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建築家たちが挑む「22世紀のスクラップ&ビルド」ー People’s Architecture Office,ZAO/standardarchitecture

この記事は、ビジネス誌「WORK MILL with ForbesJAPAN ISSUE03 THE AGE OF POST-INNOVATIONALISM イノベーションの次に来るもの」(2018/10)からの転載です。

 

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私たちは今回、イノベーションに代わる新しい経済のかたちを探す旅に出た。訪れたのはロンドン、北京、そして東京。くしくも今世紀、オリンピックの開催地に選ばれた3都市だ。企業や大学、専門家への取材を続けていくうちに、「2020年」後の日本を考えるヒントが見えてきた。

 

経済発展とともに、都市の形も急速に変容している北京。
古きよき文化が失われることに警鐘を鳴らすのは、建築家たちだった。

 

 3000年もの歴史をもつ中国の首都、北京。市の中心部の故宮(紫禁城)、天安門広場の周辺には「胡同(フートン)」とよばれる細い路地と伝統的な様式の住宅がいまも残っている。

 

 ピープルズ・アーキテクチャー・オフィス(PAO)は、天安門広場南部の胡同内に事務所を構える。周囲に溶け込んだファサードのドアから敷地内に足を踏み入れると、周囲の雰囲気とはまったく異なる、しかし北京の伝統建築と近代的な建築とが絶妙にブレンドされた風景が広がっている。

 

 この建物そのものが「プラグイン・ハウス(内盒院)」と名付けられたPAOの代表的プロジェクトのひとつ。共同設立者ジェイムズ・シェン(沈海恩)の説明は驚くべきものだった。
「ここのリノベーションにかかった時間は1週間ほど。小さな物件なら、数時間で完成するものもあります」

 

 北京の伝統的住宅は「四合院」または「雑院」とよばれる。四角い敷地の真ん中に中庭を残し、東西南北それぞれに建物を配した形をとる。かつては家族が暮らした“お屋敷”だった四合院が、清朝末期からの時代変化のなかで、無秩序な改造や増築が施されてきた。
「四合院は、狭いうえに下水もトイレもないし、暖房を入れても暖かくならない。それでも、人々は愛着をもち、工夫を重ねて暮らしてきたのです」

 

 プラグイン・ハウスは、その土地の文化や歴史、コミュニティーを壊すことなく、できる限り安く、また、いかに暮らしやすい住宅を提供できるかを追求したもの。工場でつくったパネルを持ち込んで組み立てるため、短時間で安定した室内環境をつくり出せる。建築費用は四合院の修理を行う場合の2分の1、新たに立て直す場合の5分の1でできるという。

 

 住民のニーズをくみ取りつつ、国の規制をにらみながら、実現可能かつサステイナブルなものづくりを目指した結果が、このプラグイン・ハウスだ。北京だけでなく、世界中で応用が可能だとシェンは考えている。
「いままでのようなマーケット主導型の経済を続けていては危険です」

―伝統的住宅が密集する地域にあるPAOの事務所。事務所内は白を基調とした、開放感があるデザイン。

 

社会主導の建築を

 

 2017年3月、PAOはBコープ認証を取得した。Bコーポレーション、通称Bコープとは、非営利団体「B Lab」が運営する民間認証のこと。会社を、売り上げや時価総額といった従来指標を中心に置くのではなく、環境やコミュニティー、従業員といったステークホルダーに対する利益によって測る、会社の新しい評価軸だ。

 

 PAOも、もちろん利益を度外視しているわけではない。建築の世界でも、マーケット主導ではなく、政策や社会問題も理解したうえで経営をしていく必要があると考えている。当然資金は必要だが、ソーシャルインパクトのあるアイデアは、つまるところサステイナブルなもので、マーケットでも大きなインパクトがある可能性が高い。シェンは、「建築でもっと多くのことができるはず」と語気を強めて語る。

 

 中国は急激なスピードで成長を続けているが、これまでは無秩序感すら漂っていた開発も、これから先はもっとうまくできるようになるのではないかとシェンは見ている。
「中国はものすごいスピードで前に進んでいます。デザインもそのスピードに合ったものでなければいけません」

 

文化的な発展を担う

―緑に覆われ、開放感がある微胡同。

 

「建築家には少なくとも2 種類ある。ひとつは仕事としての建築家。もうひとつは社会や文化に貢献する建築家。私は、後者でありたい。稼げるかどうかはあまり重要な問題ではありません」

 

 そう語るのは、「ZAOスタンダードアーキテクチャー」プリンシパルチャン・コー(張軻)だ。ZAOはBコープの一員ではないが、PAO同様に社会貢献を強く意識した建築事務所である。

 

 ZAOのプロジェクトには美術館や公営住宅などのほかに、将来を見据えた実験的な建築もある。たとえば、木造の四角い箱のようなもの。「微胡同(マイクロフートン)」と名付けられたそれは、胡同内のたった30㎡のスペースを立体的に活用し、中庭付きの住宅をつくるプロジェクトだ。

 

 チャンは、北京の胡同の問題を長く気にかけてきた。
「この20~30 年、北京の胡同では改造が行われてきましたが、ここ20年間の破壊は最も大きかった。しかし問題だとわかっていながら、ずっと放置されてきました」

 

 ZAOは13 年から2 年間、清華大学やハーバード大学等の学生と、夏休みを使って四合院の調査を行い、そこに児童図書館や芸術センターをつくった。その過程で「微胡同」を設計、建設したのだ。夏は空調を使わずとも涼しい空気が建物内を循環し、木の香りが心地よい空間。
「子どもから高齢者までが一緒に交流できるよう、地域に根づくかたちで活用しています」

 

 チャンはハーバード大学で教鞭をとっており、16年には日本の1960~70年代に興った建築運動「メタボリズム」に着想を得た「胡同メタボリズム」という授業も行っている。
「生物の細胞が次々に入れ替わっていずれは全身が新しくなる新陳代謝(メタボリズム)のように、少しずつの変化が重なれば都市や社会に大きな影響を及ぼすことになる。たとえ小さなプロジェクトでも、社会への貢献度は大きなものになりうるのです」

 

 さらにチャンは「伝統的な建築家をやっていくつもりはない」と話す。クライアントから依頼された建築物に取り組むだけが建築家ではない。社会が抱える問題を見極め、解決するような仕事をすることで、社会を変えることができると、チャンは信じている。
「私たちが時間の30~50%を社会のニーズのために使えば、お金は儲からなくても社会の重要な問題を解決することができるのです」

―打ち合わせスペース以外は仕切りがない広々としたZAOのオフィス。

 

―ピープルズ・アーキテクチャー・オフィス
2010年にシェンを含む3名により設立された建築事務所。建築家のみならず、エンジニア、プロダクトデザイナーなど多岐にわたるメンバーが在籍する。

 

―ザオ・スタンダードアーキテクチャー
2001年設立。北京のみならず、上海、チベットなどで現地の歴史や文化を考慮した建築物を手がける。アルヴァ・アールト・メダルをはじめ受賞歴も多数。

 

 

取材月:2018年7月
2020年5月20日更新

テキスト:森裕子
写真:ステフェン・チョウ、ショーン・コウ
※『WORK MILL with ForbesJAPAN ISSUE03 THE AGE OF POST-INNOVATIONALISM イノベーションの次に来るもの』より転載

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