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イノベーションを生む組織に求められる、自律性と目的 ー Designing X in new normal age #4

変化が多く複雑な時代に突入し、あらゆる組織でイノベーションがいっそう強く求められています。イノベーションを促し変革し続けるには、企業の根元にある組織文化を見つめ直す必要があります。

 

2021年1月26日(火)、産総研デザインスクール主催で「Designing X in new normal age」を開催しました。全5回のシリーズのうち、4回目となる今回のテーマは「組織文化」です。

 

多摩大学大学院より紺野登教授をお迎えし、経営フレームの変化を捉えながら、「イノベーションを生む組織に必要な視点と場」をテーマにお話いただきました。後半は、産総研デザインスクールの受講生と共に、紺野教授とのパネルディスカッションを実施しました。

 

ー 紺野登(こんの・のぼる) 
多摩大学大学院 経営情報学研究科 教授。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)特別招聘教授。 博士(学術)。エコシスラボ(株)代表。「知識生態学」(知識創造理論、デザイン思考)をベースに組織革新、新規事業、都市開発等の領域でIT企業や大手設計事務所等のアドバイザーを務める。著書『ビジネスのためのデザイン思考』『知識創造経営のプリンシプル(共著)』『構想力の方法論(共著)』『イノベーション全書』など。
Photo by Ookura Hideki|KUROME photo studio 

 

官僚型組織から自律的組織へ

冒頭は紺野氏より、具体的な企業事例をもとに、イノベーションを起こす組織に求められる資質を紐解いていただきました。

 

紺野氏: コロナ禍でも売り上げが伸びている会社の一つに、インターネット動画配信サービスを展開する「Netflix(ネットフリックス)」があります。ベストセラーのビジネス書『No Rules』には、Netflixの組織文化について書かれています。Netflixでは優秀な人を雇い続けるために、「並の成果の社員には退職金を払って辞めてもらう」と宣言しています。休暇規定や追跡、服装規定が存在しないのは、能力のある大人にルールは必要ないと考えているためです。

 

イノベーティブな組織のキーワードの一つは、「自律性」です。これはシリコンバレーに限った話ではありません。

 

2018年にウィーンで開催された「ピータードラッカーフォーラム2018」では、社員の自律性を基盤とした経営について話し合われました。この会議で話題をさらったのは、中国の白物家電メーカー「Haier (ハイアール)」のCEOです。ハイアールでは一万四千人のミドルマネジメントを全員クビにして、アントレプレナー(起業家)に転換しました。かつて彼らはトップの指示待ちでしたが、アントレプレナーとしては顧客にだけ耳を傾けて働くようになりました。まるでスタートアップのようにです。

 

 

大企業からスタートアップを引いたら、何が残るでしょうか? 官僚主義です。大企業に入る人も元々はアントレプレナーシップを持っていますが、入社して3〜5年経つとそのような気概はなくなってしまいます。企業の規模が問題ではありません。GoogleやNetflixも大企業です。官僚主義を維持していることが問題なのです。今後大企業には「機動的大企業」として、事業の高速スケール化やピボットをする俊敏さが求められます。

 

イノベーションが経営の中心になる

「これからの経営はイノベーションに焦点を置くことになる」と紺野氏は述べます。イノベーションに焦点を置く組織とは、これまでの組織とどのように異なるのでしょうか。

 

紺野氏:これまでMBAの定番授業テーマだったマイケル・ポーターなどの競争戦略は、インターネットの登場により頭打ちになりました。競争優位を構築してもどんどん陳腐化してしまうからです。代わってイノベーションを中心としたイノベーション経営(マネジメント)が主流となりつつあります。

 

多くの企業では多角化による新規事業戦略や、出島戦略(企業本体とは別に、自由に活動できる組織をつくること)をとっていますが、既存事業の引力が強く新規事業が食われてしまうとか、お互いに反発してしまうことがよく見られます。

 

本業もイノベーションの視点でマネジメントが必要になるのです。2019年の夏に新しいイノベーションマネジメントシステムの国際標準規格「ISO56002」が発表されましたが、おそらく数年のうちに各社が導入せざるを得ない状況となるでしょう。たとえば、他社と提携する際にイノベーションマネジメントへの取り組みについて問われ、取り組んでいなければ断られる未来も考えられます。

 

 

イノベーションは段階的にできるものではなく、極めて非線形的で試行錯誤的な営みです。一橋大学名誉教授の野中郁次郎先生などとともに研究してきた知識創造経営や、デザイン思考のプロセスと共通したものです。

 

これからのビジネスではイノベーションを生む試行錯誤的アプローチが必須となりますが、本業が中心の組織ではこうした仕事は脆弱になりがちです。このプロセスをうまく守るには、組織の状況に応じてリーダーシップを発揮し方向性を定めること、そしてより良い試行錯誤ができるような支援体制と評価・システムをつくることが重要になります。

 

イノベーションを促す「場」と組織の「目的」

続いては、組織にいる人々が創造性を発揮するために重要な視点となる「場」と「目的」について解説いただきました。

 

紺野氏: イノベーションに大きく寄与するのは、チームや関係性をつくる「場」です。たとえば顧客と協業するイノベーションセンター、様々な関係者と協働するフューチャーセンター、社会実験をおこなうリビングラボ、そして仮想的な知識共有の場も含まれます。このような「よい場」がある企業を調査すると、コラボレーションが増える、新しいプロジェクトにチャレンジできる、女性管理職が増えるなど組織に良い影響をもたらすことが分かりました。

 

 

一方でいくら組織に場がありトップがイノベーションを推進しても、個人や組織が「目的」を持っていないとイノベーションは起きません。

 

たとえばテスラは、「資源を燃やす炭化水素経済から太陽電池経済に移行する」という大目的を掲げています。テスラは大目的、中目的、小目的を階層別に設定しマネジメントすることで、最終的にさまざまな成功を納めています。これは目的工学の考えに通ずるものです。

 

 

大目的は、会社の存在すら超えていく理念の先にある世界のこと。個人の目的、会社から与えられた目的、そして会社を超えた社会への目的を連動させることが重要です。場合によっては、新入社員が持つ目的が素晴らしかったら、それを拾い上げてもいいじゃないですか。必ずしも会社から与えられた目的によって個人を動かすのではなく、組織が目的を重視しながらダイナミックに、機動的に動けるようマネジメントしていく必要があります。

 

パネルディスカッション:個人と組織が共に未来をつくるには

イベント後半は産総研デザインスクールの事務局の大本綾氏をモデレーターに、紺野氏と事務局長の大場光太郎氏、そしてデザインスクール受講生の清水充則氏、修了生の上原圭祐氏にご登壇いただきました。スクールの公開授業に見立て、パネルディスカッションをおこないました。

 

大本氏: 2018年より産業技術総合研究所が企画運営する産総研デザインスクールでは、紺野先生の目的工学を参考に、試行錯誤を重ねてプログラムを開発しています。

 

本スクールでは「どのような理想の未来・社会をつくりたいか」という自分のWillを語る機会を設けたうえで、他者のWillと統合して共通の目的を描き、その想いをベースにプロジェクトを立ち上げています。

 

今回のパネルディスカッションでは、産総研デザインスクールの卒業生である上原さんと現役生の清水さんにお越しいただきました。卒業生と現役生のお二人が本スクールで得た学びを共有した後、公開授業のような形で、お二人から紺野先生と産総研デザインスクールで校長を務める大場光太郎さんにご質問いただきます。

 

清水氏:神戸市役所の職員で、現在は神戸市役所の東京事務所で働いています。2020年度の産総研デザインスクールを受講中です。

 

産総研デザインスクールのパンフレットには「21世紀のイノベーションを生むリーダー」を育てる方法として、人材開発をおこなう主体が「学習者自身」であると記載されていたのが面白いなと思い、興味を持ちました。いま実際に受講していますが、問題解決型学習(Project based learning)の授業が中心で、受講生自らが課題を見つけて解決していく形で進めていきます。

 

 

今、私たちのチームは「誰も取り残さない地域づくり」を大目的に掲げ、その一歩目として神戸市の児童館などと協働しながら、ドローンの技術を活用して地域の困りごとを解決するプロジェクトを計画しています。

 

産総研デザインスクールは、自分の可能性を試せる場所です。チームのなかで一人がさまざまな役割を担う場面もあるし、その時々にチームメンバーの強みを活かして役割が変わることもある。難しくもありますが、とても面白い学びを体験しています。

 

上原氏: 現在、NTTデータにて某大手自動車メーカー様の顧客営業を担当しています。2019年に産総研デザインスクールを受講しました。

 

今の時代に同じビジネスモデルで5年、10年と利益を出し続けることは容易ではありません。より変化が激しくなる時代では、求められるリーダー、マネージャー像も変化するのではないかと考え、自ら学ぶために本スクールを受講しました。

 

 

さまざまな実証実験や講義を通して、印象に残った学びは「課題設定」と「クリエイティブリーダーシップ」です。まず、大目的を描いたうえで段階的に駆動目標を設定していく課題設定のプロセスは新鮮でした。それまで営業の仕事ではお客さまの困りごとからビジネスの提案をさせていただくことが多かったのですが、今は「社会問題と自分たちのビジネスにどのような関わりがあるか」を考えて、提案の際に大目的を設定するようにしています。その結果、稟議が通りやすくなり受注率も上がりました。

 

「クリエイティブリーダーシップ」については、講義を通して未来のあるべきリーダー像を理解しました。これからの時代は、ピラミッド型のリーダーではなく、誰もがリーダーになれる組織づくりをする必要がある。その学びから、場をマネジメントしていく視点を得ることができました。

 

事業会社でイノベーションを起こすには

上原氏:イノベーションを起こす組織づくりのために、事業会社は何を変えるべきでしょうか。イノベーションを起こすにあたり、会社の制度面、文化面で高いハードルがあると感じています。事業会社は利益や責任を問われるなかで不確定要素の多いイノベーションはコストと考えられてしまい、会社のなかでイノベーションを起こすような突拍子もないことを言う文化がなかなか醸成しにくいと感じています。

 

紺野氏:大規模な事業会社は特定の市場を任されており、そのなかでイノベーションを起こすのは難しいという話だと思います。しかし、市場はどんどん変化していて、さらには皆さんの利益を面白くないと感じているスタートアップなどのディスラプター(破壊者) もいるわけです。今の時代、どのような会社も未来に対する投資がなければ数年で頭打ちになります。まずは、守るべきものは何かと問うべきだと思います。

 

そして、現場からフィードバックをすることです。先述のイノベーションマネジメントシステム等を活用して、情報や知識の流れを社内に作る必要があります。一般的にいうと、本社やホールディングカンパニーは戦略のイニシアティブを取ることはできますが、現場が見えていないことも多い。現場の変化を知っているのは事業会社ですから、イノベーションを議論する場をつくることが最初の一歩ではないでしょうか。究極はリーダーシップの問題だと思います。

 

 

上原氏: ありがとうございます。あらためてリーダーの育成が急務だと感じました。組織をリードするには推進力やパッション、社会課題を捉える観察力が求められるのではないかと考えています。イノベーションを起こすリーダーを育てるために、効果的な教育についてうかがいたいです。

 

 

大場氏: 産総研デザインスクールは、まさに紺野先生が仰っていた「イノベーションを起こす場」として立ち上げました。本スクールでは経験学習を重視しており、あまり教えすぎないよう意識しています。答えのない問題を解決する能力を身につけるには、迷いながらも自分で考えることが大切です。受講生の皆さんにも「目指す方向性としての北極星やコンパスは渡しても、地図やカーナビは渡しませんよ」とお伝えしています。

 

今期は自分の想い(My will)をチームの想い(Our will)に統合し、社会の大きな目的につなげていくプロセスに取り組みました。自分の想いは、自分自身を見つめ直さないと出てきません。でも、考え抜くことが自分の力につながりますし、それを他者に話したときに共感が生まれ、仲間が増えていく。本スクールの卒業生は、知らず知らずのうちにこのような能力を身につけているのだと思います。

 

自治体がイノベーティブな組織になるためには

清水氏: 2018年5月に経済産業省から「デザイン経営宣言」が発表されるなど、日本では以前から「デザイン」という言葉がよく使われています。私が勤める神戸市もデザインの力を活用してさまざまな施策を進めており、2008年にはユネスコ創造都市ネットワークに認定されています。また、デザインや美術、音楽など芸術分野の素養を持つ人材を確保するため、採用に「デザイン・クリエイティブ枠」を設けるなど、デザイン人材の採用・育成にも力を入れています。

 

イノベーション経営や、知識創造のツールとしてデザイン思考の話がありましたが、地方自治体でも取り入れるべき視点だと思いました。既に取り組んでいる自治体の事例や、紺野先生が思う「行政のあるべき姿」があれば教えていただきたいです。

 

紺野氏: なぜデザイン的な思考が求められているかというと、今の時代にある問題が複雑化し、これまでの合理的方法では解けなくなってきているからです。そして、その問題を解決した後はどのようになっていたいのかを問う。ただしデザインはあくまでも手段で、目的を考える必要があります。目的がはっきりしないと、デザインに関する色々な活動があったとしても流行で終わる可能性があると見ています。

 

自治体にはプライベートセクターの世界で起こっていることを学んでほしいと考えています。実は90年代後半くらいから逆の流れが起きていて、ビジネスの世界がパブリックセクターで起きていることを学んでいるんですね。自治体も自らの発想をもとにプライベートセクターを巻き込む視点が必要になると思います。

 

 

また、自治体も官僚主義によって成り立つ時代ではなくなってきていると思います。イギリスの都市・マンチェスターでは戦後、人口が減って衰退の一途を辿りました。しかし、90年代になって人口が増え始めたんですよ。なぜうまくいったかというと、都市型アントレプレナーリズムを実践したからです。マンチェスター市は官僚主義から抜け出し、「マンチェスターモデル」として関心を集めました。日本でも、官僚主義を廃止しても機能する自治体や行政をぜひデザインしていただきたいです。

 

 

最後に、紺野先生からイノベーションを起こすべく立ち上がる人々へ向け、メッセージをいただきました。

 

紺野氏: 日本は高いポテンシャルがあるにも関わらず、古いモデルに縛られてしまっている点が最大のボトルネックです。この現状を変えるには、共同体の資本である仲間やパートナーシップが大切です。たった一人の想いからパートナーシップを組み、大きな目的に結びついていく。それができれば、大きな変化を生み出せると思います。皆さんもぜひ自分ごととして取り組み、変化を起こしていっていください。

 

2021年2月24日(水)、「Designing X in new normal age」第5回を開催しました。テーマは、「新しいリーダーシップ 」。ゲストスピーカーには、デンマークのビジネスデザインスクール「KAOSPILOT」校長のChrister(クリスター)氏、米国シリコンバレー初の女性に特化したアクセラレター「Women’s Startup Lab」代表取締役の堀江愛利氏をお迎えし、お二人が考える新しい時代のリーダーシップについて共有いただきました。次回のレポートもお楽しみに。

 

Designing X in new normal ageとは
産業技術総合研究所(以下、産総研)が企画運営する産総研デザインスクールでは、「Designing X in new normal age」と題し、未来の兆しを掴む全5回のオンラインイベントを開催。毎回異なる領域「X(エックス)」で活躍するゲストから未来の兆しを共有いただき、共にこれからの時代の在り方を探っていく一般公開イベントです。

・第1回目のイベントレポート_「文化8割、ツール2割」リモートワークにおける信頼関係の築き方 ー Designing X in new normal age #1
・第2回目のイベントレポート_日本的ウェルビーイングのカギは、渾沌を楽しむマインドと技術 ー Designing X in new normal age #2
・第3回目のイベントレポート_ 持続可能な社会をつくるために、企業・組織ができること ー Designing X in new normal age #3

 

2021年1月取材
2021年3月1日更新

テキスト:花田奈々
グラフィックレコーディング:仲沢実桜

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