつづけられるよう、企業としても十分に各人が休暇を取れるような制度を整えていく傾向にあるということ。もうひとつは、優秀な人材をひきつけたり、つなぎとめておくためには、ワーケーションをはじめ、自らの時間と空間の裁量を持てるような環境を整えておくことが必要だということです。

 

WORK MILL:優秀な人材が自ら「時間と空間の裁量」を持つことを求めている、ということでしょうか。

 

松下:ある種、「優秀な人材」の定義が変わってきたというか、これまでは「言われたことをきちっとこなす」のが優秀な人とされていたのが、今は、自らのキャリアを主体的に選択し、自らの裁量でリーダーシップを発揮できる人こそが優秀とされているのです。

 

WORK MILL:「自律的に自らの働き方を決める」ことも含めて、仕事にコミットできる人材が優秀ということですね。そう考えると、日本の状況とはかなり差がありますね。

 

松下:いわゆる日本の保守的な働き方……フルタイムで長時間労働をして、という感じだと、生活からどんどん切り離されていきますよね。それなのに「新規事業や新商品を作る」って、マーケティングするとはいえ、かなり難しいことです。よく「女性社員を中心に新商品を作る」というのは、まさにそれを期待してのことでしょうけど、生活者としての経験が新たなサービスや商品を生み出すヒントにもなる。オープンイノベーションも然り、自分たちとは異なる人と関わり、それぞれの経験をものづくりに活かすことが、新しいビジネスにつながっていく。ますますその傾向は強くなってきていると思います。

新しい働き方に必要な「オンラインとオフラインの再定義」

WORK MILL:デジタルノマドやコワーキング、リモートワークなど、新しい働き方が浸透してきたことで、何か新たに顕在化してきた課題はあるのでしょうか。

 

 

松下:メディア研究にも関連しているのですが、メディアによってできることが増えてきたことで、リアルやオフラインの意味が変わってきているのです。身近な例でいうと、ハロウィンであれほど渋谷の街が賑わうようになったのは、これまでとは異なる文脈で考える必要がありますよね。つまり、単に「仮装をして、みんなで盛り上がる」のではなく「仮装している自分をSNSにアップロードするために盛り上がる」ということ。「オンラインありきのオフライン」のあり方を、ビジネスにおいても考えなくてはならないということなんです。

 

「対面でしっかり関係性を築くことが大切」というと、これまで通りの言説に聞こえるけど、「オンラインミーティングでもいいはずなのに、わざわざ対面することにはどんな意味があるのか」と、オフラインの場を再定義する必要がある。「オンラインに代替できないことは何か」「オンラインを踏まえてオフラインで何ができるか」と、考えていくことが重要になってきているのです。

 

そういう意味では、昨今の働き方改革をめぐる議論は、少し焦点がぼやけてしまっているかもしれません。オンラインとオフラインのあり方を再定義しきれていないまま、「あれもこれもオンラインでできます」と、あらゆることを情報化しようとしてしまっている。本来、「オンラインではできないこと」もあるはずなんです。

 

WORK MILL:具体的にはどんなことが挙げられるでしょうか。

 

松下:ワーケーションを例に考えてみましょうか。オンラインでできることが増えてきたからこそ、「今、バケーションに来ているから、仕事はまったくできません」とは言えなくなった。メールは返すことができるし、資料を確認することはできる。でも、あえていつもと違う環境に来て、仕事をするからには、と考えたとき、その場所だからこそできるアクティビティや体験をインプットしようとするだろうし、あるいは、「午前中に集中して仕事をしたぶん、午後にリフレッシュする」ようなこともあり得る。ある種、確固たる意志を持ってその環境を選ぶ必要があります。

 

WORK MILL:「ワーケーション」とまでは行かなくても、休暇に旅行する際、「いつでも連絡は取れますよ」と PCを持っていくのか、それとも「この期間は連絡つきませんから」と完全にオフラインになるのか、個人の選択によりますからね。

 

松下:そうなんです。ですから、ワーケーションを単なる福利厚生と捉えて、「休みが取りやすくなる」とか、逆に「休みでも仕事しないといけなくなる」と考えてしまうのは、本質を見誤りかねないんです。

組織がフラット化していく流れは止められない

 

WORK MILL:「オンライン」と「オフライン」それぞれでやるべきことを切り分ける基準はどう考えるべきでしょうか。

 

松下:「切り分ける」と考えるのが、あまりふさわしくないと言えるかもしれません。たとえば、単純に考えると、情報処理的なことはオンラインで、クリエイティブに関連することは、オンラインを踏まえたオフラインで、と切り分けられるかもしれませんが、いずれも「コミュニケーション」が必須となってきます。コミュニケーションに関しては、もはやオンラインとオフラインの相互参照で成り立ってることなんですよね。Slackでどんどん寄せられていた意見がもとになって、「あの話題をちょっと深めてみようか」とオフラインで話すこともあるだろうし、その議論をもとに「あとはオンラインでまとめよう」と、ドキュメントを複数名で編集することもある。

 

こういったコミュニケーションのあり方を、僕は「スーパーインポーズド(superimposed)」と呼んでいるんですけど、要はテレビ画面に字幕がついているように、オフラインの状況にあってもオンラインが影響したり、オンラインでもオフラインを意識したり……実質的には二つのレイヤーがあるんだけど、僕らはそれを総体として認識していますよね。ですから、オンラインとオフラインはシームレスにつながっているというか、重なっている状態にあるんです。

 

WORK MILL:ただ、新しい働き方を導入しようとしたとき、企業側として考えると、社員の勤怠管理が非常に難しくなりますよね。何かテクノロジーや制度、マネジメント手法などでそれをサポートするような動きは出てきているのでしょうか。

 

松下:その点については歯切れが悪くならざるを得ないのですが……まだまだ「これからつくっていく」部分が大きいですね。ただ、直感的に考えているのは、おそらく「マネジメント」の意味が変わってくるのではないか、と。つまり、「上司が部下を管理する」「何時間働いて、何をしているのか、きちんと把握する」という関係性のままでは、新しい働き方そのものが機能しないと思うんです。では、どんな関係性ならそれが機能するのかー。それはまさに欧米が模索しているところです。

 

たとえば、欧米ではフリーランス人口が増加傾向にあって、特にアメリカではワーカーの半数に達するほどなのですが、フリーランスからすると企業は「取引先」や「発注先」であって、日本でイメージするような「上司と部下の関係性」上司と部下の関係性は成立しない。じゃあ、ビジネスの進め方はどう変えていかなくてはならないのか。契約関係はどうあるべきなのかー。そうやって企業とフリーランスとの関係性を考えていくと、企業と従業員の関係性も考えていかなくてはなりません。そうすると、雇用関係はどうあるべきなのか。「部下は上司の言うことを聞かなくてはならない」「企業に命じられたら従業員はそれを守らないといけない」という前提が成り立たなくなってくるかもしれない。もっとよりフラットな、対等な関係性になってくるのではないかと思うのです。

 

WORK MILL:フラットというと……?

 

松下:少し話は変わりますが、ネットワークの発達を図案化したモデルが示唆的です。これは、アメリカの科学者ポール・バランが1962年に発表した報告書によるものですが、「中央集権型(centralized)」「分権型(decentralized)」「分散型(distributed)」の順に、攻撃に対して耐久度が高くなっていきます。なぜなら左から右へ行くにつれて脆弱性に対抗し得るものになっていくからです。この図案はインターネットの発展にも当てはめることができます。そして、まさに組織もこういった形に変化していくんですよね。今はまだ中央集権型の組織が大半かもしれませんが、アメーバ型組織やティール組織など、新たな組織のあり方も増えてきています。また分散型になっていれば、どこかが抜けても他でカバーできます。働き方に当てはめて考えると、有給休暇や育休・産休を含めて柔軟に適応できます。おそらく今、さまざまなところで顕在化している問題は、ネットワーク構造が分散型になってきているのに、組織構造が未だに中央集権型で、そこから生じる歪みが原因になっているのではないでしょうか。そういった意味では、オンラインとオフラインを含めて分散型のフラットな組織構造にしていくことはこれから重要になってくると思います。

 

WORK MILL:なるほど。時系列として中央集権型から分散型へ移行していくのが自然なのに、組織が対応しきれていないということですね。

 

松下:前時代に戻すことは不可能なんですよ。今のビジネスがインターネットをベースにしている限り、間違いなく組織やマネジメントのあり方も分散型へ移行していくはずなんです。今の経営者や管理職の人たちは、インターネット登場以前に自己が確立しているので、中央集権型組織でも違和感なく働けるのですが、若い人たち……いわゆるデジタルネイティブ世代は、既にネットを通じて分散型の考え方が当たり前になってきている。それを無理やり中央集権型に当てはめようと教育すると、相当なコストがかかることになるんです。それこそ、川を逆流するような難しさがあるんですよね。コミュニケーションの感覚も、デジタルネイティブ世代とその上の世代とでまったく異なるものとなってきています。

 

 
前編はここまで。後編では、デジタルネイティブ世代の価値観とその活かし方を考えます。

 

記事後編_デジタルネイティブ世代の可能性を引き出す分散型組織の作り方
 

   
 2018年10月24日更新
取材月:2018年9月

テキスト: 大矢 幸世
写真:岩本 良介
イラスト:野中 聡紀

最新記事