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オンラインを起点に、こっそり熱狂を育てる“秘密結社”へ ― リアルが主流だった共創空間のこれから

会社という枠だけに捉われず、さまざまな企業や個人が交差する「共創空間(セッションスペース)」。オープンな環境でイノベーションを生み、課題解決や価値創造を実現するための共創を行なう場として、共創空間を運営する企業が増えています。

 

共創空間では、ミーティングや雑談のほかに、カンファレンスやイベント、ワークショップも開催され、多くの化学反応が生まれてきました。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で、対面でのコミュニケーションが避けられるようになった現在、共創空間はその価値を新たに変えようとしています。

 

2020年7月2日、WORK MILLは「リアルの場の価値再考」と題し、Web座談会を開催しました。全三回でお送りする最終回は共創空間編として、ご登壇いただいたのは富士通株式会社 GM本部 プログラムプロデューサーの高嶋大介さん、kipples 代表の日比谷尚武さん、&Co. 代表取締役の横石崇さん。モデレーターとして、株式会社オカムラ 共創センターの垣屋譲治が参加しました。

 

「直接顔を合わせて、同じ空気を共有するからこそ、組織の垣根を超えて化学反応が生まれる」と、これまではリアルな場での活動が前提とされていた共創空間。コミュニケーションの舞台がオンラインに移る今、「共創空間の新しい価値」について語られた1時間半をレポートします。

 

―高嶋大介(たかしま・だいすけ)
富士通株式会社 GM本部 プログラムプロデューサー / 100人カイギ founder・見届け人。大学卒業後、大手ゼネコンにて現場管理や設計に従事。2005年富士通株式会社入社。ワークプレイスやショールームデザインを経て、現在では企業のワークスタイル変革や自治体の将来ビジョン、地方創生のデザインコンサルティング、デザイン思考をベースとした人材育成などを担当。「社会課題をデザインとビジネスの力で解決する」をモットーに活動中。2014年より共創の場であるHAB-YUを軸に人と地域とビジネスをつなげる活動と、新しい働き方を求め2017年から会社公認で副業を行う。

 

過去の登場記事
「面白そう」からはじまる「ゆるいつながり」― 働く人をつなぐ100人カイギ

 

ー日比谷尚武(ひびや・なおたけ)
kipples(キップルズ)代表。「人と情報をつなぎ、社会を変える主役を増やす」をテーマに、セクターを横断するコネクタとして活動。広報、マーケティング、新規事業に関するコンサルティングや、トライセクターコミュニティ運営を中心に活動。一般社団法人at Will Work理事、一般社団法人Public Meets Innovation理事、Project30(渋谷をつなげる30人)エバンジェリスト、公益社団法人 日本パブリックリレーションズ協会 広報副委員長、ロックバーshhGarage主催、他。

 

過去の登場記事
多様なワークスタイルから学ぶ、働き方の文化創造

 

ー横石崇(よこいし・たかし)
&Co 代表取締役/Tokyo Work Design Weekオーガナイザー
多摩美術大学卒。広告代理店・人材会社を経て、2016年に&Co.を設立。ブランド開発や組織開発を手がけるプロジェクトプロデューサー。主催する国内最大規模の働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」では3万人の動員に成功。鎌倉のコレクティブオフィス「北条SANCI」支配人。法政大学兼任講師。著書に『これからの僕らの働き方』(早川書房)、『自己紹介2.0』(KADOKAWA)がある。

 

過去の登場記事
これからのワークプレイスモデルになる、コレクティブオフィスの形とは? ー 鎌倉「北条SANCI」

 

ー垣屋譲治(かきや・じょうじ)
株式会社オカムラ 共創センター。オフィス環境の営業、プロモーション業務を経て、「はたらく」を変えていく活動「WORK MILL」に立ち上げから参画。2018年の1年間はロサンゼルスに赴任し、米国西海岸を中心とした働き方や働く環境のリサーチを行った。現在はSea を中心としたオカムラの共創空間の企画運営リーダーを務める。

 

つながり方の意識が変わる。ウィズコロナ時代、共創空間はオンラインが舞台に

垣屋:新型コロナウイルス感染症が拡大していくなかで、2月末くらいからイベントなどがオンラインに移行していったと思います。活動の場がリアルからバーチャルになり、どんな変化がありましたか?

 

高嶋:私が設立したコミュニティ「100人カイギ」は54地域にあり、2020年1月の段階で、月に30箇所以上の地域でイベントが開催されていました。しかし、外出自粛を受けて、3月は2箇所、4月と5月は0箇所、6月は3箇所と開催数が大きく減りましたね。

 

ただ、リアルでの開催が減った代わりに、オンラインで開催する地域が増えています。コロナが流行りはじめたとき、各地域の運営者の意見は「リアルな場でやりたいから事態が収まるまで待つ」が大半でしたが、だんだんとオフラインへのこだわりがなくなってきました。

 

「オンラインだとより多くの人と接点ができる」といったポジティブな声も上がり、参加者とオンライン飲み会を開催する新しい動きも出ています。コロナ以前だったら、「人と人は当たり前にリアルでつながれる」の前提のもと、ただイベントを開催するだけということも多かったですよね。そう思うと、運営者の「コミュニティのつながり方の意識」が変わったことは大きなポイントではないでしょうか。

 

日比谷:私がエバンジェリストを務める「渋谷をつなげる30人」では、コロナ禍で活動も場をオンラインに移し、いくつかのサイドプロジェクトが立ち上がりました。もともとこのコミュニティは、一般企業から区役所まで、さまざまな団体に所属しているメンバー30名が新しいつながりをつくることで、渋谷の街の課題解決に取り組むというもの。今回立ち上がったのは、渋谷でリモートワークができる場所を増やすために、店舗や商業施設を開放するプロジェクトです。ファシリテーターのような存在のメンバーが最初に声をかけてから、瞬く間にプロジェクトが展開されていき、見ていて清々しいほどでした。「出番を待ってました!」と言わんばかりに。

 

僕は複数のコミュニティに関わっていますが、オンラインへの移行を余儀なくされたタイミングで、プロジェクトが発動したコミュニティと、発動しなかったコミュニティが見られました。その違いは何かと考えたとき、「コミュニティのつくられ方が関係している」と思ったんです。

 

「渋谷をつなげる30人」は、仕事は一緒にすることはないけど、知人や顔見知りという“弱いつながり”が中心となって構成されるコミュニティで、ゆるく結びつきながらも、信頼関係が醸成されていました。だから、有事の際もお互いに強みを理解しあったメンバー同士が集まり、連帯感をもって行動に移せたのだと思います。

 

垣屋:日頃から弱いつながりを大切にしている日比谷さんにとっては、理想というかお手本のような例ですね。

 

横石:オンラインに移行してから、3カ月で70回ほどオンラインイベントを開催しました。そこで驚いたのが、オフラインのときは参加者数が7年間かけて3万人だったのが、オンラインになったら3カ月で3万人になったこと。良くも悪くもリアルとバーチャルでは、発信力の差が歴然です。

 

場所の制限がなくなった今、「オンラインイベントは番組化しているのではないか」と考えています。私が平日の昼間に生放送しているオンラインイベント「つながっていいとも!」は、ラジオ感覚で聴く人が増えていますね。

 

オンラインはこのように多くの人にリーチできるメリットがある一方、参加者と濃い交流ができるタイミングがなかったり、新しい出会いを生み出しにくかったりするのがデメリットです。しかし、このイベントでは、ゲストに次のゲストを紹介してもらうようにして出会いを連鎖させています。オンラインに移行してからも、このイベントを通して、出会いがどんどん増えています。

 

だから「オンラインでは新しいルートをつくりにくい」と悩んでいる方には、ぜひ「つながっていいとも!」をやっていただきたいですね。

 

バーチャル空間は、一人ひとりが個室に入っている状態だから、熱量が伝播しない

垣屋:お三方とも、コロナ禍で新しい取り組みを実践されているなかで、オンラインだと難しいと感じることはありますか?

 

日比谷:オンラインだと、新しく出会う人と信頼関係を醸成するハードルが高いと感じます。画面越しのコミュニケーションだと、映像と音しかないので、伝えられる情報に限りがありますから。オフラインと比べ、交換する情報量が圧倒的に少ないので、信頼関係をつくるのにも時間がかかっています。

 

例えば、リアルでは「背が高いですね」「今日の服装は短パンなんですか」といったオフラインならではのコミュニケーションが生まれるし、眉間のシワや口角で相手の温度感を読み取れていました。しかしバーチャルだと、上半身しか映らず、小さな画面越しではこまかな表情の変化が読み取れません。人間がいかに非言語情報でコミュニケーションをして、信頼関係を醸成していたかに気づかされますよね。

 

横石:オンラインイベントの参加者の熱量を上げることが難しく感じます。通常、オフラインイベントだったら、照明や音楽、写真撮影用のパネルなど、さまざまな工夫で参加者の感度のスイッチを上げてグルーヴ感をつくることができる。あの手この手を使って、ボルテージが高まった“祭典の場”を戦略的にデザインできます。

 

しかし、オンラインイベントは、ただでさえ集中力が欠けやすいうえに、運営側が参加者に対してコントロールできることはあまりありません。どうやったらリアルな場と同じくらいの熱量をバーチャルで生み出せるのか、このアプローチの仕方に頭を悩ませています。

 

オンライン化が加速して思うのは、バーチャルの空間は、一人ひとりが個室に入っている状態だということ。だから、オンラインでなんとか場を盛り上げようとするのは、個室のなかの相手に外から呼びかけているのと同じです。

 

高嶋:うんうん、わかります。リアルな場だと熱量が伝播していくのに対して、バーチャルな場だとみんなが個室に入っているから熱量の波動が広まらないんですよ。グルーヴ感を生み出す点で見ると、オンラインはまだオフラインに敵わないと思います。

 

実際に「100人カイギ」では、今までオフラインで開催していたイベントをそのままオンラインに移行してみたのですが、参加者が3分の1に減ってしまいました。つまり、リアルをそのままバーチャルに置き換えるとただ劣化するだけ。

 

共創空間は「集まった人たちとどう熱中して価値をつくっていくか」が重要だから、熱量を電波に乗せて参加者に届けるためにも、オンラインイベントの運営方法を模索しなければ、と苦戦しています。

 

日比谷:そうですよね。私が開催しているオンラインイベントでも、本編のあとの交流会になると、退席してしまう参加者が多く苦戦しています。参加者の気持ちはわかりますよ! 確かにオンライン交流会だと、自分の意見を発するタイミングが掴みにくいし、大人数になればなるほど空気が堅くなって緊張しますもんね。

 

そこで、その堅くなった空気を滑らかにして、一人ひとりの意見を引き出し、参加者の心理的ハードルを下げるのが、運営サイドのファシリテーターの役割だと思うんです。考えさせられる問いを投げたり、自己開示のアシストをしたりして、コミュニケーションを促す仕掛け人となる。オンライン化が進行する今、こうして場所を提供する側が汗をかかないと、共創空間は価値を生まなくなってしまうとさえ思います。

 

垣屋:ファシリテーターやコミュニティマネージャーは、共創空間のリアルな場にもいて、人と人とをつないだり交流のハブとなったりしていました。今後、オンラインの比率が増えるにつれて、重要性はさらに増していく、と。確かに、コミュニケーションのハードルが上がった今、共創空間の価値づくりのカギを握るのは、彼らかもしれません。

 

渋谷のスクランブル交差点、秘密結社……新時代の共創空間はどこへ向かうのか

垣屋:今後しばらくは、コロナと共存する現実からは逃れられないなか、共創空間はこれからどう変化していくと思いますか?

 

横石:よく共創空間を表現するのに「交差点」という言葉が使われますが、これからの共創空間は「渋谷のスクランブル交差点」のような場の設定が必要です。普通の交差点では、ただ人々がすれ違っているだけで、何も起こりませんよね。でも、渋谷のスクランブル交差点は、時として交差点を埋め尽くすほどの人が集まり、熱狂の渦に包まれ、良し悪しはあれど化学反応が起きやすい。

 

先日、とある方の分析で腹落ちしたことがあって、スクランブル交差点は歩行者信号の青よりも、車両信号の青のほうが圧倒的に長いらしいんですよ。だから、歩行者はいつも、赤信号で長い時間規制されている。しかし、ハロウィンといったイベントでは、その制限がゆるむからこそ、開放感を感じて大きな盛り上がりを見せるというわけです。

 

私がプロデューサーを務めるコレクティブオフィス「北条SANCI」でも、この理論と近いことをしています。基本的には招待制にして、参加する企業や個人にある種の制限を付けているんです。会員の方が「この場所にどんな人を連れてきたら面白くなるか」を考えて、コミュニティのメンバーを厳選する。そうすることによって、視点が近い人たちが集まり、シナジーが生まれやすくなります。

 

実際に、「AIのプロジェクトを立ち上げよう」と決まったときに、会員メンバーから適任者が集まり、すぐに会社が設立されました。すべての人に対して「お気軽にどうぞ」のスタンスでは名ばかりの共創空間になってしまう可能性があるので、私たちは「同じ空気を吸うメンバー」という土壌から設計し、いつ種がまかれても発芽させるための準備を整えています。

 

高嶋:横石さんの話にも通ずるところがありますが、人が人を呼び、やがては思いでつながる場所になると思います。

 

私が5年間運営していた共創プラットフォーム「HAB-YU」は、「同じ空間で企業の悩みを共有しながら、伴走したい」という思いのもと運営していました。するとありがたいことに、ある日、その思いに共感した人たちが「あそこ、面白いから」と新たな人を次々と連れてきてくれるんです。

 

これまでは自分からアプローチしなければ会えなかった人とも、自然と出会えるサイクルが回りだす。その結果、「プロジェクトを一緒にやりましょう」となったとき、すでに思いでつながっていて信頼関係が醸成されているので、「値段はいくら」の世界ではなくなります。

 

もし、あなたがこれから共創空間をつくりたいと思っているなら。最初はオンラインの小さなコミュニティからスタートさせるのがいいと思います。なぜなら、場所ありきだと「どうにかして空間を埋めないと」と捉われてしまうから。まずは、思いに共鳴してくれる仲間づくりからスタートさせ、活動が広まってきたら、リアルな場の共創空間をもつのもアリではないでしょうか。

 

日比谷:僕も高嶋さんの話に賛成です。初めからボリュームを目指すと熱量が薄まるので、何かしら濃い目的を掲げ、集まった人たちと熱狂をつくったうえで人を増やしていく。すると、その熱狂を周りで見ていた人たちが、「私も仲間に入れてよ!」と集まってくれるんです。

 

要するに「秘密結社」方式ですよ。バーチャル空間での活動が噂を呼んで、自ずと人が集結し、そのコミュニティのホームとしてリアルな場をもつようになる──。これがオンラインとオフラインが融合した時代の、ニュータイプの共創空間ではないでしょうか。

 

ウェブ座談会「リアルの場の価値再考」シリーズ

・第1回:オフィス編 これからのオフィスは、熱源となり、“教会”となる ― 来たるアフターコロナ、リアルの価値はどう変わる?

・第2回:コワーキングスペース編 コミュニティの色に染まるハブへ ー アフターコロナで変わるコワーキングスペースの価値

 

2020年8月13日更新
取材月:2020年7月

 

テキスト:柏木まなみ
グラフィックレコーディング:成田富男

 

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