「量り売り」がごみを減らす。「ゼロ・ウェイスト × お買い物~適量ってなんだろう?~」イベントレポート(寺岡精工・北野岬さん、ZEROWASTE川田商店・川田千代子さん)
サステナブルな未来をつくるために、私たちは今、どんな「問い」に立ち返るべきなのでしょうか。
ごみを取り巻く問題に対して、オカムラから共創のチカラでムーブメントを起こしたい。そんな想いを持って、「ゼロ・ウェイスト×SOMETHING」のタイトルを掲げたプロジェクトがスタートしました。
ゼロ・ウェイストは「ごみをなくす」という意味の言葉。出てきた廃棄物をどう処理するかではなく、そもそもごみを生み出さないようにする考え方です。日常にある“あたりまえ”を見つめ直し、「ごみを出さない社会」について多角的に考えていきます。
シリーズ第2回となる今回は、テーマを「お買い物」に設定。「量り売り」や「適量」というキーワードをもとに、お二人のゲストとともに心地よい消費のあり方を考えます。
ゼロ・ウェイストが繋いだ偶然。今回のイベントが生まれた理由

福田
本日はお越しいただき、ありがとうございます。
私は普段、商業施設や小売店舗の空間づくりを行っている商環境事業部という部署で、2023年夏に発足したオープンイノベーション型の研究所「みせいくラボ」のメンバーとして活動しています。


福田
「みせいくラボ」は、リアルな店の価値を考え、小売業の方やベンチャーの方、地域の方など多様な方々と共創しながら、10年後など未来のお店のあり方について情報交換や考察を行っています。
今回のワークショップも「お店を運営していく中でどういった環境負荷を減らしていけるか」「商品を無駄にしないためには何ができるか」などの小売業の課題に対して、実際に何かが始まっていく場にしたいと思っています。

小倉
今日のイベントは、WORK MILLと商環境事業部の社内越境企画です。
始まった経緯についてもお話させてください。


小倉
共創空間の企画で、自分たちが興味のある場所を訪問し記事化するというものがあったんです。
私と福岡の共創空間「Tie」のコミュニティマネージャーの佐々木はもともとサステナビリティに関心がありました。そこで、ゼロ・ウェイストの先進的な取り組みで有名な徳島県・上勝町を訪ね、現地で町の取り組みをいろいろと学んできました。



小倉
私たちが上勝町を訪問した2024年6月、現地の方から「先月もオカムラの社員さんが来てましたよ」と言われて、とても驚いたんです。それが福田さんたちでした。


小倉
上勝町を訪問してただ学ぶだけで終わっては、コミュニティマネージャーの活動とは到底言えません。
そこで共創イベントを始めようと動き出した時に、福田さんたちから「ゼロ・ウェイストのイベントをするなら、私たちも一緒にやりたい!」と声をかけてもらい、2025年6月にこのプロジェクトがスタートしました。


小倉
第2回である今日のテーマは、「ゼロ・ウェイスト × お買い物」。サブタイトルには「適量ってなんだろう?」を掲げ、「量り売り」というキーワードに注目しました。
小売業、地域のお店でのごみ問題・資源循環の問題に向き合うゲストのお二人と一緒に考えていきます。
「人それぞれの“ちょうどいい”」×「環境への小さなアクション」を量り売りという選択に

北野
寺岡精工の海外事業統括部で、量り売りの機械を国内外に提案している北野と申します。
私はフランス留学をきっかけに量り売りが大好きになりました。フランスのスーパーでは量り売りが当たり前で、パッケージを使わず、必要な分だけ購入できて環境にもやさしくて安いんです。
「日本にも量り売りがあれば!」と思ったのを今でも憶えています。


北野
仕事として量り売りに関わり始めたのは2021年。
日本初のゼロウェイスト・スーパー「斗々屋」京都本店の立ち上げとマネージャーを担当しました。


北野
そこで、寺岡精工の量り売り機が使われていたことから、今の仕事に繋がっています。


北野
日本では1970年代にスーパーマーケットが登場し、パッケージ商品が主流に。便利さの一方で「余分に買ってしまう」「プラごみが増える」などの課題も出てきました。
家族構成や生活スタイルによって必要な量は異なります。サーキュラーエコノミーが求められる今こそ、「本当に必要な量を選べる」仕組みが重要ではないでしょうか。


北野
ここからは、私がこれまで訪れたさまざまな国の量り売り事情をご紹介します。
まずは量り売り先進国・フランスから。オーガニックスーパーから始まり、現在は大手スーパーにも量り売りが普及しています。
しかし、オーガニックスーパーの来店者は意識が高く比較的丁寧に量り売りが利用されている一方で、大手スーパーでは紙袋が放置されているなど、利用者のマナーの課題も見られます。


北野
次にギリシャは、個人商店文化が今も根強く、店員さんとの対話を重視した買い物が主流の国です。
その中に、昔から続く量り売りの文化が根づいていると感じました。


北野
カナダには、「Bulk Barn(バルクバーン)」という、世界的に見ても老舗の量り売りスーパーがあります。
1000種類以上の商品を扱い、ペット用のおやつまで量り売りで手に入ります。


北野
また、利用者層もちょっと違っていて。
日本では量り売り利用者は女性が多いのに対して、海外では若い男性の利用者も多いんです。


北野
各国で利用者のお話を聞いてみると「環境問題について何かしたいけれど、何をすればいいかわからない。だからこそ、量り売りという“小さなアクション”を選んだ」といった声もありました。
続いて、日本での取り組みをご紹介します。


御手洗
日本国内でも、量り売りの導入が進みつつあります。
たとえば、コンビニではエンターテインメント性のある体験として導入されたり、コーヒー豆専門店では「少量から試したい」というお客さんの声に応えたりしています。
また、規格外の野菜販売店では、不揃いな野菜を量って買える仕組みとして活用されています。

北野
ただし、量り売りは、あくまで販売手法のひとつ。パッケージ付きで提供される場合もあり、完全なパッケージフリーではありません。
量り売りを通して本質的なゼロ・ウェイストを目指すには、消費者の意識と小売のインフラ整備の両方が不可欠です。日本はまだ黎明期ではありますが、量り売りはこれからの買い物の選択肢として確実に広がっていくと信じています。

使い捨てから、共に創るごみの出ない暮らしへ。川田商店から広がるゼロ・ウェイストな暮らし

川田
私は神奈川県鎌倉市、江ノ島の近くにある腰越という地域で、使い捨てのごみを出さない八百屋「ZEROWASTE川田商店」を営んでいます。


川田
ゼロ・ウェイストのお店を始めたきっかけは、自分の子どもです。
子どもは目線が低くていろんなものを拾うのですが、一緒に浜辺を歩いているとあまりのごみの量に恐怖を感じました。


川田
実は、海にあるごみの約7割は街中から川を経て海に流れ込んでいるんです。その量は年間800万トン、1分でごみ収集車1台分の量が海へとも言われています。
「太平洋ゴミベルト」という言葉をご存知ですか? 黒潮などの海流が交差する地点に、大量のごみが集まる場所があって、その面積はなんと日本列島4つ分だそうです。


川田
実は、日本は世界2位のプラごみ排出国。しかも、再資源化としてはたった15%程度。多くが「サーマルリサイクル」といって、燃やした熱をプールや温水に使うだけです。
マレーシアなどへごみの海外輸出も多く、現地では適切に処理されていない事例もあり、健康被害も報告されています。


川田
こうした現状に対し、「リサイクルすればいい」ではなく、そもそも“ごみを出さない”仕組みへの転換が必要だと強く感じています。
私が住んでいる鎌倉市は10万人以上の自治体で、6年連続リサイクル率全国1位。分別は種類が多くて大変ですが、市民の意識が高く、行政も「ゼロ・ウェイスト宣言」を掲げて後押ししています。
私が運営する川田商店では、野菜や乾物をできるだけそのままの状態で販売していて、蜜蝋ラップやタッパー、ボウル、帽子を使って持ち帰る方もいます。


川田
「必要な分だけ買えるのが嬉しい」「ごみが減って助かる」「量り売りって楽しい」というお声をいただきます。
この夏には、地域の2つの町内会でリユース容器を使った夏祭りを開催しました。


川田
袋に入れない野菜は乾燥したり、見た目が劣化したりもします。でも、「これでいい」と言ってくれる方が増えていて。一人ひとりの協力が、ゼロ・ウェイストの輪を広げていると実感します。
「社会のために良いことをしたい」という想いが動き出せば、町も変わっていく。私はごみの出ない暮らしを選びたい。そのために、多様な選択肢がある社会を一緒につくっていけたら嬉しいです。
市民の意識と制度改革。両輪で進むゼロ・ウェイスト社会
登壇者のパートが終わり、参加者からは続々と質問が寄せられました。

参加者
冒頭で「フランスが量り売りNo.1の国」といった話がありましたが、なぜフランスが特に進んでいるのでしょうか?


北野
「市民意識」と「国の制度」の両方が整っているのがフランスの特徴だと思います。
まずフランスは「農業大国」でもあり、日常的に食への関心が高い。そして、古くからの量り売り文化がマルシェなどの形で生活の中に残っていて、「量って買う」ことへの抵抗感がそもそも少ない。
もう一つは、フランス革命に代表されるように「市民が国を変える」という意識が今も根強く、市民発信からの発信で政府も動くこともあるんです。
実際、面積400㎡以上の日用品販売店舗に対し、売り場の20%以上を「量り売りや容器包装のない商品」にするよう義務づける法律が可決されています。

参加者
日常生活では、環境にいいことってどうしても快適さとせめぎ合いがあると思うんです。
たとえば、リユース容器は使ったあとに洗わないといけないので下水に流す水も汚れてしまう。「これって本当に環境にいいのかな?」と思うこともあって。生ごみも分別したくなるけど、洗い物が大変だったり、匂いが気になったり、結局ストレスになったりする時、どうしていますか?

川田
非常に共感できます。
私の場合でいうと、下水の問題に関しては「キエーロ」という生ごみの処理方法を活用しています。食用油などの生ごみも微生物が分解し土に還せる仕組みなので、便利です。

北野
私自身も東京で一時期ゼロ・ウェイスト生活を実践しようとしたことがあるのですが……、正直ストレスがすごかったです(笑)。
買いたいものが買えないし、逆に我慢ばかりになっちゃって。なので、今は普通にコンビニでも買いますし、プラごみも出てしまうんです。でも、その中で少しずつ“できること”を見つけていくのが大事かなと思っています。
どれだけ買って、どう使ってる? ワークショップで自分の生活を見直そう


小倉
ここからは、ワークショップに移りたいと思います。
皆さんは普段、お米やパン、塩、お茶、シャンプー、ティッシュ、ラップなど、どれくらいの量買っていますか?
また、なぜその量、その形で購入しているのか、普段の買い物を振り返ってみましょう。

さらにこの5つのアイテムの中で、
「いつも余ってしまうもの、もしくは足りないもの」
「どんなふうに余ってしまうのか? もしくは足りないのか? どういうところにもやっとするか?」
「それって量り売りで心地良くならないのか?」
など、それぞれがポストイットに考えを書き出しながら、グループでディスカッションをしていきました。


年代、性別、生活スタイルもバラバラなチーム編成の中で、多様な意見が出ました。いくつか紹介します。
・シャンプー、リンスをちょうど同じタイミングで使い切れたことがないので、量り売りがあると嬉しい。(日本は薬機法の関係で現状実現が難しいのですが……)
・材料を集めるのが大変なパンづくり。一回きりでできるセットがあったらいいのに。
・「お鍋の黄金セット」のように、食材のおすすめをお店側が提案できてもいいのでは?
・現実的なことを考えると、量り売りは衛生面とのバランスが難しいと感じることも。ただ、法律などの対策が今後追いついてくる可能性も期待したい。
自分の“買い方”を見つめ直したあとは、量り売り体験で楽しさと心地よさを実感
ワークショップの後は、イベントの締めくくりは、リユース容器を活用した交流会!
寺岡精工が開発したセルフ計量システム「All-in-One Bulk」を使った量り売りも参加者全員で体験しました。


セルフ計量システム「All-in-One Bulk」のハンドルを回すと、商品がホッパスケールに落ち、単価と重量、自動計算された値段が表示されます。量と金額を購入したら、お皿へ!

その後、横にあるプリンターに重量と価格情報が送信され、プリントボタンをタップ。下から印刷されたラベルが出てくる仕組みです。

川田さんが用意してくれたグルテンフリークッキーも量り売りで提供。こちらも必要な枚数だけお皿に取り、決定ボタンを押すと、同じ仕組みでラベルが印刷される仕組みです。

普段は想いをめぐらせる機会が少ない、
・私達が日々の生活のなかで「ごみ」と決めつけてしまっているもの
・日常のリズムの中でわざとではないけれど「ごみ」にしてしまっているもの
について新しい気づきや学びにあふれた1日となりました。
「適量」や「心地よさ」を自分たちで選び、ごみのない社会を広げていく。前回に引き続き、そんなきっかけを参加者同士が対話を通して共有する時間となりました。
次回開催時もWORK MILLのサイト内でお知らせしますので、どうぞお楽しみに!

2025年11月取材
取材・執筆=矢内あや
撮影=栃久保誠
編集=鬼頭佳代/ノオト


