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人生を重層的にしていく「遊び」の視点 ー対談 安斎勇樹×澤田智洋

 

商品開発や新規事業開発など、多くの企業は優れたアイデアを生み出し、事業成長させていくことを目指しています。けれども、新商品や新サービスが生まれては消えていき、手詰まり感を覚え始めた企業も少なくないでしょう。

 

こうした企業が抱える閉塞感を打ち破るためには、何が必要なのか。どうすれば、新しいアイデアが生まれる組織をつくることができるのでしょうか。そのヒントを探るため、異なるフィールドでさまざまな企業や団体とプロジェクトを進める、株式会社MIMIGURI 代表取締役 Co-CEOの安斎勇樹さんとコピーライター澤田智洋さんのお二人をお招きしました。対談を通して、企業やそこで働く人々の閉塞感を打破する「良い問いの立て方」について考えていきます。

 

前編に引き続き、後編ではアイデアを生み出すための環境と、そのデザインの方法について。

 

前編記事:企業の閉塞感を打破する「良い問い」の立て方 ー対談 安斎勇樹×澤田智洋

 

人の創造性が殺された「地獄」、その間にある「天国」を目指す

安斎:「あなたがいてくれて良かった」と伝えることが働く喜びにつながるというのは、シンプルだしまさに原点回帰ですね。

 

澤田:でも一方で、僕が組織やチームをマネジメントする際は、あえて「居心地の悪さ」を注入するようにしているんです。例えばAさんが「性格がめちゃくちゃいい」ってわかっていると、Aさんのアイデアがあまり良くなくても、否定しづらい。だから組織に「ホーム性」は担保しつつも、流動的に新しい人を入れたりする。そうすると程良い緊張感が走って、良いアイデアが生まれるんです。

 

安斎:異分子を入れることによって、ホームとアウェイのバランスを保ち、アイデアとしての強度を高める、と。

 

澤田:もう一つ、アイデアを作るときも、チームをマネジメントするときも、まず “地獄”を二つ設定するようにしています。例えば、新しいスポーツを作るなら、「笑える地獄」と「健康地獄」を作っておくんです。ゆるスポーツは「笑えるスポーツ」を目指しているのですが、笑いに振りすぎるとスポーツから乖離して受け入れがたいものになるし、健康に一気に振ると既存のありきたりなスポーツに寄りすぎてしまう。「天国地獄理論」って勝手に呼んでいるんですけど、二つの地獄の中間の“天国”を探す行為を僕はすごく大事にしています。

 

安斎:それはとても面白いですね。僕が大学院生の頃、架空のカフェをデザインするワークショップを題材に、ある実験をしたことを思い出しました。片方のグループには「とにかく居心地のいいカフェを作ってください」と、もう片方には「危険だけど居心地がいいカフェを作ってください」と指示して、どういう違いが起こるのかを実験したんです。そのときの結論がまさに「天国地獄理論」に近くて。

 

研究したところ、居心地の良さを追求する軸しか用意されていないと、グループのアイデアがとても早い段階で収束し、あっという間に合意形成してしまったんです。一方、「危険」と「居心地の良さ」という対極のテーマで話し合ったグループは、ある人の意見に対して、別のある人が対極の視点から再解釈するために、なかなか合意が形成されず、最終的なアイデアも突飛で面白く、全員の作品に対する満足度が高かった。

 

この実験で僕は、何か新しいものを生み出すときに本質的に重要なのは「ああでもない、こうでもない」という状況を作り出して、考え続けることなんじゃないかと思ったんです。澤田さんの言っている「地獄」ってつまり、生命システムの作動が止まってしまう状況、人の創造性が殺された状態なんでしょうね。創造性を喚起し続ける状態をどうやったら生み出せるか、その意味で二つの地獄は必要なのかもしれません。

 

澤田:まさに。僕はカオスをどう作るかの話だと思っていて。「危険」と「居心地の良さ」がテーマのカフェを作るワークショップも、ある意味、カオスをそこに作っているわけですよね。新しいものは必ずアウフヘーベン、つまり矛盾の結合から生まれています。人って矛盾とかカオスがないと、真の意味で問いを立て、考えることができないのではないでしょうか。

 

ただ、心理的安全性が担保されていることも大事で。その上にカオスをコーティングするバランスの妙が必要なのかな、と思っています。そうでないと、心理的安全性が損なわれる地獄か、カオスが少なすぎてぬるま湯状態で建設的なアイデアが生まれない地獄か、どっちかに陥ってしまうから。二つの地獄という両極があることで人は惹きつけられて、問いを立て、考えるようになって、狭間にある“天国”を見つけることができる。これが本当に難しいんですけどね。

 

心理的安全性とカオスが両立した環境をどのようにつくっていくか

安斎:心理的安全性を担保しつつ、カオスな状況を作り出すのは、確かに難しいですよね。僕からの提案としては、近代化したシステムに野性味を取り戻すことかな、と。原点回帰というお話もありましたが、今回一貫して「近代に後付けされた組織構造や社会構造があまりに不自然だから、野性の時代のよかったところを取り戻そう」ということを話していますよね。この野性が失われた要因は、効率化を目指しあらゆるものが分業制になってしまったことだと思っていて。例えば病院も整形外科、内科、神経科などに分けて、治療を分担している。

 

だからいまチームや職場でできる改善策としてあるのは、機械的・近代的・効率的に分業されたものを、いま一度混ぜあわせてみること。はっきりとタスクを個人的分業に切り分けるんじゃなくて、あえて曖昧にして、対話せざるをえない状況をつくる。自分たちができる範囲で野性を取り戻す営みをしていく必要があるのかなと思っています。

 

-安斎勇樹(あんざい・ゆうき) 株式会社MIMIGURI 代表取締役 Co-CEO/東京大学大学院 情報学環 特任助教
1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。研究と実践を架橋させながら、人と組織の創造性を高めるファシリテーションの方法論について研究している。主な著書に『問いのデザイン-創造的対話のファシリテーション』(共著・学芸出版社)『リサーチ・ドリブン・イノベーション-「問い」を起点にアイデアを探究する』(共著・翔泳社)『協創の場のデザイン-ワークショップで企業と地域が変わる』(藝術学舎)がある。

 

 

澤田:なるほど。僕の場合は「弱さ」からアプローチしてみることですかね。普段から僕は、相手がマイノリティでも健常者でも、その人の弱さの話をよくするようにしていて。そのときに、多くの人が「僕は○○が苦手です。それは僕のせいです」と言うんです。それに対して僕は「本当に?」と問いかけるようにしています。本人の中で「○○が苦手なのは自分のせい」という暫定的な答えが出ていたものを蒸し返すことで、未解決の問いに引き上げることができる。そうすると「言われてみればスポーツ自体に問題があるのかもな。じゃあスポーツを変えよう」という風に解釈を改めたりするんです。

 

安斎:なるほど。同じようなことを僕もやっていて、自分の会社に新しいメンバーが入ったら必ず「変えたいけど変えられない、直したいけど直せない特性」を聞くことにしているんです。すると本人はすごく悩んでいて、直したいって言いつつ、本当は直したいと思っていないことがわかったりする。まさにいま澤田さんが仰っていた通り、その悩み自体直さなくていいものだったり、なんなら強みだったりする。そういうことを本人も感覚として持てると、安心して才能を発揮できる環境を作っていけると思っています。

 

澤田:そういう組織や環境づくりをする上で、安斎さんは何か意識していることはありますか? 僕はコピーライターなので、言葉で新しい環境を定義していくことが大事だと思っています。例えば世界ゆるスポーツ協会を作るときは、「スポーツ弱者を世界からなくす環境」を作りたいと思ったので、仲間と対話して言葉を定義して、そのあと環境整備のフェーズに移っていきました。この言葉を定義する上で大事なのが「借り物の言葉」や「置き物の言葉」を使わないこと。

 

言葉には2種類あると思っていて、一つは「置き物のような言葉」。これは「多様性と調和」など、世間的なムードを取り入れた、いわゆる置きに行くようなありふれた言葉。もう一つは「生き物のような言葉」で、借り物の言葉ではなく自分のものとしてアウトプットする言葉。魂が入っていて、人の気持ちが動くような言葉ですね。

 

安斎:なるほど。僕の場合は、学習環境デザインの合わせ技を駆使しています。学習環境デザインでは、環境を四つの要素……「活動」「共同性」「空間」「人工物」に分解して、有機的に結びつけながらデザインを考えるんです。

 

例えば、ワークショップの場でファシリテーターが「みんなで自由に話してください」と呼びかけても、場を動かすのは難しいですが、椅子の距離を縮めるだけで話し合いが急に活発になることがあるんです。だから学習環境デザインの視点で、どういうルールで、どの場所で、その空間をどのように使うのか、ということはそのワークショップや方向性に合わせて環境づくりするようにしていますね。

 

非日常から物事を俯瞰し、新たな気づきを得られる「遊び」こそが人生を重層的にする

-澤田 智洋 (さわだ・ともひろ) コピーライター/世界ゆるスポーツ協会代表理事
1981年生まれ。言葉とスポーツと福祉が専門。幼少期をパリ、シカゴ、ロンドンで過ごした後、17歳で帰国。2004年、広告代理店入社。アミューズメントメディア総合学院、映画「ダークナイト・ライジング」、高知県などのコピーを手掛ける。 2015年にだれもが楽しめる新しいスポーツを開発する「世界ゆるスポーツ協会」を設立。これまで100以上の新しいスポーツを開発し、20万人以上が体験。また、一般社団法人障害攻略課理事として、ひとりを起点に服を開発する「041 FASHION」、ボディシェアリングロボット「NIN_NIN」など、福祉領域におけるビジネスを推進。著書に『ガチガチの世界をゆるめる』(百万年書房)『マイノリティデザインー弱さを生かせる社会をつくろう』(ライツ社)がある。

 

 

澤田:よく「ライフワーク」と言われるけど、自分の一生ものの問い……「ライフクエスチョン」があれば自律的に働いて生きることができると思うんです。けれどいま多くの人は、人生の問い自体を考える時間がない。本当は人生の伴侶となるような良い問いを考える時間があるといいですよね。

 

安斎:そうですね。結局、自分がなにを探究したいのかという「いまここにある問い」を立て、タスク処理や情報処理もその方向へ切り替えていかないと、いろいろなところで立ち行かなくなるんじゃないでしょうか。自分の中にある問いを起点にした、思考する時間・機会が必要なんだと思います。いつまで経っても外側から情報を仕入れていては、自分をないがしろにしてしまうから、勉強法ではなく探究法にベクトルを変えていきたい。ただ、自分の内なる声を聞こうとする探究法は、自分の空虚さに気付いてしまうという、ある意味でのハードルもありますよね。

 

澤田:僕はみんながみんな、自分のことを探究しなくてもいいとも思っています。探究している人を応援、サポートしたい人も一定数いる気がして。探究したい人の近くにいて力になることが、生きがいになることもあるし、そういう生き方も探究につながりますから。

 

コロナ禍でエッセンシャルワーカーの人たちにスポットが当たりましたが、一方「スポーツや音楽は不要不急」と切り捨てられ、社会が極端に「サバイブ」に寄ってしまいましたよね。だけど人間って、サバイブするためだけに生きているわけじゃなく、活き活きと生きるためにも人生を生きている。つまり「アライブ」するために音楽や演劇、スポーツといった遊びの文化があるわけで、人間にとってはサバイブもアライブもどちらも必要だと思うんです。アライブとサバイブの間にいかに居続けるか、それを僕は常に意識しています。

 

安斎:いまのお話を聞いて、自分がいまだに大学に籍を置きながら会社経営をしているのも、どちらかに偏るのが「地獄」だと思っているからだと思いました。スタートアップ経営も、のめりこむに値する意義のある活動だけど、大学で研究してひたすら論文を書き続け、学会活動に没入するっていうのも面白い知的活動で。僕個人のポテンシャルを活かし続けるという観点では、そのどちらかに偏るのは僕の創造的な運動を停止させる意味で、 地獄なんですよね。

 

澤田:安斎さんの人生自体がすごく、問い的で面白いですよね。「学校とは何か」「利益追求とは何か」というように、ずっと何かがわからない状態なんでしょう。複雑な環境に身をおいているからこそ、安易に「わかる」と言えない。お話しを聞いていて、良い問いの価値というのは、「わからない」の価値、つまり学び続けることなのかもしれないと思いました。

 

安斎:まさにそうですね。僕は答えが出る、出ないよりも学習が止まることが一番恐怖だと思っています。学習はわかったと思った瞬間に止まるので。

 

澤田:だから「わかっている」と思っていることがあるなら、それを疑ってみるところから良い問いやアイデアが生まれるかもしれない。

 

安斎:今日澤田さんとお話しして、僕らは根底に「遊び的なものの見方」があると感じたんですけど、遊びって不真面目なものであると誤解されがちですよね。確かにそういう側面もあるけど、遊びという非日常から「真面目ワールド」の解釈を見ることで、異なる視点や考え方を許容したり、楽しんだりできる可能性が開かれる。これこそ、遊びの本質だと思っているんです。

 

澤田:そうですね。遊びが人生に入ってくることで、日常の中に新しいルールが設定され、非日常へと変わる。日常とは違う自分を発露して、新しい一生というものがそこで体験できると思うんです。人生は一度しかないけれど、遊びを人生に入れていくことで、一生を二生にも三生にもしていくというか。遊びがあると人生が重層的になっていく。

 

遊びはパラレルワールドの始まりなんです。それを経験することで客観性が持てて、呪いや魔法から解かれる。だからワークショップやゆるスポーツみたいな、何かを問い直すとか新しい人生を生きるきっかけになるような遊びが、もっと日本でその価値が認められてもいいのではないでしょうか。

 

 

2021年9月22日更新
2021年7月取材

 

テキスト:中森りほ
取材:大矢幸世
イラスト:野中聡紀

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