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障害のあるアーティストと、“支援”ではない対等なビジネス関係を ― ヘラルボニー・松田文登

 

障害のある人が手がけたアート作品は、どんなに良いものであっても、“支援”や“貢献”の文脈に結びつけられてしまうーー。そんなイメージを変容しようとしているのが、「異彩を、 放て。」をミッションに掲げ、福祉を起点に新たな文化を創ることを目指す、双子経営の株式会社ヘラルボニーです。

 

同社は障害のあるアーティストに対して、“支援”や“貢献”ではなく、対等なビジネス関係を築くため、マネジメント契約を結び、アート作品をプロダクト化するブランド「HERALBONY」を展開。そのほか、メーカーやブランドへのライセンス提供、駅や商業施設のアートラッピングなど、手がけるプロジェクトは多岐にわたります。

 

アートを通して、ヘラルボニーが描きたい未来とは? ヘラルボニーの副代表で、双子の兄の松田文登さんに聞きました。

 

 

障害のイメージをグラデーション的に変容させていきたい

WORK MILL:ヘラルボニーは、「福祉実験ユニット」と名乗っていらっしゃいます。まずはその事業内容について教えてください。

 

ー松田文登(まつだ・ふみと)

株式会社ヘラルボニー代表取締役副社長。東北学院大学卒業。大手ゼネコンで被災地再建に従事したのちに独立し、知的障害のあるアーティストが日本の職人とともにプロダクトを生み出すブランド「MUKU」を立ち上げる。2018年、双子の弟である崇弥さんとともに株式会社ヘラルボニーを設立。2019年には「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」を受賞した。

 

松田:日本全国で、アートに特化した福祉施設が200弱ありまして、うち30くらいの社会福祉法人とアートのライセンス契約を結んでいます。障害のあるアーティストによるアート作品をデータ化し、さまざまなモノ・コト・場所に落とし込むというような、福祉の現場での実験を行っています。

 

ー小林覚「数字」のアートスカーフ

 

松田:アートライフブランド「HERALBONY」を自社で展開しているほか、企業とライセンス契約を結んでファッションやインテリアに活用いただいています。また、建設現場などで使用される「仮囲い」にアート作品を展示する「全日本仮囲いアートミュージアム」や、展示作品をトートバッグにアップサイクルして販売する「アップサイクルアートミュージアム」など、地域に根ざした期間限定のソーシャル美術館の仕組みづくりも強化しているところです。

 

WORK MILL:ヘラルボニーが生まれた経緯として、お兄さんの存在があったと聞きました。

 

松田:はい。4つ上の兄は知的障害を伴う先天性の自閉症があります。小さいころから僕ら双子は兄に対して「かわいそう」と認識したことはないのですが、社会側から見ると“障害”となったとたんに「かわいそう」となってしまう。そのことにすごく違和感を覚えていました。兄は泣いたり笑ったり悲しんだり、みんなと同じような感情を抱いているけれど、社会側からは“障害”という枠の中でのみ、生きていると思われている……。そのギャップを埋めていきたいなと考えています。

 

そのためには、障害に対する世間のイメージを変容していくことが必要です。 障害のある方の作品をアートとして、リスペクトを持ってみてもらえれば、障害のイメージはグラデーション的に変容していくのではないでしょうか。兄はアートは描けないのですが、ヘラルボニーの活動を通して“障害”が“個性”に変換されるようになれば、最終的には兄にもつながっていくはずです。

 

WORK MILL:「ヘラルボニー」という、一風変わった社名の由来は?

 

松田:兄が自由帳に書いていた言葉です。「ヘラルボニーってどういう意味なの?」って聞くと、兄はいつも「わからない」と答えていたのですが、あるとき「馬」って言ったときがあって。あまり聞きすぎたから、「馬」って答えだしたんです(笑)。もしかして当てっこゲームだと思ったのかな。それも面白かったので、ロゴマークは馬の横顔をモチーフにしました。

 

 

松田:障害のある方の傾向として、点や円を描き続けたり、ずっと同じことを続けられたりといった特徴などがあり、信じられない時間をかけた作品が多いんです。その傾向を伝えられたらと思い、円を重ねて表現しています。

 

WORK MILL:そこもお兄さんが強く影響しているんですね。お兄さんはアートは描けないとのことでしたが、松田さんが障害のあるアーティストの作品に出会ったきっかけは?

 

松田:岩手県にある「るんびにい美術館」でした。母が福祉に積極的だったこともあり、弟の崇弥が先に一緒に行ったのですが、「あそこはすごいぞ」と教えられたんです。実際に訪れると、すごく素敵なアートだとダイレクトに感じられました。そんなにパワーのある作品なのに、インターネットで検索すると、自分たちのように好意的にとらえている意見は見られなくて。

 

ー木村全彦「ベルニナ鉄道」

 

WORK MILL:アートとして認められていない……?

 

松田:はい。その理由を紐解いていったら、中学校くらいのときに同級生が、障害のある人に対して馬鹿にするような言動をしていたことを思い出しました。何かミスをしたときや変なことをしたときに、「お前スぺじゃん」などと言うんですよね。自閉症スペクトラムを省略して「スぺ」と言っているんですが、そういうワードが悪気なく教室中に響き渡るので、自分の兄が「スぺ」ってバレるのがすごい嫌だったんですよ。僕は兄のことが好きなんですが、兄のことはひた隠していました。

 

日本には障害のある方が986万人、知的障害のある方は110万人くらいいるんですけれど、自分みたいな思いをしている人がたくさんいるだろうなって。別に隠すべき存在じゃないですし、むしろ得意なところを見せていく存在にしていけたらと思っています。

 

馬鹿にしていた同級生に、「障害のある人のアートってすごくいいんだよ」と言ったところできっと伝わらないけれど、例えばアパレルブランドの裏地として作品が使われれば、いろんな人たちに良さが伝わるのではないかと。

 

 

障害のあるアーティストと、ビジネスパートナーとして対等な関係を

 

ー佐々木早苗「(無題)」のチェア

 

WORK MILL:ライセンスの企業契約によって、ブランドとのコラボレーションもよく見かけるようになりました。

 

松田:本当にありがたいことに、多くの問い合わせをいただいていて、受ける仕事と、受けない仕事を見極めている状況にあります。会社としては今年資金をしっかりと調達して、本格的に障害の概念を変えていける存在になりたいので、この5年は思いきり挑戦するつもりです。

 

WORK MILL:受ける仕事と、受けない仕事の線引きはどのようにしているのでしょうか。

 

松田:“支援”的な文脈のものはお断りさせていただいています。そっちの土俵にいくと、私たちが伝えたい、「アート作品が素晴らしい」ということとは、違った認知のされ方をしてしまうと思うので。

 

WORK MILL:ヘラルボニーでは、ビジネスパートナーとして対等な関係を築いていらっしゃいますが、これまでは障害のある人がつくったものについて、どうしても“支援”や“福祉”のような文脈で語られることが多かったですよね。

 

松田:そうですね。「障害」となると、まだまだ「怖い」とか、「手を差し伸べなければいけない」などに繋がってしまい、「リスペクト」を連想する人はあまりいない。

 

でも、「リスペクト」が一つでもあると、変わっていくのではないかなと思っています。例えば、福祉施設に勤めている職員の方が、「この人はこの作業が得意みたいだからお願いしよう」など、人を知ろうとする感情に変わるのではないかなと。そうすることで、仕事が好きなことに変わっていって、収益もプラスになり、障害のある方の親御さんたちにも歓迎されて、幸せの循環になっていくのではないでしょうか。

 

WORK MILL:そうかもしれないですね。アーティストとライセンス契約を結んでいるとのことでしたが、どのような仕組みになっているのでしょうか?

 

松田:いろんなパターンがあるのですが、例えば原画だったら、販売額の50%がアーティストにバックされます。提供していただいたデータをプロダクト化した場合は、売り上げの30%、アパレルやインテリア事業だと3〜5%バックするなど、明確に決まっています。

 

ー岩手県釜石市で作られている「Ça va(サヴァ)?缶」のヘラルボニーとのコラボレーション商品

 

WORK MILL:個々のアーティストとはどうやって出会うのですか?

 

松田:いろいろなパターンありますが、業界としてはすごく狭いので、障害のある方のアートのシンポジウムにお招きいただいたりとか、講演会やメディアさん経由だったりとか。今は全国の福祉施設や親御さんから連絡をいただくことも多く、そのアーティストと一緒にどうしていきたいかを考えたり、提案したりしています。

 

WORK MILL:現状では探しにいくよりも、紹介などで契約することが多いんですね。どういったアーティストの作品を採用するか、判断基準などはありますか?

 

 

松田:例えば、今ここにあるアート作品は素晴らしいのですが、ライセンスとしてはハードルが高いんですよ。障害のある方のアート作品って、繰り返しの表現をされることが多く、テキスタイルなどに落とし込みやすいものもあるのですが、何かのモチーフを描写している作品は、ライセンスとしては比較的、選ばれづらいところはあると思います。ただ、アートとして素晴らしいものであれば、原画を販売していく窓口になっていきたいです。

 

 

立ち上げから3年、社会の変化を感じること

 

WORK MILL:福祉の分野ではありますが、ブランドを立ち上げたときに、旧時代的な意見を受け取ることはありましたか?

 

 

松田:わざわざ会社を辞めてまでチャレンジすることに対して、「それじゃ食えないだろ」という意見はすごく多かったです。自分たちとしても一般社団や社会福祉法人、NPOなど、いろんな選択肢があるなかで、あえて株式会社を選択しているのはちゃんとビジネスとして挑戦していくことを重要視したからです。

 

WORK MILL:ヘラルボニーの立ち上げから今年で3年になりますが、松田さんが社会の変化を実感することはありますか?

 

松田:今日とても嬉しいことがあったんですが、ヘラルボニーに所属しているアーティストの高橋南さんに、ファンレターが届いたんです。「ヘラルボニーが存在することによって、アート作品が誰かの気持ちを癒したり、救ったりということが、徐々に出はじめているんだな」と感じられました。

 

ー高橋南「風のロンド」のアートスカーフ

 

WORK MILL:アートにお金としての価値があることがわかったわけですが、アーティスト自身はそのことをどうとらえているのでしょうか。

 

松田:いろんな方がいらっしゃいますよ。ヘラルボニーと一緒にバッグを作っている三重県の作家さんは、バッグが完売したときに、「このお金でAKB48の公演を見にいきます」と言っていました。単純に、その人の幸せに繋がっているんだと感じられましたね。

 

あとは自分の作品が駅舎などで使われることに対して、信じられないくらい喜んでくださったり、アーティストの親御さんがお手紙をくださったり。「今まで息子の作品をアートだと思っていなかったし、そもそも外に出すこと自体、迷惑をかけるからやめようとしていたけれど、初めてヘラルボニーを通じて息子を誇らしく思いました」とか。

 

ゼネコンで勤めていた頃は、何十億、何百億というお金が動いていたのですが、こんなに感謝されたことはなかったです。

 

WORK MILL:障害のある方たちの働きがいになっているというような、内面や行動の変化を感じたことはありますか?

 

松田:コロナ禍になる前は、実際に福祉施設へ行って、作品がプロダクトに変わる過程を直接アーティストに伝えていたんです。福祉施設の職員さんが言うには、それをとても楽しみにしてくださっているそうなんですね。それが絵を描くモチベーションに変わっているところもあると思います。

 

 

松田:あとは人によるんですけど、自分の作品を誇りに思っていて、僕が別の方の作品のネクタイを締めてたときに、「俺の(ネクタイ)を締めろ」と言われたことがあって(笑)。それくらいアーティストの自我が芽生えていることが嬉しいですね。ヘラルボニーが存在することによって、働くことの中に喜びが増えていってくれたらなと思います。

 

このように、アーティストとその周囲の人たちに、金銭以上の価値を渡せている実感があります。ただ、今やっている活動自体が、すべての正解だとは思ってはいません。自分の中で、いつも疑問を投げかけながら今やるべきことを選択し続ける会社でありたいですね。

 

***

 

前編はここまで。後編では、岩手・盛岡から障害のあるアーティストの作品を発信する理由についてうかがいます。

 

2021年7月20日更新

取材月:2021年6月

 

テキスト:栗本千尋

写真:蜂屋雄士

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