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「夢見る勇気」をもつことから理想の社会ははじまるーKAOSPILOT

 

この記事は、ビジネス誌「WORK MILL with Forbes JAPAN EXTRA ISSUE FUTURE IS NOW 「働く」未来」の先行公開記事 Early Paper(2020/6)からの転載です。

 

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突如として変容した現実社会、グローバリズムを中心とした世界のビジネスを取り巻く環境も一気に変わり、想像していなかった異次元の未来がいきなり訪れた2020年。現実となったこの異未来の中、ビジネスやクリエイティブの最前線にいるリーダーたちはどのように捉え、向き合いはじめているのか。WORK MILLがこれまで取材したトップランナーたちへ「働く」の現実と未来について、働き方やビジョン、そしてこの先の姿を問う

 

新型コロナウイルスによる危機は未来の社会のあり方を、そして未来をサバイブするために必要なスキルや教育をいかに変えていくのだろうか? WORK MILL編集部がこの問いを考えるために話を訊きたかったのは、ISSUE02の特集『デンマーク「働く」のユートピアを求めて』で訪ねた”世界で最も刺激的なビジネススクール”、KAOSPILOT(以下カオスパイロット)の校長を務めるクリスター・ヴィンダルリッツシリウスだ。

 

父であり、教育者であり、自身もカオスパイロット卒業生であるクリスターに、カオスな世界をナビゲートする21世紀のクリエイティブリーダーを育む彼らがコロナ時代をいかに乗り越えようとしているのか、そして、これからの時代に求められる未来のリーダーシップについて訊いた。

 

カオスパイロットはいつも「人と会う」ことを大事にしてきた学校だ。しかし、もしパンデミックの状況が長く続いたり、同じような危機がまた訪れたりしたら、わたしたちが提供する価値は将来どう変わりうるだろうか?

 

リーダーシップやデザインストラテジーは、世界のどこでも学ぶことはできる。だが「カオスパイロットにいる」ということ自体が他のどの学校よりも刺激的なことだとわたしは考えているし、それこそがわれわれが他とは一線を画しているところなんだ。もしこれから「カオスパイロットにいる」ことができなくなってしまったら、カオスパイロットの価値とは何になるだろう? そして、わたしたちはいかにして離れた状況でも価値を提供することができるだろう? そんなことをいま考えているよ。

 

コロナ危機がこのタイミングで起きたことは、まだ幸いだった。3月から生徒たちは自身のプロジェクトや卒業論文に取り組んでいるので、家で作業をしたりスモールグループで進めたりすることができるからね。だからいまのところ、カオスパイロットでオンライン授業を導入する必要はない。それよりもオンライン上で個人やスモールグループをサポートし、カオスパイロットのコミュニティをどう保てるかを考えている。先生たちは以前にも増して、コーチングを通して生徒たちのメンタル面を支えるようになっている。

 

もちろん、生徒たちにとって困難な時期であることには違いない。企業が閉鎖されてしまったいま、彼らと行うはずだったプロジェクトは進められない。家に閉じこもらなければいけないなかで、プロジェクトに取り組む手段は限られてしまう。ワークショップもできなければ、主催していた音楽フェスティバルに人を呼ぶこともできない。だからはじめは、多くの生徒たちがフラストレーションを抱えていたと思う。「自分が学ぶべきことを考えること」、そして「自分の学びを実践すること」といったカオスパイロットが大事にする評価基準を達成することができなくなってしまったのだから。

 

―17年に入学した「TEAM24」の授業の様子。リラックスした朝のホームルームのときは一変して、みな真剣な眼差しでクラスに参加している

 

そこで学校側では、「評価基準を変えるべきかどうか?」という話し合いを行ったんだ。この特殊な状況において、生徒たちが達成すべき目標を変えるべきだろうかと。しかし結局、われわれは変えないことにした。なぜならこの状況は、「カオスパイロットにいること」を実践するための完璧な機会になるからだ。

 

いま生徒たちが直面しているのは、根本的には他のチャレンジと同じものといえる。つまり、何かがうまくいかなくなったときに、目標を達成するためにはどうやって前向きに方向転換し、戦略を立て直すかを考えなければいけないということだ。プランAがダメになってしまったら、プランBを考える。プランBもダメならプランCではどうだろう、と。4月下旬に最終学年の生徒たちはファイナルレポートを提出したけれど、その出来は素晴らしかった。ほとんどの生徒は、この状況でもプロジェクトを進める方法を見出したんだ。

 

彼らが取った解決策は、技術的にはシンプルなことが多い。アメリカで行うはずだったプロジェクトが現地でできないのなら、Zoomやオンライン調査でやってみる。ワークショップができないのなら、ウェビナーでやってみる。だから変えるべきは、テクノロジーよりもマインドセットのほうなのだろう。「いつも通りにできないのなら、違う方法でやってみればいい」「この状況でもできることを探してみよう」──そう思えるかどうかが大事なステップになる。

 

もちろん、リアルでのミーティングとオンラインでのそれは違う。同じ部屋に座って5人で話す状況を、オンラインでシミュレートすることはできない。しかし、そこではこう問わなければいけない。第一に、「リアルでのミーティングでできたことを実現するためのベストな方法は何だろう?」。そして第二に、「この新しい環境で、リアルでのミーティングよりも上手くやれることはなんだろう?」。

 

オンラインでのコミュニケーションには、新しいアドバンテージがある。だからこそわたしたちは、実際に人と会えなくなってしまったことをただ嘆くだけでなく、新しいコミュニケーションの強みを利用しなければいけない。カオスパイロットの生徒たちのプロジェクトを見ても、彼らはまさにそうした姿勢で取り組んでいたんだ。

 

―カオスパイロット旧校舎内にあった「HIVE」というコワーキングスペース施設の壁面。複数のクリエイティブファームが1室をオフィスとして使っていた

 

やさしさのリーダーシップ

ニュージーランドやドイツ、台湾といったコロナ危機にうまく対応している国々のリーダーがみな女性であるのは興味深い。男性よりも女性のほうが危機への対応が優れている、といった単純な話ではないと思う。しかしもしかしたら、一般的に「女性的」といわれる資質というものが、危機下において良い結果を生んでいるのかもしれない。また、わたしたちがリーダーに求めるものも時代とともに変わっているのだろう。

 

過去を振り返れば、これまでの女性リーダーにはマーガレット・サッチャーのようなタイプが多かった。男性よりも強くて、厳格な政治家だ。しかしいまの時代に、とくにこの危機の最中にわたしたちが求めるのは、そうした強いリーダーシップではない。「これは戦争だ」と国民に語りかけるようなリーダーシップでもなければ、敵をつくり出すことで統制をとろうとする攻撃的なリーダーシップでもない。

 

いまわたしたちがリーダーに求めるのは、共感にほかならない。なぜならこのコロナ危機が示したのは、「わたしたちがみなつながっている」ということだからだ。お年寄りや貧困層のほうが大きなリスクを抱えているとはいえ、ウイルスは人を感染させるときに所得も学歴も気にしない。自然は「あなたが誰か」を気にしない。すべての人が危機に晒されているからこそ、みんなに歩み寄り、手を差し伸べてくれるような思いやりのあるリーダーをわれわれは求めているんだ。

 

そしてその点で、アンゲラ・メルケルもジャシンダ・アーダーンも、デンマークの首相であるメッテ・フレデリクセンも優れている。彼女たちはわたしたちに、チームの一員であることを感じさせてくれる。コロナ危機は誰かが取り組めばいい問題ではなく、みんなで取り組まなくてはいけない問題であることを教えてくれる。恐怖や脅威によってではなく、思いやりとつながりによって彼女たちはポジティブな未来を示しているんだ。

 

―カオスパイロットの旧校舎内部。温かみのある家具や照明で揃えられていた

 

理想を望む勇気

この危機が社会にもたらしてくれたのは、人々が内なるモチベーションへと向かうことをドライブさせる勇気とクリエイティビティだと思う。必要があろうがなかろうが、わたしたちは「つくる生き物」だ。それは人間の、生まれながらの特性なんだ。そして、わたしたちが”いまとは異なる社会”を望む勇気と野心をもつことができれば、その理想の社会をつくるために、人はクリエイティビティを発揮することができるだろう。なぜならわたしたちは、過去に起きたすべてのパンデミックが、新しいルールや組織、慣習を生み出すことで社会を変えてきたことを知っているのだから。

 

今回のパンデミックによっても、新しい政策や慣習が生まれることだろう。そのときにわたしが本当に望むのは、この困難を経験したからこそ、わたしたちみんなが「どんな社会をつくりたいだろう?」と考えるようになることだ。わたしたちには、その夢を追い求める勇気がある。そして、それを実現させるためのクリエイティビティがあるんだ。

 

―クリスター・ヴィンダルリッツシリウス

カオスパイロット校長兼CEO。1995年から98年にかけて、自身もカオスパイロットで学んでいたほか、MBA、イノベーションと複雑性に関するPh.Dをもつ。2006年から現職。15年以上にわたってリーダーシップ教育をテーマに活動し、25ヵ国以上の企業やNGOにアドバイスを行う。

 

2020年7月16日更新
2020年4月取材

 

テキスト:宮本裕人
写真:キム・ホルターマンド
※『WORK MILL with Forbes JAPAN EXTRA ISSUE  FUTURE IS NOW 「働く」の未来』の先行公開記事Early Paperより転載

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