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渋谷再開発は点ではなく面で挑む ― 共創を生み出す東急の街づくり

渋谷駅周辺はもちろん、周辺の街も見下ろせる渋谷スクランブルスクエアの44階。緑が多く、さまざまなデザインのソファやテーブルがランダムに配置されるこの空間は、「WORK MILL」を運営するオカムラのラボオフィス「CO-EN-LABO」。

 

2020年9月のとある日。この場所を訪れたのは、100年に一度といわれる渋谷の再開発を手掛ける、東急株式会社の関光浩さんと山口堪太郎さんです。

 

2012年に開業した渋谷ヒカリエに始まり、2018年に渋谷ストリームが開業、2019年に渋谷スクランブルスクエアが開業するなど、再開発が進む渋谷の街。「ビットバレー」の再来も期待されていたなかで、状況をガラリと変えたのは、新型コロナウイルス感染症の拡大です。

 

感染症の影響で、いつもにぎわっていた渋谷スクランブル交差点は、これまでに見たことがないほど人の姿が消えました。外出自粛の流れが到来し、リモートワークへの理解・関心が急速に加速したことで、再開発の真っ只中にいる渋谷は、今後どのように変化していくのでしょうか?

 

本企画は、前編と後編に分けてお送りします。前半のテーマは「感染症の影響を受けるまでの再開発プロジェクト」について。今の渋谷の風景を眺めながら、おふたりはどんな話をするのでしょうか。

 

ー 渋谷駅周辺航空写真 東急株式会社

 

ー 渋谷スクランブルスクエア SHIBUYA SKY 屋上からの眺望(新宿方面・昼)渋谷スクランブルスクエア

 

交通機能や都市基盤の強化。そして、エンターテインメントを生活に溶け込ませていく

WORK MILL:改めて、渋谷再開発の目的を教えてください。

 

関:渋谷再開発の目的は、交通結節点機能を強化して使いやすい街にすることと、都市基盤を強化して安全な街にすることです。渋谷マークシティやセルリアンタワーが開業した2000年から2001年頃、渋谷には交通機能や都市基盤に関する問題が浮上していました。

 

例えば、さまざまな鉄道会社が乗り入れ、各社による移設や増改築、また渋谷特有の谷地形や街を分断する大きな道路などにより、地下3階から地上3階までの重層構造になっていた渋谷駅は、階段を昇ったり降りたりと利用者にとって使いにくい駅でした。また、渋谷はすり鉢状の谷地形になっているので、大雨が降って浸水・冠水の被害を受けやすく、国道が冠水してしまうと車が通れず、大渋滞が起こっていたんです。

 

誰もが安心して過ごせる・訪れることができる街にするため、こうした渋谷が抱える問題を解決するべく再開発がスタートしました。

 

―関光浩(せき・みつひろ) 
東急株式会社 渋谷開発事業部 開発計画グループ まちづくり戦略担当課長

 

WORK MILL:確かに、渋谷駅の景色が日に日に変わっていますよね。

 

関:鉄道会社各社と連携して電車のホームを動かしたり、駅の出入り口の番号を振り直したり、使いやすい駅になるようアップデートしています。あとは、交通広場の整備や渋谷川の一部の移設、雨水を溜める地下貯留施設の設置も行っていますね。

 

東急では、渋谷再開発のテーマを「エンタテイメントシティSHIBUYA」と掲げ、2012年の渋谷ヒカリエの開業を皮切りに、渋谷ストリームや渋谷スクランブルスクエアなど、エンターテインメント性を掛け合わせた大規模複合施設を開業しました。

 

WORK MILL:エンタテイメントシティ、ですか?

 

関:はい。渋谷は、暮らす人やワーカー、観光客、遊びに来る人など、多様な人々が集まる街です。その特徴を生かして、暮らしやビジネス、遊びを切り分けることなく、エンターテインメントを生活に溶け込ませていけたらと。一例として、渋谷ヒカリエのオフィスロビーの前には「東急シアターオーブ」というミュージカル劇場があります。

 

こうして渋谷をライフスタイルのすべてが詰まった街にすることで、街での体験価値を向上させていきたい。そのために必要なのは、点ではなく面での街づくりです。

 

エリア全体に血が通えば、結果的に自分たちも健康体になる

WORK MILL:点ではなく面での街づくりとは、具体的にどういうことでしょうか?

 

関:街づくりを「渋谷駅周辺」という“点”ではなく、「渋谷エリア全体」という“面”として捉え、街全体の回遊性を高めるような開発を進めることです。渋谷の周りには、原宿や表参道、恵比寿、代官山など、独自のカラーをもった街が点在しています。そういった魅力的な街と、渋谷の街を回遊しやすくすることで、相互に魅力が高まっていくんです。

 

渋谷駅前だけで勝負するつもりはなく、街歩きがしやすい環境づくりをする。渋谷駅は「自分が好きな街を楽しむための玄関口」として捉えてもらえたら、と思います。

 

山口:具体的には、渋谷エリアにある街へとアクセスしやすいよう、渋谷駅周辺の歩行者ネットワークを整備しています。

 

代表的なものとして挙げられるのは、渋谷駅の2階から渋谷スクランブルスクエア、渋谷ヒカリエを抜け、宮益坂方面まで続く通路です。渋谷ヒカリエに入らなくても、宮益坂や表参道など渋谷駅の東側の目的地の方面へと抜けられる設計になっているんです。渋谷駅の西側、渋谷マークシティと道玄坂の関係も同じです。

 

―山口堪太郎(やまぐち・かんたろう)
東急株式会社 経営企画室 経営政策グループ 企画担当課長

 

WORK MILL:ビルの中へと人の動線をつないだほうが、施設にお金が落ちるのではないか、と思ってしまうのですが……。

 

山口:私たちは、渋谷エリアの回遊性をどう高めるかを最優先にしています。なぜなら、渋谷エリア全体の動きが活発になると、全体の消費が増え、結果的に私たちが手掛けた施設にも返ってくるからです。

 

これまで、渋谷から恵比寿・代官山までの渋谷駅南側エリアは商業エリアではなくオフィスビルや住宅が多いエリアであったため、あまり来街者の多いエリアではありませんでした。

 

しかし、2018年に渋谷ストリームが開業し、渋谷川沿いに渋谷リバーストリートという遊歩道が整備されてからは、回遊性が高まり、より多くの人が渋谷エリアの新たな面に気づいてくれました。

 

渋谷エリアを身体に、ヒトや消費の流れを血流に例えると、全身の血行をよくすると全身が健康に、各機能もよりよく働けるようになるわけです。

 

WORK MILL:消費者視点でも、ひとつの施設が盛り上がるより、街全体が盛り上がっているとその街に行きたいと思えます。

 

山口:まさにそれが狙いです。こうした“面”での街づくりは、私たちだけでやっているわけではありません。行政や学識経験者、大中小の担い手(民間企業)など、多くの人の協力が必要不可欠です。

 

関:私たちが手掛ける街づくりプロジェクトは、地域住民とも連携しています。昔、道玄坂でスキーをしたり(笑)、渋谷川に入って遊んだりしていた70代の方など、ずっと渋谷の街を守ってきた町内会や商店街の方とともに進めているんです。

 

WORK MILL:世界中から注目を集める渋谷という街だから、行政や企業がどんどん再開発を進められているのかと思っていました。

 

関:いえ、そんなことはありません。渋谷は街が小さくて密度が濃く、地域住民もエネルギッシュに街の活性化に取り組まれています。

 

行政が主催する再開発プロジェクトの会議があるので、そこでまちの方に私たちの考えや取り組みを共有します。プロジェクトの内容をお伝えして、ご意見をいただく。汲みとれる意見はできるだけ汲みとりながら、渋谷をより良い街とするために併走しているんです。

 

慣れ親しんだ風景を変えていくのは、街とともに生きてきた人にとっては特に勇気のいることです。しかし、再開発をすることで、さらに街が活気的になる。地域住民には、変身を遂げた街のことも好きになってもらいたいので、連携して開発を進めるのは外せないポイントですね。

 

関:渋谷ヒカリエができたとき、駅から宮益坂方面への回遊性が高まり、プロジェクトに参画していた地域の方に「ヒカリエができてよかった」と言っていただけたことは、今でも覚えています。

 

ー 渋谷ヒカリエ 2階自由通路 Shibuya Hikarie

 

これからの渋谷に必要なのは「共創」

WORK MILL:お話を伺い、私が見ていた日々移り変わる渋谷の街は、御社をはじめとして多くの人の努力のもとで成り立っていたのか、と実感しました。

 

関:かつて自然が豊かだった渋谷は、1885年の渋谷駅誕生をきっかけに、長い歴史のなかで企業や地域住民など多くの人の手によって整備されていきました。次第に、商業施設が立ち並んで若者が遊ぶ街となり、今ではビジネスの場としての顔も持っています。そしてこれから、渋谷の街に必要なのは「共創」です。

 

WORK MILL:共創なんですね。

 

山口:最初に、弊社が掲げる渋谷再開発のテーマを「エンタテイメントシティSHIBUYA」とお伝えしましたが、もてなすとか、ヒトの心を動かす、といった広義の意味で捉えています。

 

渋谷エリアの中には、暮らす人も、ワーカーも、観光客も、遊びに来る人も混じっている。つまり、産業を生み出す人もいるし、生まれたサービスを享受する人もいるし、双方の立場に立つ人もたくさんいます。そんな多様な人たちが、偶然出会ったり交わったり「共創」することで、渋谷が日本産業を牽引する一翼を担わないといけないと思っています。

 

関:この共創が生み出すエンターテインメントを促進させるため、渋谷スクランブルスクエアが誕生しました。施設名の由来は「渋谷スクランブル交差点」ではありません。「多様な人が“混じり合い”、新しいものが生まれる空間になれば」といった想いで「渋谷スクランブルスクエア」と名付けました。

 

この施設の15階には、「SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)」という共創施設があります。コミュニティコンセプトは「Scramble Society(スクランブル ソサエティ)」。多様な人たちが交差・交流し、社会価値につながるアイデアや新規事業の種を生み出すことを目指した共創施設です。私たちは「SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)」という場を通して、リアルの価値を最大化するお手伝いができたらと思います。

 

ー 渋谷スクランブルスクエア内 SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)エントランス 渋谷スクランブルスクエア

ー 渋谷スクランブルスクエア内SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)「SCRAMBLE HALL」 渋谷スクランブルスクエア

ー 渋谷スクランブルスクエア内SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)「SALON」 渋谷スクランブルスクエア

ー 渋谷スクランブルスクエア内SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)「PROJECT BASE」 渋谷スクランブルスクエア

ー 渋谷スクランブルスクエア内SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)「CROSS PARK」 渋谷スクランブルスクエア

ー 渋谷スクランブルスクエア 外観1 渋谷スクランブルスクエア

 

WORK MILL:渋谷スクランブルスクエアという施設全体で共創を体現されている、と。

 

関:はい。そして共創は、再開発が進む渋谷の街だけではなく、開発する側の私たちにも生まれています。

 

街づくりに必要なパワーは、自分たちだけではまったくと言っていいほど足りません。街の人や行政、ビルに入居する企業や店舗など、多くの関係者と協力していくことが必須です。立場や視点が異なる人と交わって、他流試合を繰り広げながら、一歩ずつ前へと進んでいくもの。共創なしに街づくりは実現しないでしょう。

 

山口:弊社はこれまで「共創」を大切にしながら、多くの街の開発に数十年単位で携わってきました。担当者は変われど、「共創する」という企業文化は次の担当者へと引き継がれ、その時代や状況に合った街づくりを実現しています。

 

今は新型コロナウイルス感染症の拡大で、いずれ来ると思って準備し始めていた都市生活の変容が一気に加速しました。正直苦しいことも多いですが、ニューノーマルな街のあり方を体現するため、今が踏ん張りどきだと思っています。

 

前編はここまで。後編では、東急が考えるこれからの渋谷や、都市の在り方についてうかがいます。

 

ー 取材会場となった「CO-EN LABO」。渋谷スクランブルスクエア44階から渋谷の風景が眼下に広がる

 

2020年10月27日更新
取材月:2020年9月

 

テキスト:柏木まなみ
写真:長野竜成(人物) 
東急株式会社 Shibuya Hikarie  渋谷スクランブルスクエア提供

 

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