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大切なのは「生き方を自分で選択できる」こと。テレワークの向こう側でLIFULLが考える社会課題解決

日本最大級の不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」(ライフル ホームズ)をはじめ、さまざまな社会課題を解決する事業を展開している株式会社LIFULL。近年では「あらゆるLIFEを、FULLに。」というコーポレートメッセージに基づいた活動も注目されています。

 

個人が抱える課題や世の中の課題を「社会課題」と位置づけ、解決をめざしてさまざまな取り組みを推進。好きな場所でやりたいことをしながら暮らす生き方をめざす「LivingAnywhere Commons」の運営や、多様な生き方を支援するための人事制度の策定など、社内外で社会課題解決に向けた動きを加速させています。

 

注目したいのは、そうした取り組みが事業起点ではなく、あくまでも企業主体の思いを起点として生まれていること。LIFULLで働く人を突き動かしているものは何なのか、キーマンへの取材を通じて考えます。

 

 

“定住”という概念そのものが社会課題なのかもしれない

「場所やライフライン、仕事など、あらゆる制約にしばられることなく、好きな場所でやりたいことをしながら暮らす生き方(LivingAnywhere)をともに実践する」

 

「LivingAnywhere Commons」を推進するLIFULLは、コミュニティの目的をそう説明しています。コミュニティメンバーは全国各地に設置された拠点を利用し、一つの場所に縛られることなく暮らしと仕事を両立可能。このLivingAnywhere Commonsで実践しているLivingAnywhereという考え方は、2017年以降、起業家として知られる孫泰蔵氏とLIFULL代表取締役社長の井上高志氏、Eyes,JAPAN代表の山寺純氏が中心となって進めているものです。

 

LIFULLの地方創生推進部(LivingAnywhere Commonsグループ)に所属し、一般社団法人Living Anywhereの事務局メンバーも兼務する小池克典さんは、「“定住”という概念そのものが社会課題なのかもしれない」と話します。

 

「日本の慣習では、どこか一つの場所に定住することが一般的とされています。一方で定住によって通勤時間が生まれ、やりたい仕事を選ぶ際に制約が生じてしまっているのも事実。これまでの慣習を見直し、テクノロジーを活用することで、暮らしと仕事の自由度を高めていけるのではないかと考えています」(小池さん)

 

こうした考え方は、新型コロナウイルスの影響を受けた2020年以降の社会情勢に呼応するものとなりました。テレワークが一般化してからは、LivingAnywhere Commonsの利用者が前年の6倍に急増しているといいます。

 

とはいえ、このLivingAnywhere Commonsの考え方とLIFULLの主力事業「LIFULL HOME’S」は、一見相反するようにも思えます。自社のビジネスにおける利益とは相反する方向へ進んでしまうのでは――? 小池さんはこの問いを明確に否定します。

 

「LIFULLは『公益志本主義』の考え方、あらゆるステークホルダーを大切にしています。社会課題を解決できる可能性があるのなら、まずは実行してみる。社会に対して価値あることをやっていればちゃんと事業にもつながるはず。代表の井上はその思いで始めていますし、私も思いを受け継いで事業を進めています」(小池さん)

 

 

のべ350人が「暮らしと仕事が一体」のワーケーションを実行

LivingAnywhereの考え方は現在、LIFULLの働き方にも反映されています。

 

「2020年10月に在宅勤務制度を拡充し、LivingAnywhere Commonsの全国12カ所の拠点での勤務を在宅勤務として扱うこととしました。現在のLIFULLには、日常的にワーケーションをしている従業員が多数います。自宅で集中して作業をする、本社オフィスの機能を利用する、在宅ではできない業務をサードプレイスで行うなど、個人が自由に考えて選択できるようになりました。私たちはこれを『LivingAnywhere Work』と呼んで推進しています」(小池さん)

 

現在グループ全体で1500名程度の従業員を擁するLIFULL。LivingAnywhere Commonsの拠点を利用した従業員は、2020年8月〜12月の5カ月間でのべ350名に上るといいます。営業やマーケティングなど比較的行動の自由がききやすい職種だけでなく、法務や総務、経理などコーポレート部門の従業員も積極的に利用。また、利用した約50パーセントの従業員がパートナーや家族、友人と一緒に拠点へ赴いており、1回あたりでは平均して4泊5日で利用されているなど、暮らしと仕事が一体となっている様子がうかがえます。

 

利用した従業員からは「精神的に健康になった」「考え方がポジティブになった」「普段なら出会わないような人とつながることで新たな社会課題の発見につながった」という声も。こうした結果を受けて、小池さんは「オフィスの役割が変わりつつある」と指摘します。

 

「ウェルビーイング(肉体的・精神的・社会的に満たされた状態)が高まり、セレンディピティ(偶然の出会い)があり、イノベーションを生み出すための余白がある。これからのオフィスにはそんな価値が求められるのではないでしょうか。こうした条件を満たす場所として地方が注目され、ワーケーションが持てはやされていますが、本来なら東京の都心でも実現できるはずだと考えています」(小池さん)

 

 

テレワークの課題へ「コミュニケーション総量の目標化」でアプローチ

 

LIFULLの従業員が自由に働く場所を選択できるようになった背景には、2020年の大きな人事制度変更がありました。他社に先駆けて週2日(会社の許可があれば最大週5日)のテレワークを認める体制へと舵を切ったのです。

 

実はこの構想は、新型コロナウイルスの影響が拡大する前から練られていたといいます。執行役員 Chief People Officerの羽田幸広さんはその狙いについて、「従業員一人ひとりのライフスタイルに合わせた働き方の実現」を挙げます。

 

「大切なのは『どんな生き方でもできる』『生き方を自分で選択できる』ようになることだと考えています。今後は、企業と個人の関係性も確実に変わっていくはずです。現在の日本企業の多くは雇用契約を基本としていますが、フリーランスの立場で関わる人も増えていますし、副業・複業に取り組む人も増えています。そう考えると、場所や時間に縛られた働き方を強いることは、企業の弱体化につながる危険性を秘めているのかもしれません」(羽田さん)

 

コロナ禍において、社員の安全を第一に考えた対応を行ったり、テレワークを前提としたワークスタイルを導入したりすることで、従業員の企業への愛着度を示す「エンゲージメント」調査の結果は全体的に向上。ただ、マネジメント体制に関する一部の項目ではエンゲージメントの低下も見られたといいます。背景にあるのはコミュニケーションの課題でした。

 

「当社ではマネジャーとメンバーが1対1で対話をする『1on1』を重視しています。しかし、テレワーク環境では1on1の時間を優先的に確保できなくなってしまったマネジャーもいました。そこで対策として打ち出したのが、コミュニケーション総量を明確な基準として置くことでした」(羽田さん)

 

1on1は週に1回、30分間行うことを目標として設定。さらに1on1で聞くべき項目として、「仕事」や「私事」(話せる範囲でプライベート)、「志事」(長期のキャリア)についてもコミュニケーションを図るよう求めたのです。結果的に、エンゲージメント調査におけるマネジメントの数値は再び向上しました。

 

同時に羽田さんが課題視していたのは、部門外とのコミュニケーションでした。テレワーク環境では、オフィスで働いているときのような「出会い頭に別部署の人と偶然話す機会」はどうしても少なくなってしまいがちです。この状況が続けば、従業員は自部署の話題ばかりにとらわれ、新しい視点を得られなくなってしまうかもしれません。

 

「そこで、オンラインでの実施を推奨するサークル活動を2020年9月から開始しました。現在では70を超えるサークルが誕生しています。リアルに戻すのではなく、オンラインの会話を増やすという考え方で、部門を超えたコミュニケーションを充実させています」(羽田さん)

 

 

働きがいは、個人と企業の「やりたいこと」を統合することで生まれる

羽田さんが中心となって進められてきたLIFULLの人事制度や施策は、外部からも注目されています。働きがいの専門研究機関であるGreat Place to Workの調査では「働きがいのある会社」ベストカンパニーに7年連続で選出されるなど、高い評価を得てきました。

 

LIFULLが考える「働きがいのある会社」とは、どのような状態を指すのでしょうか。羽田さんは「個人と企業の『やりたいこと』が統合されている状態」だと説明します。

 

「企業目線で考えれば、現経営陣の7人だけでは、『あらゆるLIFEを、FULLに。』することはできません。約1500人の従業員が、これまで生きてきた中で感じた社会課題を認知し、事業を通じて解決のアプローチを図っていくことが大切です。個人の内発的動機から生まれる欲求に基づいて、事業を動かしていく必要があるのです。

 

一方で従業員の目線で考えれば、人生100年時代と言われる今は『1社に勤め上げて終わり』ではなく、『キャリアを企業に預けずに自分で管理する時代』だと言えるでしょう。自分がどんな特技を持ち、どんなふうに貢献できるのか。それをデザインしていくためには、内発的動機に基づいてやりたい仕事にどんどん挑戦できる環境が必要です」(羽田さん)

 

こうした視点をもとに羽田さんが重視するのが「自律と信頼」です。従来のように「何時間働いたか」という観点ではなく、「プロとして約束した成果を出しているか」という観点が重視される職場の実現には、従業員一人ひとりが自律した個人として成り立ち、企業との間に信頼関係を築けていることが前提となるからです。

 

「ゆくゆくは、一人ひとりが『私は○○屋さんです』と看板を掲げる時代になっていくのでしょう。極端な言い方をすると、『やりたいことを実現するために、今はたまたまLIFULLに所属しています』という会話も、あたり前に交わされるようになっていくのかもしれません。

 

そうやって個人と個人、あるいは個人と企業が信頼し合って成り立つには、共通の目的が必要です。私たちにとってはそれが経営理念であり、社会課題の解決をめざすというメッセージなのだと思います」(羽田さん)

 

事実、LIFULLでは共通目的としての理念や言葉が共有され、従業員一人ひとりの行動を支える基盤になっているといいます。その背景には2017年に実施した「社名変更」がありました。後編記事では、大きな変化の中で進められたインナーブランディングの取り組みに迫ります。

 

(プロフィール)

 

ー 小池克典(こいけ・かつのり)

株式会社LIFULL 地方創生推進部 LivingAnywhere Commons事業責任者・株式会社LIFULL ArchiTech 代表取締役社長・一般社団法人LivingAnywhere 副事務局長。1983年生まれ。株式会社LIFULLに入社後、LIFULL HOME’Sの広告営業部門で営業、マネジメント、新部署の立ち上げや新規事業開発を担当。現在は定額多拠点サービス「LivingAnywhere Commons」の推進を通じて、地域活性や行政連携、テクノロジー開発、スタートアップ支援などに尽力。

 

ー 羽田幸広(はだ・ゆきひろ)

株式会社LIFULL 執行役員 Chief People Officer。1976年生まれ。上智大学卒業。人材関連企業を経て2005年6月ネクスト(現LIFULL)入社。人事未経験ながら人事部門を立ち上げ、後に人事責任者として経営理念浸透、企業文化醸成、採用、組織開発、人材育成、人事制度づくりに尽力。2008年からは社員有志を集めた「日本一働きたい会社プロジェクト」を推進し、2017年「ベストモチベーションカンパニーアワード」1位を獲得。7年連続「働きがいのある会社」ベストカンパニー選出(2011年~2017年)、健康経営銘柄選定(2015年度、2016年度)など、企業として高い評価を得るまでに導いた。2015年には執行役員に就任、Chief People Officerとして国内外併せて約30社のグループ会社の組織作りを主導している。著書 :「日本一働きたい会社のつくりかた」(PHP研究所)

 

2021年3月11日更新
取材月:2021年1月

 

テキスト:多田 慎介
イラスト:野中 聡紀

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