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オフィスは工場?遊園地? ~乃村工藝社とオカムラが考える、これからのオフィスデザインに必要なもの~

 

いつでもどこでも働くことができる時代にオフィスに求められる機能とは何でしょう? 産業革命以降、オフィスは効率よく、知的な作業を行うための場所として進化してきました。しかし、コロナ禍を経験することで、働くための時間や場所の選択肢は増え、私たちはオフィスに集まって働くことの意義を再確認することに迫られています。

 

効率よく、エラーなく、全員が一か所に集まって決められた時間働く。これは工場のメタファーで作られたオフィスです。一方で、イノベーションとまではいかなくても、新しいことや面白いことが生み出されるオフィスはもっと違う姿、ルールなのではないでしょうか。

 

 

2021年10月7日に開催した本ウェビナーでは、効率重視のオフィスを「工場」、ドキドキワクワクするようなオフィスを「遊園地」に置き換えて、今後オフィスデザインに求められる要素を最前線で活躍するスペースデザイナーとともに探りました。

 

スピーカーは株式会社乃村工藝社 デザイン3部 部長 クリエイティブディレクターの大西亮さんと、株式会社オカムラ スペースデザイン2部 ユニットリーダーの笈川竜です。そして、働き方の研究者である株式会社オカムラ ワークデザイン研究所 リサーチャーの池田晃一がモデレーターを務めました。

 

−大西亮(おおにし・りょう)株式会社乃村工藝社 デザイン3部 部長 クリエイティブディレクター
ミュージアムデザインを起点に企業ショールーム・店舗デザイン、ホテル、ワークプレイスまで分野にとらわれないプロジェクトを経験。情報デザインとインテリアデザインの領域を融合した空間づくりや体験価値づくりを主軸とし、デザインプロセスを包括的に捉えたクリエイションを展開。

 

−笈川竜(おいかわ・りゅう)株式会社オカムラ スペースデザイン2部 ユニットリーダー
主に都内のオフィス構築を中心に活動。2017年頃から大型プロジェクトのメイン設計者として様々な働く場を手掛け新しいこと、今までなかったことに果敢に挑戦している。

 

−池田晃一(いけだ・こういち)株式会社オカムラ ワークデザイン研究所 リサーチャー
働き方の研究を20年ほど行う。専門は場所論、2012年からテレワークを含む柔軟な働き方の研究を担当。コロナ禍以後はニューノーマルのオフィスに関するレポートを発信。博士(工学)。日本さかな検定準一級。

 

幅広いジャンルの空間デザインを手がける乃村工藝社とオカムラ

 

オフィスデザインだけでなく、観光や物流施設など数々の空間デザインを手がけるオカムラ。最近、企業理念も「豊かな発想と確かな品質で、人が活きる環境づくりを通じて、社会に貢献する」と一新され、幅広い空間デザインを手がけるようになりました。

 

―Inspired.Lab

 

―富士フイルムビジネスイノベーション株式会社 センターオフィス

 

スピーカーとして登壇した笈川は、大型プロジェクトのメイン設計者として数々のオフィス空間を担当。三菱地所とSAPが共同で手がけたビジネスイノベーションスペースの「Inspired.Lab」では、古い躯体を生かしたオフィスデザインを。富士フイルムビジネスイノベーションの国内最大拠点となる「センターオフィス」では、「チームで働くことに特化した場づくり」を行ってきました。

 

―神田明神文化交流館 ©川澄・小林研二写真事務所

 

一方の乃村工藝社は、アーバン&リテールやホテルなどのホスピタリティー、コーポレートやエンターテイメント、コンベンションやパブリックスペースまで、さまざまな業種の空間デザインを行っています。さらに600人を超えるクリエイターが在籍していることから空間デザインだけでなく、コンテンツデザインやプランニングなど、デザインのアプローチの仕方も多種多様。スピーカーである大西さんは、展示空間デザインをトータルで担当し、これまでに「神田明神文化交流館」や富士フイルムビジネスイノベーションの新社屋などを手がけてきました。

 

コロナ禍後、オフィスデザインができることとは?

コロナ禍になってリモートワークが進みオフィスの存在意義が改められるようになり、その結果オフィスを移転したり縮小したりする動きが出てきています。

これについてリサーチャーの池田は「オフィスが必要かどうかアンケートすると、経営者の9割は必要と回答し、ワーカーの5割はオフィスで働きたいと答えています。また、コロナ禍後の出社率は約半数の人が5割以下の出社を希望しています。つまり、コロナ禍後の出社率は週に2日〜3日にして、あとは家や他の場所で仕事をすることが現実的ということがわかります」と分析しています。

さらに作業の効率は、場所に左右されないと答えた人が4割以上というデータも提示。コロナ禍前では「オフィスでの仕事の方が捗る」と答えた人が多かったものの、コロナ禍でリモートワークが浸透すると働く人の意識も変化してきたようです。

 

「今後はこのようなデータを踏まえてオフィスを設計することが大切」だと話す池田。デザインの力でどのようなことができるのか、スピーカーであるデザイナーの二人によるクロストークが始まりました。

 

オフィスデザインは「見せる」よりも「効率的に働ける」ことを求められる

 

池田:これまでさまざまな空間デザインを手がけられてきたお二人ですが、オフィスデザインならではの特徴はありますか?

 

大西:例えばショールームやミュージアムは、商材や歴史・文化などの「訴求するもの」が決まっていて、発信したい事柄が受け手に伝わるように空間をデザインします。一方オフィスは「訴求するもの」がなく、社内のエンゲージメントを高めるとか、社員間のコミュニケーションを生み出すとか、そういう目的でのデザインになります。会社のビジョンをどうワークプレイスとしてまとめていくかが、ショールームやミュージアムデザインとの決定的な違いです。

 

 

笈川:我々が手がけてきたオフィスデザインのケースで言えば、企業の経営者や総務の方から「社員が効率的に働けること」をご要望いただく場合が多いのが特徴かもしれません。どちらかというと「どう見せるか」よりも、「どう会社として機能させるか」という部分にフォーカスしながら設計していることが多いです。そうすると、人の行動データなどをベースにしてデザインをつくることになるので、「もっとこうしたいのにできない!」ってことも結構あって。だからこそ「好きにデザインしてもいいよ」と言われたときには、絶対にダサいと言われるデザインはつくらないように心がけています。

 

あとは我々家具メーカーに求められるデザインと、乃村工藝社さんに求められるデザインは多分違うと思うんですよね。その違いから我々に求められているデザインは何なのかを考えながら仕事をしています。

 

経験者だけのチームでは従来のデザインは超えられない

池田: 2つ目の質問なのですが、デザインチーム内でのコンセプトやセンスの共有はどのように行われていますか? 昔は一人の職人さんがデザインを担当していたと思いますが、いまはチームで動くことが基本ですし、営業などとの連携も必要ですよね。

 

大西:まずコンセプトを僕の方で1回設定して、それをメンバーに見せるようにしています。言葉だけでなく、イメージ写真も何枚か共有しますね。それに対して具体的に「もうちょっとこうした方がいいんじゃない?」などとアドバイスをもらいながら進めています。

 

 

大西:自社オフィスのプロジェクトを進めた際は、自分が統括だったこともあり、ある程度センスの共有ができる人を選抜しました。本当はいろいろな人とたくさんアイデアを積み上げながらプロジェクトを進めたいのですが、時間が限られている場合はセンスを共有しやすい人から選ぶところはありますね。

 

一方で、オフィスをつくるにあたって経験者をアサインすると、従来のオフィスデザインは超えられないとも思っています。今回に関しては、ワークプレイスデザイン未経験のミュージアム専門チームを、会議室の構築にアサインしました。そんな中で出てきたアイデアが、アクアリウムとカンファレンスを掛け合わせた「カンファリウム」というスペースです。

 

―乃村工藝社グループオフィス「カンファリウム」

 

大西:乃村工藝社は、サンプルを持ち寄ったり、激しい議論をしていたり、多種多様な会議が行われているのが面白みでもあります。そこであえて「会議を魅せる」をコンセプトに、会議室の壁を全て透明にしました。クローキングフィルム等でセキュリティ面にも配慮しつつ、打ち合わせをしている風景だけを切り取って見せるようにしたんです。このアイデアは、通常のワークプレイスチームがやっても多分出てこなかったと思っていて。そういう経験のない人を集めることも、チーム作りの面白さです。

 

笈川:僕の場合はある程度人となりを知っている中で、プロジェクトごとにセンスの近しい人を選んでいます。元々僕が人と接するのが好きで、普段から「これ何の模型?」「いま何しているの?」といろいろな人に話しかけているんですよね。こういうのってテレワークでは得られない情報なので、そういう意味でもオフィスという場は必要ですよね。

 

池田:センスの共有という意味では、日頃のオフィスでのコミュニケーションが重要になってきそうですね。

 

オフィスは経営実現装置だからこそ、クライアントとの認識合わせが大切

池田:続いては、クライアントとのコミュニケーションについて。多くの場合クライアントとデザインについて話し合いをする必要があると思いますが、デザインのこだわりやコンセプトをどう伝えていくかというのは課題だと思います。お二人はどのような工夫をされていますか?

 

大西:結構皆さん実施されているとは思うのですが、オフィス含めベンチマークしている施設へクライアントと一緒に行くのが一番良い方法ですよね。一緒に施設を見学することで、注目する視点とか、言葉に表すのが難しいニュアンスを共有しやすくなりますので。ただ、時間が取れないと難しい手法でもある。その場合は模型など、早めに立体を作ってクライアントにお見せするのがいいかなと思います。

 

 

笈川:私の場合は毎回共通のキーワードを作るようにしています。例えば、リビングという言葉を一つとっても「何がリビングなのか」という認識は人によって異なりますよね。そういった部分をまずクライアントとすり合わせていきます。そこからイメージを具体化してデザインに落としていく。あとは説明しやすいよう、パースとか実物をクライアントのところへ持っていくこともしますね。

 

大西:共通キーワードの話に近いのですが、クライアント含めチームみんなでキーワードを元に絵を描いて発表してもらうというワークショップをやるのもいいと思っています。会話の中で共通言語化していくことで、スピーディーに目指すべき方向が定まるので。

 

 

大西:ただ本当にベストなのは実際にクライアントの会社で何ヶ月か働いてからデザインコンセプトを作ることだと思うのですが、笈川さんはそういうことをされますか?

 

笈川:何ヶ月も働くことはないですが、半日ほどクライアントのオフィスにいたことはありました。そうするとどんな従業員が働いているのか、空気感を知ることはできますよね。やはり一番怖いのは、僕らが考えるオフィスの目指すべき方向と、クライアントが考える方向が違ったとき。以前「オフィスは経営実現装置」と仰っていた方がいて、すごくいい言葉だと思ったのですが、だからこそ経営者の方が考えている「オフィスが目指すべき方向性」も大切にしてデザインをしなければ、と思っています。

 

使い方の決まっていないスペースが増え、工場的空間との使い分けが重要になる

池田:では、今回のイベントのタイトルでもある「これからのオフィスは工場か? 遊園地か?」についてもお二人の意見を聞かせてください。やはり生産性が求められる以上、オフィスには工場的側面もありますが、一方でどこでも仕事ができる時代のオフィスには、そこで働きたくなるような遊園地的要素も求められていくと思います。今後のオフィス観はどのように変化していきそうですか?

 

大西:今後はオフィスの中でも工場的な場所と、遊園地的な場所をうまく使い分けることが大事になっていくのかな、と思っています。

 

―乃村工藝社グループオフィス「RESET/SPACE_2

 

大西:自社オフィスのケースですが、全社員が使えるコミュニケーションスペースは、「遊ぶ」と「働く」をごちゃまぜにした遊園地的な場所にしています。一方で執務スペースは、効率重視の工場的な部分も必要だと考えています。例えばデザイナーの執務スペースについては、明確に特徴を分けた2つのフロアをつくりました。

 

 

大西:8階(画像左)は打合せなどを行うパブリックなフリースペースで、遊園地的な場所。対して9階(画像右)は作業に集中するためのチームアドレス制ワークスペースで、工場的な場所。改装前は8、9階ともにデスクの横に打ち合わせスペースがある状態だったんですが、個人の物を片付けない人が多く、打ち合わせスペースも侵食してしまっていました。そこで実験的にフロアを分けてみたところ、パブリックスペースもみんな片付けるようになって。遊園地的な場所と工場的な場所の使い分けが大事だと思いました。

 

池田:確かにパブリックなスペースを片付けたり、掃除したりする行為によって、オフィスに対する愛着も湧きますし、いい考え方かもしれませんね。

 

 

笈川:池田が所属するワークデザイン研究所によると、今後オフィスにはカフェラウンジやコラボレーションエリアなどの「使い方が決まっていないエリア」が増えていくのではないかというデータが出ています。

笈川:設計時にこうしたデータを引き合いに出して、オフィスの中に遊園地的な場所を取り入れるよう促すことも必要だと思います。ただ、そんな中で個人的に気になるのが、「遊園地的な空間は飽きられないのか」ということです。大西さん、いかがでしょうか?

 

大西:弊社の場合は、スペースによって風景が変わるので飽きられてはいないですね。展示物を多くしすぎると飽きると思ったので、いかにインテリアの中にひそませつつ、乃村工藝社らしいアイデンティティの詰まった空間にするかにこだわりました。個人的な体感としては、従業員みんなが自信満々にお客様を連れてきたりしていたのでオフィスデザインとして成功したのかな、と思っています。ただ新しいオフィスになってまだ1年しか経っていないので、来年飽きられる可能性もありますけど(笑)。

 

活気ある場はハードの作り込み次第でつくれる

 

池田:最後のテーマは、人が集まる活気ある場のつくり方について。リモートワークが進んだコロナ禍を踏まえて、どのようなことがポイントになってきそうでしょうか?

 

大西:先ほどもいくつか事例として紹介してきましたが、とにかく場にコミュニケーションが発生するきっかけを埋め込んでいるかがポイントになるかな、と。例えば今回自社オフィスをつくるにあたって人流測定をしたところ、自販機付近の人流が多いことがわかりました。そこで、自販機を壁際ではなくコミュニケーションスペースの真ん中に置いてみると、自然に会話が生まれるようになったんですよ。ハードの作り込み方によって、コミュニケーションを生むきっかけはつくれると思います。

 

 

大西:もう一つ、ハードだけでなくソフトをどうつくるかも大切です。コンテンツやイベントなどを自分たちで立ち上げて、運営するような活動がそれに当たります。

 

笈川:ハードがもたらす影響ってシンプルに大きいですよね。個人的には今後、働く環境としてオフィスに求められるものを、改めて深掘りする必要があると思っています。例えばホテルのようにコンシェルジュがいてサポートを受けられるスペースがあれば、おのずとコミュニケーションが生まれますよね。そういう従来のオフィスから離れた部分に視野を広げて、人が集まるような、行動を促すデザインができたらいいのかなと思っています。

 

 

2021年10月取材
2021年10月26日更新

 

テキスト:中森りほ
写真:安田佑衣

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