組織にいるからこそチャレンジできる。起きてないことを心配するのをやめよう(澤円)
仕事でもプライベートでも、やりたいことは山のようにある。同時に、周りからのいろいろな頼まれごとにも向き合っていくと、いつの間にか予定はいつもパンパンに。この働き方、暮らし方は思っていたのと、ちょっと違う気がする……。そんなときに必要なのは、こだわりや常識、思い込みを手放すことなのかもしれません。連載「やめるための言葉」では、圓窓代表取締役・澤円さんと一緒に「やめること」について考えていきます。
職場でよく聞くこんなフレーズ。
ボクの記事の読者の方々の多くは、会社や自治体、学校など何らかの「組織」に属しているか、過去に所属していた経験がある方が多いのではないでしょうか。そんな方々の多くは、こんなセリフを耳にしたことがあると思います。
「何かが起きたらどうするんだ!」
「失敗したら責任取れるのか!」
「自分はいいけど部長はなんていうかな……」
めちゃくちゃ思い当たることありませんか?
何なら「今日言われた!」なんて人もいるかもしれません。これ、別に悪意はないんですよね。
むしろ、失敗するリスクを回避するための「正常なビジネス判断」とも言える訳です。確かに、こうやってリスクを避けていれば、大きな失敗につながることはないでしょう。
会社に損害を与えることも、リカバリーのために手がかかる作業をすることも、迷惑をかけた相手に謝ることも、自分のキャリアに傷がつくこともありません。賢い選択をしていると受け取ることもできそうです。
しかし、このようなセリフをしょっちゅう耳にしていると、若手のメンバーはどうなるでしょうか?
「どうせ言っても止められるだけだし、まぁやめておこう」
こうなるのが自然ですよね。かくして職場は、大きな波風も立たず、平穏な日々を送ることに……。本当になるんですかね?
その一方で経営者はこう語る
さて、入社式などで社長をはじめとする経営者がよく口にするフレーズについて考えてみましょう。
「失敗を恐れずにチャレンジをしてください」
「今までにないアイディアをどんどん実行に移してください」
「部署や業界の壁を超えて、イノベーションを起こしていきましょう」
最初に登場した「よく聞くフレーズ」とはずいぶん差がありますよね(笑)。
このようなフレーズを聞いたベテラン社員は、赤提灯で若手に「社長はああ言ってるけど、どうせあんなのはただの綺麗事だからさ、現実は違うよ」なんて語っちゃう訳です。
そして、経営者よりも職場のマネージャーやベテラン社員と長く接している若手社員たちも、いつの間にやらその思考に染まっていき、次の世代へとこの「諦め」は伝承されていく訳です。
ボクは多くの会社の顧問などをさせてもらっており、若手社員の声もたくさん聞きます。その中で印象的だったのは「うちの会社(部門・チーム)は、言ったもの負けになるんです」という言葉でした。これ、何度も聞いたことあります。
「アイディアを出すと、すぐに潰される」
「仕事が純増して大変になるけど評価は上がらない」
こんな感じで、なかなか残念な状態になるんだそうです。根本にあるのは、組織内に蔓延る強烈な「現状維持バイアス」のようです。
この「現状維持バイアス」こそが、日本を危機に陥れているとも言えます。
現状維持バイアスとは、「今の状態を維持しようとする心理的傾向」のことですが、今の日本の組織の中で現状を維持することがリスクになっているのは、すでに多くの人が気づいていることではないでしょうか。
日本は「失われた30年」と言われていますが、これずっと更新され続けていますよね。
成長率はG7最下位、一人当たりのGDPは台湾・韓国に抜かれ、所得は増えず、「安い国ニッポン」として海外には認知され……。あまりに残念な気がするんですけど、どうですかね?
やってから考える
アインシュタインは、こんな言葉を残したと言われています。
Nothing happens until something moves.(何かが動かなければ何も起きない)
何かを起こすには、行動するしかない訳です。そして、何かを起こさない限り、今の日本は現状を打破できるわけがないんですよね。その行動を制限するようなことを言ってしまうのは、多くの可能性を潰してしまうリスクがあります。
LinkedInの創業者 リード・ホフマンは、こんなことを言っています。
「スタートアップとは、崖の上からから飛び降りながら、飛行機をつくるようなものだ」
Reid Hoffman(@reidhoffman) / X
起業家精神旺盛な人たちは、周囲からは無謀と思われるような行動をいきなり始めてしまいます。結果として、そのまま崖下まで落下しちゃうこともあるわけですが、不死鳥の如く蘇って、別の崖からまた飛び降りる。それを繰り返しちゃうんですよね。そういう人たちが世界を変える瞬間を、何度も見させてもらいました。
勤め人をしている人は、崖から飛び降りるほどの覚悟なく、ちょっとしたチャレンジができます。組織内にあるさまざまなアセットを活用して、小さなチャレンジをいくつもすることができます。
今までやったことのない材料の組み合わせ、過去に協業したことのない同僚やビジネスパートナーとのコラボなどは、イノベーションの芽になる可能性は大いにあります。
その時に、ぜひ意識してもらいたいのが「自分の会社や組織が掲げているビジョンやミッションに沿っていること」です。
それは、大いなる免罪符として機能します。「この会社が目指す方向に進んでいます!」って胸張って言えるなら、失敗は大いなる学びとして語ることができます。
全ての仕事は社会貢献であり、誰かを幸せにするものです。その意識さえあれば、あらゆるチャレンジは正当化できるというのがボクの考えです。
「えー、でも先輩やマネージャーから文句言われるのは嫌だし……」と思った貴方のその気持ち、尊重します。
でも、「なんか最近面白いことないな〜」とか、「もうちょい成功の手応えとか感じてみたいな〜」とか、「ずっと先に行ってしまった同期のあいつに追いつきたいなー」とか何となくモヤモヤした気持ちがあるなら、何かしら始めてみませんか?
失敗しても、なかなか世界が終わったりはしません。ちょっとした学びが得られるだけです。チャレンジする人、心から応援します。
アイキャッチ制作=サンノ
編集=ノオト