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100BANCHが目指す「世界文化の進展」―パナソニックが体現する創業者精神

WORK MILL編集長の遅野井が、気になるテーマについて有識者らと議論を交わす企画『CROSS TALK』。今回は、2017年7月渋谷にオープンした「未来をつくる実験区 100BANCH」プロジェクトの中心人物であるパナソニックの則武里恵さんとロフトワークの松井創さんをお迎えしました。

昨今、大企業がオープンイノベーションへ関心を寄せ、続々と実行している「場づくり」ですが、パナソニックがロフトワークとカフェカンパニーと手がけるこの「未来をつくる実験区 100BANCH」には、ちょっと違う狙いがあるようです。

前編では、果たして100BANCHがどんな経緯で作られることになったのか。その背景や思いについて探っていきます。

 

次世代を担う人びととの接点を「若者の街」渋谷に

遅野井:私は100BANCHのオープニングに参加させていただいたのですが、ものすごい熱気というか、ある種「カオス」のようでしたね。一見すると、「パナソニック」という大企業のイベントとは思えないくらい、普段はまったく縁遠いであろう人たちも集まっているようなイメージで。

 

ー遅野井宏(おそのい・ひろし)WORK MILL編集長
ペルー共和国育ち、学習院大学法学部卒業。キヤノンに入社し、レーザープリンターの事業企画を経て事業部IT部門で社内変革を担当。日本マイクロソフトにてワークスタイル変革専任のコンサルタントとして活動後、岡村製作所へ。これからのワークプレイス・ワークスタイルのありかたについてリサーチしながら、さまざまな情報発信を行う。WORK MILLプロジェクトリーダー、ウェブマガジン・ペーパーマガジン 編集長。

 

則武:そうですね(笑)。とはいえ、会社の偉い人たちも来ていたんですよ。社外の方も「こんなことをパナソニックがやるんだ」と注目してくださっているようでしたし、社内外からさまざまな興味と好奇心を持った方が集まって、非常に面白い日でしたね。

—則武里恵(のりたけ・りえ) パナソニック株式会社 コーポレート戦略本部 経営企画部 未来戦略室 100BANCH推進プロジェクト
岐阜県生まれ。神戸大学国際文化学部で途上国におけるコミュニティー開発を学ぶ。パナソニックに入社後、広報として社内広報、マスコミ向け広報、IR、展示会、イベントの企画・運営など、さまざまなブランディング活動を担当。2016年2月より100周年プロジェクトを担当し、2017年7月、渋谷に「未来をつくる実験区 100BANCH」を立ち上げる。

 

遅野井:「パナソニックがカフェカンパニーとロフトワークと組んで、新たな拠点を作る」というのは、そもそもどんな経緯で実現したのですか?

 

則武:もともとのきっかけは、パナソニックが2018年3月に100周年を迎えるにあたり、「次の100年を考える」プロジェクトを始めたことなんです。当社には「250年計画」があって、「人類にとって幸せな社会を作ることを目的とするなら、人間一代が活躍できる25年を、10代繋いでいくことで成し遂げていこう」、という、壮大な計画なんです。しかし、通常の事業の活動では、なかなかそこまで長期スパンでものごとを考えることはない。だったら、100周年という機会くらいは、大きなスケールで考える活動をしたいなと思いました。
一方、別の課題感として、10〜20代の若い世代との関係性が失われつつあるんですよね。小さな頃なら「おもちゃに入ってる電池」とか、結婚すれば「家電製品を一式揃える」とか、何らかの接点はあるのでしょうけど、残念ながら今は国内向けスマートフォン事業も撤退してますし、携帯音楽プレーヤーもない。彼らの関心事はハードではなく、「ソフトやコンテンツでどう遊べるか」ということなのでしょうけど、よくわからないんですよね。

 

遅野井:確かに。多くの大企業が、その世代との接点を模索していますね。

 

則武:でも「次の100年」はおそらく、その世代が中心となって作っていくものとなるはず。だったら、若い世代とともに、「彼らが作りたい世界を実現するような場」を作りたいな、というところから始まりました。
はじめはもっと敷居の低いもの……カフェみたいな感じで、何か若者と一緒に「コトを成せる場」が作れないかと、ロフトワークさんへご相談に行ったんです。

 

松井:そうですね。うちもFabCafeを運営しているので、自社で運営しようかとも考えていたんです。それで、渋谷に限らず東京の東側エリアも含めて物件を探していたところ、カフェカンパニーさんから「こんな物件があるんだけど、一緒にやりませんか?」とお誘いいただいたのが、この場所で。さらに同じ日に別ルートからもこの物件の打診が来たんですよ。「もし今日内見できないようでしたら、1ヶ月後まで見られません」みたいな。「じゃあ、行きます!」とその日の予定をリスケして見に行ったら……この空間でしょう? もう、絶対ここだ! って。

—松井創(まつい・はじめ) 株式会社ロフトワーク Layout Unit CLO(Chief Layout Officer)
千葉大学で都市計画を学び、地域活性やまちづくり等のプロジェクトに学生時代から深く関わる。2012 年よりロフトワークに参加し、企業の新製品・新サービスのコンセプト策定、建築空間・コミュニティの計画からコミュニケーション戦略まで、新しい価値を生むためのプロジェクト・プロデュースを担当。

 

則武:「渋谷」っていうのも大きくて。本社にいる関西の人たちにも、渋谷なら「若い人が集まる街だから」と説明しやすいし(笑)。東京にいる友達にも何人か聞いてみましたけど、やっぱり大学生がアクセスしやすいところとして、渋谷のアドバンテージはあるよね、と。でも、カフェカンパニーさんにとっては「パナソニックの100周年事業で……」なんて、関係ないじゃないですか。カフェカンパニーさんと“未来を作る実験区”というコンセプトで一緒に活動できるようにしてくれたのは、ロフトワークさんが丁寧につないでくださったからだと思っています。

 

遅野井:本当に偶然というか、運命的だったんですね。

「3ヶ月の期限付き」で加速するアクセラレータープログラム

遅野井:このプロジェクトのコアとなる「GARAGE Program」も興味深いですね。毎月アクセラレータープログラムの審査会が行われて、3ヶ月単位でプロジェクトを進行していくんですよね。しかも、メンターも錚々たる顔ぶれで。

 

GARAGE Programは常識にとらわれない35歳未満の野心的な若者がリーダーのプロジェクトを支援

業界を牽引するトップランナーたちが、それぞれのプロジェクトにメンターとして参加

人類の運命を握る昆虫食に、美しいデザインとレシピを「Future Insect Eating

伝統下着”ふんどし”を「表現者のためのファッションウェア」として未来に伝える「Shift→プロジェクト

水産養殖と水耕栽培をかけあわせた生態系をつくる「Now Aquaponics!

2F「GARAGE」の様子

メンターによる審査会の様子

100BANCHで開催されるイベントの様子

則武:当初から「ハコだけ作っても、若い世代と関係は構築できないよね」という思いはありましたから、私たちでも「ビジネスコンテストを開催する」などと素案を持ってはいたんです。場というハード面と、それを動かすソフト面をどう構築していくか、いろいろと話し合うなかでこのプログラムをご提案いただいて。

 

松井:ロフトワークでも、ミートアップやハッカソンなどさまざまなイベントを行っていて、少しずつアワードなど中期にわたるプログラムを実行するようになってきたんです。点と点を面にするように、長期的な観点で設計していけば、いい意味のカオスが生まれるのではないか、というのが実感としてあった。「3ヶ月単位」というのは比較的早い段階で決めていました。大企業が主催するアクセラレータープログラムって、だいたい半年や一年のものが多いけど、あえて3ヶ月。それでも若者たちのエネルギーを持ってすれば、大丈夫なのではという確信があって。

 

則武:確かに、「大学生にとっての半年」って、何かひとつのことにコミットしてやるには、ちょっと長い。特に実験区としては、いろんなトライアンドエラーを回していくには、そのくらいが適度なのではないか思いました。

 

遅野井:適度に集中力と持続力を持ちながら、駆け抜ける感じですよね。オープンから第1期を終えて、今は第2期目に入っているところですが、いかがですか。

 

則武:はじめの第1期目はもう必死すぎて……記憶が曖昧(笑)。でも100BANCHのメンバーと一緒に作りあげている感がものすごくあって、みんな構成員としてそれぞれの役割を果たしながら、動かしている実感がありました。

 

遅野井:先日行われた「ふんどしファッションショー」も鮮烈でしたよね。

 

 

松井:そうですね。彼らの「巻きこみ力」は本当にすごいなぁ、と。最初は代表の2名だけではじまった活動だったのに、あれよあれよという間に40名くらいメンバーや有志を集めて。そこらへんでモデルさんたちがウォーキングの練習をしてるんですけど、男性も女性も半裸なんですよ(笑)

 

則武:はじめはびっくりしてたけど、だんだん日常の光景になっちゃって(笑)

 

松井:でも、はじまった当初は、これほど大々的なものになるとは、僕らも想像していなかったけど、彼ら自身もそうだったと思います。

 

則武:やっぱり「世界初のふんどしファッションショーをやる」と決めてから、ものすごくスイッチが入りましたよね。応募当初の活動目的は「ふんどしを通じて日本文化を世界へ」というものだったけど、具体的に何をやるのか、というのがまだ彼らの中に見えていなかった。彼らのメンターは科学者の落合陽一さんが務めたんですけど、それこそ2週間に1回はSkypeでメンタリングしてくださってたみたいで。「もっとクレイジーになれ」と言われて、ファッションショーに行き着いたんですよね。そこからはもう振っ切れて、「デザイナーにふんどしのデザインを依頼する」「クラウドファンディングでこれだけ予算を集めて、こんな会場にする」と一つひとつ立てた目標をクリアしていって。

 

遅野井:メンタリングが功を奏したということですね。

 

則武:そうですね。あとはやはり「3ヶ月」という期限。延長することも可能なのですが、その場合、何か目標を達成していなければならない。延長するならまた目標を立てて、達成することにコミットしなくてはならないんです。

 

遅野井:強烈な締切感覚というか、駆りたてられる部分があるんでしょうね。でも、会社の仕事ではそこまでの緊張感を強いられるものって、なかなかないかもしれませんね。

 

則武:「時間に追われている感じ」はあると思うんですよね、何かと。でも目の前のことをただこなしていくようなイメージ。彼らの場合、「素直」というか、たとえ目標設定自体が急に変わっても、そこに向かって一気に集中していくような感じで。

 

松井:落合さんからの助言で、プロジェクト名と目標設定を変えたんですけど、「方向転換するんスよ!」って、むちゃくちゃ嬉しそうに言ってましたからね(笑)。こちらとしては、3ヶ月しかないから、一旦決めたことくらいやりきったほうがいいんじゃないかと思っていましたけど、結果的にそのほうがうまくいった。僕らにとっても気づきがありましたね。
他のプロジェクトチームもどんどん方向転換していった。それぞれのチームがお互いを横目に見ていて、「あ、ここまでやっていいんだ」「こういうふうにしていけばいいんだ」と次々に変えていく。そのフットワークの軽さは共通としてあるかもしれません。

 

遅野井:プロジェクトチームが相互に作用するような工夫はあったのでしょうか。

 

松井:あまり僕らがやりすぎないように、という感じでした。毎日のようにチーム同士をつながなくても、自発的に交流が生まれていく。個別のテーマはバラバラでも、目指している大きなディレクションが一緒だと、よく話すし、コラボレーションしていく。

 

則武:おそらく、「他のチームの頑張りに負けてられない」っていう思いは少なからずあると思うんですよね。それに、もしテーマが近くても、やっぱり同じ場所にいなかったら、コラボまではしないと思う。やはり「場を共有している」というのは大きいと思います。

 

既存の物差しが通用しない「これからの100年」に向けて

 

遅野井:そもそもの話なんですけど、よくぞこのプロジェクトを社内で通しましたよね。

 

則武:そうですね……でも、あまり表立った反対意見はなかったかもしれない。はじめは社内で「若者カフェ計画」などと呼んでいたから、「本気でカフェ作るんか?」とよく言われてましたね。「おもろいやん」とか「マスターなら立候補するぞ」とかいう声もあれば、「なんのためにつくるのか?」とか「よくわからん」って言われたこともあるし……。結構、説明も難しい施策だったんですが、そこはやはり経営陣の方々の理解があって、「若年層へのアプローチ」という課題の合意形成ができていたのが大きかったと思います。

 

遅野井:そうなんですね……いや、相当社内調整に苦慮されたのではないかと思っていました。

 

松井:これは、僕自身もかなり珍しいパターンだなぁと思ってたんですけど、こういう相談って、自社の現状の否定から入ることが多いんですよね。でも、則武さんはまったくそういうのがなかった。最初からパナソニックの理念や歴史背景をていねいに説明してくださって。創業者の松下幸之助はどんな思いでこの会社を作って、どんな思いがあって、こんな製品を作って……今までやってきたことを、次の100年につないでいくために、このプロジェクトがあるんだ、と。

 

則武:もちろん、250年計画も「私たちの基本理念」も、普段から全社員が常日頃考えているかどうかというと、そういうわけではないですし、できていないことの課題認識はあるんです。でも、松下幸之助の残した思想を体現できる場になればいいな、という思いはありました。

 

遅野井:それは具体的にどんなものですか?

 

則武:綱領に「産業人たるの本分に徹し 社会生活の改善と向上を図り 世界文化の進展に寄与せんことを期す」というのがあるんですけど、この「世界文化の進展に寄与せんことを期す」という部分ですね。

 

松井:これがまさに100BANCHのグランドコンセプトになっていて。はじめに則武さんにこの言葉を教えてもらった時、「あ、これで100BANCHの土台はできたな」と思いました。この場所から何を生み出すのか、ということを考えた時、社会的なインパクトを若者とともに作ること。そう考えると、「世界文化を作る」というのは、若者にとっても共通に語れる理念だと感じたんです。普遍性がある根源的な言葉で。

 

ー物件引き渡し当初の写真

 

則武:「世界文化」っていうのも、日本の文化だけじゃなくて、いろんな多様性を飲み込んだ言葉じゃないかなと思っているんです。私自身、そこがいちばん好きなところで。多様な文化が発展して、広がっていくようなイメージ。その言葉を綱領として掲げているからには、本来的にはオープンな会社のはずなんですよね。それを体現したいと考えています。

 

遅野井:確かに、GARAGE Programで選ばれている方々って、ジャンルもバラバラ。パナソニックとはまったく関連性もないから、なぜそういう人が選ばれているんだろう、と疑問だったんです。その前提には「世界文化の進展に寄与する」というのがあるんですね。納得しました。

 

松井:そこでようやく僕らの出番なんですけど、文化って狙ってできるものじゃないんですよね。文化を作るプロセスに、多様な人をどう巻き込むか。「異文化と異質な人たちとの接点で新しいものが生まれる」というのが経験値としてあったので、なるべく領域を限定せず、多方向に拡散していく、というのをプログラム設計に組み込みました。

 

則武:私としてこだわったのは、「パナソニックを出し過ぎない」ということ。プロジェクトの採択可否にパナソニックの指標を入れると、せっかくの多様性が失われてしまう。今までと同じことをするなら100BANCHの意味がないので、そこは切り離して考えたほうがいいかなぁと。

 

遅野井:つい、入れてしまいたくなりそうですけどね。

 

松井:僕でさえ、「メンターが審査して、そのあとに事務局とパナソニックが審査する」と想定していた。でも、「メンターだけでいい」となりましたね。

 

則武:もちろん、公序良俗に反するものはダメですよ(笑)

 

遅野井:最低限のラインですね。

 

 

松井:それで、「素っ裸のふんどし」がやってくるんだから(笑)。よく皆さんに聞かれるんですよ。「プログラムの指標は?」「KPIは?」と。でもおそらくこれからの100年を考えた時、「経済指標や既存の物差しで測らない」ことと向き合っていかざるをえないときがやってくると思うんです。その課題に今からチャレンジできるのは、恵まれていることだと思います。

 

遅野井:ちょっと意地悪な言い方ですが、ある種、大企業だからこそ、今そういう挑戦ができるというか、余裕があるのかもしれない。

 

則武:余裕というとちょっと語弊があるかもしれないけど、「社会に還元していく」という視点はなくしてはいけないなと思うんです。この100年間、社会の方々に育てていただいた会社だからこそ、これからの世代にできることはお返ししたい、という思いは、さまざまな人が持っていると感じます。
松下幸之助の言葉で、私たちの基本理念にもあるのが、「企業は社会の公器」というもの。本業で直接的に社会へ貢献するのはもちろん、今、次世代の人々がマイノリティになっていってしまっている時代、彼らの挑戦を後押しする、ひとつの文化を作り出していくということに貢献できたら、とても意義深いことなのではないかと考えています。

 

***
前編はここまで。後編では、則武さん自身のキャリアを振り返りながら、100BANCHが社内外に生みだしているさまざまな波及効果について迫ります。

 

・記事後編_大企業だからこそできることがある―「100BANCH」が生み出す有機的な循環

 

2017年12月19日更新
取材月:2017年11月

テキスト: 大矢 幸世
写真:meg (Gem Photoworks)
イラスト:野中 聡紀

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