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「服を買う」でなく「帰ってくる」場所に ─ ファミリアが提案する体験型店舗

子ども服ブランドの「ファミリア」は、少子化などによる子ども服市場の縮小のなか、新たな事業開発も含めた組織変革に取り組んできました。指針となったのは、新たに定めた企業理念「子どもの可能性をクリエイトする」というキーワードです。2018年にオープンした神戸本店はレストランやクリニック、ライブラリーなどを併設した複合型店舗で、アパレルに留まらないサービスを展開しています。

 

ファミリア代表取締役社長の岡崎忠彦さんから組織変革についてうかがった前編に続き、後編では店舗にフォーカスを当て、「体験」に価値を置いた店舗づくりや岡崎さん自身の価値観について探ります。

 

・記事前編_オフィスづくりから始まる組織変革とマインドセット ─ ファミリア・岡崎忠彦さん

 

店舗は「コミュニティ」を作る場所

WORK MILL:オフィスの移転と同時期に進めてきた店舗リニューアルはどういったものだったのですか。

 

岡崎:企業理念を「子どもの可能性をクリエイトする」と定めたと同時に、ファミリアの提供するサービスのコンセプトを「for the first 1000days」としました。つまり、妊娠してから、その子が生まれて2歳の誕生日を迎えるまでの約1000日間を、最高なものにするためのサービスや商品、コンテンツを提供していくのが僕らの役割。それを体験できるリアルな場が、店舗だという位置づけにしました。

 

ー岡崎忠彦(おかざき・ただひこ)
株式会社ファミリア代表取締役社長。1969年生まれ。甲南大学経済学部卒業。California College of Arts and Crafts., Industrial Design科卒業。BFA(Bachelor of Fine Arts)。Tamotsu Yagi designでグラフィックデザイナーとして働く。2003年に株式会社ファミリア入社、取締役執行役員などを経て2011年から現職

 

WORK MILL:これまでの店舗は文字通り「売場」で、売上目標があって、スタッフはそれを達成しなければならないという意識が根強かったのではないでしょうか。

 

岡崎:もちろん、会社として考えると利益をないがしろにしてはいけませんが、売場はまず、目の前のお客様を裏切ってはいけない。売るだけにこだわらず、いろんな体験を提供することで、また「帰ってきて」もらえれば良い。1000日間でどれほど最高な思いができるか、実例としてどんどん生み出していけたら良いと思うんです。

 

2016年に「体感型ショップ」として代官山店をオープンしましたが、僕らはそこで多くのことを学びました。その最たるは、「店舗はコミュニティをつくる場所だ」ということです。人が集まる場所になって、節目節目でまた帰ってくる場所になる。百貨店にある店舗はこれまでどちらかと言えば効率重視で、洋服がビニール袋に入れられて普通に手渡しされます。それでは面白くない。だから、ワークショップやバースデーパーティ、撮影会などさまざまな体験を通じて、ファミリアの世界観を知ってもらって、結果として洋服を手に取ってもらう。そういったエンタメ的な要素を加えたんです。

 

 

WORK MILL:単に「服を買う」だけでない、新たな来店機会を設けたということですね。

 

岡崎:最近よく「CX(カスタマー・エクスペリエンス)」という言葉を聞きますが、お客様により良い体験をしてもらおうと考えると、究極的にはテーマパークのようになるはず。キャストがその世界観をつくりあげて、新しいアトラクションがどんどんできて、何度も通いたくなる。お店と比べてどちらが楽しいか、一目瞭然です。だから僕らもそれに負けてはいられない。いろんなことを試してみて、やってみて「これが良いな」「こうしたらよかったな」と気付きがある。そうやってときには失敗しながら、あるべき店舗の姿を具現化していきました。

 

2018年にオープンした神戸本店は、その集大成とも言えます。店舗は彫刻家の名和晃平さんとコラボレートしてつくりました。名和さんのアトリエに行って、彼の描く図面を見ながら、ああでもないこうでもないって、ふたりで話し合って。エントランスの階段も、彼が提案してくれたんです。子どもの成長となぞらえて階段をつくって、そこにいろんな表情の「ファミちゃん(ファミリアのマスコットベア)」がいる。「エッグカメラ」といって、あかちゃんを乗せると俯瞰から撮影できるものなんかもあったりします。

 

 

他にも鈴木マサルさん、鹿児島睦さん、清川あさみさん……さまざまなアーティストやクリエイターと一緒に仕事をしていますが、僕は広告代理店をはさまずに直接やり取りするんですよ。僕自身がデザイナーだから、「同じ言語」で話すことができる。その言葉のキャッチボールがとても大切です。実は本店のリニューアルも、けっこう現場からは反発があったのですが、おかげさまでたくさんのお客様に来ていただいています。

 

 

WORK MILL:確かに、「お店のいちばん目立つ場所が売場ではない」というのは常識破りですよね。そのぶん坪当たり売上高も減ることになるでしょうし。

 

岡崎:でも子どもからすると、その階段をワクワクして昇るんですよ(笑)。あくまでも大切なのは「子どもの可能性をクリエイトする」であって、最初の1000日間の「ファーストシーズン」と、それから12歳までの「ネクストシーズン」をどれだけ楽しく最高なものにできるか。社員たちにはシンプルにそれを伝え続けています。僕がクリエイターの「通訳」をすることもあれば、秘書が僕の言葉を通訳することもある。社長秘書は2、3年ごとに他の部署の社員に代わってもらっていて、社内にクリエイターの考え方がわかる人が増えていけば良いなと思っているんです。

 

 

「ものづくり」の会社だからこそ、その可能性と活躍の場を広げる

WORK MILL:社員のマインドは少しずつ変わってきましたか。

 

岡崎:「子どもの可能性をクリエイトする」って言い始めたときは、みんな「はぁ?」って感じでしたけどね(笑)。だんだん意識が変わってきて、社員発案の企画が増えてきたんです。たとえば、2019年夏から「こどもてんらんかい」を開催しているのですが、僕は何も言っていません。社員から自然とそういう企画が生まれてきて、だいぶ会社も変わってきたなと感じます。

 

「こどもてんらんかい」というのは、ワークショップで子どもたちにデザイン画を描いてもらって、それをもとにして実際に洋服や雑貨をファミリアでつくって展示するんです。このデザイン画とか、小学1年生の子が描いたんですよ。

 

 

WORK MILL:へー! とても完成度が高いですね。

 

岡崎:実際に自分の考えた服がこうしてできあがったら、この子の人生にとって何か大きな契機になると思うんです。もしかしたら将来、デザイナーを目指すことになるかもしれない。今の時代、デジタルでいろんなことが調べられるようにはなってきたけど、逆にわかったつもりになって、「実際にやってみる」ことから遠ざかっている気がするんです。

 

何より「本物を体験する」ことが大切なんですよ。『セサミストリート』だって、一流のミュージシャンが登場して、本物のロックやブルース、クラシックを聴かせるじゃないですか。僕らが世界的に活躍するアーティストとコラボレーションしているのも、同じことです。最初の1000日間のなかで、初めて聴く音楽、初めて食べるもの、初めて観るアート……初めて着る服がすべて大切なものになっていく。僕らだけではとてもできません。思いに共感してくれる方や企業と一緒になって、子どもの可能性をクリエイトする。だから、社員たちには「脱アパレル」と呼びかけています。それを突き詰めていくと、僕らが目指すのは「メディア」なんじゃないかな、って。

 

WORK MILL:そう考えると、岡崎さんが「編集長」を自称したのはごく自然な流れなんですね。

 

岡崎:僕らの原動力は、ここにいる半数以上がクリエイターだということなんです。ゼロからものをつくることができる。アパレル企業のなかには、効率の良さを重視して、商社が持ってきた商品のデザインをMD(マーチャンダイザー)が選んで……みたいなところもあるけど、僕らは自分たちで考えて、手を動かしてつくっています。

 

 

ただ、子ども服単体で考えると国内の市場規模は確実に下がっています。じゃあこのチームでどこを目指していけば良いだろうと考えると、やっぱり子どもたちの人生の可能性を広げること。「自分の考えた服」を形にしてもらえた彼女は、きっとこれからもその感動を強烈に覚えているはず。

 

今の子どもたちは朝から晩まで習いごとづくめで、忙しそうにしているけど、枠にはめられて、個性をどんどん潰されている。みんな同じ服を着て、「お受験」して、詰め込み型の教育をされている。だったらいっそのこと、自分の考えた服を着て入試を受けて、「これ、私のデザインなんです」って自己主張できたら良いのにって(笑)

 

WORK MILL:最高ですね(笑)

 

岡崎:今度は僕らが教材をつくれば、教育の可能性が広がるかもしれない。本店にはアトリエを併設しているのですが、そこでは子どもたちの声を聞きながら、ワークショップや商品づくりに活かしています。そうやってどんどん次のコンテンツをつくっていけたら良いなと思います。

 

「好奇心をなくしては、人間は終わり」

WORK MILL:アパレルにとどまらず領域を広げるなかで、これから会社としてどう進んでいこうとお考えでしょうか。

 

岡崎:長く続いてきた会社ですから、やっぱり継続することの重要性はひしひしと感じています。ただ、「生き延びる」だけだと後ろ向きで、アップデートしていくことが必要なんですよね。「昔はよかった」と言える会社ほど、それにとらわれて停滞してしまうこともある。視点を変えて努力すれば突破口は見つかるんだろうけど、変なプライドを持ち続けていると、それが何なのかに気付けないんです。僕なんかプライドがありませんから、本当にラクですよ(笑)

 

WORK MILL:「子ども服」だけにこだわっていたら、こうなっていないということですからね。

 

岡崎:「子どもの可能性をクリエイトする企業」だから、できることはたくさんある。海外に目を向けると、日本のGDPは中国に抜かれ、他の国にもじりじりと追い上げられている。そのなかで今の高等教育を受けた子どもたちが、海外の人と渡り合ってディベートできるかと考えると、負けてしまうと思う。ここにチャンスがあるんです。ガラパゴスのなかで生き続けるのか、それとも世界を目標にするのか。大きな分かれ道です。

 

 

WORK MILL:岡崎さん自身、海外で学び、働いた経験に影響を受けたのでしょうか。

 

岡崎:それはもう大きいですね。言葉も通じないし知らない場所だし、めちゃくちゃ寂しがり屋だから、ひとりでは何も行動できなかった。だから、ギターを弾いてみたんです。そうしたら人が寄ってきて、友達ができた。そこからコミュニケーションが始まったんです。はじめにできた友達はスペイン人が多くて、英語を話す前にスペイン語を覚えることになったんだけど(笑)

 

だから、子どもたちや若い人たちにはもっと世界に出てもらいたい。吸収できることがたくさんあるんです。今流行りの「SDGs」だって、本気でやっている国や会社がいくらでもある。日本であのバッチを着けているのは、「スーツ姿のおじさん」ばかりじゃないですか。本当に意味わかってます? って、正直思いますもん。着けるなら本気でコミットしてほしい。

 

WORK MILL:「ジェンダー平等の実現」もSDGsに含まれますからね。ところで、岡崎さんはコミュニケーションを大切にされているように感じるのですが、それを豊かにするために必要なのは何でしょう?

 

岡崎:いちばん大切なのは、「curiosity」。好奇心ですね。「好奇心がなくなったら、人間は終わりだ」って、祖母からよく言われていました。意図せずまったく知らないことに出くわしても、「あ、面白そう!」「楽しそう!」と思えるかどうか。それって大きな違いだと思うんです。毎日同じ時刻に家を出て、同じ路線の電車に乗って、同じ社員の隣に座って……。それなら、たまには違う方面の路線に乗ったり、回り道をしたりして、好奇心の湧くようなことをしてみると良いんですよ。

 

WORK MILL:「ルーティンがあると落ち着く」という人も多い気がしますが……。

 

岡崎:もちろん、会社のなかではそういう人も大事なんですけどね。全員、僕みたいな人だったら、会社が一瞬で潰れてしまう(笑)。だから、自分がどういうキャラクターなのかを理解していると良いですよね。個性的な人が集まって、それぞれの得意な部分を活かして、良いアイデアをちゃんと実現できるような仕組みをつくる。それが会社にとって大切なことなんです。

 

更新日:2020年6月16日
取材月:2020年2月

 

テキスト:大矢 幸世
写真  :牛久保賢二
画像提供:株式会社ファミリア
イラスト:野中 聡紀

 

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