働く環境を変え、働き方を変え、生き方を変える。

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共創から考える、これからの働き方 ー 組織を超えたチームによって自律した個が生まれる

企業や各種団体など、あらゆる場所で耳にする機会が増えた「共創」。多様な人々が共に考え、創り上げることで生まれる新しい価値に着目した言葉です。最近では、首都圏のみにとどまらず、全国各地で共創が注目を集め、さらに広くまで浸透しているように感じられます。共創に取り組む場では、どのように人々が集い、新たな価値を生み出しているのでしょうか。

今回お話をうかがったのは、オカムラが中部地区(名古屋)で運営する共創空間Open Innovation Biotope “Cue”で開催されたワークショッププログラム「はたらく×Cue“共創で動かそう、組織とひと。”」の参加メンバー。共創によって課題解決のためのアクションを起こすことをゴールに掲げた今回、リーダーを務めた3名に、ワークショップに参加したことで見えた気づきや、Cueという空間の価値などについてお話いただきました。

個人として、「働き方」に課題感を抱えていた

ー朝間慶一(あさま・けいいち)NHK静岡放送局 企画編成部所属
神奈川県生まれ、上智大学法学部卒業。2005年NHK入局。盛岡、仙台、報道局を経て2016年より現職。東日本大震災や御嶽山噴火といった災害や2014ワールドカップ(ブラジル大会)などの大型スポーツイベント、G7伊勢志摩サミットといった現場でロジスティックス業務を担当。静岡放送局では総務経理デスクとして働き方・オフィス改革の推進を行っている。「はたらく×Cue」ワークショップでは、「ThinK×Third Place」チームに所属。

朝間:Cueとの出会いは1年半前、静岡局新会館のレイアウト設計を悩んでいたときに、オカムラの静岡支店さんのご案内でCueが設置されている、ラボオフィス・MENNOLU LABOを訪問させていただいたのが最初です。オフィスそのものやCueが先進的すぎて驚きましたが、それ以上に印象的だったのはこのオフィスで働いている人がとてもいきいきとしていたことでした。先進的なオフィスで働いていると仕事に対する意識も高くなると雑誌では読んだことがありましたが、現実を目にしてMENNOLU LABOのように社員がプライドを持って働くことができるオフィス環境を導入したいと強く思って静岡に帰りました。その後、オカムラさんの丁寧な調整により、おかげさまで最新の環境を整えたスマートオフィスを実現することができました。そんなオカムラさんからいただくイベントのご案内は普段から興味深く拝見していましたが、今回は「組織の壁をこえた、『はたらく』の未来」というテーマに心を動かされたんです。

ー村木玲子(むらき・れいこ)株式会社ジョイント代表
名古屋大学大学院工学研究科修了後、株式会社村田製作所に入社。研究開発に従事するなかで、日本の優秀なエンジニアの力が社会に還元しきれていないことに課題を感じ、グロービス経営大学院にてMBAを取得、研究開発部門の企画に転向し、新規事業の立ち上げ支援、異業種連携を担当。2016年より一般社団法人未来マトリクスにて、学生をハブとしたオープンイノベーションのファシリテーションを務める。2018年、株式会社ジョイントを設立。​「はたらく×Cue」ワークショップでは、「モヤモヤをメラメラに!名駅でたき火トーク」のチームリーダー、メインファシリテーターをつとめた。

村木:名古屋を始めとする中部エリアは、オープンイノベーションの考え方を重視する風潮があまりありません。私自身がオープンイノベーションの場を作る存在になりたいと考え、そのための知識を深めたいと思い参加を決めました。

ー内藤隆史(ないとう・たかし)刈谷市役所職員
山口大学工学部卒業。刈谷市役所に入庁。土木技術職として採用され、下水道整備、計画に携わった後に、企画系部署へ異動し、行政改革、記念事業イベントなどを担当。その後、公園政策部署へ異動し、住民ワークショップによる公園整備や城郭復元整備を担当。現在は、交通政策部署にて鉄道・バスに関する公共交通政策と駅周辺の整備計画などの業務を担当。プライベートの活動としては、キャリアコンサルタントの柴田朋子氏とともに「公務員人材開発研究会」を2017年5月に発足。Open Innovation Biotope”Cue”にて毎月開催している。「はたらく×Cue」では、「働く」「学ぶ」「暮らす」をキーワードに、これからの生き方について考えるワークショップを開催。

内藤:僕も朝間さんと同様で、以前からオカムラさんとご縁があって今回の参加に至りました。刈谷市役所で15年ほど働いているのですが、行政機関における人材育成の難しさを感じており、人材育成に関する理論について意識して学ぶための勉強会をCueで開催させていただいています。仕事や勉強会の中で人材育成について考えるうちに、僕自身の働き方や生き方についても考えるようになってきたんです。

WORK MILL:行政機関における人材育成の難しさ、とは具体的にはどういったことでしょうか。

内藤:公務員はだいたい3年から5年くらいのスパンで部署異動があり、人事・税金・福祉・道路・教育・産業・子育てといった、それまでの業務とはまったく異なる部署に移る可能性があります。異動と言いつつも業務の変化はまるで転職さながらです。そうすると現場の人材育成はOJT中心となり、先輩職員の経験のみの人材育成となってしまう。本来、人材育成にはちゃんとした理論や考え方があり、民間企業ではそれをちゃんと学び実践されていますが、公務員はできていません。そういったところの学びを深めて実践し、よりよい人材を育成することで、地域の課題を解決していくことにつなげていきたいと思っています。

WORK MILL:そのためにCueを利用して勉強会を開催していたのですね。今回のワークショップはその勉強会とはまた違った取り組みでしたが、始まった当時の印象や、記憶に残っている出来事はありますか。

内藤:僕は公務員なので、普段は民間企業の方との接点がほとんどありません。今回は名古屋市役所の職員の方が数名参加されていましたが、僕のように市外からの参加は珍しかったと思います。知らない方も多く、すごく緊張したことを覚えています。

村木:私の場合、よくワークショップやイベントなどに参加するので、だんだんと顔を合わせるメンバーが固定化してきてしまうことがあります。ただ、今回はお会いしたことのない方との出会いが多かった。知らない方がたくさんいらっしゃるほうが、新しい発見が多くて楽しいです。中部地方は働き方への関心がまだ強くないと思っていたのですが、興味をもっている方がたくさんいることを知り、とても嬉しかったです。

朝間: 30名ほどの参加者が自分の興味があるテーマや課題ごとにチームになって共創の企画を作っていたのですが、その中でとても印象的な男性参加者がいました。アイデアがポンポン出てくる発想力もさることながら、とにかく説得力がすさまじいんです。最初提案されたアイデアに「そうかな?」とちょっと疑問に思うことがあっても、気づいたら完全に納得してしまっている。この力を少しでも勉強できればと思い弟子入りを志願しました(笑)。

WORK MILL:なるほど。ご自身とタイプが違う方がいると、学びも多く、印象も強いですね。

お互いの特性を知って、個を活かしてチームで働く

WORK MILL:今回は全部で5つのチームに分かれたとうかがいました。チームごとに感じる違いはありましたか。

村木:大きな違いはなかったと思います。というのも、みんながそれぞれに思いを持って参加しているからか、熱量が高いのです。どのチームを見ても同じ温度感で、一体感をもって積極的に活動している印象がありました。

朝間:たしかにそれは感じました。私のチームは大きな組織に所属しているメンバーが多かったせいか、みな良い意味ですごく冷静で慎重だったように思います。私自身、参加者の中で一番遠い静岡から参加していることもあって絶対にイベントを成功させなければならないという思いが強くありました。

内藤:僕が所属していたのは、起業家やフリーランスの方が多く所属するチームでした。ライフプランナー、建築家兼カフェオーナーなど、普段はなかなか出会えないような方々と組めたことが印象的でした。チーム全体で見ても僕は一番組織的なタイプで、聞き役に回ることも多かったので、リーダーシップをとるよりも、チーム全体をまとめる役割を担当していました。

WORK MILL:内藤さんのグループは、メンバーの入れ替わりがもっとも多かったとうかがっています。まとめることに苦労はありませんでしたか。

内藤:リーダーシップをとってくれるメンバーと協力しながらチームビルディングを行えたので、大きな苦労はありませんでした。メンバーの出入りはたしかに多かったものの、コアメンバーとして僕を含めた3名が連携を取り合えていて、それぞれの役割を正確に理解して助け合っていたように思います。

WORK MILL:お互いの良いところを活かし合ってチームとして動いていたのですね。共創を通して、参加者のみなさんの魅力が見えることも多いのではないでしょうか。

朝間:そうですね。私の場合は、メンバーのファシリテーション力や実行力などに圧倒される場面が多々ありました。たとえば、企画のゲストに「名古屋市長を呼ばない?」とアイデアが出たら、本当にアポを取ってお招きしてしまいましたし、市長へのプレゼン大会で見事に場を仕切ってくれたメンバーもいました。そうかと思えば、冷静に聞き役に徹しアイデアをよりよい方向に持っていく提案を考えてくれたメンバーもいました。これらの個性って、組織対組織の仕事では表れない、「共創」をコンセプトにしたこのイベントだからこそ見ることができたものなのではないかと思います。

村木:これまでに参加したワークショップでは、私が意見を出すか、私でない声の大きい方の意見が採用されるケースが多かったのです。しかし今回は、メンバーみんなで企画を創っている感覚が強かった。ある程度の役割分担は行うものの、与えられた役割以外のことも協力して進めていきました。誰もが自分ができることを考えて、指示を待つことなく取り組めていたと感じています。

WORK MILL:企業に所属していると、なかなか連携がうまくいかなかったり、誰もサポートしてくれなかったりといった悩みも耳にします。チームメンバー全員が協力するために必要な要素って、一体何なのでしょう。

村木:肩書きを意識しないことかな、と思います。組織に所属すると、良くも悪くもそれぞれの役割が明確じゃないですか。だから、それ以外のことは「自分は関係ない」と思ってしまいがち。しかし、今回のように普段もつ肩書きも役割も取り払った状態だと、自分自身で役割を考えたり見つけたりして、積極的に取り組む必要があります。その意識の違いのように感じますね。それに、組織と違って割り当てられた役割ではなく、自分がやりたかったり得意だったりすることをやるので、嫌だとか面倒だとか思わないです。それぞれのスキルを最大限に活かせる。自主性によって適材適所を実現できるのが、共創の良いところだと思います。

朝間:常日頃一緒に働いているメンバーでもなければ、いつでもどこでも会えるメンバーでもないからこその緊張関係があると思いました。特に名古屋市長をゲストに呼ぶことが決まって以降は顕著でしたね。こんな大物ゲストの招聘を実現されたら「自分だって何か爪痕を残したい」と思います。一緒に面白いことをしていきたいと思ったら、相手のアイデアがさらに魅力的なものになるような、だけれども相手の想像を超えるようなインパクトのある提案をしたいと自然に思うようになるんです。だから特に後半は打ち合わせの密度が濃くて、帰路の新幹線ではぐっすり眠ってしまいました(笑)。

Cueだからこそ生まれるアイデアがある 

WORK MILL:約半年間のワークショップを終えてみて、感情や意識に変化は生まれましたか?

内藤:僕たちは半年間の集大成として、「働く」「学ぶ」「暮らす」をキーワードに、これからの生き方について考えるワークショップを開催しました。26名の方に参加していただいたのですが、参加者のお話にもかなり影響を受けたと感じています。今回のワークショップの開催を通じて、やってみたいことが見つかりました。いま開催している人材育成の勉強会にも通じることなのですが、変わりたいと思う人のターニングポイントに関わるようなことをしてみたい。新しい価値との出会いの機会や場を多く作っていくことで、いい意味で変わるきっかけをつかんでいただける人を増やしていきたいと思いました。変わりたいと思い、変わるために動く人が増えていけば、世の中や仕事は方向に変わっていく。それは地方公共団体が取り組む、住民の福祉の増進にもつながっていくと思います。

村木:私は、言語化の必要性を再認識しました。私たちは「モヤモヤをメラメラに」とテーマを掲げてイベントを形にしたのですが、このキャッチフレーズに幾度も助けてもらいました。企画中に軸を見失ったときもこの言葉があるから立ち戻れるし、イベント集客も大変ではありませんでしたから。みんなが同じ方向を向くための言葉選びの重要性を実感しています。

朝間:「生産性」という言葉の持つ本当の意味を、初めて深く理解できたように思います。たった8回の打ち合わせでも、これだけ実り多いイベントは開催できるのだなと。今までは結果だけでなくプロセスも重視して働いてきたのですが、プロセスではなく結果を出すことに集中して活動することで、人の意識や動き方はここまで変わるのかと驚きました。また、私のような中堅層がこういった取り組みに参加するのは、若手が参加するのとはまた違った意義があると感じました。中堅層になると常に人から頼られることが多く、自分を客観的に見る機会は少なくなってしまいます。社内で自分の武器だと思っている能力は社会的に見てどうなのか、何が足りなくてどう伸ばすべきなのかこの半年間で何度も考えさせられました。

WORK MILL:一人ひとりにとっての気付きはとても大きかったようですね。ちなみに、今回の企画を今後もつなげていきたいなどの構想はあるのでしょうか。

村木:そうですね。できれば、これからも続けてモヤモヤを抱えた多くの人をメラメラさせたいと感じています。そして、そのまま名古屋の活性化にも繋がったら嬉しいです。

朝間:私はまずこの貴重な経験や人脈を、会社に持ち帰って活かしたいと考え、早速企画を提案しています。さまざまな情報が入ってくるNHKならではの視点で考え、仲間と意見を交わし、最終的には地域活性化に結び付けていくことが目標です。

内藤:僕らも同様に続けていきたいと考えています。ただ、場のちからが僕たちの意識を変えてくれたようにも感じています。この空間や雰囲気だからこそ生まれたアイデアや発想って想像以上に多いと思います。ですから、これからもCueを活用して、さまざまな取り組みに挑戦していきたいです。

WORK MILL:空間が発想や場の雰囲気に与える影響力は大きいのですね。そういった意味では、今後のCueの可能性も無限大なのかもしれません。

朝間:今回参加してみて、オープンイノベーションの考え方はこれからもっと大きなムーブメントになるのだろうと感じました。組織と組織のつながりから個のつながりが生まれるのではなく、個と個との繋がりがスタートラインになることで、より今までにはない自由な発想の飛び交う場所になってほしいと感じています。

2019年2月5日更新
取材月:2019年1月

テキスト:鈴木 しの
写真:藤井 昌美

Open Innovation Biotope “Cue”では、2月6日(水)に「共創」「オープンイノベーション」をテーマにしたトークセッションを開催します。「はたらく×Cue」のファシリテーターを務めた上井雄太さんや「はたらく×Cue」参加者で内藤さんと同じチームのメンバーの山本剛毅さんをゲストに迎えて、「共創」で生み出す新たなモノ、コト、ムーブメント、そしてその名古屋らしさについて考えます。