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コロナ後のオフィス変革 ー ハイブリッドワークにおすすめのオープンプラン

昨年から続く新型コロナによるパンデミックは、世界中に大きな影響を及ぼした。個人、そして社会全体で受ける影響は様々であるが、オフィスも例に漏れず、変化のさざ波の内側にある。オフィスのあり方や、人々の働き方、求める仕事環境などにも影響は現れている。

コンサル会社Gallupによる2020年1月の調査では、米国のオフィスワーカーの54%がリモートワーク可能な仕事のために現在の仕事を辞めると回答している。働き方の変革は、もはやポストコロナの時代に避けて通れない一つの大きな課題となるだろう。世界的に起こる危機的状況の中で、オフィスはどのように変化しているのだろうか?オフィスにおけるニューノーマルとは一体どういったものなのだろうか?今回はコロナ後の新たなオフィス環境のあり方を紹介していきたい。

昨年には様々な大企業がリモートへの移行に尽力し、新たなワークスタイルを形作った。しかしながら、コロナが収まり経済が正常な状態に近づきつつある地域では、多くの大手企業が近い将来従業員を部分的にオフィスに戻すという具体的な計画を発表している。

コロナ後の新たな働き方、ハイブリッドワーク

ハイブリッドワークとは、基本的にリモートとオフィスワークの両立を意味する。従業員にリモートで業務を行うことを許可する一方、会社はオフィスをある程度維持することで、従業員にリモートとオフィス出社とで選ばせることができる。英BBCはハイブリッドワークについて、他の既に確立されているスタイルと比べ自由度と柔軟性が非常に高いことからポストコロナ時代における働き方の鍵となるだろう、と述べている。現在、Ford社、Citigroup社、Target社、Microsoft社などの有名企業がハイブリッドへの移行をすでに計画または実行しており、ハイブリットワークがリモートに次ぐ新たなワークスタイルとなるのは確実だろう。

コロナ後の理想のオフィスとは?

コロナ後のオフィスデザインのトレンドとして、交流やコミュニティを重視した環境づくりの必要性が昨今様々な海外メディアで取り上げられている。アメリカでは既に、机に頭を埋め個人の生産性に頭を悩ませるのではなく、同僚との関わり合いなど人とのコミュニティ内のつながりを保つためのオフィスニーズが急増しつつある(もちろん、感染防止対策・衛生面の徹底が前提である)。

例えば、米Dropbox社ではオフィスをシャットダウンし、代わりにドロップボックス・スタジオと呼ばれる小さなミーティングスペースを設置した。これには、普段リモートで遠隔で作業を行なっている従業員たちが必要なときに集まれる場所を提供することで、対面でのコラボレーションやチームワークを促進、保つ狙いがある。

ーDropbox Studio の様子

しかしながら、コロナ感染拡大が依然として深刻な日本で、こういった人との交流を助長するようなオフィスのあり方は、広く受け入れられるのに時間を要するだろう。だからこそ、今のトレンドやその背景について深い理解を得ることは、今後のポストコロナの時代に大きなアドバンテージとなり得る。

対面での交流のたいせつさ 

心と脳の健康を維持するために、対面でのコミュニケーションはなくてはならないものである。人付き合いは、孤独感を回避するだけでなく、記憶力や認知能力を高め、幸福感を高めてくれる。特に、人と直接交流する機会が極端に少ないリモートワーカーにとって、対面コミュニケーションは欠かせない。実際に、欧州生活・労働条件改善財団(the European Foundation for the Improvement of Living and Working Conditions) による調査ではオフィスで働く同世代の社員のわずか25%に対し、リモート勤務の社員の41%が高いレベルのストレスを報告している。また、最新の統計でも、パンデミックに伴いリモートに移行したワーカーは、コロナ以前に比べて、精神的な健康問題を訴える割合が3倍になったことが明らかになっている。

これらの大きな原因として、オフィスにいないことでの他者との交流の欠如がある。コミュニケーション不足によって引き起こされる孤独、不安感、運動不足などが積み重なり、多くのリモートワーカーが精神を病んでしまう。また、仕事とプライベートの境目が曖昧で、つい働きすぎることも原因の一つである。そのため、普段リモートで働く人々に、交流の場を提供することが非常に重要になってくるのである。

ハイブリッドワークにおすすめの、オープンプランオフィス

ワーカー同士の交流やコミュニケーションを重視したレイアウトとして、頻繁に取り上げられるのがオープンプランオフィスである。広い空間の中、席の割り当てを廃止することで、より柔軟性の高いオフィス空間を実現させたものである。パンデミック以前から既に広く認知され、これまでにCitigroup, Microsoft, LEGO, Squareなど様々な企業で取り入れられてきたが、ここに来て、その勢いが加速していると言っても過言ではない。

デザイナーの中には、大量の空気を共有し机の間に物理的な障壁がないため「空気感染が促進される」と言った論調も見られる。しかしながら、ポストコロナを見据え、昨今オープンプランが再評価されている理由として、一般的なオフィスと比べ掃除がしやすく、触れる表面積が限られていることが挙げられる。個室がない分、ドアの取っ手などオフィスで最も触れる部分からの接触感染リスクが減り、また壁を取り除いたことで密になることも防ぐことができる。また、広いスペースであることから、ソーシャルディスタンスを意識したデスクや座席のレイアウトがしやすく、コロナ禍で常に意識しなくてはいけない人数のコントロールなどにも最適だ。

オープンププランをより魅力的にするためのソリューション

多くの場でオフィスレイアウトに採用されているオープンプランであるが、欠点がないわけではない。実際に、コロナを機に衰退するという予測を立てている専門家も多くいる。それらの大きな要因として、プライバシーの無さ、集中できずに効率が下がる、空気感染の心配、などが挙げられる。

そこで今回はこれらの課題をクリアしていくための、便利なツールやアイデアをご紹介したい。

ソーシャルな場所でプライバシーを大切にするための仕掛け

完全個室型ワークブース

人との交流やコミュニティー内の関わり合いを重要視する中で、やはりプライバシーの保護は依然として重要である。ハーバード大学の調査によると、空間的な境界線が限られたオープンなオフィススペースでは、実際に対面での対話量が約70%と大幅に減少するという。

オープンスペースに併設するものとして従来よりもコンパクトな会議室、フォンブース、ビデオスタジオなどのニーズが非常に高まるだろう。そこで取り上げたいのが、防音の個室型ワークブースである。

ー個室型ワークブース設置例(日本)

オープンスペースでのプライバシー保護を目的とした個室型ブースは、デザインのカスタマイズも可能であるため、幅広い目的での使用が可能である。電話、オンラインミーティング、静かな場所で仕事がしたい方にも最適だ。また、二人用や複数人用などの大きめのサイズの場合では、対面での会議、ディスカッションも可能である。

実際にMicrosoft, Uber, Pumaなど大企業も多数採用しているこのようなタイプのワークブースは、ポストコロナ時代のオフィスづくりの大きな手助けとなるだろう。

Microsoftは完全個室型のワークブースに対し、オフィスの柔軟性や効率性をあげることができ、不動産の利用においてもコストをカットすることができる、と高く評価している。また、社員の大部分が、気が散らずに仕事に集中できるようになったとしている。実際にシアトルの本部では、従来の電話室の3分の1をこの形のブースに置き換える予定だと話している。

半個室型ワークブース

ー半個室型ワークブースの使用例(海外)

写真のようなタイプのワークブースも、机と椅子が一つずつ付属しており一人専用のものと、机を挟んで二つの椅子がある二人用のものがある。前述の完全個室型と比較すると、外部と完全に分断されていないため、よりオープンな雰囲気がある。三方向に囲まれた壁が、ある程度独立した空間を演出するも、使用者を完全に隔離することなくパーソナルなスペースを作り出している。ワークデスクの近くにこれらのスペースを配置することでワーカーが一息ついたり、パーソナルな会話ができる場所を作ることがこのプロダクトの主な目的なのだ。

さらに、特殊な素材の壁や天井パネルを使用することで、遮音性が非常に高くなっており、完全に閉じられた環境でないにも関わらず、静かな空間を楽しめる。結果として、ブースを使用することで集中力を高めたり、リラックスする効果があるようだ。

現在では、Ford、 adidas、 Disney、 Samsungなど企業だけでなく、スタンフォード、ケンブリッジ大学などの教育機関でも用いられている。

ー半個室型ワークブースの設置イメージ(日本)

オープンプランをデザインするツール

今日、オープンプランオフィスを実際にデザインするのは非常に手間のかかる作業である。感染症対策やソーシャルディスタンスなどをすべて加味して考えなければならないからだ。

アメリカのデザイン会社Genslerは、オフィスの平面図を使って、あるスペースに何人が入れるのか、どこに座ればいいのか、などを人間に変わって計算するツールを開発した。このような機能はポストコロナの時代におけるオフィスづくりに非常に便利となるだろう。オフィスの大きさを問わず、数百席、数千席の組織であっても、様々なソーシャルディスタンスの条件に対して最適なプランを作り出すことができる。

リリース直後から、既にポストコロナを見据えた世界200の企業が実際に使用、または使用を検討しており、凄まじい盛況ぶりを見せている。オフィス回帰に伴いオフィスのあり方を再構築する際、非常に便利なツールだと言える。

ーGensler Blog ReRunの使用例

ハイブリッドワークを前提とした、これからのオフィスづくり

ポストコロナ時代のオフィストレンドとして注目される、オープンプランオフィス。今回は今後増えるであろうハイブリッドワーカーがオープンプランのオフィスを快適に利用できるために効果的なワークブース、そしてソーシャルディスタンスを確保した空間デザインをサポートするソリューションについてご紹介した。

過去にも既にトレンドとなっていたオープンプランであるが、ポストコロナでニーズが拡大した背景には、人との対話を増やすことによるワーカーの精神的な健康の維持がある。トレンドをただ取り入れるだけでなく、彼らがベストを尽くせる環境を、また彼らが求めているものなどをオフィスに積極的に取り入れていくことが、今後のオフィスづくりの鍵となるのではないだろうか。

2021年6月22日更新

テキスト:松尾舞姫