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「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」。ユニリーバ·ジャパンを支えるパーパス ー 新名司さん

子どもたちを病気から守る手頃な価格の石鹸や、贅沢な香りや泡立ちのシャンプーなど、人々の暮らしを支える消費財メーカーとして、多彩な製品を届けるユニリーバ。取り扱う製品を国や地域によって変えながら、世界各国で400を超えるブランドを展開しています。

 

同社は「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」というパーパスのもと、環境負荷を減らし、社会貢献をしながら、企業としての成長も実現しています。

 

ユニリーバは、なぜサステナビリティを前面に打ち出したパーパスを掲げているのか。ユニリーバ・ジャパンでアシスタント コミュニケーション マネジャーを務める新名司さんに、うかがいます。前編は、そうしたパーパスをどのようにして社内に浸透させていったのかについて。

 

140年前の創業時の思いが脈々と受け継がれている

WORK MILL:ユニリーバ社は「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」というパーパスを掲げられています。これはいつ頃から掲げられているのですか?

 

新名:掲げたのは2011年頃ですが、実はおよそ140年前の創業当時から似たような考え方がありました。

 

弊社の事業は、ビクトリア時代の英国で石鹸を販売したことが始まりです。当時はまだ衛生的な習慣が広まっておらず、そのために病気になってしまう方がたくさんいらっしゃいました。それを何とか解決するために、どなたでも気軽に買える価格で、高品質な石鹸として「サンライト」を発売しました。

 

その石鹸の箱の裏に書かれていたのが、「Making cleanliness commonplace(衛生を暮らしの“あたりまえ”に)」という言葉です。これが現在のパーパスのルーツになっています。

 

WORK MILL:そんなに昔からルーツがあったとは!

 

新名:それから時を経て、ユニリーバのビジネスは大きく、いろいろなカテゴリーへと広がっていきました。一方で、世界の課題もより大きく、複雑になり、気候変動やゴミ問題、社会格差といったさまざまな問題が深刻化しています。

 

そうした社会情勢の中で、衛生のことだけを考えていればいいかというと、そうではない。そこで、新しいパーパスとして「To make sustainable living commonplace(サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に)」を掲げました。

 

WORK MILL:具体的には、何を行なおうとしているのですか?

 

新名:例えば、健康でいられる、栄養たっぷりの食事をとれる、キレイな水を使える、自分らしくいられる、環境にやさしい暮らしができる……。これらは本来、世界中のどこでも、誰にとっても当たり前であるべきことなのですが、現実的にそうはなっていない。私たちが扱う日用品・食品のブランドや製品を通じて、地球環境を守りながら、誰もが自分らしくいきいきと豊かに暮らせることが当たり前になるような社会を実現していきたいと考えています。

 

「ユニリーバ·サステナブル·リビング·プラン」を掲げて

新名:パーパスを掲げるだけだと絵に描いた餅になってしまいかねないので、2010年にユニリーバ·サステナブル·リビング·プラン(USLP)を発表しました。

 

ー (画像提供:ユニリーバ・ジャパン)

 

WORK MILL:どのようなものなのでしょうか。

 

新名:いわゆる成長戦略なのですが、ただ事業を伸ばしていくためのものではなく、ビジネスとサステナビリティを両立させることを目指すビジネスプランです。

 

例えば、ある事業の規模を2倍にしたいと考えたとします。そのために、生産量が2倍になり、工場からのCO2排出量や、家庭で消費された後のゴミの量も2倍に増えてしまったら、それはサステナブルとは言えません。そこで、「環境負荷を減らし、社会に貢献しながらビジネスを成長させる」ことをビジョンとして掲げました。

 

このビジョンを実現するために、「すこやかな暮らし」、「環境負荷の削減」、「経済発展」という3つの分野において、約50個の数値目標を設定しました。

 

WORK MILL:2010年ということはSDGsが掲げられる前ですよね。

 

新名:はい。SDGsの発表後に改めてレビューしたところ、USLPの目標の多くがSDGsと関わりがあり、USLPの目標が達成できれば結果的にSDGsの17の目標すべてに貢献できることが分かりました。ですので、SDGsのために新たにプランを作ることはせず、USLPに取り組み続けてきました。

 

WORK MILL:なるほど。2011年ごろに「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」と、創業当時からの思いを改めて言語化されたきっかけは何かあったのですか?

 

新名:その時点までも、環境や社会に対してさまざまな取り組みを行っており、サステナビリティに関心の高い企業として認知されていました。それをさらに加速させるきっかけとなったのが、2009年にポール・ポールマンがグローバルCEOに就任したことです。彼が「サステナビリティこそがユニリーバの強みであり、事業として成長し生き残る唯一の道だ」という方針を社内外へ強く打ち出す中で、ユニリーバのパーパス、ビジョン、そしてユニリーバ・サステナブル・リビング・プランが策定されていきました。

 

ビジネス目標にサステナブルを組み込む

WORK MILL:USLPを社内ではどのように浸透させているのですか。

 

新名:一般的には、CSR部や環境対策本部といった部署が会社全体の戦略を考え、各事業部と連携して進める体制の企業が多いのではと思います。弊社の場合は、グローバル本社には「チーフ·サステナビリティ·オフィサー」と呼ばれる役職が置かれていますが、各国レベルではCSR部がありません。

 

「調達部門でサステナビリティを実現するには何をすべきか」「マーケティング部門でサステナビリティを実現するには何をすべきか」などと、各部門・部署・チームの目標の中にサステナビリティを組み込むことで、会社全体でUSLPを推進できるような仕組みにしています。

 

WORK MILL:目標にサステナビリティを予め組み込むとは?

 

新名:例えば、弊社には「ライフボーイ」という殺菌効果の高い石鹸のブランドがあり、衛生に課題がある国や地域を中心に販売しています。この製品が普及すればするほど、ユニリーバとしては売上が上がりますし、同時にその国や地域の衛生状況の改善にも貢献できる。そのために、どんな機能や価格の製品をつくればいいのか、どんな広告やコミュニケーションなら伝わるのか、どんな販路をつくればいいのか等を担当部門・部署で考えています。本業を通じて社会課題を解決していける仕組みにしているのです。

 

WORK MILL:USLPの達成度はどの程度なのでしょうか?

 

新名:2019年末の段階で、80%以上達成(達成見込みを含む)しました。

 

WORK MILL:それはすごいですね。ユニリーバ・ジャパンと他の地域で目標は違うのでしょうか。

 

新名:大きな目標やフレームワークは全世界共通ですが、そのうち何に取り組むのか、どう取り組むのかは各国の裁量にかなり任されています。国によって、ユニリーバとして展開しているブランドが違いますし、社会の課題や状況も違うので。

 

例えば、USLPの「すこやかな暮らし」の分野では、「2020年までに10億人以上が衛生的・健康的な暮らしを送れるようにする」という世界共通の目標があり、「手洗いの啓発」、「安全な水の普及」など、いくつか活動領域が決められています。衛生的な習慣がないために子どもたちが命を落としてしまっている国では、先程の「ライフボーイ」を通じて、石鹸を使った手洗いを啓発することになります。一方、日本では乳幼児死亡率はそれほど高くなく、「ライフボーイ」も展開していないので、他のブランドで、他の領域の活動をしています。

 

WORK MILL:およそ50の目標のうち、ユニリーバ・ジャパンならではの目標などがあれば教えてください。

 

新名:「環境負荷の削減」の分野では、台風などの自然災害の被害の多い国ということもあり、気候変動への対応に力を入れてきました。2015年には、他の国のユニリーバに先駆けて、国内で使うエネルギーを100%再生可能エネルギーに切り替えています。

 

「すこやかな暮らし」の分野では、日本では心の健康、ウェルビーイングが課題だと見ています。ボディウォッシュなどでおなじみの「ダヴ」の調査では、日本の女子高校生の中で、自分の外見に自信のある人はわずか7%。これは世界でも最低水準の数字です。自分の外見に自信が持てないと、自分の意見にも自信が持てなかったり、やりたいことを諦めてしまったりする傾向があります。これは本人にとっても、社会にとっても大きな損失です。そこで、「ダヴ」を通じて、自分の美しさに気づくきっかけとなるような動画を配信したり、自己肯定感を高めるためのワークショップや教材を提供したりしています。

 

ー 「ダヴ:リアルビューティーID|本当の美しさを閉じこめないで」より(画像提供:ユニリーバ・ジャパン)

 

「経済発展」の分野では、日本はジェンダー・ギャップ指数で153カ国中121位。日本の企業で採用に携わっている方々のうち、4人に1人が男女が平等に扱われていないと考えていることも分かりました。そこで、「ラックス」を通じて、ジェンダーに関係なく活躍できるような社会に向けての働きかけをしています。その第一歩として、昨年、ユニリーバ・ジャパンのすべての採用過程から、性別欄や写真、ファーストネームなど性別につながる情報を排除しました。これは大きな反響を呼び、性別欄のない履歴書が発売されたりといった社会の変化にも貢献できたのではと思っています。

 

ー (画像提供:ユニリーバ・ジャパン)

 

サステナビリティを社内に浸透させていくために重要だったこと

WORK MILL:最近になってようやくSDGsが声高に語られるようになって、ユニリーバ以外でもサステナビリティを推進する企業が増えましたが、その辺りの時代の変化は感じられますか?

 

新名:はい、すごく感じますね。USLPの話をすると「ユニリーバ は早くからESGに意識の高い企業で、だからこそ成功しているんですね」などと言っていただくことが多いのですが、2010年当時を振り返ってみると、実は、社内でも衝撃的な出来事だったんです。

 

USLP は、2009年末に社内に対して発表されました。しかし、社内のリアクションは歓迎する人、ただただ驚く人、否定的な人とさまざまでした。

 

WORK MILL:反応が分かれたことは、何が原因だったんですか?

 

新名:大きな理由はあまりに目標が壮大だったことです。たとえば「10億人に手洗いを普及させます。そのために石鹸の生産量を2倍にしますが、CO2排出量も水使用量も廃棄物も1グラムとも増やさないで」といきなり言われても、「どうやって?」となりますよね。発表当時は、各国の細かいプランはなく、目標だけが発表されたんです。社会的意義があるのは分かっても、本当に達成できるのか半信半疑だった従業員もいますし、社内外の変化についていけずに辞めていった従業員もいるぐらいです。

 

WORK MILL:当初は反発する声もあったわけですね。

 

新名:はい。社内でもそういう状況だったので、社外からはかなり大きな反応がありまして。USLPを発表した日には株価が10ポイントほど下がりました。まだESGがあまり浸透していなかったので「ユニリーバはNPOになるつもりなのか」などという声もありました。

 

一方で、共感してくださる株主の方も、もちろんいらっしゃいました。取り組みを1年、2年と続けていくうちに、利益を上げながら環境負荷を削減し、社会にも貢献できるようになった。このような成果が見えてきたことで、応援してくださる方も増えましたし、さらに5年、10年と続けるうちに、ESG先進企業として選ばれる銘柄になっていったんです。

 

WORK MILL:当初の社内外からの反発を乗り越えてこれたのは、何がポイントだったと思いますか?

 

新名:そうですね。サステナビリティを会社の戦略として伝えていく上で、3つ大切なことがあると思います。

 

1つはトップダウンで常に同じメッセージを伝え続けるということ。「サステナビリティはユニリーバが成長し生き残る唯一の道」ということを伝え続けたんですね。日本でも、初めて社内に発表するときは、インパクトを持って伝えるために映画館を貸し切りました。映画館で、ポールマンがスピーチしている動画を上映したんです。

 

それを踏まえて、当時の日本の社長に、USLPを日本のビジネスに落とし込んで話してもらいました。そして、各部門長にその話をさらに自部門に落とし込んで話してもらう。そうして、一つひとつのチーム、一人ひとりの仕事へ落とし込み、「自分事」化を進めていくことで社内に浸透させていきました。

 

WORK MILL:なるほど、「自分事」化させる。

 

新名:2つ目に大事なことは、オープンかつ正直であること。サステナビリティは、ともするとキレイに聞こえすぎてしまうことがあります。単なるスローガン、イメージアップのための施策のように受け止められてしまうと、従業員が自分と関連づけて考えたり、危機感を持って行動を起こしたりするのが難しくなります。

 

ですので、できたことも、できなかったことも正直に、本気で伝えていくことが大切だと考えています。できなかったことやその理由を社内外に伝えることで、「もっとこうしたらいいかもしれない」といったアイデアが生まれるようになり、従業員の意識も変わっていきました。

 

WORK MILL:できなかったことも、というのがポイントですね。最後は何でしょうか?

 

新名:はい。トップダウンとボトムアップを組み合わせていくということです。内容を知ってもらうという段階ではトップダウンが効果的ですが、そのあとに文化として醸成していく段階はトップダウンだけでは限界があると思っています。

 

トップが伝え続けるうちに、火がついて意識を高くもつ人たちが必ず出てくる。その人たちが交流できる場をつくり、自分のまわりの人たちに働きかけるサポートをしています。そうすると、「広報が何か言ってる」では心の動かない人も、「○○さんが言うなら」と興味を持ってもらえる。そういうボトムアップの動きも大切だと思います。

 

「なかなかトップのコミットメントが取れない」という他社のお話も聞きます。確かにトップのコミットメントがあると進みが早いですが、文化の醸成のためにできることはボトムアップでもたくさんあるはず。両方を組み合わせていくことが効果的なのではないかなと思います。

 

***

 

前編はここまで。後編では、ユニリーバにとってパーパスがどのような価値を持つのか、そして2020年にオフィスをリノベーションした意図について伺います。

 

(プロフィール)

―新名司(しんみょう・つかさ)
米シラキュース大学大学院修士課程修了。2004年日本リーバ(現ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス)入社。2009年からアシスタント コミュニケーション マネジャー。「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」の日本市場への展開や、東日本大震災の被災地支援などに携わる。

 

2021年4月1日更新
取材月:2021年2月

 

テキスト:五月女菜穂
イラスト:野中 聡紀

 

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