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「はたらく」がつなぐ社会と未来、2025年を見据えて求められるもの

これからの働く見方を変えて、価値を挽きだす働き方を見据えるウェブマガジン「WORK MILL」が多様な働き方を実践している先駆者を招いての座談会の模様をお伝えする企画。

 

シリコンバレー、スタートアップ、地域、主婦など、活躍フィールドは異なるものの、既成概念や常識に縛られることなく理想の働き方を追求し続けている方々をゲストに招いて、お話を伺っていきます。

 

第一回では、働き方のカルチャーについて。第二回では、働くための空間について語っていただきました。第三回では、働くことと暮らすことの関係について話をうかがってきました。

 

最終回である今回は、日比谷さんと市川さんに、これからの「はたらく」に求められるものについて話をうかがっていきます。

 

・記事vol.1_多様なワークスタイルから学ぶ、働き方の文化創造

・記事vol.2_シェアリングエコノミーがオフィスを変える

・記事vol.3_分断から統合へ。ライフとワークが重なっていく未来に向けた働き方

 

「はたらく」が子どもの将来に与える影響

 

WORK MILL:市川さんは「子ども」を気になるワードとして挙げてらっしゃいました。この理由をおうかがいしてもよろしいですか?

 

市川:自分の子どもが中学校1年生になって、少しずつ彼らが人生におけるいろんな選択を、自分自身でしなくてはならない時期になってきました。それを考えたときに、子どもたちが日々いる場所には、多様性がないなと感じたんです。

 

WORK MILL:子どもたちの環境に多様性がないとはどういったことなのでしょうか?

 

市川:アメリカでは2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもの65%は、将来、今は存在していない職業に就くと言われています(※米デューク大学の研究者キャシー・デビッドソン氏が2011年8月、ニューヨークタイムズ紙のインタビューでこうした予測を語っている)。日本も、遅かれ早かれそうなってくるのに、子育てする女性のほとんどは主婦で、昭和型の働き方を引きずってきていると思います。そういう母親と一緒にいる子どもたちが本当に、2020年や2025年における働き方の未来にたどり着けるのかということに、とても危機感を抱いています。

 

WORK MILL:母親が抱いている「はたらく」に対する考え方が、子どもたちの考え方にも影響してしまうのではないか、と。

 

市川:本当は、子育てをしている人たちこそ、新しい働き方に触れていかないといけないと思うんです。そうしないと、子どもたちがどうなっちゃうのか心配で。

 

日比谷:子どもに合わせて母親も成長していかないといけないってことですね。

 

市川:お母さんたちって、「自分たちには知らないことがある」ということを知らないケースが多いと思います。自分が知っている世界が、すべてだと思い込んでしまっている。知らないことがいっぱいある、知らないことを知るという過程がすごく大事なのに。

 

WORK MILL:働き方は自分たちだけではなくて、次の世代にも影響を与えるものなんですね。

 

市川:そう思います。新しい働き方や働き方の未来を作っていくことが、自分たちの未来だけでなく、次の人たちがどういう未来を選択できるのかに影響を与えると思います。

 

日比谷:今度、西田 亮介さんという社会学者の方と対談する機会があるので、その方の書かれた『無業社会』(※無業である若者が増えている社会の形態を表す言葉。NPO代表と社会学者が若者の無業状態について紹介した書籍)という書籍を読んで予習しているんですね。その内容を読むと日本社会には、20代後半から30代の人でなんらかの事情があって仕事をしていない人たちが一定数いるんですけど、そういう人たちが働き始めるのは厳しいと言われていて。社会の仕組みの問題や、価値観の問題など、対策すべき課題は山積しているようですが、中でも気になったのは、「働く自信をもちづらい」という課題があるという点です。じゃあ、どこから手を打っていくべきかを自分の身の回りで考えると、子どもの時から「はたらく」ことに対する価値観を育んでいく必要があるなと感じました。

 

WORK MILL:社会課題になっている現状を解決するためにも、子どもの頃に「はたらく」ということに対する価値観を身につける機会を設けることが重要だと。

 

日比谷:そうなりますね。子どもの頃に、社会のルールや多様な価値観を知って、ストレスを感じつつも達成感を得、ギブアンドテイクしていく。その延長にあるのが仕事だよと、そしてその経験をもとに「はたらく」ということを知ったり、自信をつけることが大事かな、と。市川さんの話を聞いていて、気づいたことがあります。

 

WORK MILL:それはどういったことでしょうか。

 

日比谷:小さい頃に、ちゃんと世の中と関わり合って、文化を受け入れながらギブアンドテイクを経験する機会を作っておかないと、将来大変になるんだろうな、と。「知っている世界」だけで過ごしている、内向的な家族の中で子どもたちが育つと、子どももそうなりかねないんだ、と思いました。

 

WORK MILL:すると、子どもの頃から「はたらく」に触れること、母親が新しいことに触れていくことがかなり重要だということになりますね。どうすると地域で暮らすお母さんたちや子どもたちが新しい働き方に触れられるのでしょうか?

 

市川:今、コワーキングスペースを運営していて、子どもたちが地域にいながら多様な大人に出会える機会を何とか設けられないだろうかと考えています。違うスキルというか次世代の読み書きそろばんみたいなことや文化に触れられる場所がもっと増えればいいなと思っていて。

 

WORK MILL:コワーキングスペースで普段は会えないような大人や文化に触れられるのは子どもにとって世界が広がるきっかけになりそうですね。

 

市川:より「暮らし」と「はたらく」が重なっていく場所が増えて、そこに商店街のおじさんが来たり、そんなことがもっとあればいいなと思って、コワーキングスペースを運営しています。ただの働く場所ではなく、新しい文化や考えに触れられる空間にできたらと思っています。

 

WORK MILL:働くことと暮らすことの関係について話した第三回でも話に出ていましたが、「はたらく」と「暮らす」が重なっていくと、新しい発見がありそうですね。

 

市川:「スタートアップウィークエンド」(※グローバルに展開しているイベント名、エンジニアやデザイナーが週末に集い、サービス開発を行う)というウェブサービスやアプリを考えるイベントがあるのですが、これの子ども版を開催したらいいんじゃないか、なんてアイデアもあります。そこに大人も入って、アイデアは子どもだけで出して、大人はそれを実現する。

 

WORK MILL:そういった機会が増えていくと、一見遠く感じられる「はたらく」と子どもの距離が近づいて、いろいろな変化が生まれるのかもしれないですね。

 

社会との接点を持つことが未来の「はたらく」を豊かにする

 

WORK MILL:「はたらく」ということが子どもや地域など、社会と密接に関わるというのは面白い視点だと思います。日比谷さんはキーワードに「プロボノの進化系」という単語を挙げていました。これはどういうことなのでしょうか?

 

日比谷:1つの組織や1つのコミュニティにいるだけでは、どんどん同化していってしまうし、新しいことは起こりにくいという価値観がベースにあります。仕事についても同じで、1つの組織だけじゃなくて、いろいろなところの仕事をしたらいいと考えています。

 

WORK MILL:なるほど。

 

日比谷:ただ、副業禁止の会社もあったりするので、そういった会社で働いている人たちは、プロボノやボランティアなどの活動をしたらいいと思います。そうすることで、弱いつながりのレイヤーが増えていきます。地域のレイヤー、会社のレイヤー、同窓会のレイヤー、趣味のレイヤー。こうしたつながりを、複数持っていたほうがいいと思っています。意識的に、会社の仕事以外の仕事、例えばプロボノのようなものを意識的にやっておくことで、自分の価値の確認ができるんじゃないかなと考えています。

 

WORK MILL:プロボノに「進化系」と追加されたのは何か意味があるのでしょうか?

 

日比谷:最近、「ビザスク」(※1時間から活用できるスポットでのコンサルティングサービス)や「サンカク」(※大企業で働いている人間とスタートアップをマッチングし、事業についてディスカッションできる)というサービスが登場していますし、NPOでもスポットでアドバイスしたりする人が増えているじゃないですか。これが、それぞれの組織にとってどれだけプラスになるかはわかりません。ただ、相談にのった個人は、いろいろなところで自分が役に立つとわかれば自信になると思うんです。毎週土日を使ってガッツリ関わるのはさすがに難しいですけど、月に1回くらい手伝うライトプロボノみたいなのとかでもいいですし。そういう意味で追加したんですよね。

 

WORK MILL:なるほど。簡単なアクションでもいいから、関わってみることが重要なんですね。

 

日比谷:たまたまかもしれませんが、僕の身の回りの仕事をしながらNPOなどに関わる人たちって、大企業で働きながらプロボノをやっていたり、MBAホルダーのような優秀な人たちが多かったんですよね。そういう方が目立つし取り上げられやすい、ということかもしれません。でも、そういう人たちをロールモデルにするのではなくて、もうちょっとライトなロールモデルが増えてもいいんじゃないかと思います。

 

WORK MILL:ライトでもいいから活動することで、自分の価値ややりたいことを見つめなおす機会にもなりそうですね。

 

市川:女性は育休期間をうまく使って期間限定プロボノのような活動をしていたりします。以前は、ママ友を作ったりしていたのが、最近では20〜30代でやる気のある女性たちが、育休中にNPOを応援したりとか、地域活動に参加して、育休が終わったら会社に戻って働いていたりします。女性の方がうまく多様な場所で活動するケースは増えてきている印象があります。

 

日比谷:そんな活動が増えてきているんですね。

 

市川:ここ3年くらい増えていますね。あとは、ママMBAや「丸の内朝大学」(※丸の内という街を舞台に、朝ビジネスパーソンたちが集う市民大学。2009年春に開講し、のべ1万3千人以上が通っている)のような朝活や市民大学のような活動に参加する女性も増えました。女性は結婚や出産などのライフイベントの時に、どうしてもキャリアについて考えさせられるし、その受け皿としていろいろな活動があるんだなと思います。

 

WORK MILL:うまく地域や社会との接点を持っておくことで、いろいろな仕事の選択肢が生まれたり、会社に勤めていない時期にも活動することができたりするようになるんでしょうね。定年退職後の男性にとっても大事なヒントがありそうなお話でした。

 

市川:ずっと会社組織で働いていた人が定年退職後に、いきなり地域に来てもなかなか適応するのが難しいってなりますよね。どうやって関わっていいのかわからないみたいで。上手くいかないわけじゃないですけど、昔ならではのやり方やコミュニケーションの取り方で、地域で活動するとなると、対等にコミュニケーションをとれない人も多くて。今後、上手に対応できる人も増えていくんだと思いますけど、長年の働き方で染み付いた習性があると難しいですよね。

 

WORK MILL:会社で働いている間にも、少しずつ外部の人たちと触れることは、社外でのコミュニケーションの取り方に慣れるためにも大事なのかもしれないですね。

 

2020年を見据えて「はたらく」をデザインする

 

WORK MILL:市川さんが「After 2020」というキーワードを挙げていました。これはどういう意図だったのでしょうか。

 

市川:リクルートワークス研究所が「東京オリンピックがもたらす雇用インパクト」(※東京と同じ成熟都市で行われた2012年のロンドンオリンピックの経済・雇用影響をレビューし、東京オリンピックが生み出す人材ニーズを予測したレポート)というレポートを出しているんです。オリンピックの特需で、一気にいろいろな物事が進んでいくけれど、できあがった仕組みはオリンピック後にどうなってしまうんだろうか、と懸念していて。あとは10年後の2025年。この年には社会構造がすごく変わるんです。団塊世代が後期高齢者になり、社会保障の負担が増える一方で、社会に出て行く若い子たちが少なくなり、社会を維持できなくなってくるのが2025年だと言われています。そこまで見据えて働き方をデザインできるのか。大きいテーマですね。

 

WORK MILL:それは大きなテーマですね。日比谷さんは5、10年先をどう考えてらっしゃいますか?

 

日比谷:社会の課題を捉えている方たちの話を聞いていて思うのは、そんな状況だったら自分はどうするか周りの人はどうするかということ。世の中が変化していって、価値の重みが変わり、いろいろなところで問題が起こるほど、その課題を解決することが人の助けになると思うんですよね。そこに自分の居場所を見出せばやっていけるんだろうなと思ったりして。自分の強みを磨いておいて、変化を感じ取って、役に立てそうなマッチング先を探していく、という作業の繰り返しなんだろうなと思いました。一個人の働き手としては、変化こそチャンスだと捉えて、変化が生じた時にどう振る舞うかを考えていきたいですね。

 

WORK MILL:ありがとうございます。最後に、お二人から働いている方々に対して、何かコメントをいただけますか?

 

日比谷:繰り返しなりますけど、弱いつながりを意識的に作り、活用していくこと。あとは、自分の欲求を大事にすること。それが1歩踏み出して違う世界に行って人の話を聞いてみるだけでもいい。とにかく、何かをやってみることは大事です。

 

市川:心地よさの軸でいろんな人の人生を彩れたらいいなと思っています。そして、それが母親たちを通して子どもたちに伝えられたらいいなと思います。自分たちだけではなく、未来の働き方において「心地よさ」が大事というのはもっと声を大にして言っていきたいですね。

 

WORK MILL:ありがとうございました!

 

先駆者に聞く(番外編) 「2016年注目しているツール」に続く

 

先駆者に聞く
・vol1.「多様なワークスタイルから学ぶ、働き方の文化創造

・vol.2「シェアリングエコノミーがオフィスを変える

・vol.3 「分断から統合へ。ライフとワークが重なっていく未来に向けた働き方

・vol.4 「「はたらく」がつなぐ社会と未来、2025年を見据えて求められるもの」

・番外編「2016年注目している「はたらく」ツール

Profile

市川 望美

非営利型株式会社Polaris代表取締役 CEO / 日本ファンドレイジング協会認定 准認定ファンドレイザー

1972年生まれ。短大卒業後IT系企業へ入社。2002年長男出産後、育児休業を取得したのち退職。2003年からは“当事者発信型・循環型”の子育て支援に従事。NPO 法人せたがや子育てネット理事、アミーゴプリュス合同会社代表社員などを経験。2011年内閣府地域社会雇用創造事業ビジネスプランコンペで採択され、地域における多様な働き方を支える基盤づくり事業を開始。2011年8月「ここちよく暮らし、はたらく為の拠点」として”cococi”Coworking Space立ち上げ。「セタガヤ庶務部」等育児中の女性たちによるあたらしい組織づくりや、暮らしを価値に換える「ロコワーキング事業」に取り組む。「女性」「地域」「新しい働き方」などをテーマにした講演も多数。中1男児、小6女児の母。

日比谷 尚武

Sansan株式会社 コネクタ / Eightエヴァンジェリスト

学生時代より、フリーランスとしてWebサイト構築・ストリーミングイベント等の企画運営に携わる。その後、NTTグループにてICカード・電子マネー・システム開発等のプロジェクトに従事。2003年、株式会社KBMJに入社。取締役として、会社規模が10名から150名に成長する過程で、開発マネジメント・営業・企画・マネジメント全般を担う。2009年より、Sansanに参画し、マーケティング&広報機能の立ち上げに従事。現在は、EightおよびSansanのエヴァンジェリストとして社外への情報発信を務める。趣味はサバイバルゲーム、BtoB / IT広報勉強会の主催、アナログレコードでロックを聴く素晴らしさを啓蒙する活動など。

テキスト:モリ ジュンヤ
写真:押尾 健太郎

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