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成功から学ぶ「経験学習」を取り入れた1on1とは ー 北海道大学大学院経済学研究院教授・松尾睦さん

 

コロナ禍によりリモートワーク導入の動きが加速し、早1年が経とうとしています。チームメンバーとコミュニケーションを図るため、多くの企業でオンラインでの1on1も実施されるようになりました。しかし、オンライン、オフラインにかかわらずうまく活用できていないケースも散見されます。

 

1on1を上手く活用するには、どうすればいいか悩まれているビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。

 

そこで今回は「経験からの学習プロセス」を研究している、北海道大学大学院教授の松尾睦さんに人材育成における経験学習理論の応用や、オンラインで効果的に1on1を実施する方法についてうかがいました。

 

「成功の振り返り」から「教訓」を引き出す経験学習

WORK MILL:はじめに「経験学習」とは何か、教えてください。

 

 

松尾:経験学習論とは、人が経験から学び成長することに着目した理論です。経験学習において、人の成長を決定する影響力は「仕事経験が70%」「他者からの指導が20%」そして「研修や読書が10%」などと言われています。

 

つまり人材成長の7割が「直接経験」で、3割が「間接経験」によって決まります。仕事からの直接的な経験だけでなく、外部から間接的な経験を取り込むことで、成長の幅が大きく広がります。

 

 

人は「経験する」→「振り返る」→「教訓を引き出す」→「応用する」というサイクルを通して経験から学びます。ただ、このサイクルのステップを踏む際にカベがあるため、つまずきやすいので注意が必要です。例えば、多忙だと振り返りや教訓を引き出すことを省略しがちですが、そうすると経験から学び取る量や質が落ちてしまいます。

 

このサイクルを適切に回すためには、1日や1週間の終わりに行動を振り返って内省する習慣を持つことが大切になります。

 

WORK MILL:なるほど、振り返って内省する際のポイントは何でしょうか?

 

松尾:自分や他人を俯瞰することを「メタ認知」と呼びますが、高い視点から振り返ることがポイントになります。次に、成功と失敗をバランスよく振り返ることです。通常、仕事では失敗や問題点を振り返らざるを得ないと思いますので、経験学習を取り入れる際は意識して成功経験を振り返るといいでしょう。

 

ただ、現場のマネジャー層に成功の振り返りについて説明すると、「部下を褒めればいいんですか?」と聞かれるのですが、そうではありません。

 

WORK MILL:では成功を振り返るポイントは何でしょうか?

 

松尾:成功の振り返りのポイントは、成功に再現性を持たせることです。次も成功するにはどうしたらいいか、その法則やポイントを見つけます。単に褒めるのではなく「成功し続けるためにはどうしたらいいのか」を考えさせることが大切です。

 

「現代経営学の父」ピーター・ドラッカーも「うまくいっているときほど『もっとうまくやれないか』を考えなければならない」と語っています。「良くやった」と褒めるだけではなく、「なせ成功したと思う?」と問いかける指導は、一見優しいようにも聞こえますが、厳しい育成方法なのです。

 

うまくいった理由に着目し、そこから教訓を引き出すと、自分の強みや眠っていた能力がわかようになります。その強みや能力をさらに伸ばすためにはどうしたらいいか。そこまで考えられると理想的ですね。

 

WORK MILL:この振り返りはどのようなタイミングで行うと効果的ですか?

 

松尾:毎日、もしくは毎週振り返ることを推奨しています。というのも、振り返りは習慣化することが大切だからです。ただ、人によって自分に合う方法がありますので、その場で考えるだけでもいいですし、日記等の記録をつけてもいいでしょう。

 

振り返りを続けていると、ふと自分の中の「当たり前」が決して当たり前ではないと気づきます。これを「クリティカル・リフレクション(=深い振り返り)」といい、自分の仮定や前提、信念に対して何らかの気づきが得られるのが特徴です。振り返りを習慣づけると、こうした深い振り返りにつながるという分析結果が、日本だけでなく米国の調査でも得られました。

 

1on1のポイントは「フレームワークに沿って行うこと」

WORK MILL:1on1は2人で行う振り返りだと言えます。1on1を実施する場合、どういった点に注意して行ったらいいのでしょうか?

 

松尾:フリートークにせず、何らかのフレームワークに沿って振り返ることが効果的です。私が推奨するフレームワークは、「事実の確認」→「共感」→「評価」です。

 

つまり、「何があったのか」という事実の確認をしたうえで、「そう感じたんだね」と相手の感情に寄り添い、そのうえで教訓を引き出して、次にどんな行動を取るか考える。このシンプルな流れで1on1を進めるといいでしょう。 いきなり「それじゃだめだよ」と評価から入るのではなく、事実の確認と共感を忘れないことがポイントです。

 

こうしたフレームワークがなく漫然と1on1をオンライン上で行うと、効果的ではなくなるケースが散見されます。例えばある企業の1on1の記録を見たことがあるのですが、ただの業務報告と化していました。

 

何が起こったのか、その事実に対してどう思ったか、何を教訓として学んだのか、そして「次にどう行動するか」というアクションを考える形で1on1を行えば、経験から多くのことを学ぶことができます。

 

WORK MILL:オンラインでは相手の考えが理解しにくいと感じることもあります。オンラインで1on1を円滑に行うために、意識すべきことは何でしょうか?

 

松尾:オンラインで話す前に、メール等で仕事経験の振り返りを文書化しておくことをおすすめします。私は大学院生の論文指導の際、まずは論文にテキストでコメントを入れて戻し、その後電話やオンラインでも会話するようにしています。

 

論文はアウトプットされた成果物なので、当初はオンラインツールなんて必要ないと考えていたんです。しかし、指導を進めるうちにテキストだけでは自分の意図が伝わりにくいと分かり、結果的にこの併用策を取りました。

 

逆に対面で指導しているときには、相手の話を聴かずに一方的に話してしまうことが多いのですが、「文書化→オンラインの対話」によって、より経験学習サイクルが回るようになった実感しています。

 

会社の1on1でも、話すことを文章化してお互いに読んでから、オンライン上で会話して書いた内容について深めていくといいでしょう。

 

WORK MILL:オンラインで会話する前に、事前に話すことをテキストに起こすことが大切なんですね。このフレームワークで1on1をする際、他に重要な点はありますか?

 

松尾:先ほどの繰り返しになりますが、「何があったのか」という事実の確認が、実は重要です。人は同じものを見ていても、捉えている事実が違うからです。

 

次に大切なのが、「それに対してどう思ったのか」という感情です。感情的になっていると人は適切な評価ができません。そこで感情によるバイアスを取るために、感情を吐き出させる必要があります。

 

このとき必要なのが、「傾聴」や「共感」というコーチングスキルです。きちんと聞き、共感することで、相手は次のアクションが考えられるようになります。この傾聴や共感によって、部下は「上司がしっかり見てくれている」と感じ、心理的安全性が確保できるのです。

 

1on1成功の裏に隠された「人事部の粘り強い努力」

WORK MILL:効果的な1on1が実施されている事例があったら、ぜひ教えてください。

 

私が何度か講演させていただいたり、書籍協力を行ったヤフー株式会社では、1on1がしっかり機能しています。その理由は、マネジャー層に対して傾聴や共感のトレーニングを提供すると同時に、1on1が適切に行われているかをアセスメント(評価)しているからです。

 

このアセスメントが機能していると、マネジャー層はいいかげんな1on1をしなくなり、部下に対して効果的なフィードバックや働きかけができるようになります。このとき大事なことは、1on1の責任を中間管理職に押しつけるのではなく、中間管理職も上司である上級管理職と1on1を実施することです。上層部が1on1を実施していない会社は1on1が根付きません。

 

また同社では半年に一度、マネジャー層が集まって、部下にどのような経験をさせるのか、アサインメントを検討する会議を行っています。こうした業務アサインメント会議と1on1がセットになっていることがポイントです。

 

WORK MILL:それは理想的な仕組みですね。ところで、人事部はどのような役割を果たすべきでしょうか?

 

松尾: 1on1を現場任せにするのではなく、現場が1on1を実施しやすいように支援することです。マネジャー層の部下への関わりについてポジティブなフィードバックを続け、マネジャー層が「見られている」と感じる絶妙な距離感を取るといいでしょう。

 

また1on1の結果を記録しておき、時系列で振り返るような仕組みづくりを採用すると、マネジャー層も振り返りがしやすくなります。可能であれば、理想的な1on1を行っている事例をベストプラクティスとして共有すると、他の1on1も改善するはずです。

 

ときに人事部は、現場からの不満に負けそうになるかもしれません。しかし1on1の仕組みを形骸化させずに、根気強く取り組み続けることが非常に大切です。業務や業績が改善してくれば、1on1は自然と定着しますので、それまで粘り強く取り組んでいただきたいです。

 

失敗から学べる社風が社員の「セーフティネット」に

WORK MILL:松尾先生の著書「部下の強みを引き出す経験学習リーダーシップ」では、成功だけでなく失敗から学ぶことも大切だと書かれています。この失敗を許すような社風はどうつくっていけばいいのでしょうか?

 

松尾:YKK創業者の吉田忠雄氏はかつて「失敗しても失敗しても成功しろ」という言葉で部下を叱咤激励したと言われています。つまり失敗から学んで成功したら、その失敗は「成功」の一部になります。

 

仕事の結果を短期的に見るのではなく、少し長い目で見て、失敗を成功へつなげることを奨励することが、失敗を許容する社風につながるのです。

 

ただし、最近は失敗が許されない風潮が強く、チャレンジしにくい時代になりました。しかし経験学習では、失敗を含めて経験を積み重ねるからこそ、人が成長すると考えられています。今の時代にこそ経験学習が広まって、「失敗していいんだ」という心理的な安心感、セーフティネットを意識的に作ることが大事です。

 

中には、イノベーションにつながった失敗を「大失敗賞」として表彰する会社もあります。

 

WORK MILL:松尾さんの著書の中で「育て上手のマネジャーは自由に意見を言いやすいチームをつくる」とありました。現在のようなリモートワーク下で、そのような10名以内のチームをどう構築したらいいでしょうか?

 

松尾:2つポイントがあります。1つは「中間層」の社員に活躍してもらうこと。チームマネジメントの上手なマネジャーは、チームメンバーが何を言っても許されるような「心理的安全性」を創り出しています。その手法として、チームのオンライン会議は、中間層に当たる社員にイニシアチブを取ってもらい、皆が話しやすくなる工夫をするといいでしょう。

 

この中間層に適しているのは、1人で動けて頼りになる20代後半から30代の社員ですが、該当者がいなければ、その役割を期待する社員に担ってもらい、MTG前後で個別にトレーニングすると効果的です。

 

2つ目のポイントは、ビジョンを掲げることです。育て上手のマネジャーは、「こうありたい」「こうなりたい」といった近い将来における理想的な姿を定義している人が多いです。問題を解決するときには、このビジョンを基に議論すると、人材も成長するという調査結果が得られています。

 

ただリモートでワイワイガヤガヤした雰囲気を出すのは難しいので、工夫が必要です。まず「〇〇について話しましょう」「1人1回は必ず発言すること」等のテーマやルールを設定して、会議を「構造化」すること。

 

また、音声だけで会議し、空気を読まずに話せる雰囲気をつくるためにも、あえてカメラを切った方が話しやすくなるという事例もあります。

 

アフターコロナのリーダーに求める「共感力」「戦略性」

WORK MILL:アフターコロナでは、リモートワークや、リモートと出社を組み合わせたハイブリッドな働き方が増えていくと考えられます。そんな環境下でリーダーに求められる力は何でしょうか?

 

松尾:リーダーシップの基本である「人間関係軸」と「業績軸」です[1]

 

まず人間関係軸で最も重要なのは「共感力」。人は感情で動く生き物です。だから感情に働きかけられるよう、感情的な知能を鍛えるべきだと考えています。

 

そして業績軸で大切なのは「戦略性」。先を見据えて、自分たちがどこに向かっていくのかを示せる力です。以前とある医師と話した際「優しいヤブ医者」の話を聞きました。患者のことを第一に考えているものの、医師として腕が悪いので病気や怪我を治せないんです。

 

部下思いで共感力があっても、戦略的に向かう方向性を示せないなら、それは「優しいヤブ医者」かもしれません。ただし、これら両方の力を持っている人は少ないので、苦手な軸を部下に任せて、二人三脚でリーダーシップをとるという方法もあります。こうしたアプローチは「共有型リーダーシップ」と言われています。

 

WORK MILL:最後に、1on1に経験学習を取り組もうと考えているマネジャー層にメッセージをお願いします。

 

松尾:経験学習サイクルを機能させるためには、自分たちが何を目指しているのか、各メンバーに何が期待されているのか、パフォーマンスをどのように評価するのかを明確化することが大切です。その上で、「事実の確認」→「共感」→「評価」というプロセスで1on1を実施してください。

 

今まではオフィスで働いていたので、仕事が進んでいるように感じていました。しかしオンラインに移行したことで、自分たちがどのような仕事をしているのかが曖昧であり、仕事が本当に進行しているのか把握しづらい状態になっていると気づいたはず。

 

自分たちが何を行っていて、どこを目指しているのかが曖昧だと、経験学習サイクルが空回りしてしまい、効果も薄れてしまいます。仕事の目標、プロセス、成果基準を明確化し、経験学習サイクルを回しやすくして、個人やチームの成長に繋げてほしいと思います。

 

この環境変化は、組織をつくり替えるチャンスです。ぜひ前向きに1on1や経験学習に取り組んでみてください。

 

―松尾睦(まつお・まこと)
北海道大学大学院経済学研究院教授。1964年東京都町田市生まれ。1988年小樽商科大学商学部卒業。製薬会社を経て、1992年北海道大学大学院文学研究科・行動科学専攻・修士課程修了。民間シンクタンクを経て、1994年岡山商科大学商学部、1999年東京工業大学大学院社会理工学研究科・人間行動博士課程修了(博士(学術))。1999年小樽商科大学大学院商学研究科、2009年神戸大学大学院経営学研究科、2012年4月より北海道大学大学院経営学研究科。 英国ランカスター大学経営大学院・博士課程修了(Ph.D. in Management Learning)。

 

■参考文献
[1] 金井寿宏.リーダーシップ入門,日本経済新聞出版,2005,330p.453211053X

 

2021年4月13日更新
2021年3月取材

 

テキスト:金指 歩

 

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