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さとなおさんが語る「これからのコミュニケーションと働く場所のゆくえ」

前編の記事ではコミュニケーション・ディレクターの佐藤尚之さん(通称「さとなお」さん)に「働く場づくり」というテーマで語ってもらいました。 

後編となる今回は、さとなおさんがどんな思いでコミュニティづくりをしているのか、これからのコミュニケーションや働く場所はどのように変わっていくのか、さらに深くまで掘り下げてお話をうかがいました。

震災での喪失と、プランナーとしての「ノブレス・オブリージュ」

WORK MILL:さとなおさんがコミュニティづくりに強く関心を持つようになったきっかけは、何だったのでしょうか。

佐藤:最も大きなトリガーは、震災の経験だったと思います。被災者として阪神大震災を経験した後は、それまで週5日くらいのペースで打ちこんでいたテニスをぱったりと辞めてしまったり、東日本大震災の後には食に対する煩悩が急激になくなったり……震災によって、自分の中で喪失するものがいろいろあって。その度に「自分にとって本当に大切なものってなんだろう?」と考えさせられました。

WORK MILL:東日本大震災は、さとなおさんがちょうど独立されるタイミングと重なりました。

佐藤:そうなんです。東日本大震災は、僕にとって本当に大きな契機となりました。あれ以降、映画や小説などの「フィクション」の世界に、なかなか心を動かされなくなってしまったんです。代わりに、目に見えない共感や友情といった自分にとっての「ノンフィクション」を大事にするようになって。そんな背景から、少しずつコミュニティづくりに傾倒していったのだと感じています。

WORK MILL:人とのつながりを大事にする一環として、コミュニティづくりがあったのですね。

佐藤:それともうひとつ、「自分の培ってきたノウハウやナレッジを、下の世代へ伝えていきたい」というモチベーションも大きいです。原泰久先生が描いている『キングダム』というマンガ、読んだことありますか? 作品中に「恩恵は全て次の者へ」というセリフが出てくるんですけど、その言葉がとても好きで。僕も会社員時代から今まで、本当にたくさんの先輩方に助けられてきました。だからこそ、培った人脈と知識は後続に引き継いでいきたいんです、僕がそうしてもらったように。

WORK MILL:さとなおさんの近著『明日のプランニング』で「ノブレス・オブリージュ(フランス語で『高貴なる者の責任』という意味)」というフレーズを使われていたのが印象的でした。

佐藤:原義的には「貴族(持てる者)の責任」というニュアンスですが、僕は今の時代「人に何かを伝えるという仕事に携わった人間」が、世の中に対して負うべき責任があると感じていて。

WORK MILL:それは、どんなことでしょうか。

佐藤:プランナーって、アイデアで課題を解決することができる、希少な職種なんです。そのノウハウを持った人間ならば、世の中に対してアプローチできることが山ほどあります。持っている能力を世の中に生かす――そういった意味での「ノブレス・オブリージュ」の感覚は、これから僕が育てていく「4th(フォース)コミュニティ」で共有していくつもりです。儲けるために仕事をするのではなく、儲けてどうするのか、何のために仕事をしているのか……目的意識は常にぶらさずに持っていたいですね。

高まる「顔見(カオミ)ニケーション」の重要性

WORK MILL:現在、さとなおさんはリアルでのコミュニティづくりを大事にされていますが、インターネット上でコミュニティづくりはあまり取り組まれていないのでしょうか。

佐藤:そんなことはないですよ。僕は1995年に個人サイトを始めてからずっとインターネットに触れていて、いろいろなコミュニティづくりを経験してきました。「ジバラン」というオンラインのグルメコミュニティも1996年には作っていたし、たとえばオンライン上でボジョレーヌーボーをみんなで一斉に飲むワイン会を開いたのは僕が初めてだと思います(笑)

WORK MILL:今やSNSなどが浸透して、オンライン上のコミュニティもあたり前のように受け入れられている社会になりました。そんな中でさとなおさんがリアルのコミュニティにこだわるのは、一体なぜですか。

佐藤:オンライン上でのコミュニティづくりは昔からずっとやってきて、その希薄さを実感してきたからですかね。グループを作成して何かしらを共有しても、なかなか継続しないんですよね。知らず知らずのうちに雲散霧消(うさんむしょう)してしまうことが多くて、それがすごく気持ち悪くて。だから最近は、なるべくリアルで顔を合わせる機会を大切にしています。今の時代、インターネット上でのやり取りが増えるにつれて、実際に対面する「顔見(カオミ)ニケーション」の重要性は高まっているように感じますね。

WORK MILL:コミュニティづくりにおいて、オンライン上のやり取りはどのように生かすべきでしょうか。

佐藤:オンライン上のコミュニティは、あくまでリアルの補完だと捉えるべき。オンラインのみになった瞬間、SNSやブログなど、ほかのネット上のコミュニケーションと同一になってしまいます。それってつまり「本当はなくてもあまり支障のないもの」なんです。現実で顔を合わせて言葉を交わすことで、初めてお互いの人生が交差して、そのやり取りに現実的な意味が生まれるのだと思います。

リアルなオフィスに求められるものは、「流動性」と「交差点」

WORK MILL:リモートワークの導入などを皮切りに、多様な働き方が認められ始めている昨今ですが、これからのオフィススペースに求められるのは、どんなことだと思われますか。

佐藤:僕は今のオフィスを、ワークの先にある次のコミュニティとして捉え、場づくりをしています。会社的なオフィスからはしばらく離れてしまっているので、現在のワークスペースに対するイメージがそこまで持てていない……というのが正直な感想です。ただ、オフィスという場を持つ意味を考えるのならば、「流動性」と「交差点」は確保するべきではないでしょうか。

WORK MILL:「流動性」と「交差点」……それぞれどのような意味合いでしょうか。

佐藤:「流動性」は、人の出入りですね。どんな仕事にもアイデアが求められる。そのアイデアの生まれる基本は「異質なもの同士の組み合わせ」です。つまり、いろいろな人との接触によって、新しいアイデアが生まれる可能性は高まります。ただし、出入りがあってもそれぞれがどこかで交わることがなければ、意味がありません。そこで必要なのが「交差点」です。

WORK MILL:人が交流する点を意図的につくるべき、ということですか。

佐藤:そうですね。スティーブ・ジョブズは、オフィスの中心にお手洗いを配置して、その付近にコーヒースタンドを設けました。その結果、トイレに行ったついでに一服する人たちの間でたくさんの雑談が交わされて、そこから企画が立ち上がったりしたそうです。

WORK MILL:そういった偶発的なコミュニケーションは、リモートワークでは絶対に生まれませんね。

佐藤:引きこもって仕事ができてしまう時代だからこそ「顔を合わせる」意義があり、そのための場所が大事になってくるはずです。それをオフィス内に用意できないのならば、すべてオンライン上のやりとりでこと足りてしまうでしょう。ちなみに、オンライン上で仕事のやりとりをするのならば、僕はSNSよりもオンラインゲームの方が相性のいいツールだと思っています。

WORK MILL:ゲーム上で仕事のやりとりを?

佐藤:実は、僕は過去に「ウルティマオンライン」というオンラインゲームに廃人レベルでハマっていたことがあるのですが(笑)、そのゲーム上で知り合った人たちの中に「コイツはどう考えても絶対に信用できる」ってヤツが5人ほどいて。仕事がとても忙しくなった時期に、彼らをリアルの場に呼んで、業務を手伝ってもらったことがあるんですよ。

WORK MILL:なんと! 実際にご経験があったのですね。

佐藤:会ってみたら、僕以外はわりとヒマしている人ばかりだったんですけど(笑)、「佐藤さんのためになるなら、ぜひ手伝わせてほしい」と言ってくれて、一生懸命にいい仕事をしてくれて。彼らとは今でも仲がいいんですよ。そんな経験から、オンラインゲームは同じ時間に同じ電子空間にいることで、世界観を共有できるのだと気づきました。そこでモンスターを倒したりしているうちに濃い仲間意識が芽生える。ただ単にカメラに向き合ってミーティングをするより、心の通ったコミュニケーションが取れる環境だと感じます。

WORK MILL:「世界観の共有」がキーワードとなるのですね。

佐藤:リモートでもリアルでも、そこにいることで社員がその会社の世界観を共有できるような工夫があると、面白いかもしれません。いずれにせよ、せっかくオフィスに通っているのならば、自身で積極的にそこに意味を見出すためにも、いろいろな人と話してみるといいと思いますよ。

ー4thの森で生まれるコミュニティを語るさとなおさんの表情はまるで我が子を見るように柔らかい

テキスト:西山 武志
写真:岩本 良介
イラスト:野中 聡紀