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座り過ぎ問題を解決 ー “ 立って働く”を促すオフィスのポイント

近年、オフィスワーカーのパフォーマンス及び企業価値の持続的向上を目指し、「健康経営」への取り組みが活発になっています。その文脈の中で大きく注目されているトピックのひとつが、執務時の「座り過ぎ」の課題です。とある先行研究によれば、座位姿勢による長時間作業が、複数の生活習慣病のリスクを高めることも判明しています。こうしたリスクを回避するために、座位と立位を自由に切り替えられる「天板昇降デスク」を導入するオフィスが増え始めています。 

しかし、働く現場では「立って仕事をすることに違和感がある」という人が少なくないようです。実際に昇降式デスクを導入しているオフィスでも、「なかなか立位作業をする人が増えない」といった声も聞かれます。

このような現状の改善に向けて、オカムラは「どのような執務空間であったら立位作業に抵抗感や違和感を持たないか」を探るため、オフィスワーカーを対象にインタビュー調査を行いました。

 “立ちやすい”と感じる執務空間に共通していた、3つの特徴

立位姿勢と座位姿勢が混在するオフィスにおいて、「立つことへの抵抗感」「立っていることへの違和感」などの心理的な課題をどうすれば解消していけるかを探るべく、 評価グリッド法※1を用いたインタビュー形式の調査を行いました。

※1インタビュー調査の一手法。人の評価構造を捉えるのに有効な手法とされる。評価グリッド法により得られる評価構造図は、対象テーマに対する評価の個人差や回答者の属性による差異,回答者全体の評価構造の把握にとても有益な情報を含んだデータである。(参考文献/https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/73/12/73_783/_pdf)

 
「どのような執務空間であったら立位作業に抵抗感や違和感を持たないか」という点について、実験参加者すべてのインタビューをまとめた結果、大きな特徴として挙げられたのは、次の3項目でした。

  • 自発的に立って作業をしてもいい
  • 動きやすい
  • 立って仕事をしても周りに気を遣わなくていい

 
また、それぞれの特徴について「どのような要素を満たしていれば、そう感じるのか」と聞いてみたところ、以下のような回答が得られました。 

▼「自発的に立って作業をしてもいい」と感じる要素 

開放感がある
ポイント:窓が大きい、天井が高い、物が少ない、床が見える、デスクが大きい、オフィスが暖色系の配色、観葉植物がある

安心感がある、リラックス、落ち着く
ポイント:広い、人の視線が遮断されている、周囲が気にならない、非執務空間的である、収納がある、仕切りがある、椅子の背もたれが高い、木を使っている

集中できる
ポイント:広い、家具で区切られている、人が密集していない、物が少ない、床が見える、広さを感じさせる家具のレイアウト、パーソナルスペースがある、人がいないように感じる

▼「立って仕事をしても周りに気を遣わなくていい」と感じる要素

開放感がある
ポイント:家具と家具の間隔が     広い、家具が少ない、席の後ろに空間がある、物が少ない、机が台形、床が見える、机が大きい

自由な感じがする
ポイント:空間が広い、人の視線が気にならないレイアウト、かしこまっていない雰囲気、オフィスっぽくない

目立たない
ポイント:視線が気にならない、パーティションがある、一人分の執務スペースが広い、オフィスっぽくない

▼「動きやすい」と感じる要素

開放感がある
ポイント:広い、非執務空間的である、効率的なレイアウト、通路が広い、ハイチェア・ベンチがある、色彩豊か、私服を着ている、作品が飾られている、観葉植物がある

自由な感じがする
ポイント:空間が広い、ソファが置ける、天井が高い、窓がある、家具の圧迫感のないレイアウト、観葉植物がある、床が明るい

上記の結果をさらに具体的に検証するため、実験参加者にさまざまなオフィスの写真を見せて、立ちやすいと感じる空間はどれか、選んでもらいました。

▼「集中できる」から立ちやすい、と評価された写真

評価理由の考察
複数人が作業を行っている写真が多かった中で、この写真が「1人で立位作業を行っている」風景だったためと考えられる。この写真の下位項目の具体的理由は「机・テーブル/オープンな空間」と「レイアウト/パーソナルスペース」との指摘がなされた。つまりオープンなレイアウトで1人用の家具が置かれており、パーソナルスペースが明確に確保されている場では、立位姿勢で作業に集中できると評価されたことがわかる。

▼「気兼ね感がない」から立ちやすい、と評価されたオフィス写真

評価理由の考察
この写真に対する具体的理由では、「机・テーブル/オープンな空間」「レイアウト・パーソナルスペース」「非執務空間/デザインチック」など、全体で上位だった項目が挙げられた。さらに上記以外にも、「明るさ/色関連」「椅子関連」「他者の目線関連」「収納・棚関連」も指摘されていた。今回の調査で立位作業をしてもいいとの指摘が多かったうちの1つであるKのオフィス空間は、具体的理由であげられた物理的要素をバランスよく含んでいることからも理解できる。

▼「開放感がある」から立ちやすい、と評価されたオフィス写真

評価理由の考察
これら写真の具体的理由では、「非執務空間/デザインチック」といった指摘が多かった。また「オープンな空間」「広い歩行空間」といった項目も比較的多く指摘されていた。

<調査方法>
実際にオフィスで働く人、またはデスクワーク経験者で、就業経験者男女6名にインタビューを実施。オフィスの写真20枚を「立ちやすい」と感じるものから、「立つのに抵抗がある」と感じるものまでを段階的に分類してもらい、その理由をヒアリング。被験者の言葉からキーワードとなる要素を抜き出し、集計を行った。

「立ちやすい」空間づくりのために、具体的な方法論を模索

オフィスにて立位作業を促すには、ワーカーがその空間に対して「自発的に立って作業をしてもいい」「動きやすい」「立って仕事をしても周りに気を遣わなくていい」と思えることが重要であると判明しました。立位で作業をしても「集中できる」ことや周囲への「気兼ね感が無いこと」が肝要であり、さらに空間全体に「開放感のあること」が立位作業への抵抗感を和らげる要素となるようです。

また、家具のレイアウトやパーティションの有無、机の広さ、照明、色彩感など、オフィスを構成するさまざまな要素が、空間全体の印象に密接に関連してくることも、あらためて調査結果から見えてきました。今後は「どのような工夫をしていけば、立位を促す環境になっていくのか」を明らかにして、具体的な方法論にまで落としこんでいけるよう、さらに研究を進めていきたいと考えています。 

2019年12月24日更新

リサーチ:花田 愛(株式会社オカムラ)
編集:西山 武志
イラスト:野中 聡紀
データ参照元:執務空間における立位作業を促す要因に関する研究(2018年 文化学園大学と株式会社オカムラとの共同研究)